新型コロナにステロイドが効くことについて2021年08月25日

2021/8/24  

下記の記事を読んで、関連することを記録しておく。

[緊急寄稿]「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」に対する意見書─移植感染症学の視点からみたCOVID-19[第2章]
日本医事新報No.5077 (2021年08月14日発行) P.29-37.高橋公太 (新潟大学名誉教授,日本臨床腎移植学会元理事長,高橋記念医学研究所所長)
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17681

何故ステロイドが効くのか、についての示唆に富む移植医からの推論である。但し肺胞性肺炎と区別するために-tisの方を使いたくなる気持ちは分かるが、interstitial pneumonitisという言葉は今もう使わない、interstitial pneumoniaと表現するとかつて(20年前?)国際的に決めてしまったのだから仕方がない。

 医療の現場ではステロイドは両刃の剣であるので、本人が涙をこぼして感激する程ドラマチックに効く場合もあれば、逆効果の場合もある。一般的にはたとえ10人に1人でも逆効果のリスクがあれば臨床現場では慎重にならざるを得ない。それでも使わざるを得ない場面にも屡々直面するのが現場である。多分この新型コロナも初期はそうであったであろうと思う。

 一般的には病原微生物(細菌・ウイルス・リケッチア・真菌・原虫など)による感染症はそれと身体との戦いであるが、ステロイドホルモンはその戦いにブレーキを踏む。体の中でのその戦いの中心は免疫反応であるがそれを抑えてしまう。
 従ってその戦いがサイトカインストームのような自らをも傷める過剰反応であれば有効だが正常範囲の反応であれば、使った場合は細菌やウイルスなどの病原微生物の味方をしてかえって病気を悪化させてしまう事になる。
 その見極めは必ずしも簡単ではないのでふつうはその使用には慎重になるので単なる炎症や感染には使わない、禁忌と言っても良い。心ある医師であれば使わざるを得ない場面では心の葛藤があるはずであるし根拠を明確にしながら使う。そして命を救うためには使わざるを得ない場面も確かにある。

 ステロイド治療に関連するささやかなことについて2点を以下に記しておく。
 かつて医師になって3年目の頃(昭和50年頃)、県外の病院の当直を同僚の誘いで引き受けて交代で当直に行ったことがある。そこでは、風邪程度で受診して良く効く注射を打ってくれと本人が希望することがあり、注射セットのゴム印が出来ていた。しかし自分ではこれは理屈に合わない注射だから打たないと断っていた。
 確かに大部分には効くように見えていたが数十人に一人位であるが、顔面蒼白で受診し、良く効く薬を打ってもらったがそれでも良くならないと言って再診する患者もいた。明らかに病状悪化であり、その要因はゴム印の注射セットが原因と思われた。交代で言っていた同僚医師も同じ感想を持ったようで、ああいう治療方法は効くかもしれないが正当なやり方ではなく邪道でしょう、我々は真似すべきでない、と言うことで意見は一致した。そのゴム印はクロマイ1g+プレドニン20mg?であったと思う。
 この上記は極端な例であるが、ステロイドホルモンと言っても製剤で微妙な違いもあるし、文献上では必ずしも確認できないような小さな問題も少ないながらある。今になって思えば情報の共有と周知はこれ程までに大事であったのかと痛感している。
 またケナコルトAという注射薬がある。これも使い方によっては気管支喘息には著効を示すことがある。1回やっただけで全く発作が消失し数か月後の次回発作が出た時にあの注射は良く効いたのでまたして欲しいと懇願されることがあった。長い目で見れば良くない薬なのでもう出来ないと断っていた薬である。しかし、アレルギー外来をしていると実は1―2か月に1回県外の大学に行って注射を打ってもらっているという患者も来ていた。そのケナコルトAであった。その場合相手の方法を否定すべきか黙認すべきかは必ずしも簡単ではない。医療の価値観には複数の因子とファジーな部分があるからである。それだけに相手の方法は黙認しても自分の場合はやらないという確固とした意志が医師には必要でありその根拠のために科学的視点を常に大事にしていると思う。
 50年前頃でも既に自分の周りのアレルギー専門グループでは、ケナコルトAは目先では効いても依存してしまうと難治化はするし精神障害も併発して泥沼に陥りかねないので、この薬の使い方には要注意と言うことが共有されていた。でも他県の大学ではこの情報は必ずしも共有されていなかった。
 その後30-40年前から難吸収性の吸入ステロイドが出始めたが、その効果を実感できるまでにはさらに10年以上の年月が必要であった。それまでは体質改善の注射や皮内反応などのアレルゲン検査も様々に毎週アレルギー外来で行っていた。アレルゲンを自分で製作調剤もしたこともあった。難吸収性の吸入ステロイドホルモンも新薬がその後開発されてきて喘息患者の状況も治療の現場も20年前頃より大きく変わった。昔のような難治性喘息患者は大きく減り最近ではその定義さえも変わってきている。昔は難治性喘息と重症喘息は全く別次元の病態と捉えられていたが今では区別がかえって曖昧になってきているようだ。またアレルギー外来と言えば減感作療法を始めとした体質改善療法はメインであったが今ではめっきり少なくなっているようだ。それだけ良い発作改善薬が出てきたとも言える。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/08/25/9414970/tb