ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言2020年11月11日

ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言。

 今、日本ではワクチン注射ルートは原則筋肉注射にすべきという論調が殆どである。介護施設で仕事をしている者にとって少し違和感があるのでちょっと一言云いたくなった。(様々なワクチンがある中でここではアジュバント無・チメロサール有の通常のインフルエンザワクチンを念頭に置く)。 また、高齢者と言っても一人ひとり体格は様々である。ここではるい痩著明で殆ど筋肉がなく皮下脂肪も少なくなった方を念頭に置く。 実際、日本の高齢者施設ではそのような方が少なからずいる。 
 一方、日本においても世界においてもワクチン注射の効果・副反応の違いの臨床治験はほぼ全例体格良好の健康な方々についてである。西欧においては肥満で皮下脂肪が厚いために筋肉まで注射針が届くかどうかを気にすることが多いのに対して、日本ではやせ形では皮下注だからこそ安心してできるが筋注となるとどこに行えば安全確実かと、途端に問題に突き当たりかねない。
 我が国は超高齢社会に既に入っていてそのトップランナーである。その日本の高齢者介護施設の現場では皮下注射と言っても皮下脂肪織注射と言った方が良い場合が多い。ましてや筋肉注射など薄くなってしまって筋肉内にしたという実感を持てる筋肉注射は現場では至難の業であることも多い。エコーで深さを確認して行えば不可能ではないが現実的ではない。一般には皮下注射部位は上腕伸側下1/3が多いであろうと思う(1)(2)(3)。
 BMI18.5以下のるい痩者の三角筋部位への筋注は避けた方が良いとの意見もある中で(4)、介護施設ではそれをはるかに下廻るるい痩者がゴロゴロいる。
 高齢化して食べられなくなれば延命処置の経管栄養は行うことなく人生の末路として受け止める西洋と違い、日本ではまだまだ経管栄養による延命処置が現実に多く行われている。高齢者介護施設に紹介入所して来る高齢者の中には、経鼻経管栄養や胃瘻栄養にて入所してくる方も現実に少なからずいる。それでもいずれは逆流性の反復性誤嚥性肺炎等から呼吸不全や衰弱に陥る。
  私たち介護者は、人生の最終段階のさらにその末期に入れば基本的には余分なことをせずにかつご家族ご本人の希望通りに対応して、できれば枯れるように静かに見守ることを基本としている。この考え方は日本においても現在ではほぼコンセンサスを得ているのではないだろうか。その上で現実との狭間の中で、現実的には胃瘻・経鼻経管の栄養が選択されて開始され、その後に介護施設に入所される方も沢山いるのが現状である。
 人生の最終段階に於いては、観念的にはピンピンコロリか穏やかに眠るように逝くのが理想ということについては誰でも異論がないように思う。しかし理想通り自然に逝けるかどうかは神のみぞ知るで誰にも分からないという現実との狭間でご本人も介護者も対応に迷いながらそれでも正解を探しながら常に歩んでいる現実がある。
 痰がゴロゴロしながらも食べる意欲があれば食べてやがて呼吸不全で逝くのがよいのか、無理に食べることなく痩せて枯れるように逝くのがよいのか、個々で違い、その正解はないと思っている。 

 ワクチン注射は筋注にすべしとの意見は殆どがWHOや米国CDCあるいはACIPの意見を丸のみ(失礼)で説明されているような印象を受ける。筋肉注射はいくら痩せていても可能だという方もいる。 そういう方は高齢者介護施設の、代謝が極端に低下した寝たきりの方々がいるのを御存じなのであろうか(5)。
入所者の中には胃腸内に流動食等いくら入っても消化吸収されない方もいるし、600kcal/日の経管栄養でも太る方もいる(正確には皮下脂肪織が増えるだけで代謝と筋肉量はほぼ並行すると考えれば筋肉量が極めて少ない事の傍証とも思う)。
そんな中で、人生の終末段階のその末期を迎えた方でも、インフルエンザワクチン注射をご家族が希望すれば当施設でも当然行っている(ご本人は衰弱しきって希望表出できないことが多くご家族の希望が次に優先される)。
日本国内においては今、ワクチン注射は筋注にすべきという論調が大多数を占めているようだ(6)(7)(8)(9)(10)。
 日本ではプレベナー13が高齢者でも適応追加で2020年5月に適応追加許可され、小児は皮下注・高齢者は筋注で許可された。許可自体は結構なことだが高齢者は筋注、小児は皮下注としたのは世論に負けて筋注になったのではないかと疑心も生じる。今まではA型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン等は皮下注又は筋注と選択の幅があったが、プレベナー13は筋注に限定された。国の政策もブレ始めたとすればいずれインフルエンザワクチンも筋注に限定される可能性も出てくるのではないかと心配になる。もっともそのような衰弱高齢者はしなくてもよいとするのであれば問題は出ない訳であるが?日本の行政にその決断はできないであろう。その時には国も尤もらしい説明をするであろうが何か変だ。
副反応は筋注の方が少ないから筋注にすべきだという論調が多いようであるが、データによってばらつきがあるようで、https://doi.org/10.1111/j.1348-0421.2009.00191.x(新型トリインフルエンザワクチンの第一相試験、日本人健康成人120人、Alumアジュバント含有)によれば、日本人の若い健常者の局所疼痛頻度は(筋注35%、皮下注37%)、局所発赤(筋注25%、皮下注67%)、局所腫脹(筋注7%、皮下注23%)、局所硬結(筋注2%、皮下注3%)、全身症状発熱(筋注8%、皮下注8%)、全身倦怠(筋注20%、皮下注30%)、頭痛(筋注18%、皮下注17%)、である。疼痛の頻度は文献によって皮下注が多いともいうがこの文献では同じようである。全身症状も両者で変わらない。腫脹や発赤が皮下注の方が多いのは、筋注か皮下注の違いなのか、深さの違いなのか、については必ずしも明らかではないようである。
また、免疫効果については1970年代にアジュバントを含めて盛んに研究されたと記憶しており、皮内注>皮下注≒筋注の順で弱くなると記憶している。最近のデータでは皮下注よりも筋注の方が少し良いようである。しかしこれは抗原の質・量やアジュバント等混合物によっても大きく変わるので単純に言えるものではないとも思う。

ただ、肥満者やるい痩者等心身共に様々な方々がいる高齢者介護施設の現場で、人生の最終段階に至っているるい痩衰弱してきた方に対応する場合に感ずることは、慢性誤嚥性肺炎や反復性誤嚥性肺炎に陥っている場合には迷いながらも次の事実は受け入れざるを得ない。
栄養注入せずに静脈点滴注射にて脱水を防ぐのみの対応の方が延命という意味では呼吸不全等から逃れて長生きする。その時の栄養状態にもよるが、脱水を防ぐ点滴のみでも3か月、6か月、9か月と長生きされる方もいる(極めて荒っぽい計算をすれば体重50kg体脂肪30%消費カロリー600kcalでは60日あるいはそれ以上延命でき得る)。勿論あっという間に亡くなられる方もいる。
 点滴注射量もわずかの代謝水のおかげもあり200~500ml/日で足りる。人によっては心機能予備能が小さいために500ml/日でも顕性心不全に陥ってしまう方もいるので多くの場合500ml以内に抑えておいた方が高齢者医療の基本のdry-side管理の目的にかなっていることが多い。腎不全になることもない。私たちの施設ではたとえ明日逝くようなことがあっても前向きに普段の対応を変えることなく、並走型自立支援の姿勢を失わないように心がけている。世界の中で良いかどうかは分からないが、日本の中で私たちにできることはそのような対応ではないかということについてはスタッフ同士互いに自信を持って日々従事している。我が国は我が国の考え方で行けばよいのであって、ワクチン注射も米国ACIPの推奨にそのまま従う必要は必ずしもないと思っている。

(1)https://www.jpeds.or.jp/modules/news/index.php?content_id=229 小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(2019年7月改訂版/8月一部修正)、日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会。
(2)http://www.hosp.ncgm.go.jp/isc/080/index.html  厚生労働省・国立国際医療研究センター「予防接種基礎講座」の資料公開2019年度開催資料(2019年12月21日~22日開催)13. 接種法、抑制法。演習・実技確認。
(3)http://kidskenkou.web.fc2.com/preventiveVaccination/preventiveVaccination3..html
予防接種皮下注射手技、公立七戸病院小児科 ★キッズ健康トラブル。
(4) https://www.jans.or.jp/uploads/files/committee/tamate_10_pp.pdf
日本看護科学会誌 34(1), 36-45, 2014. BMIからアセスメントする筋肉内注射時の適切な注射針刺入深度の検討 高橋 有里, 菊池 和子, 三浦 奈都子, 石田 陽子。
(5)https://doi.org/10.2974/kmj.65.283 Resting Energy Expenditure of the Unhealthy Elderly in the "Roken" in Japan. The Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Numata National Hospital">Hidemasa Kuwabara, Noriko Yamaoka, Junko Oomaki, Mitsuo Suzuki.
(6)https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03162_02 週刊医学界新聞(第3162号 2016年02月15日) 不活化ワクチンの皮下注射を再考する. 矢野 晴美(筑波大学医学医療系教授/水戸協同病院グローバルヘルスセンター感染症科)。
(7)https://twitter.com/georgebest1969/status/796698908470562817?lang=ja インフルワクチンは皮下注より筋注で、岩田健太郎 神戸大学医学研究科感染症内科教授。
(8)http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/11/blog-post_9.html Hospitalist病院総合診療医。
(9)https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kurahara/202001/563456.html インフルエンザワクチンは筋注で問題なし, 2020/01/13 倉原優(近畿中央呼吸器センター)。
(10)http://www.theidaten.jp/data/public_comment/pc7.pdf ワクチン筋注が行われていない現状の改善を、岸田直樹 手稲渓仁会病院総合内科・感染症科。
(11)https://ci.nii.ac.jp/naid/40002820308 堺春美.ワクチン接種のリスクマネージメント-ワクチンの安全性と皮下接種の手技-. 日本医師会雑誌. 2000, 123, 6, 837-848


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2021/5/30 追記。

新型コロナ(COVID-19)ワクチンが筋注に限定されていることについて、

 一般にワクチンが筋注されていることについては、CDCやWHOが筋注を推奨?しているので、インフルエンザ等のワクチンも日本は筋注にすべきだという専門家特に感染症専門家の声がインターネット上の世界では喧しい。

 日本はワクチンは「皮下注」又は「筋注ないし皮下注」とされていることがこれまでは多かったように思う。
 特にインフルエンザワクチンは皮下注である事・副反応が少ない事等から、寝たきりの高齢者でも希望があれば毎年行っていた。これまで何の問題もなかった。

 日本が特に小児の筋注を避ける理由は、その原因に歴史的問題(大腿四頭筋拘縮症)を理由として挙げる人が多い。しかし現実にはCDCやWHOの言うことをそのまま受け売りしているペーパードライバーのような人の声の方が目立つためのようにも見える。皮下注より筋注の方が副反応が少ないとか、免疫効果が高いとか、尤もらしい理由を並べて主張している。しかし自分で調べた限りでは副反応は大同小異であるし、免疫効果は遥か50年前にも同じような論点があったことがありその時は皮内注>皮下注≒筋注と決着したと思っていた。昔と今に違いがあるとすれば免疫源にmRNAやベクターにウイルスを使う新手法が出てきたことである。免疫効果の違いに関しては記憶があやふやなので念のため免疫の専門家に個人的に聞いた所エビデンスがないだけでほぼ同じだと思うと言っていた。副反応の差に関しては様々なFactorがあるので一概には言えないがやはりどちらも調べた限りドングリの背比べである。副反応については皮下注・筋注の違いよりも大きなFactorが沢山ある。アジュバント等の有無・成分・pH・注射の浅深・体質等挙げればきりがない。
 過去を引きずり皮下注に固執するのは世界の流れに遅れているというネットの主張は、超高齢社会を迎えた日本にはもう当てはまらないようである。高齢者ワクチンの運用についてはむしろこれから世界をリードすべきであると思う。
 日本の行政もこれらの専門家の意見を入れてかどうか分からないが、最近のワクチンの場合は実際、子宮頸がんワクチンや肺炎球菌プレベナーワクチンでは成人は筋注に限定された。この点は行政も多くのいわゆるペーパー専門家の意見に阿るようになったのではないかと疑心暗鬼にもなり却って心配になる。

  小児へのインフルエンザワクチン注射はネットの話題では筋注にすべきとの意見が強いようであるが小児科学会の正式見解は筋注も許可してほしいとの国への提言があるのみで、皮下注から筋注へ変更しろとは言っていない。小児の場合は筋注でも皮下注でも効果はどちらも大同小異と思われるのでどちらでも良いと捉えているが、衰弱高齢者の場合は状況が異なってくる。もし、インフルエンザワクチンが筋注のみに限定されればワクチンの恩恵を受けられない方々が少なからず出てくる。
 そこでここでは、特に高齢者施設入所者等の衰弱高齢者を対象とした場合の実態をあげてみる。
 筋肉のエコー所見で見る限り高齢者の筋肉はそもそも若者とは違い脂肪化傾向が強い。フレイル状態(reversible)はまだ良いほうで、高齢者施設に入所しているフレイルを超えて衰弱をしてきて寝たきり状態になると、気持ちはしっかりしていてもサルコペニーは著明で筋肉委縮も甚だしい。自分の施設の一点で調べた結果を見る限り入所実働90人位のうち3割近くの入所者は殆ど筋肉をエコーで同定できなかった。寝たきりで極端な方は経管栄養600kcal/日の下でも肥ってくる方がいる。これらの実態を、感染症専門家の方々はどの程度ご存じなのであろうか。 筋注と言えば三角筋・大腿外側広筋・殿筋が主であり、三角筋が無理なら大腿部や臀部があるではないかというDrの意見も実際あった。しかし高齢者施設の現場で調べてみると三角筋がダメなら殿筋や大腿はもっと無理の場合が多い。衰弱していても三角筋は意外にも最後まで残っている頻度が高いように見える。

 教科書的な基礎代謝量といえば1200kcal/日が教科書的な数値である。でもこれを遥かに下回るエネルギー代謝量でもほぼ安定して生命を維持している方々が現実に日本の高齢者施設の入所者の中には少なからずいた。実際に測定したのは安静時代謝量(基礎代謝の1.1~1.2倍,resting energy expenditure,REE,)であるが、恐らくこれが未だ周知され得ない日本の超高齢社会の実態と思われる。このことはワクチンの皮下注か筋注かの議論にも係る問題であり、国の運営理念に係る問題でもある。欧米においては食べられなくなれば人生の終わりと捉えられているようであるが、実は脱水さえ防げば予想以上の長生きをする方々は少なくない。良い悪いは別として、日本には少なくともそのような高齢者を見放そうとする国の運営理念が議論の俎上に上がることはまずないはずである。かつての医療費亡国論も根底から否定されたはずで、今では経済成長のエンジンの一部とさえ捉えられていると思う。超高齢社会の世界のトップランナーであるが故の新しい問題なのであろう。
この点ではCDCやWHOを引っ張って行こうとする位の気概の方が必要なのではないだろうか。
 今後はワクチンは筋注一辺倒ではなく皮下注のエビデンスも日本は構築すべきである。