農産物のポストハーベスト問題について、考えてみた。2021年09月18日

2021/9/17 アサブロ

農産物のポストハーベスト問題について、考えてみた。

 このポストハーベスト問題の記憶はほぼ半世紀前に遡るが、最近はプレハーベストもありこのポストハーベスト問題は視点が大きく異なっていることに驚き、改めて調べてみることにした。
 食の安全保障の在り方にも係る問題であり、何よりも国民一人ひとりの健康問題に直接かかわる問題でもある。幅広く「輸入農作物の残留農薬問題」と言った方が適切のようだ。以下ポストハーベスト問題は広義に「輸入農作物の残留農薬問題」と同じとして言葉を進める。

 かつて日本のNHKテレビで、アメリカが輸出用小麦の船倉の中で殺菌剤を上から直接散布している映像を放映して、それを知った日本だけでなくアメリカ本国でも問題になり非人道的で酷いことをしているとアメリカ議会のロビー活動にまで発展して取り上げられた記憶があるが、アメリカ政府はそれでは世界の民が飢えても良いと言うのかと開き直った。そして間もなく日本国内でもアメリカ国内でも突然このことに全く沈黙してしまった。当時若年の自分には、何故なのかと不信を抱えて今でもその映像の記憶は脳裏に鮮明に残っている。

 小麦輸出から始まるポストハーベスト問題は、将にその米国と日本の考え方の違いを具現化したような問題だとずっと思っていた。
 アメリカのように自分たちが作って物を世界に届けようと云うやり方は、世界の貧困地域にその作り方を教えようという日本の発想とは大きく違う。日本は後者が本来のあるべき姿であると当時も今も思っているはずであり、実際JICAの活動はそのように見える。

 農産物輸入については、食習慣は国ごとに変わるので国ごとに守るべき問題点も違い、食の安全保障という国民の健康にも係る問題は特に区別すべきである。その上での国同士の併存である。実際、米国が米国の都合で貿易障壁だと基準を緩めるよう迫る中で日本は2006年から改正食品衛生法で「ポジティブリスト方式」にしたのは食の安全を守るための大きな前進のようだ。CODEXなどの国際基準も現在はあるという。
 TPP、RCEP等自由貿易なくして輸出国も輸入国もどちらも成り立たない世界情勢となっている故に、安全性評価にもある程度の互いの譲歩が必要であるのかもしれない。でも現実は、その視点は国民目線ではなく係る企業の目先の利益確保優先の目線になり易いことが問題のようだ。

 その「ポストハーベスト問題」での互いの譲歩の実態は、相手に良い品を届けようとの心根は見られない。唯々売らんかな売りつけようかなとの手前勝手な理屈でぶつかっているようにしか見えない。その手前勝手の理屈を恥じらいもなく押し通す最たる国が米国であり、食の倫理さえも見えないのが中国であるようだ。日本の食品衛生法に基づく輸入食品の安全性監視の結果では違反件数が一番多いのは中国であるが違反割合は米国の方が上回っているという※。
 これは米国の姿勢だけでなく、日本の輸入商社の目先の思惑も無縁ではないようだ。米国も日本の商社もどちらも企業の思惑が優先となり、結果として国民目線から外れ日本は米国の圧力に簡単に屈してしまうように見える。

 輸入小麦のポストハーベスト問題も昔のイメージががらりと変わっているので改めて原点を探そうと思ってその映像を探して見たが何処にもないことにまた驚いた。
 かつてのその映像は、国立国会図書館やNHKアーカイブを検索しても見つからなかった。
 NHKテレビのその映像(1970年代?)を探している過程で、かつて自分の見た画像とはイメージが違うが下記の分かり易い画像があった。
 〇「 皆さんは知っていますか?ポストハーベスト 住野康博〜アメリカとカナダで挑戦し続ける者〜。https://ameblo.jp/yfa47574/entry-12024114577.html 」

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 〇「 レモンに農薬シャワー(ポストハーベスト農薬) https://www.youtube.com/watch?v=6_fzZP9Vgno 」(youtube 動画)。


 現代社会における自然への汚染物質の最たるものの一つは原発や原爆実験の産物のアイソトープであるが(「原発事故由来の放射性物質。放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版、環境省)https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-02-04.html 」)、その他にも数多くある。もはや汚染物質は避けては生きていけない状況に陥ってしまっている。食糧安全保障に係る輸入食品の汚染もその最たるものに入る。その農産物輸出なしでは生きていけない国もあればそれを輸入しなければ生きていけない国もある。
農産物については大勢では日本は輸入国であり米国は輸出国であり、その基準は当然相互に異なっていてよいはずなので輸入国は輸出国の思惑に従う必要はない。輸出国も自国民と同レベル以上の汚染は押し付けるべきではない。

 そもそもアメリカと日本では、社会貢献についての考え方やアプローチの仕方が全く違う。こういう違いは様々な点で目に付くが、かつての小麦ポストハーベスト問題(船倉の小麦に殺虫剤をかけてまでも輸出、そうしなければ世界の民が飢えると主張した)や、コンピュータの基本OSの設計思想の理念(ビル・ゲイツのMS-DOS対坂村健のTRON。ビル・ゲイツはソフト自体を商売にしてTRONはソースコードの無償公開を理念としたが、レーガン大統領に中曽根首相が譲歩したこともあり今やMS-DOSが世界を席巻してしまった)あるいは、鉄砲の個人所有容認・不容認などで対照的に現れている。これは理念の違いでもあり社会倫理観の違いでもある。

 小麦ポストハーベスト問題で言えば、アメリカの考え方は、いわば富んでいる者がトリクルダウンで末端を潤すという考え方であり、持てる者が持たざるものに慈善を施すというものである。日本の考え方は持たざる者にはその持ち方を教えようという姿勢の方を大事にする。少なくとも古来からの儒教・神道・仏教・八百万の神等を融合した独自の文化を精神的支柱にしてきた日本の倫理ないし道徳観を基礎に置いた考え方はそうだと思う。

 本来のポストハーベスト問題は、アメリカが全世界に小麦等輸出する際に農産物劣化を防ぐために使う農薬問題が始まりで、半世紀前に遡る。米国の考え方は自分たちが作ったものを世界にバラまき人々を飢えから救ってやるという発想である。そのためには防カビ・防虫・燻蒸は不可避の事であると考える。強引に自分たちの考えを押し付ける米国流は手前勝手なegoである。余り物のトリクルダウン手法であり米国流の慈善手法だ。それに対して日本のJICAの考え方は現地に合った物を作る援助をするという発想である。発想の根本が違う。 
 食料の自由貿易の流れに逆行は勿論出来ないが日本の食の安全基準は守るべきである。食糧輸出国の手前味噌の圧力に負けて食の安全基準を劣化させてしまう日本の姿勢に問題がある。国民の健康を守るためには「食の安全保障」を我が国はこうするという確たる理念を持っていることが必要である。
 長い目で見れば地球自体が科学の発達で様々な汚染に晒されてきている。それに伴い人の体質も変わり、我々人類もそれに抗うことが出来ないことは宿命であるにしても、なるべく軽減する努力はやはり必要である。

 農水省は、「残留農薬等のポジティブリスト制度」の導入によって、「国民の健康保護の観点から、18年5月29日より食品中に残留する農薬等に関するポジティブリスト制度が施行され、残留基準が定められていない農薬等が一律基準(0.01ppm)を超えて残留する食品の販売等を禁止することとされた(図1-46)」https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_1_2_01.html 、と言っているが、実態とずれているのではないかとの不信はなお拭えない。


参考資料。
〇「リスクのある小麦」の輸入を続ける日本の末路、発がん性指摘される農薬を効率重視で直接散布。鈴木 宣弘、東京大学大学院 農学生命科学研究科教授、東洋経済Online 2021/08/27。https://toyokeizai.net/articles/-/451051?fbclid=IwAR10e8tf_wuf_BS0JrvD2aKVK8bXl9N4CuB482ItxWJJ3G3fOTN2_oYum1w 
※〇TPPと食品安全性。農林中金総合研究所 清水徹朗 農林金融2016・4 https://www.jacom.or.jp/archive03/tokusyu/2011/tokusyu110606-13712.html  
〇どうなるの? 私たちのくらし 【TPP―食の安全】 【TPP―食の安全】「食の安全」に米国基準を押しつけ。11.06.06。 JAcom農業協同新聞  https://www.jacom.or.jp/archive03/tokusyu/2011/tokusyu110606-13712.html
〇ポストハーベスト農薬は「農薬」という言葉で評価した方が良い 財団法人食品分析開発センター2011年2月発行 http://www.mac.or.jp/mail/110201/03.shtml 
〇参議院議員竹村泰子君提出小麦と小麦粉の安全性に関する質問に対する答弁書 平成8年12月12日 (この国会質問は詰めが甘い感じがする)https://www.ffcr.or.jp/kokkai/1996/12/8D0B901680C511B5492565F30027D915.html
〇NHKの特集(ミツバチ大量死の原因がネオニコチチネイド系農薬が原因)謎のミツバチ大量死 EU農薬規制の波紋 NHKクローズアップ現代2013年9月12日 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3401/index.html 
〇ミツバチの大量死や失踪…影響疑われる農薬、なぜ禁止しない? 西日本新聞 2018/6/13 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/424241/ 
〇ネオニコチノイド系農薬、低濃度でもハチの神経に影響か 朝日新聞デジタル 2020年7月31日 https://www.asahi.com/articles/ASN7R048LN7KPLBJ001.html



2021/9/20 追加 

改正農薬取締法について

農薬規制、日本でも始動 虫や鳥など安全性チェック。日本経済新聞 環境エネ・素材 2020年2月19日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55807280Z10C20A2MM0000/?fbclid=IwAR2Ds0Mmkh_zK9KO-PV2efVHYYfiEBHg1pX0X5iNRwUeG4_n_BrWBrZelYE

※ 2018年12月1日施行の改正農薬取締法によって、新たに試験成績が必要となる「使用期限の設定」、「農薬使用者に対する影響評価の充実」及び「農薬の生態影響を評価する対象の拡大」は農薬取締法改正後2年以内になっていたが、2020年4月1日に施行された。下記に経緯の説明がある。
〇「農薬取締法の一部改正について」 農薬工業会 技術部 横田 篤宜 農薬時代 第200号 (2019)p43-47。 https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/pdf/no200/200_043.pdf
 〇農林水産省 農薬取締法の平成30年改正(平成30年6月15日公布)
平成30年12月1日から改正農薬取締法が施行(一部令和2年4月1日から施行) https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_kaisei/h300615/index.html

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