メトフォルミンマニアになって欲しいとの提案に対して2021年07月22日

2021/7/21 アサブロ
メトフォルミンマニアになって欲しいとの提案に対して、

 週刊日本医事新報に面白いテーマの記事が載っていた(下記)。
( 日本医事新報 トップ>特集>No.5074:メトホルミンマニア─多彩な作用機序を理解して実際の使用法を考える  2021-07-20 )。 メトフォルミンマニアになって欲しいとの提案である。

 そう言えば、90才過ぎの高齢者にもこのメトフォルミンが処方されているのも最近時々見かけるようになった。これは乳酸アシドーシスのリスク故にかつて日本では製造中止になりその後外国でその有効性を見直されて逆輸入され再販されるようになった糖尿病薬である。今ではその効能が見直されて広く再使用されるようになってきている。
 かつて医療保険の審査委員をしていた時にあまりにも安易に使われすぎていると感じてこの問題を提起したことがあった時に、それは医師個々の判断に委ねるべきことだと言われて素直に引き下がったことがあったが、そのとおりでもある。
 この判断について、自分の思い込みが間違っているのかも知れないが、今でも自分はこの薬は75歳以上の高齢者には処方しない主義である。それによって患者に不利益を及ぼすこともないと思っているからでもある。
 原因の異なる乳酸アシドーシスはこれまでの医者人生で2-3例経験しているが、念頭に無ければ診断が困難で適時適切な治療をしなければ命にも係る病態である。従って医学的或いは医療倫理上には認められていても性分として自分は行わないという医療手段は他にもあるがその一つである。喘息に対するケナコルトA、末期癌に対する睡眠剤自体による持続導入、等その他にもいくつかはある。
 また、出血性腸炎とMRSAとの関係は相関関係があっても因果関係はなかったと今では受け取られているが、かつては出血性腸炎の原因としてのMRSAが当たり前のごとく多くの症例報告がなされ今では因果関係がほぼ否定されているものもある。エビデンスへの批判的吟味の必要性を示す例である。

 自分が愛用しているものは他人にも良いと思い薦めたくなる気持ちは誰にもあると思われるがこの多様性の社会で対立を生まないためにはその気持ちを戒めた方が良いものが沢山ある。
 たとえ家族や夫婦であってもその見極めは大事である。同じ事実に対してさえその心象風景は人間一人ひとり皆違う。理屈では分かっていても自分には出来ない・したくないということを、相手にも分かり易く表現するのに ’自分の性分だから’ と表現した人がいたが成程と思ったことがかつてあった。
 イデオロギーや宗教がその典型であるし、医療も特に高齢者医療では常にぶつかる問題であり無視しては成り立たない程に沢山ある。

新型コロナワクチンの三角筋注射に係る手技・免疫学的意義・副反応等について再考2021年07月18日

2021/7/14 アサブロ

新型コロナワクチンの三角筋注射に係る手技・免疫学的意義・副反応等について、あらためて考え方を纏めてみる。
 
 三角筋筋注については、その具体的手技とともにその免疫学的解釈の仕方や考え方について計らずも今回の新型コロナウイルスワクチンで医療者からの注目を浴び、気にもしなかった問題や予想もしなかった疑問点が出てきている。 勉強になる有難い意見もあれば反面教師のような真似してはいけないような或いはまともに受け取ってはいけないような意見もある。自分でも分かっていたつもりが意外に勘違いしていた面もあり( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/03/19/9358533 )、今から思うと反省すべきものもある。
 様々な意見がある中で取捨選択が必要であることを感じる。それなりの理由があるものもあるし、的外れなものもある。的をある程度得ていても道理に合わなかったり理屈からは首を傾げたくなるものもある。理屈には合っていても自分の主義からはそれに乗らない方が良いと思うものもある。エビデンスと主張されながら合点できない狭い範囲でのエビデンスであることもあり、そして大家やCDC等のいわゆる権威者が言っていることにも眉唾のことがあり、常に批判的理解が必要なのが今の世の中であると感ずる。
 医療は社会倫理性を必須とする職業であるが故に医師は特に自分が良いと思っても、社会が認めない或いはその社会の在り方にそぐわない考え方や施療はしてはいけない、ということは言うまでもない。そこが他の学問や職業とは異なっていると思っている。医療と医学は違うが当然無関係ではない。業務独占という医師のこの職業に付きまとう根本命題である。

 医療はあまねく均霑化することが好ましいとは思うが、やはり限界があるようで、現場ではその場で均霑化しても代が変われば土台も変わることが屡々あるし、ベストな方法が一つではないので、個々の対象で異なる具体的対応の違いは大局的に見れば吹っ飛んでしまう。徒弟制度が崩れてしまったことと同じである。
 従って、自分なりの考え方を纏めておく必要があると思い文字に記してみる。

 奈良県立医大の方式では、上腕三頭筋外側頭に筋注してしまうリスクがあるので問題であるとの指摘も最近目にした。そんなことがあるのかと思っていたがネットの画像を見る限りそれらしい画像を確かに見かける。三角筋筋注が三角筋以外の筋注になることなど問題外であると思っていたが、その心配は確かにあるらしい。上腕三頭筋外側頭にしてしまう危険があるとすればこれは無視できない。その下には橈骨神経が走っているからである。
 第1に橈骨神経障害は問題の大きな別格のリスクとなるので、単純に肩峰から下垂線何cmという表現だけでは不十分なのかもしれないがそんなことは指摘されるまで考えもしなかった。従って三角筋自体を触診してその中央部にしましょうとの意見には納得できる。
 第2に肩峰下滑液包炎のリスクの回避即ち肩峰下4cm以内を避けるのは念頭に置かなければならないがこれも誰もが納得する点と思う。
 第3については意見が分かれても仕方ないような気がする。後上腕回旋動脈及び随伴する腋窩神経はその三角筋中央部付近の深部を横走していて肩峰から下5cm又は3横指と言われてきたことである。この走行部位は人によって若干の変動がある。( 腋窩神経筋枝は三角筋と小円筋を支配する。腋窩神経皮枝は三角筋部の皮膚知覚を支配するが、肩峰の皮膚知覚は鎖骨上神経である。慶応大学解剖学Spalteholz http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/spalteholz/J950.html )。 
 これは腋窩神経分枝については障害リスクを完全には避けられないとも言える。運悪く神経に当たっても回復しやすいという意味では前2者程の心配は不要とも言える。血管も細い故に心配ないとも言われる。しかし軽症ながら稀な三角筋内血腫出た例が身近にもあったと聞いているのでリスクがゼロではない。今回のコロナワクチンのように遍く三角筋筋注を普及させるためには、万が一の免責に配慮してシビレ確認と陰圧確認は不要とするのは仕方ないとしても、やはり施術者がシビレの有無と逆流の有無を念頭に置くことは、その場合針先を2-3mmずらせばよいだけなので褒められることはあっても否定されるべきことではない。陰圧をかけると組織を挫滅するとの屁理屈が一部で言われるが、吸引ピストルを使って吸引細胞診をする場合等は強い陰圧なので、これは別次元の問題と混同している。従って第3の問題は三角筋の下には後上腕回旋動脈及び随伴する腋窩神経が走っている事と三角筋下滑液包がある事を念頭においておけば、三角筋内への注射であれば部位の差と言うより注射施行時の注意の問題であると思う。故に三角筋を確認することは当然である。

 その他の手技上の問題では、肥満やるい瘦は注射針が短すぎるや長すぎる等の注意点はよく言われるが、そもそも注射できる程の三角筋筋肉が認められない人もいるという声は未だに聞いたことがない。しかし介護施設にはそういう人も確かにいる。筋肉が殆ど無く実質的には皮下注になってしまう看做し筋注でも可とのオフィシャルな了解があれば、何の問題もなくそういう衰弱者にもワクチンの恩恵を届けられるが、筋注に限定されると施行し難い。日本のインフルエンザワクチンの場合は皮下注可とされているため、また副作用が少ないために、そういう人にも実際インフルエンザワクチン注射を行っている。しかし新型コロナワクチンのように、皮下注ではダメ、筋注でなければ免疫効果が出ない、筋注の方が副反応は弱い等の意見の下では看做し筋注は行い難い。実際自分の施設入所者の1/3弱は今回その理由からCOVID-19ワクチンは施行できなかった。
 今回の新型コロナワクチンは初めてのmRNAワクチン故に効果も副反応もその程度が実用初期には証拠不十分であったので、初期の頃は高齢者入所対象者のどの範囲まで行うべきか迷っていたが幸運にも極めて有効で副反応も心配は杞憂であることが分かってきたので出来るならば衰弱高齢者にも社会倫理的に許されれば行った方が良いかもしれないと思っていた。しかし明確に筋注に限定されてかつその差が針小棒大に専門機関?に規定されたために、これは医学的にもワクチン注射出来ない人を確定する必要があると考えて三角筋部位をエコーで判定した。高齢者全体が若者の筋肉とは大きく違い脂肪化が強かったが筋肉そのものが認められず医学的にも筋注不可の人も少なからずいるということが分かった(1割弱)。皮下脂肪そのものがないるい瘦者に加えて皮下脂肪は残っていても筋注と言える程の筋肉がそもそも認められないという人もいた。殆どが寝たきり状態であったが、副反応の問題からではなく社会医学的な問題で不可判定をさせてもらった(2割弱、計1/3が対象から外れた)。日本には西洋と違い食べられなくなっても脱水を防ぐための点滴注射や経管栄養で生命を維持している人もいるが、そのような高齢衰弱者にワクチン注射自体を行う適応をどうするかの社会的な問題も別の意味で存在すことは勿論である。
 新型コロナワクチン注射の効果、副反応等の意義については、従来の蛋白抗原ではなくmRNAという新ワクチンであるために未知の点が多々あるとしても、筋注と皮下注の免疫原性の違いを強調しすぎる医療関係者が圧倒的に多いのには驚き、本当にそうなのかと違和感を持ち、その道の専門家にも聞いてみたがその方はエビデンスがないだけでそう違わないと思っているとのことであったので、この違和感はそのまま今も持っている。それは自分が医師になりたての頃(50年前)既に注射ルートによる免疫原性の違いやアジュバントの違いによる問題は議論になっていて免疫原性は皮内注>皮下注≒筋注ということに落ち着いたと思っていたからである。副反応についても皮下注/筋注の違いによることを強調するが調べた限り、それ以外の因子の方が強くそもそも皮下注のエビデンスそのものが乏しい中での日本の医療者のCDC信仰は度が過ぎると今も感じている。

(関連テーマ)
〇 ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言 ― https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455 
〇 新型コロナー筋注・皮下注についてー追記. ― 2021年06月16日 アサブロ https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/16/9388503 
〇 (過去の、2021年03月19日への追加) 新型コロナワクチン筋注とSIRVA等合併症を避けるということの本質) ― 2021年06月18日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/18/9389164

またまた、アナフィラキシーに関して2021年07月09日

2021/7/9 アサブロ

 またまた、アナフィラキシーに関して。( 2021年02月24日 アナフィラキシーの診療の実際 http://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/02/24/9350430 に追加)。

 日本救急医学会が最近「アナフィラキシー対応簡易チャート」を作ったという。
【〇日本救急医学会、新型コロナウイルス感染症特別委員会 アナフィラキシー対応簡易チャート https://www.jaam.jp/info/2021/files/anaphylaxis_chart.pdf?v=20210622 】

 新型コロナワクチンを行き渡らせるために国を挙げて推進しているときに、その考え方を一般向けに均霑化しようとの姿勢には敬意を表するが、少し引っかかるものがあったので一言記すことにした。重症度の表である。
 確かに国は相変わらずブライトン分類を使って副反応を分類していて、それと共にマニュアルには過去のアレルギー学会の別の分類も国はそのまま引用している。国の場合は過去のデータとの整合性を保つためにはブライトン分類をそのまま使うのも止むを得ない措置とは思う。
【〇時事ドットコムニュース、2021年03月12日 アレルギー頻度「比較難しい」 報告17例、国際基準では7例―厚労省部会
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021031201092&g=soc 
〇東京新聞、2021年3月12日 コロナワクチン接種9割が痛み アナフィラキシー国際基準では7人 https://www.tokyo-np.co.jp/article/91215 
〇日本アレルギー学会、Anaphylaxis 対策特別委員会 2014年11月1日発行 
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/guideline_slide.pdf 
〇重篤副作用疾患別対応マニュアルアナフィラキシー平成 20年3 月厚生労働省
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0803003.pdf 】


 気になっていたことは、アナフィラキシーの定義もその重症度分類も最近まで議論の中にあり、特にその定義は2011年のWAO(世界アレルギー機構)の決定によってやっと決まったと思っていたら、今回の新型コロナ騒動で明らかになったのは、相変わらず専門家の言うことが尚バラバラで、世界の考え方も未だに統一されていないということで、そしてそれにそれぞれの国際的な学会がやっと気付いたことである。そしてその重症度分類についてはWAOの意見も多少の調整が必要であったようで、新しい?WAO声明文でもブライトン分類と整合性を持つように若干変化してきている。それでもブライトン分類が消化器症状はminor criteriaに入っている等今でもWAOとは若干の違いはある。
 そんな中で国際的な学会が意思統一をしてやっと決めた重症度分類が下記のように出来ていたのに、
【World Allergy Organization Journal(2020) 13:100472,  POSITION PAPERWorld Allergy Organization AnaphylaxisGuidance 2020
https://www.worldallergyorganizationjournal.org/action/showPdf?pii=S1939-4551%2820%2930375-6 】、である。

 今回の救急医学会の「アナフィラキシー対応簡易チャート」をみたら、これらを無視するかのように、古い重症度分類が載っていた。特に問題があるわけではないが、今回の新型コロナ騒動でアナフィラキシーへの過剰反応もある中で、アカデミアは新分類を提示する等学問的にはもう少し気を使っても良いのではないかというちょっとした疑問を感じた。

(2021/7/17反省: このWAO声明文の中のGrade1~5分類については国際的コンセンサスを得ているものではないようで例示のようだ。個人的にはこれで良いと思っているけれども。何よりも素人にも分かり易く日本政府もCDCも似たような古いブライトン分類を現に新型コロナの副反応の区分けで本来のアナフィラキシーとの違いの説明に使っている。)
( 2021/7/21更に反省: Brighton分類は2007年なのでWAO2011年の定義より古いと思っていたが現在も活動中であった。Brighton Collaboration is working diligently to fight the coronavirus disease (COVID-19) pandemic. https://brightoncollaboration.us/covid-19/
 。アナフィラキシーの分類は、大雑把には合意出来ていても分類の詳細は未だコンセンサスを得ていないようだ。 )

( 2021/7/26三たび反省:日本アレルギー学会はなぜ黙っているのかと思っていたらちゃんとそれなりに動いてはいた。
 〇「新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症 (アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」について2021年3月1日、令和3年6月14日 改訂 https://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?content_id=546 
https://www.jsaweb.jp/modules/about/index.php?content_id=81 
 〇JSA/WAO Joint Congress 2020, 2020/09/17 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsawao2020/subject/20013/detail?lang=ja 
アナフィラキシーUp-to-date アレルギー2021年70巻5号p.376-383 
https://doi.org/10.15036/arerugi.70.376
 〇コミナティ筋注®接種後のアナフィラキシーが疑われた1例に対しPolyethylene glycol 2000を用いたプリックテストの結果 アレルギー 2021年70巻5号p.392-393 
https://doi.org/10.15036/arerugi.70.392 ここにはブライトン分類とアレルギー学会分類とが一致しない例を挙げている。

※ 次代の国際疾病分類のICD-11では非アレルギー性のアナフィラキシーの項も入っている。なぜ世界の免疫・アレルギー関連学会のEAACI・AAA/ACAAI・ASCIA・NIAID・WHO ICD-11等とは合意しているのにBrighton分類作業部会とは合意しないのかわからない。 )


2021/8/9更に追加。
 〇日本アレルギー学会 学会見解 新型コロナワクチン接種について(学会声明)令和3年8月3日、など。 https://www.jsaweb.jp/modules/about/index.php?content_id=81 。本来の専門家の日本アレルギー学会でも発言してきているようだ。

 〇Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol. 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9449498/
 アドレナリン(ボスミン)注射の効果と注射経路については、この論文を根拠にしてアドレナリン吸収に5-10分かかるとか皮下注ではなく筋注でなければダメだとかと解釈している意見があるが、この論文は内因性と外因性アドレナリンの鑑別は行っていないので神経反射による内因性アドレナリン放出も含まれていると思われる。
 また、皮下注も筋注も吸収程度の差はあるが同じ最短測定時間の5分に最初のピークがあるので効果の発現時間に大きな差はなく、個体間の感受性の差も考えれば皮下注ではだめだとの根拠にもならない。勿論吸収効率の差はあるので効果発現強度や最大効果時間は異なるので薬剤追加のタイミングは違ってくるかもしれない。
 個体間の感受性や同一個体での病態による感受性変化がどの程度係わっているかの詳細は尚解っていないので、実地臨床では注射の効果を見ながら追加のタイミングを見定めているのが実態であるしこれこそが大切と思う。従って、アナフィラキシーでのボスミン注射は大腿外側広筋に拘ることなく三角筋でも皮下注でも露出している部分に行えば良いと思う。

アナーキック・エンパシー ということ。2021年07月03日

2021/7/2 アサブロ

 「アナーキック・エンパシー」(Empathy=他者の靴を履くこと=意見の異なる相手を理解する知的能力、To put yourself in someone’s shoes。anarchicは混沌・無秩序・無政府状態。)ということ。


 1~2週間前にT市のスーパーMに行ったとき、店先の移動販売車のフロントガラスに新型コロナワクチンは危険だから受けないようにとの宣伝チラシが貼ってあるのを偶々見つけて以来、そういう人たちのグループがいるのかと驚いていたが、つい最近になって本を出したり全国に講演して回っている医師がいるというのにまた驚いた(「医師が教える新型コロナワクチンの正体 本当は怖くない新型コロナウイルスと本当に怖い新型コロナワクチン」)。ネットで調べた限り失礼ながら理性的な思考とは思われず酷い内容なので医師の経歴を見たら未だ若い人だった。まるで新興宗教だ。言う方も言う方だが講師に招いてまで聞く方も聞く方であり、こんなことが実際起きているのかとショックを受けた。ワクチン注射を受ける受けないは本人の自由の意志で好きにすればよいが、他人にまで自分の考えを押し付けようとするのは頂けない。
(『医師が教える新型コロナワクチンの正体 本当は怖くない新型コロナウイルスと本当に怖い新型コロナワクチン』 単行本(ソフトカバー) – 2021/6/10 内海聡 (著)
https://www.amazon.co.jp/%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%8B%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%AD%A3%E4%BD%93-%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AF%E6%80%96%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%84%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%A8%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AB%E6%80%96%E3%81%84%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3-%E5%86%85%E6%B5%B7%E8%81%A1/dp/4909249389 )。

 かつて、『患者よ、がんと闘うな』近藤誠著など著書多数で、「がん放置療法論」や「がんもどき論」を展開してマスコミの注目を浴びていた人がいた。大部分の医師からは困惑の目で見られていたが一般大衆やマスコミには受けが良く引っ張りだこであった。文化的業績があったとして菊池寛賞まで貰っていた。( 近藤誠
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E8%97%A4%E8%AA%A0 )

 そもそも「がん」と一括りにして話を展開する所に無理があり、そこに様々な考えが入り込むすきがあったのであるが、素人からは分かり易かったのかもしれない。
 がんは臓器によっても違うが同じ臓器のがんでもタイプによって或いは同じタイプでも人によって個々で天と地ほどに違うのが当たり前なのである。たとえば肺癌でも5年経っても殆ど変わらない癌もあれば、3か月前の検診ではなかったのが3か月後には末期(4期)ということもある。まず治らないという癌でも極めて稀に完治してしまう癌もある。例えば肺小細胞癌は極めて進行が速いが一時的には化学療法放射線療法が進行癌でも良く効く癌でもある。30-40年前はそれでも進行癌の3年生存率は治療しても1割も生きられなかった(無治療なら1年生存はゼロ)。それでもその頃完治した例を自分でも経験したことがある。それに自分勝手な理由を添えるかどうかで素人目からは名医と呼ばれるようにもなる。この進行の速い肺小細胞癌でもつい最近の全国癌10年生存率の国立がんセンター発表で1割に達した改善を示していたのを見て感心した。自分でも別のタイプの担癌生体であるがもう6年過ぎていて安定中である。もう5-6年はだいじょうぶではないかと勝手に思っている。
 極めて進行の速い若者の癌がある一方、前立腺癌や乳癌の一部のタイプのように生命予後に影響しないという癌もあるし、高齢者の癌では全く症状がない進行癌で仲良く生体と癌が同居している長寿癌もあるのは有名な話である。( 天寿癌 北川知行 公益財団法人がん研究会がん研究所名誉所長 
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koureisha-gann/gann-tenjugann.html  )。
 なので、がんと言わずにがんもどきと言ってもあながち否定しにくいし、放置しても進行が極めて緩徐であれば放置しても異論は挟みにくい。そしてかつては治療によってかえって寿命を縮めた方も確かにいたと思う。当時は抗がん剤では単剤で15-20%の人に効けば有効な薬剤とされ如何に組み合わせて効果を上げるかに視点を置いていた時代でもあったからである。癌と言えば死と直接思い込んでいた時期もあった。自分が医師1年目の時(50年前)ある中年の進行胃癌の男性が症状が消えたから退院すると駄々をこねていたのをある権威あるDrが見兼ねて君は胃癌なので僕が直してあげるからまだ入院していた方が良いと説得して退院を留まらせたことがあった。しかしその患者は胃癌と告知されてから食事も食べられなくなり1か月も経たないうちにカヘキシーとなり亡くなってしまった。これは強烈な印象として今でも忘れられない。勿論今では告知は当たり前として社会に受け入れられていて自分でも当たり前としているのは言うまでもないが、心の持ちようがここまで影響するのかということは忘れてはならない事であるとも思っている。

 地球上のすべての人々が、一人ひとり皆違う考えと違う世界を持っていると言ったのは哲学者L.ヴィトゲンシュタイン(1889-1951)である。確かにそうだと今そう思っているが客観的に考えて間違った自分の考えを他人に押し付けるというのは酷いではないかとも思う。

 政治の世界では米中が険悪な状況になっており世界第2位の経済力をつけた中国も習近平総書記がきのう7月1日の党創設100年祝賀式典で中台統一を宣言して強気をあからさまにして来た。1989年東西冷戦が終わって世界が平和になるどころか一歩間違えれば新たな戦争が起きかねない状況になってしまった。小さなことでは学校のいじめが無くならず、大きなことでは宗教対立やイデオロギー対立が相変わらず無くならない。
 何でこうなってしまうのだろうか。イデオロギーや宗教は善悪を超えた前提となるものなので、互いに許容し合わない限り排他的になり戦争になるのは誰でも分かっているし、この点では世界は歴史に学んできていると思う。
 しかし今回の新型コロナワクチンも反対派が徒党を組んで相手に影響を及ぼうとするのを見ると、人は、あらゆるものを互いに許容し合わない限りは、どこまでいっても対立は解消しないように思える。LGBTQ+もそうだ。行政さえもあちらを立てればこちらが立たず、ということばかりなので必ずしも正義が常に行われているわけではない。日常職場においても常に意見の食い違いはあるので、かつて現役の頃7-3ルールと称して自己主張は3割通れば十分と思っていただきたいと部下の職員に言っていたことがあった。
 最近の新型コロナ感染症の都道府県ごとの対応を見ていても、結論を先延ばしする知事もいれば先手先手で攻める知事もいる。そして結果においてはどちらが良いかの比較善悪の判断は難しい。どちらの判断にしてもそれなりの結果が出て、その後は新たなステージで再出発するということになるので善悪を言っていても始まらない。「歴史にもしは無い」というのは正にその通りである。
 トップの決断はその集団のその先の行く末を決めるので確かに大事な場面はある。周り中が反対していても逆の決断が必要なことも確かにある。二者択一であればふつうは民主主義であれば51%の意見が選択されて49%の意見は切り捨てられてそれを互いに受け入れている。また受け入れなければ民主主義社会が成り立たない。今回のオリンピック開催か中止かの判断も善悪を超えた決断と言って良いのかもしれない。かつての第二次世界大戦も直接のきっかけは東條首相の一つの決断でそうなった。自分で調べた限りでは言い換えれば東条英機が決断できなかった故であった。(『NHK BSプレミアム 昭和の選択「太平洋戦争 東条英機 開戦への煩悶」』からは東條首相が決断出来ずに先送りしたことが即ち開戦に必然的に繋がったと言える。https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/12/15/9327246 )。
 自分でもかつて、小さな小さな病院の院長をさせてもらったが、決断しなければ何もできないという経験をした。ある時、病院敷地内全面禁煙を幹部会議で提案したが総反対、出来ない理由を数えきれないほど並べられた。でも世の中はその方向で動いていると確信していたので、1年後の4月1日にそうすることを宣言した。ついては各自その方向での計画を進めるように伝えた。期限の1―2か月前になりそろそろ期限が見えてきたけれど進捗状況はどうかと幹部会議で話を出したところ誰も全く手を付けていない上に、もし火事等事故が起きたらどうするのかなどネガティブな意見百出であった。責任は誰が持つのかとまで言い出されたので、責任は院長である私が持つのは当然であるにしても、但し皆さん幹部には責任がないと思っていたら大間違い、私が、皆さんはこの一年何をしてきたのだ、として逆に訴えることを忘れないようにと釘を刺した。その後も多少の波乱はあったが皆しぶしぶ同意した。そもそも2―3年毎に心ある職員は転勤していくし、期待を持った新入職員は新人研修と称してマインドコントロールされてしまい1年も経つとダメになってしまう。しっかりしているのは引き抜かれて去って行ってしまう。初めは2割が味方ならどうにかなると4-4-2の法則などと自称していたがやがて7-2-1の法則になってしまった(1=協力者、2=足を引っ張る人、7=状況次第でどちらにも転ぶ人)。でもその1割に涙が出るほど助けられ嬉しかったこともあったのを覚えている。


 そんなことに悶々としている時に数日前知ったのがこの「アナーキックエンパシー」という言葉である。イギリスでは中学生のシチズンシップ教育プログラムの中でアナーキックエンパシーについて教えるという。Empathy=他者の靴を履くこと=意見の異なる相手を理解する知的能力を意味し、anarchicは混沌・無秩序・無政府状態の意で、このEmpathyは共感する能力の意を含むという。努力しなければ得られない能力との意味のようだ。Sympathyは内から湧き出る自然の感情feelingであり、同じ共感と訳されるがEmpathyは身に着けるべき能力abilityを示すという違いがあるという。
 正確にはまだその意図はよく分からないが、この世において意見が違っていても、嫌いな人とでも、嫌悪感を抱くことなく互いに生きられる術を意味している、のではないかという第一印象を与えてくれる期待を抱かせる言葉である。
 呉越同舟でも互いに軋轢を起こさないで生きていける方法は、今のそしてこれからの世の中のすべての人が身に着けるべき相互に生き抜くための基本能力・基本姿勢ではないかと思う。早速書店でこの本を買ってきた。まだ読んでいないが、そんな期待を抱かせる本なので、これからちょびちょびと少しずつ読んでみようと思う。
「アナーキック・エンパシーのすすめ ー 他者の靴を履く」
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00432/00008/ 。


「ヴィトゲンシュタインの見た世界」
<div class="msg-pict"><a href="https://ku-wab.asablo.jp/blog/imgview/2021/08/04/5fc5e7.jpg.html"
target="_blank"
onClick="return asablo.expandimage(this,322,381,'https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/08/04/5fc5e7.jpg')"><img src="https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/08/04/5fc5e6.jpg" alt="ヴィトゲンシュタインの見た世界" title="ヴィトゲンシュタインの見た世界" width="300" height="354"></a></div>

(過去の、2021年03月19日への追加) 新型コロナワクチン筋注とSIRVA等合併症を避けるということの本質)2021年06月18日

(過去の、2021年03月19日 への追加) 新型コロナワクチンの三角筋筋注とSIRVA・血管/神経障害などの合併症リスク軽減のために施行者が念頭に置くべき事とは。

 日本においてSIRVAが問題になったことは聞いたことがないが、海外で今回のCOVID-19ワクチン注射をきっかけに改めて問題提起がされていることから、改めて整理してみる。  自分でもかつてアレルギー外来処置係として体質改善注射などの三角筋筋注は数えきれないほど行ってきたが幸いSIRVA等の経験をしたことがない。

【過去の、2021年03月19日 三角筋への筋注の実際と今までの教科書の間違いについて(SIRVAなど) ― ( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/03/19/9358533 ) に追加しておく。】

 筋骨隆々の人は別として、高度肥満で皮下脂肪が厚くて普通の注射針の長さでは筋肉まで届かないという問題がある人もいれば、痩せてすぐ骨まで達してしまう人や、注射したくても可能な程の筋肉がそもそもない人もいる。そして同じ筋注でも若者の筋肉と衰弱高齢者の筋肉とは脂肪化等のために天地の差があるという問題もある。更に、そんな衰弱高齢者の筋委縮著明な中でも三角筋は殿筋や大腿外側広筋よりも予想外に相対的に保持されていることが多い印象があり、その点ではワクチン筋注が三角筋を主体とした手法としたことには成程とも思う。
 筋注については基本的には、奈良県立医科大学臨床研修センター 研修医用 筋肉注射手技マニュアルv1.7 ( https://www.nmu-resident.jp/info/files/intramuscular17.pdf )、 に従っていて良いと思っているが、腱停止付着部に近いので10cmでは下方過ぎるとの意見もある。そしてその停止部が側面垂線よりやや前よりなので垂直に下げると三頭筋外側頭に近づき橈骨神経障害リスクも心配になるのでやや前寄りの肩峰下5cmが良いとの意見もある。
【東京保険医協会 医科歯科連携研究会2021 医師・歯科医師・看護師必見 ~紛争回避~三角筋の詳細解剖解説による正しい筋肉注射と迷走神経反射対策( https://www.hokeni.org/docs/2021060100019/ )、( https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/2999752656919858  )】
三角筋筋注部位の一つの提案


 自分達の施設では三角筋筋注部位は基本的には肩峰下4.5cm(≒3横指弱)か又は前後腋窩線結線上(約10cm)を原則とすると決めて既に職場の約160人は無事2回目まで終了した。勿論下過ぎることも念頭にあったが実際はるい瘦高齢入所者も若者スタッフも腱移行部を心配した人はいなかったと思う。
 世の中の様々な意見を画像で示してみる。

① youtube動画より。
https://nabilebraheim.mystrikingly.com/blog/anatomy-of-the-deltoid-muscle-for-proper-vaccination-technique  Anatomy of the Deltoid Muscle for Proper Vaccination Technique By Nabil A Ebraheim MD & Richy Charls MD 。
you tube (By Nabil A Ebraheim MD


② 米国CDCの画像。
https://www2.cdc.gov/vaccines/ed/covid19/moderna/40140.asp CDC COVID-19 Vaccine Training Modules Home 
CDCの画像


③ 肩関節周囲の滑液包についてー1、
http://www.kaken.co.jp/mamechishiki/kata/data/c_1.html 提供:科研製薬株式会社(肩の構造)
肩関節滑液包群


④ 肩関節周囲の滑液包についてー2
https://buhitter.com/author/chan_oka_ (チャンオカ@理学療法士(機能解剖×fascia×末梢神経×pain)さんのイラスト一覧) 【三角筋下滑液包(SDB)】SABとSDBは分離・連結ともに報告あり、下記シェーマの報告では89%で分離、SAB注射が効かない場合、SDBも考慮する必要があるかもしれない‼︎ 神経支配は腋窩Nのみ83%、腕神経叢の後神経束のみ11%、残りは両者 ⁑画像は[Chang Min Seo et al., 2018]より
肩関節滑液包群


 ここで、問題があるとすれば、肩峰下滑液包と三角筋下滑液包は融合している場合が1割程度あるということかもしれない。一般に三角筋筋注の場合、痩せている場合は注射針が骨に当たってしまうことは少なからずあり、その場合でも2-3mm引いて注射すれば問題ないことになっている。実際今まで合併症等の問題は臨床現場で発生していない。
 肩峰下10cmでは筋腱に近く、肩峰下5cmでは滑液包に近く、ましてや滑液包が癒合している場合は僅かかもしれないがリスクは高まる。

 以上から出てくる結論は、筋肉ならどこに行っても良いが、滑液包・血管・神経等に当たったならば、それを避ける引き続き動作を臨床現場の流れの中で続けて行うことが肝心である、ということである。
 従って、関連シビレ確認・軽い陰圧確認は不要とするのは許容されるとしても、行ってはいけないと極端に走るのはやめるべきであると思う。


追加画像:
日本人のエコーチェックでの論文から
http://hdl.handle.net/2297/24249 筋肉内注射で重要な生体の腋窩神経走行推定のために、後上腕回旋動脈を超音波血流検知器およびデジタル超音波診断装置で測定することの有効性の研究 金沢大学大学コ・メディカル形態機能学研究会, 2010-01-01。
 これは日本人で測定したエコーでの実際データで、腋窩神経と伴行する後上腕回旋動の位置を示している(点線)。肩峰からの測定距離はこの論文では示していないが既に既報論文の死体データがあり2割の人が5cm未満を示していたとしている(4.3~8.7cmの変動あり)。そもそも肩峰は厚さがあり下端か上縁かでも1cm位は直ぐ変わってしまうので、3横指でも5cmでもばらつきを考えるとどちらも大差はない。要するに完璧に避ける部位はないと言って良いし、当たってもその場合は深さをずらせば何ら心配はないとも言える。

(追加 R3.6.24.)
※因みに、自分のA-a’-b'-c'-B線は肩峰上端から10cmである。言い換えれば肩峰下端から約9cmということになる。三角筋停止部はもっと下であるが筋腱に近いことはその通りである。三角筋中央部はその上であり肩峰上端から5-7cm(肩峰下端から4-6cm?)付近になる。上肢を伸ばして下垂していても回内気味か回外気味かで三角筋停止部は微妙に違ってくるが手掌を大腿にピタリと付けた状態では肩峰中央垂線よりわずか前に来る。肘を直角に曲げて前胸部に付ければ更に回内傾向となる。従って三角筋中央やや前寄りが良いとの意見はその通りと思う。


(更に追加、ネットにあったもの、三角筋と上腕三頭筋外側頭の境界)。
 パクチー大原のブログ 2020.11.25 筋トレ 【早大生ボディビルダーが解説】 上腕三頭筋の解剖学・起始停止
 https://pakuchi-ohara.com/tricepsanatomy/

新型コロナー筋注・皮下注についてー追記.2021年06月16日

R2.11.10.皮下注か筋注かで気になったのでちょっと一言、 へ追記。

新型コロナ(COVID-19)ワクチンが筋注に限定されていることについて、

 一般にワクチンが筋注されていることについては、CDCやWHOが筋注を推奨?しているので、インフルエンザ等のワクチンも日本は筋注にすべきだという専門家特に感染症専門家の声がインターネット上の世界では喧しい。

 日本はワクチンは「皮下注」又は「筋注ないし皮下注」とされていることがこれまでは多かったように思う。
 特にインフルエンザワクチンは皮下注である事・副反応が少ない事等から、寝たきりの高齢者でも希望があれば毎年行っていた。これまで何の問題もなかった。

 日本が特に小児の筋注を避ける理由は、その原因に歴史的問題(大腿四頭筋拘縮症)を理由として挙げる人が多い。しかし現実にはCDCやWHOの言うことをそのまま受け売りしているペーパードライバーのような人の声の方が目立つためのようにも見える。皮下注より筋注の方が副反応が少ないとか、免疫効果が高いとか、尤もらしい理由を並べて主張している。しかし自分で調べた限りでは副反応は大同小異であるし、免疫効果は遥か50年前にも同じような論点があったことがありその時は皮内注>皮下注≒筋注と決着したと思っていた。昔と今に違いがあるとすれば免疫源にmRNAやベクターにウイルスを使う新手法が出てきたことである。免疫効果の違いに関しては記憶があやふやなので念のため免疫の専門家に個人的に聞いた所エビデンスがないだけでほぼ同じだと思うと言っていた。副反応の差に関しては様々なFactorがあるので一概には言えないがやはりどちらも調べた限りドングリの背比べである。副反応については皮下注・筋注の違いよりも大きなFactorが沢山ある。アジュバント等の有無・成分・pH・注射の浅深・体質等挙げればきりがない。
 過去を引きずり皮下注に固執するのは世界の流れに遅れているというネットの主張は、超高齢社会を迎えた日本にはもう当てはまらないようである。高齢者ワクチンの運用についてはむしろこれから世界をリードすべきであると思う。
 日本の行政もこれらの専門家の意見を入れてかどうか分からないが、最近のワクチンの場合は実際、子宮頸がんワクチンや肺炎球菌プレベナーワクチンでは成人は筋注に限定された。この点は行政も多くのいわゆるペーパー専門家の意見に阿るようになったのではないかと疑心暗鬼にもなり却って心配になる。

  小児へのインフルエンザワクチン注射はネットの話題では筋注にすべきとの意見が強いようであるが小児科学会の正式見解は筋注も許可してほしいとの国への提言があるのみで、皮下注から筋注へ変更しろとは言っていない。小児の場合は筋注でも皮下注でも効果はどちらも大同小異と思われるのでどちらでも良いと捉えているが、衰弱高齢者の場合は状況が異なってくる。もし、インフルエンザワクチンが筋注のみに限定されればワクチンの恩恵を受けられない方々が少なからず出てくる。
 そこでここでは、特に高齢者施設入所者等の衰弱高齢者を対象とした場合の実態をあげてみる。
 筋肉のエコー所見で見る限り高齢者の筋肉はそもそも若者とは違い脂肪化傾向が強い。フレイル状態(reversible)はまだ良いほうで、高齢者施設に入所しているフレイルを超えて衰弱をしてきて寝たきり状態になると、気持ちはしっかりしていてもサルコペニーは著明で筋肉委縮も甚だしい。自分の施設の一点で調べた結果を見る限り入所実働90人位のうち3割近くの入所者は殆ど筋肉をエコーで同定できなかった。寝たきりで極端な方は経管栄養600kcal/日の下でも肥ってくる方がいる。これらの実態を、感染症専門家の方々はどの程度ご存じなのであろうか。筋注と言えば三角筋・大腿外側広筋・殿筋が主であり、三角筋が無理なら大腿部や臀部があるではないかというDrの意見も実際あった。しかし高齢者施設の現場で調べてみると三角筋がダメなら殿筋や大腿はもっと無理の場合が多い。衰弱していても三角筋は意外にも最後まで残っている頻度が高いように見える。

 教科書的な基礎代謝量といえば1200kcal/日が教科書的な数値である。でもこれを遥かに下回るエネルギー代謝量でもほぼ安定して生命を維持している方々が現実に日本の高齢者施設の入所者の中には少なからずいた。実際に測定したのは安静時代謝量(基礎代謝の1.1~1.2倍,resting energy expenditure,REE,)であるが、恐らくこれが未だ周知され得ない日本の超高齢社会の実態と思われる。このことはワクチンの皮下注か筋注かの議論にも係る問題であり、国の運営理念に係る問題でもある。欧米においては食べられなくなれば人生の終わりと捉えられているようであるが、実は脱水さえ防げば予想以上の長生きをする方々は少なくない。良い悪いは別として、日本には少なくともそのような高齢者を見放そうとする国の運営理念が議論の俎上に上がることはまずないはずである。かつての医療費亡国論も根底から否定されたはずで、今では経済成長のエンジンの一部とさえ捉えられていると思う。超高齢社会の世界のトップランナーであるが故の新しい問題なのであろう。この点ではCDCやWHOを引っ張って行こうとする位の気概の方が必要なのではないだろうか。
 今後はワクチンは筋注一辺倒ではなく皮下注のエビデンスも日本は構築すべきである。

( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455 )

息切れスコア mMRC は未だに混乱しているようなので下記を使うことにする。2021年05月26日

mMRC-JRS2018
息切れスコア mMRC は未だに混乱しているようなので自分は下記の表現法を使うことにする。

―記載法は ”mMRC-JRS2018=スコア/0-4” とすることにする。―

(学会ガイドラインが出ても、コンセンサスを得たとは限らないのが現実であるのは分かっているが困ったものだ。世界アレルギー機構WAOのアナフィラキシー診断基準が未だにコンセンサスを得たとは限らないことを知ってなおさらである。)
(メモ: 使い慣れたHugh-Jones分類からmRMCに統一しようとの学会意向が出来たのが10年前頃であろうか、自分も合わせた方が良いだろうと考えて慣れないmMRC分類を使うようになったが、そのmMRC表記法も気が付いたら未だにバラバラ、学会も烏合の衆の側面があることに気付いたので、自分の表記法を決めておいた方が良いと考え直し上記記載法に決めた。)

(1) COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]
https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=112 
(2) MRC 息切れスケールをめぐる混乱―いったいどの MRC 息切れスケールを使えばよいのか?―宮本 顕二日呼吸会誌 46(8),2008.
https://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/046080593j.pdf
(3) Celli BR W, MacNee W, and committee members.Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD : a summary of the ATS/ERS position paper. Eur Respir J 2004 ; 23 : 932―946. DOI: 10.1183/09031936.04.00014304
http://www.taiss.com/gepoc/gecarp/gepubli/publdoc/006-003-cellibr-standards-diagnosis-treatment-patients-copd.pdf


(メモ)
〇 アナフィラキシーの診療の実際 ― 2021年02月24日
https://ku-wab.asablo.jp/blog/cat/iryoumemo/
〇 ② 呼吸・循環・アレルギー ― 2014年02月28日 [ ] mMRC スコア(COPDガイドライン第4版2013) 新分類(grade 0~4) (旧分類は0~5で混乱していた)
https://ku-wab.asablo.jp/blog/cat/iryoumemo/?offset=20
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/003030337j.pdf 
http://www.spinet.jp/guideline/diagnosis.html

medical-tribune、山田悟氏の 「ケトン体は味方だった」を読んで。2021年04月15日

ネット上のmedical-tribune、山田悟氏の
「ケトン体は味方だった!(危険な物質ではなく臓器保護物質 )2021年04月13日」
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2021/0413536008/index.html?_login=1#_login を読んでの感想:

 この方は世界の関係する論文を俯瞰していて纏めてくれるので大変参考になる。説明の仕方も科学的で主観・客観の区別がしっかりしていて、分かり易い。上記の記事について、成程と思ったので若干考えてみた。

 確かに食事としての中鎖脂肪酸の効能も分かってきているし、かつては脳はブドウ糖しか利用できないと言われていたものがケトンも利用されている事が分かってきてその効能も疲れにくいなどブドウ糖より大きいことも言われてきている。
 そして糖質制限食は今では有効であることがコンセンサスを得ていて、当たり前に受け入れられてきている。極端な糖質制限食についてはなお問題点もある事が指摘されているが、この論文中の著者の「思い」は分かり易い。

 50年以上前の学生時代に沖ヨガ道場で修行したことがあるがそこではヨガでてんかん発作が出なくなったという若者もいた。
 今、ケトン産生食が軽度認知障害(MCI)やパーキンソン病やアルツハイマー病にも効果が期待されているというのには驚いた。盲信はしたくないが、でもそうかもしれないとも思う。
 沖ヨガ道場では、当時は玄米食1日2食或いは断食の仕方の実践もあって、マクロビオテックと言っていた。
 当時は実践で分かったことでも理論が追い付かず、道場でもとにかく屁理屈を言うよりもやって見ろというのが沖正弘氏の指導であった。
 氷の張った川に30秒~1分程身を沈めて出てくると、凍るような真冬の屋外でもぽかぽかと全身が温かくなるあの感覚はやって見なければ決して理解できない。今思えば若さゆえの自律神経の効能であるが、74歳の今ではとてもやる気にはなれない。

 どう生きるべきかと悩み多かった高校時代にヨガ・催眠術・少林寺拳法についての本を町の本屋で帰りに立ち読みをしていて店員に胡散臭そうにハタキを周りでバタバタされたことを思い出す。この3つは高校から大学まで心に残っていた。催眠術は高校時代から東京まで何回か通った。少林寺拳法も四国の多度津まで宗道臣に会いに行ったが合わせてもらえず、2-3週間その本部道場に入門させてもらったこともある。ヨガは昭和43-4年頃に静岡三島の沖ヨガ道場にやはり2-3週間入門させてもらったこともある。インドに行きたいと言ったら行っても意味はないので俺の弟子になれと沖正弘氏に言われたこともある。それでもその後インドにも行った。丁度印パ戦争の頃だった。アグラのインド救ライセンターにも宮崎博士に会えるかと思って行ったが会えなかった。最も行きたかった沖氏も修行したというスリナガルのヨガ道場には行けなかった。現地の人たちは日本からの学生だと聞くと得てして親切ではあったが、今では良く生きてこられたとも思っている。


2021/4/21 下記追加

 令和3年4/21(水) 午後8:15-午後8:41 放送のNHKテレビ、サンドのお風呂いただきます「EXILEメンディー泣き虫からスターへ 母の愛情」、を見ていて思った。
 氷風呂の場面。脚しか氷風呂に浸かっていないので、”それ、我慢して肩まで浸かれー、そうすれば思いもよらない効能を実感できるー、がんばれー”っと。1分位我慢して肩まで浸かっていれば本人にしか味わえない別世界を体験できたのにー、と残念だった。しかしクールダウンという意味ではこれで良いのかもしれない。3000kcalを一気に消費するというのだから、そうかもしれない。そういえば、オリンピックで入賞する選手は1日8000kcalを消費しないと、換言すればそれだけ摂取できない選手は入賞できない、と聞いたことがある。栄養学的にみるとそうなのだという。過酷なデータであり、一般には想像できない。逆に被介護高齢者で寝たきり状態になると、1日600kcalでも太ってくる方もいる(厳密には脂肪が増える)。これも両極端の別世界であり、経験してみなければ想像だに出来ないそれぞれの世界である。ここに同じ知識でも単なる知識と経験に裏打ちされた知識の違いがある。
 それにしてもEXILEなんて興味も全くなかったのがこのような番組を見るとこんなに苦労してきたのにこんなに明るくいられるなんて、と途端に尊敬に変わってしまう。
自分の若い頃はこれほど人間できていなかった。

三角筋への筋注の実際と今までの教科書の間違いについて(SIRVAなど)2021年03月19日

三角筋への筋注の実際と今までの教科書の間違いについて、
 ――新型コロナワクチン注射で浮かび上がってきた、SIRVA(shoulder injury related to vaccine administration)、関節包内注・神経血管注リスク――

 誰が言い出したか、三角筋の筋注施行部位は肩峰から3横指下(約5cm)と当たり前のように我が国で言われてきて教科書にも書いてあることが、実は間違っていたという。そこは神経血管に注意しろ、という逆のことだったという。伝言ゲームの逆転トリックのように勘違いで数十年にわたって伝わってきて、教科書にも載っていてその間違いを誰も指摘してこなかったということに驚いた。
 そして今、シリンジの陰圧確認はしなくてよいというのが陰圧確認しない方が良いと逆転していることにも驚いている。大事なことなのでここにメモしておく。

 遥か50年前の研修医時代にアレルギー外来での注射係などで、三角筋への筋注も他部位への筋注も数え切れない程沢山自分も施行してきた。教えられてきたのは「しびれの確認」と「シリンジ陰圧確認」であった。それを守っていたせいか単なる偶然か、幸いSIRVAや局所壊死等は一度も経験しなかった。米国ではSIRVAは新型コロナワクチン注射で改めて問題となってきているようだ。
 米国ではインスリン注射はジーパンの上から打って良いと言うくらい雑な医行為を許容している国である。別に他国を責めるわけではなく医療の在り方も文化に合わせて国ごとに違ってよいと思っている。世界のオピニオンリーダーであるCDCやWHOの言うことにも何か変なところがあると感じているこの頃、日本では相変わらずそのまま自国に取り入れて当然と受け入れてしかもそうではなければだめだと歪曲されかねない雰囲気が出てくるのは単なる真似であり、いかに現場を知らないペーパードライバーならぬペーパー専門家が日本では幅を利かせているということを物語っている。最近の一時期のマスク不要論にも通じるものがある。
 日本も新型コロナで脚光を浴びつつある下記の筋肉注射手技マニュアルはリーズナブルなマニュアルであると思う。(文末※へコメント)

 〇奈良県立医科大学臨床研修センター 研修医用 筋肉注射手技マニュアルv1.6
https://www.naramed-u.ac.jp/~resident/medical07_manual.htm
 この方たちのように現場の実態を一番承知しているであろう整形外科医Drも敢えて大声で言わなかったためか、医療界一般にはこれまで届いていなかった。でも説明を受けてみれば納得である。SIRVは以前より認識されていたようであるが今回の世界を巻き込むワクチン大人数注射で改めて注目されてきているようだ。
 〇Avoid shoulder injuries during COVID-19 and other intramuscular vaccinations
https://consumermedsafety.org/medication-safety-articles/item/887-avoid-shoulder-injuries-during-covid-19-and-other-intramuscular-vaccinations

 シリンジに陰圧をかけることを否定するために、組織の挫滅を惹き起こすのでやめた方が良いとの屁理屈も飛び出しているのには笑ってしまうが(米国のハンドブックに書いてあるという)、確かに理屈はつけようと思えばいくらでも着つくのはこの世の常である。実際、筋注の方が免疫効果がよく副反応も弱いのでワクチンは筋注がお勧めとはワクチン筋注推進派が良く言う理屈である。実際は筋注も皮下注も免疫効果は団栗の背比べと思う。心配なので某免疫の専門家に聞いた所エビデンスがないだけで同じと思っているとのことであった。

 悪意はないであろうが下記ものせられてしまった例であろう。どう見てもシリンジ陰圧はしない方が良いと読める。
 〇日本医師会新型コロナワクチン速報【第5号】発行:発行日:2021年2月26日
https://www.med.or.jp/dl-med/kansen/novel_corona/sokuho/20210226vaccine05.pdf

 前述の如く糖尿病治療でインスリン注射をジーパンの上から打って良いと言うくらい雑な医行為を許容している米国にはそれなりの理由はあると思うが元々きめ細やかな配慮のできる日本がそのまま真似をする必要はない。各個人が自由すぎる米国には社会の統制や必要な治療を推進するためには面倒なことを言わず多少の不潔よりも各人の多くが実施できて治療効果を上げることの方が優先事項なのであろう。
 米国流をそのまま受け入れるだけならまだしも、シリンジ陰圧確認を「しなくてもよい」という責任免責の趣旨が「してはいけないと」変わってしまう日本の風潮はやはり問題である。

 例えばインフルエンザワクチンは筋注でなければだめだと言って殊更筋注と皮下注の違いを誇大に強調して、その理由を様々に医師たち専門家が言っているのがネットやテレビで目に付く。確かに効果や副作用には細かい違いはある※(1)。筋注の方が免疫原性が高いとか筋注の方が副反応が少ないとか、陰圧をかけると筋挫滅を惹き起こすようだとか、根拠のはっきりしない或いは団栗の背比べのような差を針小棒大に誇大化した理由をつけている。
 お陰で我が施設でもスタッフがインフルエンザワクチンも筋注にすべきなのでしょうかと不安になって相談に来る者もいる。
 日本においてはその違いよりも、筋注の場合はそもそも筋注できる筋肉がない高齢衰弱者もいる。もし副作用が少なく効果が大きい場合は、そのような高齢者もワクチンの恩恵を受けても良いはずである。この高齢衰弱者で筋注できる筋肉がない者もいるという発想が日本の医療者の誰からも全く出てこないというのは信じがたいがしかし今の現実である。

 欧米においては人生の最終段階では食べられなくなれば経管栄養や点滴注射で延命することは普通はしない。日本では安楽死は認められておらず自然死や平穏死が理想とされている。そして日本においては経管栄養や脱水を防ぐための点滴位はして欲しいと希望する家族は現在でも多い。当施設では「人生会議」の基本として入所者は全員ご家族を含めて「事前指示書」の説明文とその記入および地域医師会が作成した「私の人生ノート」の記入を改めてご家族を含めて考えておいて欲しい旨のお願いをしている。
 それでも点滴は当たり前のごとく殆ど希望する。全く食べられなくても脱水を防ぐ点滴さえしていれば数か月の延命可能性がある一方飲水出来ず点滴もしなければその余命は月単位ではなく、日/週単位である。点滴位はして欲しいというこの家族の心情は、日本特有の文化のせいかもしれない。その結果は最期は痩せて枯れるように逝かれる方も多いということになる。食べられなくても脱水を防げば痩せて数か月も延命され得ることは屡々当然のごとく起きる。欧米では皮下脂肪が厚くてワクチン注射針が筋肉まで届かないという心配はするが、筋注出来る筋肉自体がないようなるい瘦高齢者もいるということを心配することを聞いたことがない。ワクチン筋注できる筋肉がない人もいるということ自体の概念が欧米には無いように感じられる。例えば日本のインフルエンザワクチンのように、副反応の少ない場合は筋注できる筋肉がなくとも皮下注はできるのでそのような衰弱高齢者でもワクチンの恩恵に浴することが出来るし実際今も出来ている。これは日本が世界の超高齢者社会のトップランナーである故の問題かもしれない。

 とにかく今回の新型コロナワクチンは新たな機序のワクチンのために不安も大きかったが、大方の不安をよそに想定をはるかに超える効果が期待できることが分かった。副反応も心配したほどではないことも分かった。ただ残念なのは筋注のみで皮下注のデータが無いことである。副反応がなく効果が見込めるのであれば、上記のような衰弱高齢者もワクチンの恩恵を受けても良いと思うが筋注のみなので適応はない。国も75歳以上の高齢者には妊婦同様にエビデンスが不十分とのことで努力義務を課していない。今後は皮下注のエビデンスも取り入れて欲しいと思うのは自分だけであろうか。

 差し当たっての今の新型コロナワクチン「注射手技」については、マスコミやネットの様々な雑音に左右されることなく、三角筋のどこに注射する場合でも、神経・血管・滑液包へのリスクを避けるために、注射針刺入時には”しびれ有無””シリンジの軽い陰圧確認”は行っておいた方が無難である、ということであると思う。
 「仏心鬼手」という言葉があるので医療者は、ワクチン接種では過度に恐れることなく、しびれの確認やシリンジの軽い陰圧確認の基本を念頭に置いて(するかしないかは別として)、少なくとも否定すべきではない。それにより万万が一の血管内や神経や滑液包内への注入リスクが少しでも避けられるのであれば十分価値のある行為であるからである。


※(1)アジュバントの有無や種類・使用抗原の違いによっても副作用に大小の違いがある事も分かっているので、ワクチンを一括りにするのは現実的でない。デング熱のように却って悪化させてしまいかねないワクチン効果(ADE)の場合もある。
  a. 塩酸ヒドロキシジン(注射剤、アタラックスP®)による注射部位の壊死・皮膚潰瘍等について、医薬品医療機器等安全性情No256. 2009年3月。
https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/256-1.pdf
  b. ニューモバックスにより注射部位の壊死・潰瘍(肺炎球菌感染症(高齢者がかかるものに限る。)に対する定期接種後の副反応報告基準)。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000172984.pdf
  c.  Immunogenicity of an inactivated adjuvanted whole-virion influenza A (H5N1, NIBRG-14) vaccine administered by intramuscular or subcutaneous injection
Daisuke Ikeno et al. Kikuchi Research Center, Japan. DOI: 10.1111/j.1348-0421.2009.00191.x(アジュバント有の新型インフルエンザワクチンの場合の副反応の程度頻度)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20377741/
  d. 要望書 不活化ワクチンの筋肉内注射の添付文書への記載の変更について平成23年日本小児科学会厚生労働大臣殿(不活化ワクチンは皮下注に加えて筋注も可にして欲しい旨であり、筋注に変えるべきとは言っていない。免疫原性が高いと一般化してもいない。)。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_1106273.pdf
  e. 2020予防接種に関するQ&A集. 日本ワクチン産業協会(誤解され易い表現も中にはあるようだ)。
http://www.wakutin.or.jp/medical/pdf/qa_2020.pdf
  f.  ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言(過去のボヤキ)。
http://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455



2021/4/22 下記追加

※ 〇奈良県立医科大学臨床研修センター 研修医用 筋肉注射手技マニュアルv1.6 については、日本での検証論文が、下記のように既にあった。

〇Establishing a new appropriate intramuscular injection site in the deltoid muscle(金沢大学)Hum Vaccin Immunother 2017 Sep 2;13(9):2123-2129.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28604191/
 前後腋窩線上縁を結ぶ線(A)と肩峰中央垂線(B)の交点(C)が最も安全な筋注部位である(肩峰より約下10cm)。ABを結ぶ線の下1/3の部位には腋窩神経分枝および後上腕回旋動脈分枝が横走行していて中央1/2~下1/3の間(肩峰から約5~8cm)が最も危険度が高い部位である(外科頚の付近)、但し三角筋の厚さはこの部位が最大であり次に厚いのはCの部位である。滑液包への言及はない。肩峰からの距離を指標にするとばらつきがやや大きいのでA線を指標にした方が良い、としている。 

〇筋肉内注射で重要な生体の腋窩神経走行推定のために、後上腕回旋動脈を超音波血流検知器およびデジタル超音波診断装置で測定することの有効性の研究 金沢大学大学コ・メディカル形態機能学研究会, 2010-01-01
http://hdl.handle.net/2297/24249
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/handle/2297/24249?hit=4&caller=xc-search
  ドップラーエコーで血管走行位置を確認している。

〇Appropriate site for intramuscular injection in the deltoid muscle evaluated in 35 cadaverous arms 金沢大学医学部保健学科紀要2001-03-01, 24:2,p27-31.
http://hdl.handle.net/2297/6178 
https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=16399&item_no=1&page_id=13&block_id=21
 35死体の検討では、前後腋窩線上縁を結ぶ線と肩峰との間下1/3の部位に窩神経分枝及び後上腕回旋動脈分枝が通る(外科頚付近、肩峰から3横指の付近とほぼ同じ)。肩峰から3横指(5cm)の距離を指標にすると血管や神経の走行位置のばらつきに繋がり神経や血管を刺すリスクがある。前後腋窩線上縁を結ぶ線を指標にした方が良い、としている。滑液包についての言及はない。

2021/4/26 下記追加

〇古東整形外科・リウマチ科 腋窩神経麻痺 最終更新日時 : 2018年11月5日
https://koto-orthopaedics.com/disease-arm/axillary-nerve-palsy/
  腋窩神経には筋枝しかないとのネットの意見があったので調べてみたら筋枝も皮枝もしっかりあり、この自験例の提示は分かり易いので有難い。

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2021/6/16 さらに追加 
        三角筋及び肩関節周辺の滑液包の画像など。
(やはり、神経・血管・滑液包への障害を避けるためには、シビレ確認と軽い陰圧確認は行った方が良い。少なくともしない方が良いという理屈は逆立ちしても出てこない!!)

https://nabilebraheim.mystrikingly.com/blog/anatomy-of-the-deltoid-muscle-for-proper-vaccination-technique  Anatomy of the Deltoid Muscle for Proper Vaccination Technique By Nabil A Ebraheim MD & Richy Charls MD
<div class="msg-pict"><a href="https://ku-wab.asablo.jp/blog/imgview/2021/06/18/5f2d2a.png.html"
target="_blank"
onClick="return asablo.expandimage(this,1021,518,'https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d2a.png')"><img src="https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d29.png" alt="you tube (By Nabil A Ebraheim MD" title="you tube (By Nabil A Ebraheim MD" width="300" height="152"></a></div>

https://www2.cdc.gov/vaccines/ed/covid19/moderna/40140.asp CDC COVID-19 Vaccine Training Modules Home (米国CDCの画像)
<div class="msg-pict"><a href="https://ku-wab.asablo.jp/blog/imgview/2021/06/18/5f2d30.png.html"
target="_blank"
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http://www.kaken.co.jp/mamechishiki/kata/data/c_1.html 提供:科研製薬株式会社(肩の構造)
<div class="msg-pict"><a href="https://ku-wab.asablo.jp/blog/imgview/2021/06/18/5f2d2c.png.html"
target="_blank"
onClick="return asablo.expandimage(this,760,455,'https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d2c.png')"><img src="https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d2b.png" alt="肩関節滑液包群" title="肩関節滑液包群" width="300" height="179"></a></div>

https://buhitter.com/author/chan_oka_ (チャンオカ@理学療法士(機能解剖×fascia×末梢神経×pain)さんのイラスト一覧) 【三角筋下滑液包(SDB)】SABとSDBは分離・連結ともに報告あり、下記シェーマの報告では89%で分離、SAB注射が効かない場合、SDBも考慮する必要があるかもしれない‼︎ 神経支配は腋窩Nのみ83%、腕神経叢の後神経束のみ11%、残りは両者 ⁑画像は[Chang Min Seo et al., 2018]より
<div class="msg-pict"><a href="https://ku-wab.asablo.jp/blog/imgview/2021/06/18/5f2d2e.png.html"
target="_blank"
onClick="return asablo.expandimage(this,457,351,'https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d2e.png')"><img src="https://ku-wab.asablo.jp/blog/img/2021/06/18/5f2d2d.png" alt="肩関節滑液包群" title="肩関節滑液包群" width="300" height="230"></a></div>

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2022/9/6 さらに追加 (facebookから)

ワクチン筋注、たかが筋注されど筋注:古くて新しい問題。

三角筋筋注の問題はもう解決したと思っていたらつい最近東京の身内が帰省して会った時に、コロナワクチン注射をしたら直後から痛くなり腕が痛くなり挙げることもできなくなり治るのに1カ月以上かかったと聞いた。本人はこんなこともあるのだろう位に思っていて疑問にも思わなかったと言っていたがこれは有害事象であったことは間違いないと訊いていて思った。話の様子から神経障害というよりも三角筋下滑液包内に薬液が入ってしまったのだろうと推測した。
2年前のコロナワクチン筋注開始の頃にはネットの画像で三角筋ではなく上腕三頭筋外側頭に打たれてしまった等の苦情はみていたので、まず三角筋を外さないことが基本のきで、その上でやさしく刺入すれば骨にあたっても2-3mm戻せば問題ないとしていた。米国ではSIRVAが問題になっているとも聞いていたが、日本では極めて稀のようだと思っていた。上記の有害事象の話を訊いてやはり日本にも表には出ない有害事象はあるのだと思っていたところに下記の特集が目に入った。説得力のある内容である。
自分なりに解釈すると橈骨神経・肩峰下滑液包は絶対避けるべき、腋下神経・後上腕回旋動脈・三角筋下滑液包もなるべく避けるべき、注射針先端は骨やバイアルゴム栓で容易に歪むので要配慮、と理解した。

 筋注手技の問題は今後も続くコロナワクチン筋注なので、改めて基本に戻って考える価値があるのではないかと思う。この報告はMR画像を使ったデータを示してくれているので分かり易い。2年前の初めの頃の私共はエコーでワクチン筋注の可否を一人ひとりチェックしていた。そして重い副反応が出たときに訴訟に耐えうるのかどうかを初期には気にしていた。これらの心配は日本中が見做し筋注をしているのが現実だと分かり杞憂に帰した。
 この著者は針先の損傷についても言及している。これは現場で仕事をしていれば針先がバイアルのゴム栓に一回刺しただけでも刺し方で注射針先が歪んでしまうことは既知の事実であるが意外と無頓着に扱われていることが多い。細かい事であるが気にするナースはバイアルに別針だけ刺しておいてシリンジに吸引し接種用注射針は新しいものに替えている。針を余分に使うので経営のことを考えると悩ましい問題であるが細かい配慮には賛同している。この特集にはバイアルゴム栓への言及はないがなるほどと納得できることが少なからず書かれている。

 この特集を読ませていただき勉強になったがこの著者が、これからはHPVワクチンやプレベナーのごとくワクチン接種は筋注が増えるだろう、と予想しているがワクチン筋注が当たり前になるのは困るとこの点では異を唱えたい。コロナワクチンのごとく高齢者こそ必要なワクチンが筋注のみでは届かなくなる場合があるからである。今回のCOVID-19ワクチンでは「見做し筋注」を皆さんが行っているようなので、私共も2回目からは見做し筋注を行っていたが、本来は適応を「筋注又は皮下注」とすべきと思っているからである。(※見做し筋注とは、るい痩著明な高齢者には三角筋さえも委縮していて医学的には皮下注になってしまうことを許容して注射すること。)

〇 「特集:安全なワクチン筋注のコツ―神経麻痺とSIRVAの予防 日本医事新報 No.5132 (2022年09月03日発行) P.18 井尻慎一郎 (井尻整形外科院長)」https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20331 

この特集から改めて要点を纏めると、下記になると解釈した。
① 肩峰から3cm以内は絶対避けること(肩峰下滑液包に当たるリスク極めて高い)。
② 肩峰から5-6cmは腋下神経・後上腕回旋動脈・三角筋下滑液包に当たるリスクがある(体格の良し悪しと神経・動脈の走行は相関しない)。
③ 肩峰から7.5~10cmに行うのが最も安全である。
④ 決して上腕三頭筋外側頭にしてはいけないので三角筋位置を同定するのが大前提であること(外側頭は発達肥大していることが多いので少しの上腕内旋でもそこに当たってしまうのが現実であることを自覚して避ける必要がある、この奥には橈骨神経が走っている)。
⑤ 骨に当たってもやさしく当てればゆっくり少し戻して薬液注入すれば問題ない。
(※陰圧確認はしなくても良いかもしれないが、してはダメとの意見には極端すぎて反対である。※薬液バイアルから吸引するときは注射針先端の変形を極力避けるためにやさしくゆっくり直角に刺入する等の配慮があれば好ましい。)

(関連テーマ)
〇 ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言 ― https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455 
〇 新型コロナー筋注・皮下注についてー追記. ― 2021年06月16日 アサブロ https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/16/9388503 
〇 (過去の、2021年03月19日への追加) 新型コロナワクチン筋注とSIRVA等合併症を避けるということの本質) ― 2021年06月18日https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/18/9389164 
〇 新型コロナワクチンの三角筋注射に係る手技・免疫学的意義・副反応等について再考 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/07/18/9399139

ある介護老人の短文――心の吐露2021年03月13日

ある介護老人の短文――心の吐露

 長らく疎遠であった足利のいとこが最近亡くなり、遺族の奥様からご報告のお手紙を頂いた。自分より5才年上であるが既に10年前から逝った時の自らの希望を書いたご本人のメモが見つかったとのこと。その中に、下記の詠み人しらずの短文もあったようで、同封されていた。優しい心根のDrであったようなので、恐らくご本人も大切な短文としてとっておいたものかもしれない。同封の意図は書いてなかったけれども、奥様もそれが分かっていたからこそ何も言わずに同封して下さったのかもしれない。妙に胸に刺さった短文であった。
 高齢者の医療介護業務に従事する者は、この様なお心を皆が奥に秘めているかもしれないことを忘れてはならないと訴えているような、自らを戒めてくれるような短文であり忘れてはならないと思うのでここにメモしておく。
以下がその短文―――

君は老ひたる者の悲しみを知るまい。
歳老ひて生きつづけるとき
もはや 道化して過ごすしかないことを知るまい。
そして私も それを知らなかった。

思いもしないものによって
老人は 『老い』 という オリ につながれてゐる。
つなぐ側も つながれてゐる側も
つゆ それを知ることなく。
君は 老の悲しみを
知ってゐるか。
       72歳女性 老人ホーム入所中  S.60年

―――以上。