新型コロナー筋注・皮下注についてー追記.2021年06月16日

R2.11.10.皮下注か筋注かで気になったのでちょっと一言、 へ追記。

新型コロナ(COVID-19)ワクチンが筋注に限定されていることについて、

 一般にワクチンが筋注されていることについては、CDCやWHOが筋注を推奨?しているので、インフルエンザ等のワクチンも日本は筋注にすべきだという専門家特に感染症専門家の声がインターネット上の世界では喧しい。

 日本はワクチンは「皮下注」又は「筋注ないし皮下注」とされていることがこれまでは多かったように思う。
 特にインフルエンザワクチンは皮下注である事・副反応が少ない事等から、寝たきりの高齢者でも希望があれば毎年行っていた。これまで何の問題もなかった。

 日本が特に小児の筋注を避ける理由は、その原因に歴史的問題(大腿四頭筋拘縮症)を理由として挙げる人が多い。しかし現実にはCDCやWHOの言うことをそのまま受け売りしているペーパードライバーのような人の声の方が目立つためのようにも見える。皮下注より筋注の方が副反応が少ないとか、免疫効果が高いとか、尤もらしい理由を並べて主張している。しかし自分で調べた限りでは副反応は大同小異であるし、免疫効果は遥か50年前にも同じような論点があったことがありその時は皮内注>皮下注≒筋注と決着したと思っていた。昔と今に違いがあるとすれば免疫源にmRNAやベクターにウイルスを使う新手法が出てきたことである。免疫効果の違いに関しては記憶があやふやなので念のため免疫の専門家に個人的に聞いた所エビデンスがないだけでほぼ同じだと思うと言っていた。副反応の差に関しては様々なFactorがあるので一概には言えないがやはりどちらも調べた限りドングリの背比べである。副反応については皮下注・筋注の違いよりも大きなFactorが沢山ある。アジュバント等の有無・成分・pH・注射の浅深・体質等挙げればきりがない。
 過去を引きずり皮下注に固執するのは世界の流れに遅れているというネットの主張は、超高齢社会を迎えた日本にはもう当てはまらないようである。高齢者ワクチンの運用についてはむしろこれから世界をリードすべきであると思う。
 日本の行政もこれらの専門家の意見を入れてかどうか分からないが、最近のワクチンの場合は実際、子宮頸がんワクチンや肺炎球菌プレベナーワクチンでは成人は筋注に限定された。この点は行政も多くのいわゆるペーパー専門家の意見に阿るようになったのではないかと疑心暗鬼にもなり却って心配になる。

  小児へのインフルエンザワクチン注射はネットの話題では筋注にすべきとの意見が強いようであるが小児科学会の正式見解は筋注も許可してほしいとの国への提言があるのみで、皮下注から筋注へ変更しろとは言っていない。小児の場合は筋注でも皮下注でも効果はどちらも大同小異と思われるのでどちらでも良いと捉えているが、衰弱高齢者の場合は状況が異なってくる。もし、インフルエンザワクチンが筋注のみに限定されればワクチンの恩恵を受けられない方々が少なからず出てくる。
 そこでここでは、特に高齢者施設入所者等の衰弱高齢者を対象とした場合の実態をあげてみる。
 筋肉のエコー所見で見る限り高齢者の筋肉はそもそも若者とは違い脂肪化傾向が強い。フレイル状態(reversible)はまだ良いほうで、高齢者施設に入所しているフレイルを超えて衰弱をしてきて寝たきり状態になると、気持ちはしっかりしていてもサルコペニーは著明で筋肉委縮も甚だしい。自分の施設の一点で調べた結果を見る限り入所実働90人位のうち3割近くの入所者は殆ど筋肉をエコーで同定できなかった。寝たきりで極端な方は経管栄養600kcal/日の下でも肥ってくる方がいる。これらの実態を、感染症専門家の方々はどの程度ご存じなのであろうか。筋注と言えば三角筋・大腿外側広筋・殿筋が主であり、三角筋が無理なら大腿部や臀部があるではないかというDrの意見も実際あった。しかし高齢者施設の現場で調べてみると三角筋がダメなら殿筋や大腿はもっと無理の場合が多い。衰弱していても三角筋は意外にも最後まで残っている頻度が高いように見える。

 教科書的な基礎代謝量といえば1200kcal/日が教科書的な数値である。でもこれを遥かに下回るエネルギー代謝量でもほぼ安定して生命を維持している方々が現実に日本の高齢者施設の入所者の中には少なからずいた。実際に測定したのは安静時代謝量(基礎代謝の1.1~1.2倍,resting energy expenditure,REE,)であるが、恐らくこれが未だ周知され得ない日本の超高齢社会の実態と思われる。このことはワクチンの皮下注か筋注かの議論にも係る問題であり、国の運営理念に係る問題でもある。欧米においては食べられなくなれば人生の終わりと捉えられているようであるが、実は脱水さえ防げば予想以上の長生きをする方々は少なくない。良い悪いは別として、日本には少なくともそのような高齢者を見放そうとする国の運営理念が議論の俎上に上がることはまずないはずである。かつての医療費亡国論も根底から否定されたはずで、今では経済成長のエンジンの一部とさえ捉えられていると思う。超高齢社会の世界のトップランナーであるが故の新しい問題なのであろう。この点ではCDCやWHOを引っ張って行こうとする位の気概の方が必要なのではないだろうか。
 今後はワクチンは筋注一辺倒ではなく皮下注のエビデンスも日本は構築すべきである。

( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455 )

(過去の、2021年03月19日への追加) 新型コロナワクチン筋注とSIRVA等合併症を避けるということの本質)2021年06月18日

(過去の、2021年03月19日 への追加) 新型コロナワクチンの三角筋筋注とSIRVA・血管/神経障害などの合併症リスク軽減のために施行者が念頭に置くべき事とは。

 日本においてSIRVAが問題になったことは聞いたことがないが、海外で今回のCOVID-19ワクチン注射をきっかけに改めて問題提起がされていることから、改めて整理してみる。  自分でもかつてアレルギー外来処置係として体質改善注射などの三角筋筋注は数えきれないほど行ってきたが幸いSIRVA等の経験をしたことがない。

【過去の、2021年03月19日 三角筋への筋注の実際と今までの教科書の間違いについて(SIRVAなど) ― ( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/03/19/9358533 ) に追加しておく。】

 筋骨隆々の人は別として、高度肥満で皮下脂肪が厚くて普通の注射針の長さでは筋肉まで届かないという問題がある人もいれば、痩せてすぐ骨まで達してしまう人や、注射したくても可能な程の筋肉がそもそもない人もいる。そして同じ筋注でも若者の筋肉と衰弱高齢者の筋肉とは脂肪化等のために天地の差があるという問題もある。更に、そんな衰弱高齢者の筋委縮著明な中でも三角筋は殿筋や大腿外側広筋よりも予想外に相対的に保持されていることが多い印象があり、その点ではワクチン筋注が三角筋を主体とした手法としたことには成程とも思う。
 筋注については基本的には、奈良県立医科大学臨床研修センター 研修医用 筋肉注射手技マニュアルv1.7 ( https://www.nmu-resident.jp/info/files/intramuscular17.pdf )、 に従っていて良いと思っているが、腱停止付着部に近いので10cmでは下方過ぎるとの意見もある。そしてその停止部が側面垂線よりやや前よりなので垂直に下げると三頭筋外側頭に近づき橈骨神経障害リスクも心配になるのでやや前寄りの肩峰下5cmが良いとの意見もある。
【東京保険医協会 医科歯科連携研究会2021 医師・歯科医師・看護師必見 ~紛争回避~三角筋の詳細解剖解説による正しい筋肉注射と迷走神経反射対策( https://www.hokeni.org/docs/2021060100019/ )、( https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/2999752656919858  )】
三角筋筋注部位の一つの提案


 自分達の施設では三角筋筋注部位は基本的には肩峰下4.5cm(≒3横指弱)か又は前後腋窩線結線上(約10cm)を原則とすると決めて既に職場の約160人は無事2回目まで終了した。勿論下過ぎることも念頭にあったが実際はるい瘦高齢入所者も若者スタッフも腱移行部を心配した人はいなかったと思う。
 世の中の様々な意見を画像で示してみる。

① youtube動画より。
https://nabilebraheim.mystrikingly.com/blog/anatomy-of-the-deltoid-muscle-for-proper-vaccination-technique  Anatomy of the Deltoid Muscle for Proper Vaccination Technique By Nabil A Ebraheim MD & Richy Charls MD 。
you tube (By Nabil A Ebraheim MD


② 米国CDCの画像。
https://www2.cdc.gov/vaccines/ed/covid19/moderna/40140.asp CDC COVID-19 Vaccine Training Modules Home 
CDCの画像


③ 肩関節周囲の滑液包についてー1、
http://www.kaken.co.jp/mamechishiki/kata/data/c_1.html 提供:科研製薬株式会社(肩の構造)
肩関節滑液包群


④ 肩関節周囲の滑液包についてー2
https://buhitter.com/author/chan_oka_ (チャンオカ@理学療法士(機能解剖×fascia×末梢神経×pain)さんのイラスト一覧) 【三角筋下滑液包(SDB)】SABとSDBは分離・連結ともに報告あり、下記シェーマの報告では89%で分離、SAB注射が効かない場合、SDBも考慮する必要があるかもしれない‼︎ 神経支配は腋窩Nのみ83%、腕神経叢の後神経束のみ11%、残りは両者 ⁑画像は[Chang Min Seo et al., 2018]より
肩関節滑液包群


 ここで、問題があるとすれば、肩峰下滑液包と三角筋下滑液包は融合している場合が1割程度あるということかもしれない。一般に三角筋筋注の場合、痩せている場合は注射針が骨に当たってしまうことは少なからずあり、その場合でも2-3mm引いて注射すれば問題ないことになっている。実際今まで合併症等の問題は臨床現場で発生していない。
 肩峰下10cmでは筋腱に近く、肩峰下5cmでは滑液包に近く、ましてや滑液包が癒合している場合は僅かかもしれないがリスクは高まる。

 以上から出てくる結論は、筋肉ならどこに行っても良いが、滑液包・血管・神経等に当たったならば、それを避ける引き続き動作を臨床現場の流れの中で続けて行うことが肝心である、ということである。
 従って、関連シビレ確認・軽い陰圧確認は不要とするのは許容されるとしても、行ってはいけないと極端に走るのはやめるべきであると思う。


追加画像:
日本人のエコーチェックでの論文から
http://hdl.handle.net/2297/24249 筋肉内注射で重要な生体の腋窩神経走行推定のために、後上腕回旋動脈を超音波血流検知器およびデジタル超音波診断装置で測定することの有効性の研究 金沢大学大学コ・メディカル形態機能学研究会, 2010-01-01。
 これは日本人で測定したエコーでの実際データで、腋窩神経と伴行する後上腕回旋動の位置を示している(点線)。肩峰からの測定距離はこの論文では示していないが既に既報論文の死体データがあり2割の人が5cm未満を示していたとしている(4.3~8.7cmの変動あり)。そもそも肩峰は厚さがあり下端か上縁かでも1cm位は直ぐ変わってしまうので、3横指でも5cmでもばらつきを考えるとどちらも大差はない。要するに完璧に避ける部位はないと言って良いし、当たってもその場合は深さをずらせば何ら心配はないとも言える。

(追加 R3.6.24.)
※因みに、自分のA-a’-b'-c'-B線は肩峰上端から10cmである。言い換えれば肩峰下端から約9cmということになる。三角筋停止部はもっと下であるが筋腱に近いことはその通りである。三角筋中央部はその上であり肩峰上端から5-7cm(肩峰下端から4-6cm?)付近になる。上肢を伸ばして下垂していても回内気味か回外気味かで三角筋停止部は微妙に違ってくるが手掌を大腿にピタリと付けた状態では肩峰中央垂線よりわずか前に来る。肘を直角に曲げて前胸部に付ければ更に回内傾向となる。従って三角筋中央やや前寄りが良いとの意見はその通りと思う。


(更に追加、ネットにあったもの、三角筋と上腕三頭筋外側頭の境界)。
 パクチー大原のブログ 2020.11.25 筋トレ 【早大生ボディビルダーが解説】 上腕三頭筋の解剖学・起始停止
 https://pakuchi-ohara.com/tricepsanatomy/