日本呼吸器学会WEB視聴してー ②2024年04月25日

日本呼吸器学会WEB視聴してー ②

<第64回日本呼吸器学会学術講演会2024/4/5-7。会長特別企画7 中枢気道粘液栓がもたらす閉塞性肺疾患病態のパラダイムシフト> をWEB参加で視聴した

 はじめボーッと聞いていたが、5人目の小熊剛教授(東海大学)の講演にはっとした。ABPA/ABPMの気道粘液栓のCT値は70と高くHAM(high attenuation mucus高吸収粘液栓)と名付けていた。血液(≒45)はおろか筋組織(≒60位、水=0,骨=1000,空気=-1000,)より高いというのである。ABPA/ABPMという名称も某学会でABPA以外をABPMと定義したので表現をABPMではなくABPA/ABPMとしたとのことであった(これまではABPAはABPMの一部と考える言い方が多かったと思う)。言葉は人によって定義やイメージが微妙に違うことが多く、北岡裕子教授(東京農工大学)が“中枢気道/末梢気道の言葉のイメージが使う人によって違っている印象を受けるがどう考えるか”との質問があり、司会者が戸惑う中で聴衆席から桑平一郎先生?が答えていたのが面白かった。北岡教授は拘りの強い方で若い頃より皆から距離を置かれていたことを思い出した。上記の場合は北岡教授の問いかけに賛成と言っていてその謂れは自分も別の所で言及しているので見てほしいと言っていた(オンライン開催4 Legendから学ぶ呼吸器病学のみらい3 末梢気道病変のみかた~日常診療に活かす呼吸機能検査からのアプローチ~、桑平一郎(総合東京病院呼吸器疾患センター))。これによれば末梢気道という言葉は1968年Macklemらが外径2mmのカテをヒト肺の気道に入れて内圧測定したのに由来し、以来内径2㎜φ以下を末梢気道という表現を使うようになったのが初めとのことである。末梢気道/中枢気道、上気道/下気道等、微妙に使い方が人によって違うこれまでの違和感についてはこの質問が留飲を下げてくれた。呼気ガス測定FINO→FiNOとの慣習表現も然りである(PaO2とPACO2の違いは受け入れられており大文字小文字の違いを区別すべきと今でも思っている。東北大滝島教授らの頃決まった?)。また桑平Drは閉塞気道の末梢がintactと考えると実験上矛盾が出てくるので単一指標のみで病態を判断するのは危険であるとも言って逆に質問もしていたので成程と思った。
 いくつかの新鮮表現にも教えられた。ABPA/ABPMのHAMが吸引除去し難いのは腐生付着ゆえだと表現していた。腐生という言葉には、成程と思った。気道粘液栓は昔からmucoid impaction等と表現されていたがその性質が様々であることは臨床現場では良く経験しCT登場で気管支内小塊も見つかるようになってからは特にそうだった。簡単に喀出で消えるものから気管支鏡下で吸引圧を強くしても取り難いものまで様々だった。昔、喘息発作死を経験したDrから“緊張性気胸はないにも係らずアンビュ揉んでも空気が入っていかなかったことが救命処置中にありどうにもならなかったと仲間が言っていたことを、そんなことがあるのかと思って聞いていたことがあった。上述の桑平先生も言っていたことに関連するが、気管支鏡観察で見える範囲には粘液栓が見えなくても末梢気道に粘液栓がびっしり詰まっていることのある症例を自分でも実際経験したことがあった。PaO2/PaCO2比がcross over pointを超え、挿管、レスピレータ管理に移ったが気道内圧が高過ぎ数回に分けて気管支洗浄を行ったことがあった。BALと同じ要領である(正確には気管支肺胞洗浄か?)。救命できたがそのBAL液は特異なものであった。糸くず状の細かいペレット状小塊が無数浮遊して混濁した洗浄液が採れた。顕微鏡で見ると好酸球やSharcot-Leyden結晶の塊だった(0.5x10mm位のペレット状?)、換言すれば好酸球の膿の小塊が無数に回収された。当時そのような報告は見当たらず貴重なプレパラートでいつか症例報告をしなければと思い保存しておいた積りではあったが退職時に捨ててしまったようで探したが見つからなかった。最近は難吸収性の吸入ステロイドとLABA合剤等で喘息死は激減したのであのような症例はもう見られなくなったようだ。好酸球ペレット小塊に注目した報告はその後もなく世界に一つだったかもしれない標本と思っているほど貴重なプレパラートだった(H.2年の症例で論文化はしなかったが症例報告はした?第5回日本アレルギー学会春季臨床集会1993年5月「気管支洗浄により救命し得た気管支喘息重責発作の症例」)。この患者はその後再び重責発作で或る大病院に救急搬送されて内科からICUに移り全麻の麻酔科管理になったが改善不能とのことで内科に戻された。対応に困った主治医が既往歴を知り当院へ連絡してくれて気管支洗浄処置の応援に行ったというおまけがついた。自分の在職中は元気に存命中であったがあの時は地獄を見てきたと本人は後に述懐していた。その後、簡単な論文化がされたが残念ながらそれには好酸球ペレット小塊への注目はなく光顕像は載っていなかった※※(アレルギーの臨床14(1)51-53,1994.)。この好酸球ペレット小塊の所見は末梢細気管支レベルが広汎に閉塞していたことを如実に示しており、見方を変えれば好酸球膿で細気管支レベルが広汎に閉塞されていたための気道内圧上昇であり、細気管支性の窒息病態と言っても良いとも思う。
(※※追記:正確には、糸くず状の細かいペレット状小塊が判る弱拡大写真を示していなかったというべきだった。そのイメージ像はペレット様=キャスト状=細円柱状とも言い換えられる。)

 上記の糸くず状の好酸球ペレット小塊は今流にいえばEETosisである。一般的に言われる膿は好中球の死骸であるが、単なる壊死necrosisやアポトーシスapoptosisとは言わず今ではNETosisというようだ(①②)。②によればミトコンドリアDNAが吐き出されEETsが生ずるという考え方があると言っているが之には、はて?と言わざるを得ない(今放映中の朝ドラ虎に翼,寅ちゃんの口癖)。ミトコンドリアDNAと言えばoncocyte(本来のmitochondria-rich-cell、一般的には腫瘍細胞一般とも誤解釈されている?③)の意義・機序は未だに不明だからである。スエヒロタケもHAM+という。スエヒロタケのABPMも1例経験しているが、培養期限を過ぎて放置しておいた培地から生えてきたというので記憶に残っている(これも学会発表のみ行っていた。「スエヒロタケによるアレルギー性気管支肺真菌症の一例」第594回日本内科学会関東地方会,2013,2.8.)

 末梢気管支が2mmφ以遠を言うのは納得するとしてそのあたりから気管支軟骨も消失するという別の演者からの答えがあり最近のChestでも報告されたと言ったのには、これにもはてっと言わざるを得なかった。日本人の業績には目をくれず西欧のデータのみ重きを置く傾向があると感ずるのは最近のCOVID-19流行初期のマスクすべきか否かにも表れていたことでもあるが、2mmφあたりから軟骨が消失するという意見にはその方面の専門家である北岡先生が意見を言うと期待したが発言はなかった。
かつて日本人の名著と言われた原著「Roentgenologic Anatomy of the Lung」Hideaki Yamashita,M.D. 1978 by IGAKU-SHOIN Ltd Tokyo /New York.では軟骨がなくなる末梢気管支径は0.5mmφ前後と言っていたはずである(写真:絶版になって今は手に入らない、残念である)。気管支径(細気管支径)は病態や吸気位・呼気位で変動するので測定方法によって異なるのは承知としてもそれに言及せずして2mmφが軟骨消失レベルと言い切るのには、はてっと言わざるを得ない。もっとも気管支軟骨があっても無くても2mmφ以遠は全周性※ではなく散在性島状と思われるので気管支径変動を制限するわけではないのは勿論である。もっともEEP(equal pressure point)は病態によって動くので、2㎜φ細径気管支鏡を使って実観察しているDrには是非教えて頂きたいところである。  (※正確には馬蹄形)
(形態学的視点ではなく、軟骨の存在が細気管支レベルの生理学的機能に影響してくる付近が2mmφ付近であろうと言うのならばそれはそうかもしれない)。

①NETosisの説明:東北大学 加齢医学研究所 加齢制御研究部門 基礎加齢研究分野(堀内研究室) https://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/mcb/study-nets.html 。
②EETosisの説明:ア レ ル ギ ー 用 語 解 説シリーズ,EETs/EETosis,アレルギー69(4)271―272,2020. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/4/69_271/_pdf 。
③オンコサイトoncocyteの説明:「オンコサイトの糸粒体の電子顕微鏡的観察」片岡隆嗣,耳鼻咽喉科臨床,Supplement34,pp1-30,1989. https://doi.org/10.5631/jibirinsuppl1986.1989.Supplement34_1 。
 < Oncocyteの元来の意,即ち=mitochondria-rich cell,の説明:Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Oncocyte 。即ちtumor cellの意だけではない。Oncocyteは未だに解明点の必要ある細胞である。>

④<写真>
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target="_blank"
onClick="return asablo.expandimage(this,662,956,'https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2024/04/25/6bce5b.jpg')"><img src="https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2024/04/25/6bce5a.jpg" alt="Roentgenologic Anatomy of the Lung by Hideaki YAMASHITA 1978. 1st edition" title="Roentgenologic Anatomy of the Lung by Hideaki YAMASHITA 1978. 1st edition" width="300" height="433"></a></div>

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