高齢者の癌は恐れるに足らず、について。 ― 2021年07月25日
高齢者の癌は恐れるに足らず、について。
これは癌自体がそもそも多様性の塊なので、一律に扱おうとすること自体も無理な話で、一言で断定できないのは当然であるが、一般的には高齢になれば癌になる確率は高くなるし、進行も遅いものが多いので当たらずとも遠からずとは言える。
二人に一人が一生のうちには癌になると言われて既に久しいが、どのタイプの癌になるかはもうその人の運命と言うしかない。甘んじて受け入れざるを得ないことがこの世の中にはその他にもたくさんある。独りで生まれて独りで死んでいくことを考えればそれも当たり前なのかもしれない。何のために生きるのかの基本命題に通じることでもある。
死に方も選べない。恐らく皆自覚をしていないようであるが自分では選べない。西洋では自殺ほう助は条件によっては可能な場合があるが基本的には選べない。これは見方によっては生の醍醐味とも言えると思っている。
死に向かう時の病態の性質によって様々な形があり、穏やかに眠るように逝くこともあるし、真綿で首を絞められるように逝くこともあるし、ピンピンコロリのこともある。急変して急に心臓が止まっても条件が偶々そろっていればパッと目を開けて生き返り死への不安も喜びも感じることなく再び連続して生きている人もいる。ただ、生死の限界点においては見かけ上は苦しんで逝くように見えても穏やかに逝くように見えても、本人の意識にとってはどちらもあまり変わらないのではないかと、これまで多くの死を看取ってきて思う。昔から死戦期と言って限界点では時々努力様呼吸になり素人目には苦しいように見えることがあり本人にとっては何の感覚もないが、慣れないスタッフが家族と一緒になり慌てて家族の不安を助長することがある場合は粛々と見送るようにと戒めることがあった。
焼身自殺を図った人が救急車で運び込まれ焼け焦げた皮膚の中で目だけが異様にギラギラと光り絞り出すように放った’死なせてくれえー’という光景は今でも決して忘れることはない。進行は徐々であるが確実に肺胞を置き換えるように進展し(かつてのBAC、2015年以降はAISと分類名称変更?)、もう打つ手はないからと大学病院から逆紹介で戻ってきて、最期は酸欠の極期にあっても麻薬の使用を本人が拒否して意識清明のまま死を迎えた方もいた。夜間就眠中に夢見心地で酸素マスクを外してしまい苦しいとベッドから起き出し酸欠で意識を失い再投与で再び意識の回復を繰り返していても’ぼーっとなったまま死にたくはない’とはっきり言ってまもなく苦痛緩和を拒否したまま亡くなられた。
癌は進行すればいつの日かカヘキシーになり、ある時点から急に悪化していき亡くなる。それまでは症状はなく、健康人と何ら変わらないことが多い。そのカヘキシーは現在の所サイトカインストームによると考えられている。そのサイトカインストームは平たく言えば体が癌と喧嘩して生ずるものである。だから癌と喧嘩をしないで併存していればカヘキシーには陥らない。長寿癌或いは天寿癌と言われるものはそれ故である。
( 2021年07月03日 アナーキック・エンパシー ということ。
https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/07/03/9394381 )
数年前のある時に認知症棟に入所中の認知症高齢者が穿孔性腹膜炎に陥った。病院に送ったところ、原因は膵臓癌が胃まで浸潤拡散してその部位から胃に穴が開いたためと判明した。勿論膵臓癌の末期で手術適応なくそのまま経過観察となったが何と数日の禁食後に再び食事できるようになり自然閉鎖したようなので施設に返したいと病院から連絡があった。そして再び施設に戻って見かけ上は従前どおりに食事できるようになり半年存命してからカヘキシーになり亡くなった。一人ひとり癌との喧嘩の仕方は違うようで同じ病気でもその経過は異なる。癌の種類も数えきれないほどにあるので、担癌生体の日常経過の在り方は人の数だけあると言って良い。
一時は死に方はピンピンコロリが理想と言われて来たが、現在のように超高齢社会になると身の回りの整理できるような期間があった方が本人の満足度が高いのではないかとも思う。誤解を恐れずに言えば、高齢になってからは癌で死ねるのは幸せかもしれない。若者や働き盛りの人の癌とは決定的に違う所である。
心臓でも脳卒中でもコロリと逝く場合もあればダラダラと廃人のように逝く場合もある。どれも同じ「生」で、生きている限りは生きている、として尊厳を忘れないこと、あるがままを受け入れること、というのが高齢者に係る介護現場の基本姿勢である。だから積極的安楽死を認めるべきだとの主張を聞くと自分の死へのイメージは何をもってそう言っているのだろうかと思う。自分では選べない死に方を前に、いったいどうなるのかと考えながら今少しずつ整理をしてきている。
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