猫のコロナウイルスとヒトのコロナウイルス(2) ― 2026年05月14日
猫のコロナウイルスとヒトのコロナウイルス(2)
<猫のコロナウイルスとヒトのコロナウイルス(1)→ https://ku-wab.asablo.jp/blog/2026/04/16/9848772 の続き。>
新型コロナウイルス感染症の発生初期のパンデミックでは重症化率の高さで世界中が恐怖に陥ったが、ウイルス変異の速さにも目を見張るものがあり、発生第1波の頃は70歳以上の致死率25%と言われたものが重症化率・致死率もめまぐるしく低下していった(①②③⑦)。日本ではダイヤモンドプリンセス号に始まる発生初期(第1波)には症状の有無に係らず感染者の半数以上にCT検査で間質性肺炎所見があるとの自衛隊チームの報告は日本の医療界もショックを受けた。そして本人も気づかないうちに軽症と思われた状況から突然に死を迎えてしまうというhappy hypoxiaの存在は現場感覚の医師であるからこその実感であろうと感心した。なぜ危険兆候の低酸素血症なのに自覚症状に乏しいのかについてはなお未知の点も多いが、自分でもかつて粟粒結核で経験したことがあるので有り得ることだとピンときたので、岡秀昭教授が言う危機感は将に現場感覚であると感心していた(④⑤⑥)。
ウイルス変異を繰り返すたびに重症化率・死亡率は低下して危機感も薄れて行ったが無くなったわけではない。一部の方は重症化して不幸にもなくなってしまう患者は依然としているのである。
なぜ一部の患者が重症化するのか、この理由は今尚解明途中なのである。重症化する患者は感染増強抗体が増えているとか、抗炎症サイトカインIL-10が増えていてそのために肺胞マクルファージに本来殆どないはずのACE2が発現増強して肺胞マクロファージ内へのコロナウイルス取り込みが増強した上に、本来貪食されるべきウイルスが肺胞マクロファージ内で増殖してしまうということが重症化の要因だとか(⑧⑩)、重症化する患者は炎症性サイトカインIL-18が増えていてキラーT細胞誘導を抑制してしまうとか(⑨)、重症化する患者の肺胞マクロファージの遺伝子多型T/T型の場合が重症化の要因であるとか(⑧)、複雑な要因が重なって重症化することが分ってきたようだ。しかし肺胞マクロファージT/T型を日本人の何%が持っているのかは調べた限りそのデータは見つからなかった。肺内では肺胞2型細胞と肺間質マクロファージがIL-10を産生するが肺胞マクロファージ自体は殆ど産生しないとされ、肺胞マクロファージは局所で自己増殖して貪食機能を発揮するが肺間質マクロファージは骨髄由来のT細胞由来という違いがあると言われている。
とにかく重症化する要因は複雑に絡み合っているようでSNPなどの遺伝子変異を伴っているようだが、新型コロナウイルス感染症で重症化するヒト人口の何%位に肝心の遺伝子変異が係わっているのか、は未だ調べられていないようだ。
かつてデング熱で問題になって以来ワクチンによる感染増強抗体は、その抗体のFc部分がある種の免疫細胞Fcレセプターに結合することと関係するらしいとも言われていたが、今回の新型コロナ感染症ではFc部分とは無関係の感染増悪抗体も有ることが報告されている(⑩)。
今回の新型コロナウイルス感染症で感染を防止する中和抗体と感染を逆に悪化させる感染増強抗体が両方できる場合があるとされていたが、一部の感染者が重症化するのはこの感染増強抗体のためだという(⑩)。社会に実装された現在の新型コロナRNAワクチンは中和抗体を作っているとされている。⑩ではスパイクタンパク質の数多くのエピトープのうちの76種類の抗体を調べNTD領域に対する34種類?の抗体の一部が感染増強抗体として作用していたという。逆に言えばそのエピトープを避けるようなワクチンを創ればより安全な中和抗体即ち予防ワクチンが出来るということになる。
中和抗体は全身に分布するとされるヒト細胞のACE2レセプターにSARS-Co-V-2が結合することを阻害ことにより感染を防ぎ、感染増強抗体は肺胞マクロファージへの結合を増強することにより感染悪化させると説明されている。一部の新型コロナ感染症のヒトで重症化するのはこの感染増強抗体が関係しているとされている。大阪大学の荒瀬尚は⑩で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパクの研究で中和抗体を作る領域以外に感染増強抗体を作る領域があることを解明し中和抗体を作る領域はRBD(Receptor binding domain)と呼称し感染増強抗体を作る領域をNTD(N-terminal Domain)と命名している。そのNTDの一部のエピトープが感染増悪抗体を創ると言っているが、なぜ一部のヒトで感染増悪抗体が致死的になる程に出来るのかの体質的問題や遺伝子多型との関係はなお不明のようだ。国産の第一三共のダイチロナはNTDを含まないので安心と言うような説明をしている。しかしごく最近日本でも製造申請された?次世代新型コロナワクチンはそのNTD部分のmRNAを敢えて使っているというので同じ領域でも異なるエピトープのようだ(最先端の研究者達は多分具体的に違いを知っているのであろう)。
それではAPC(Antigen presenting cell)の役割を担う免疫細胞とウイルス貪食作用を担う免疫細胞の違いの詳細はどうなっているのか、Ou-500という物質がどういう役割を演ずるのか、本来ウイルスを貪食して無毒化すべきマクロファージに取り込まれて逆に増殖するコロナウイルスとの関係はどうなっているのか、なお未解明の点が多いようだ。
新型コロナ感染症の重症化の原因は、順天堂大学(2023/7/13)⑧によれば、普通ACE2レセプターを殆ど持たない肺胞マクロファージが一部の遺伝子多型(T/T型)のヒトでは過剰発現してかつ或る受容体(CiDRE)が発現して肺胞マクロファージの感染性を獲得するためだとしている。そのT/T型肺胞マクロファージは肺胞2型上皮や肺間質マクロファージが産生するIL-10(抗炎症サイトカイン)やCiDREレセプターにより増強されて、肺胞マクロファージ内でSARS-Co-V2がより多く増殖するようになってしまう結果だという。重症化を引き起こす肺胞マクロファージにはCiDREが新規に高発現していてその結果IL-10の効果を過剰に引き起こし肺胞マクロファージ内でSARS-CoV-2増殖を引き起こすと解釈している。
一部のヒト(極めて稀)で発症する遺伝性肺胞蛋白症は、肺胞マクロファージのGM-CSFレセプター自体の遺伝子多型による機能不全の難病とされているが、それとは別の遺伝子多型と言うことになるので、一口に肺胞マクロファージの遺伝子多型と言っても細分類は無数にありそうだ。
参考資料:(⑪⑫⑬⑭は細胞内寄生菌の免疫防御に係る総説等)
① COVID-19の致命率と重症化リスク因子について国立感染症研究所感染症疫学センター鈴木基(厚労省資料) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000662183.pdf 。
② 新型コロナによる致死率が2年半で30分の1以下に横浜市立大学2022.10.20 https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2022/20221020Horita.html 。
③ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について自衛隊中央病院(LANCET 2020 ) https://www.mod.go.jp/gsdf/chosp/sp/sp5-502-covid19-1-article.html 。
④ COVID-19の重症化 自覚症状より酸素飽和度を重視せよ岡秀昭日経メディカル2021/01/05 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/oka/202101/568573.html?_gl=1*x618kw*_gcl_au*ODg1NTc3NjQuMTc3ODY4ODY0Mg 。
⑤ 急激に重症化のおそれ 低酸素状態に気づけない「ハッピー・ハイポキシア」に注意
産経新聞2021/2/6 https://www.sankei.com/article/20210206-QHHA7VFPWNKOLE7ISDVAIVVKMM/ 。
⑥ No.107 新型コロナウィルス感染症の低酸素血症:息切れを起こさない不思議さ呼吸ケアクリニック東京2020/9/10 https://www.rcc-icr.com/post/no-107-%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AE%E4%BD%8E%E9%85%B8%E7%B4%A0%E8%A1%80%E7%97%87%EF%BC%9A%E6%81%AF%E5%88%87%E3%82%8C%E3%82%92%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%81%95%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0%E3%81%95 。
⑦ 新 型 コ ロ ナ の 重 症 化 率 ・ 致 死 率 と そ の 解 釈 に 関 す る 留 意 点 に つ い て第111回(令和4年12月21日)厚労省資料4新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001027743.pdf 。
⑧ 「肺胞マクロファージを介したCOVID-19の重症化メカニズムを解明」 ―COVID-19が重症化しやすい人を特定するバイオマーカーの開発に期待―順天堂大学2023.07.13 https://www.juntendo.ac.jp/news/14748.html 。
⑨ COVID-19重症化メカニズムを解明 高齢者の重症化予防にも重要な知見 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(2025.1.24.JCI insight) https://www.nibn.go.jp/introduction/index.html 。
⑩ 新型コロナウイルスの感染を増強する抗体を発見―COVID-19の重症化に関与する可能性―大阪大学微生物研究所 荒瀬尚ら2021/5/21 https://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2021/154 。
⑪ 細 胞 内寄 生 菌 に対 する防御免疫 光山正雄 京大Jpn.J.Leprosy 69. 83-W2000) https://www.jstage.jst.go.jp/article/hansen1996/69/2/69_2_83/_pdf 。
⑫ 対数増殖期及び静止期のサルモネラ菌のマクロファージ内殺菌抵抗性の研究 国立感染症研究所天野冨美夫1997年 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/1869 。
⑬ 結核菌が増えるのはマクロファージ内だけでない!2022/09/08日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202209/576502.html 。
⑭ 結核菌による宿主自然免疫応答の制御 鹿児島大学 原博満© 2023 公益社団法人日本生化学会 2023/10/25 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2023.950618/data/index.html .
最近のコメント