新型コロナ感染症での5日ルール2021年08月19日

2021/8/19 

新型コロナ感染症でのこれまでの5日ルールは見直すべきか、原点に返って考えてみる。

 新型コロナ感染症(COVID-19)対策は新たなステージ、というより新たな世界に入ってしまった。 これまでは蔓延地域からの流入阻止に力点があり、つい1週間前は蔓延地域ではないけれど近県から息子が帰って来るがどうしようと相談を受けた時は蔓延地域ではないけれど県外からなので念のために5日ルールを適用しようと決めたばかりである。そして直近、家族が陽性となったと連絡がありその職員はその日も出勤していた。

 首都圏のあおりを受けて今、当県自体が蔓延地域になり、その上蔓延していない周辺地域から見れば当地域がその発生源中心とも取れる状況になってしまった。県外はおろか県内においても前橋・高崎・伊勢崎および太田・舘林の2地域は要注意地域ということになっている。そして明日の8月20日からは当県も含めて13都府県が緊急事態宣言指定地域になる。県内移動も含めて移動制限をすることではこれまでの生活との両立が厳しい。基本を見直さなければならない。家族内でもマスク等の防御を考えなければならなくなった。まさに欧米で起こっていたことが日本でも現実になった。

 我々の施設は高齢者入所施設の老健であるためにひとたび新型コロナが入り込めば死をも含めたその悲惨さは想像するまでもない。ただのカゼでも命に直結するような慢性呼吸不全のような衰弱者もゴロゴロいるからである。最近の沖縄のうるま記念病院で起きたクラスター166人感染64人死亡は特別のことでも他人事でもない。
 一方でこのような社会状況でも社会基盤を支えるための介護関連事業は継続義務を課された事業形態でもある。従って事業を継続しながら新型コロナを持ち込まないようにもするという相反事項を成り立たせなければならない。当然完璧はあり得ない。けれども完璧を目指さなければならないという使命を背負ってこれまでやってきた。
 事業を継続しながら施設内に新型コロナを持ち込まないためには、令和2年流行初期より当施設では「5日ルール」を作り運用してきた。そこには、’もしかしたら入ってしまったかもしれない’となってからの対応では既に手遅れという危機感があったからである。
 SARSの時とはだいぶ違うが、それでも’疑いの疑いの疑い’の段階で先手を考えておかないと間に合わないであろうというのは同じであるからでもある。

 【 ※ 「5日ルール」について: SARSの場合はウイルス検査確定前は疑いとしていたので「SARS疑い」は臨床的にはほぼ確定に近く、「疑いの疑い」が普通の疑い、「疑いの疑いの疑い」が確度は低いが否定出来ない場合、であった(「新型コロナ、 3密(3Cs)に関して,など ―2021年01月01日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/01/01/9332797 」参照)。今回の新型コロナ感染症の場合は令和2年1月に日本に入ってきたときには既にウイルス遺伝子配列まで分かっていてPCR検査も確立していたので状況は大きく違っている。驚くべき医学の技術進歩と言える。これは世界に先行して中国が既に確立していたのでこれも驚くべきことである。
 新型コロナの場合は令和2年3月には既に感染爆発第一波が日本でも発生して、発症2日前より感染力があるらしいとの新しい特徴や感染後2週間の潜伏期間観察が必要らしいとの特徴も見えてきていた。日本に入ってきたときは既にその特徴がかなり掴めていたのもSARSの時とは異なっていた。従って担当保健所の濃厚接触者判定を待っていては後手になる状況があったので、その前の「接触疑い」段階で職員や施設利用者が感染リスクを少しでも蒙った場合への対応をどうするかが目先の問題であった。
 その場合は出勤を見合わせなければならないが、停止期間が2週間では業務が成り立たなくなる。10日間でも厳しい。発症前2日から発症後3日が最も感染力が大きいであろうとの推定の下に、保健所判定の濃厚接触者にはならなかった場合でも、出勤停止5日目であればそのスタッフの周りに発症者等疑い患者が発生していないという条件を付ければ6日目から出勤可とすることで業務もどうにか成り立つし大きなリスクは回避できるであろうという判断になった。従って不詳ならば更に5日間延長になる。以上の方法をとることにした。5日間毎に見直す。これが何となく「5日ルール」と言われるようになった。
 業務は滞っても持ち込まないことを最優先にして、最低限の業務縮小でも止むを得ないとした。当初1日4―5人迄なら休んでもどうにかなるかと腹をくくっていたが、これまで幸いにも欠勤は1日多くても1―2人で済んでいるのはスタッフの自覚と協力の表れと思っている。これまでの1年半の今の所スタッフが事前に申し出て相談してくれていてホウ・レン・ソウも上手く機能していたと感謝している。】

 今回、異常な第5波感染爆発のために今後はどうなるか更に分からなくなってきた。非蔓延地域から来ても発症し得るし職員家族も発症することが身近の現実問題になってきた。
 これまでは蔓延地域から来た場合を想定していたが、最近は既に蔓延地域でなくとも他県から息子が来たとスタッフが言えば念のために5日ルールを適用しようと判定してきた。しかしここ1-2週間でさらに状況が変わり、他県からみれば当県自体が爆発初期で警戒対象になってしまった。ばらつきが大きい県内さえ問題があるのに、蔓延のない県外と県内を分ける意味がなくなってしまっている。
 当初より施設では、自分の体調に異変を感じたり家族等に異変を感じたら上司や同僚に相互に相談し合って遠慮なく休むこと、これはお互い様だから仕事さぼりと非難しないこと等、ことある毎に周知してきた。もうこれを徹底する以外ないのではないか、それでも業務を破綻させないギリギリの段階をどう見極めるか、これにかかっているのではないか、そう思う。


2021/8/31 追加
 2週間毎の対応見直し会議で、我が県も緊急事態宣言下に入ってしまったので、もし自分が罹っても職場の人には移さないようにするという、「心がけ」を大事にすることに舵を切った。職場の心機一転、ふんどしの締め直し、全職員の意識共有のためである。
 フィジカルディスタンス・換気・マスク着用・手指衛生、を厳守すればまず人に移すことはないことが分かってきているので、以下を更に守る。
・基本的には今までの「5日ルール」は温存する。
・その上でたとえ職員は自分が感染していても他人には移さないという意識を忘れず各自が行動する。そのためにホウ・レン・ソウを忘れない。

新型コロナにステロイドが効くことについて2021年08月25日

2021/8/24  

下記の記事を読んで、関連することを記録しておく。

[緊急寄稿]「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」に対する意見書─移植感染症学の視点からみたCOVID-19[第2章]
日本医事新報No.5077 (2021年08月14日発行) P.29-37.高橋公太 (新潟大学名誉教授,日本臨床腎移植学会元理事長,高橋記念医学研究所所長)
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17681

何故ステロイドが効くのか、についての示唆に富む移植医からの推論である。但し肺胞性肺炎と区別するために-tisの方を使いたくなる気持ちは分かるが、interstitial pneumonitisという言葉は今もう使わない、interstitial pneumoniaと表現するとかつて(20年前?)国際的に決めてしまったのだから仕方がない。

 医療の現場ではステロイドは両刃の剣であるので、本人が涙をこぼして感激する程ドラマチックに効く場合もあれば、逆効果の場合もある。一般的にはたとえ10人に1人でも逆効果のリスクがあれば臨床現場では慎重にならざるを得ない。それでも使わざるを得ない場面にも屡々直面するのが現場である。多分この新型コロナも初期はそうであったであろうと思う。

 一般的には病原微生物(細菌・ウイルス・リケッチア・真菌・原虫など)による感染症はそれと身体との戦いであるが、ステロイドホルモンはその戦いにブレーキを踏む。体の中でのその戦いの中心は免疫反応であるがそれを抑えてしまう。
 従ってその戦いがサイトカインストームのような自らをも傷める過剰反応であれば有効だが正常範囲の反応であれば、使った場合は細菌やウイルスなどの病原微生物の味方をしてかえって病気を悪化させてしまう事になる。
 その見極めは必ずしも簡単ではないのでふつうはその使用には慎重になるので単なる炎症や感染には使わない、禁忌と言っても良い。心ある医師であれば使わざるを得ない場面では心の葛藤があるはずであるし根拠を明確にしながら使う。そして命を救うためには使わざるを得ない場面も確かにある。

 ステロイド治療に関連するささやかなことについて2点を以下に記しておく。
 かつて医師になって3年目の頃(昭和50年頃)、県外の病院の当直を同僚の誘いで引き受けて交代で当直に行ったことがある。そこでは、風邪程度で受診して良く効く注射を打ってくれと本人が希望することがあり、注射セットのゴム印が出来ていた。しかし自分ではこれは理屈に合わない注射だから打たないと断っていた。
 確かに大部分には効くように見えていたが数十人に一人位であるが、顔面蒼白で受診し、良く効く薬を打ってもらったがそれでも良くならないと言って再診する患者もいた。明らかに病状悪化であり、その要因はゴム印の注射セットが原因と思われた。交代で言っていた同僚医師も同じ感想を持ったようで、ああいう治療方法は効くかもしれないが正当なやり方ではなく邪道でしょう、我々は真似すべきでない、と言うことで意見は一致した。そのゴム印はクロマイ1g+プレドニン20mg?であったと思う。
 この上記は極端な例であるが、ステロイドホルモンと言っても製剤で微妙な違いもあるし、文献上では必ずしも確認できないような小さな問題も少ないながらある。今になって思えば情報の共有と周知はこれ程までに大事であったのかと痛感している。
 またケナコルトAという注射薬がある。これも使い方によっては気管支喘息には著効を示すことがある。1回やっただけで全く発作が消失し数か月後の次回発作が出た時にあの注射は良く効いたのでまたして欲しいと懇願されることがあった。長い目で見れば良くない薬なのでもう出来ないと断っていた薬である。しかし、アレルギー外来をしていると実は1―2か月に1回県外の大学に行って注射を打ってもらっているという患者も来ていた。そのケナコルトAであった。その場合相手の方法を否定すべきか黙認すべきかは必ずしも簡単ではない。医療の価値観には複数の因子とファジーな部分があるからである。それだけに相手の方法は黙認しても自分の場合はやらないという確固とした意志が医師には必要でありその根拠のために科学的視点を常に大事にしていると思う。
 50年前頃でも既に自分の周りのアレルギー専門グループでは、ケナコルトAは目先では効いても依存してしまうと難治化はするし精神障害も併発して泥沼に陥りかねないので、この薬の使い方には要注意と言うことが共有されていた。でも他県の大学ではこの情報は必ずしも共有されていなかった。
 その後30-40年前から難吸収性の吸入ステロイドが出始めたが、その効果を実感できるまでにはさらに10年以上の年月が必要であった。それまでは体質改善の注射や皮内反応などのアレルゲン検査も様々に毎週アレルギー外来で行っていた。アレルゲンを自分で製作調剤もしたこともあった。難吸収性の吸入ステロイドホルモンも新薬がその後開発されてきて喘息患者の状況も治療の現場も20年前頃より大きく変わった。昔のような難治性喘息患者は大きく減り最近ではその定義さえも変わってきている。昔は難治性喘息と重症喘息は全く別次元の病態と捉えられていたが今では区別がかえって曖昧になってきているようだ。またアレルギー外来と言えば減感作療法を始めとした体質改善療法はメインであったが今ではめっきり少なくなっているようだ。それだけ良い発作改善薬が出てきたとも言える。