新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り ― 2024年07月12日
新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り
初期の武漢株による発生初期には肺胞への親和性が強く症状の有無に係らず感染者の半数に間質性肺炎像が認められるとの驚くべき報告が自衛隊中央病院よりなされて(2020年6月、1/3弱が重症、2/3は軽症/無症状)、事実俳優の志村けんが急死してその前後も本人の自覚が乏しい中で急死する患者が相次ぎ世界を席巻し、happy anoxiaと恐れられた。しかも肺だけでなく全身のあらゆる臓器に侵入傷害しその死因も多彩であった。しかしウイルス変異のサイクルが激しくわずか数年で肺胞をはじめとした全身への毒性が軽減してきているように見え、その感染対策への考え方も時々刻々と次々に変わり議論も百出であった。
中国武漢での初発が2019年12月で日本への初発例は2020年1月15日に確認されて以来、その後の5か月間に日本国内でも668人が死亡したとされている。
そしてウイルス自体も変異が激しく弱毒化に並行してワクチン行政も進み、昨年2023年5月8日からは感染症類型も5類に変更となっている。手放しで安心するには未だ時期尚早の段階であるが、これまでの事実をもとに現段階でのCOVID-19患者からの感染リスクの程度についてまとめてみる。
A: officialには5類になって以降は感染前後の対応が個人の判断に任されて「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」が登校・登園・出勤を控える公的な推奨期間とされた(①)。従って出勤は6日目から/7日目からに設定していることが多いと思われ、症状があれば10日までの欠勤も認めている職場等が多いのではないかと思われる。現に症状が残っていてもマスク・手洗いをはじめとした基本予防策を守っていれば出勤しても他人に移してしまう心配はないとされるようになってきている。
B:COVID-19患者からのウイルス排出量の程度と期間について、
イギリスでの健康人での2回の人体実験の報告(初回②:未感染者2022年・2回目③:既感染者2024年)からは、健康人未感染者の鼻腔にCOVID-CoV-2のウイルス(10TCID50)を直接注入しても感染したのは半数(18人/34人中)で発症しても軽中等症(16/18人中)、感染しても11%(2/18人中)は無症状だったという。しかも2回目実験の免疫獲得済の健康人ではその希釈系列max1万倍までのウイルス量を鼻腔に直接注入しても発症したのは何と全体の14%(5人/36人中)のみでしかも一過性の軽症だった(1x10^5TCID50の最大ウイルス量でも一過性感染は8例中1例のみ、一過性感染とウイルス量の相関無し)。しかもその後に変異株のオミクロン株にも罹患した者の発症者が39%(14/36)と増えたもののすべて軽症だったという。
この実験からはかなり多くのウイルスを吸入してもすべてが発症するわけではないこと、免疫効果は著明であること、変異株オミクロン株へのワクチン効果もあること、等を示していた。発症するヒトと発症しないヒトの違い、一部のヒトが何故重症化するのか、なぜ後遺症が出るヒトがいるのか等なお未解明部分が多いようだが、自然免疫能と獲得免疫能とのバランスや違いにあるとの推定もあるようだ④。
これは一般的な病原体にも言えることかもしれないがCOVID-19も、多量のウイルスを吸入しても発症しないヒトがいるという事実を上記実験で確認したことになる。
ウイルス量Ct値30≒PCR10000コピー≒10TCID50なので、10000コピー中のviableなウイルスは10-100個(1/100~1/1000)位という(⑤⑥⑦但し標準化や精度管理不明)。また上記人体実験で希釈系列max10万TCID50のviableウイルスを鼻腔内注入しても発症したのは全体の14%に過ぎないということは言い換えれば感染性を持った新型コロナウイルス粒子10~100万個が体内に入っても半数しか発病しないということである(但し免疫があった場合!)。その半数も大部分の人がカゼ程度で済んでしまうのに(実験上重症者ゼロ)、臨床現場では極一部でなぜ死に至るほどの重症になるのか、あるいは後遺症が残ってしまうのか、については今尚未解明の点が多い。
暴露ウイルス量と感染・発症との関係では暴露ウイルス量が多い方が感染・発症確率は上がるとされている(⑧)。この資料図9によれば10^10コピー/mlのウイルス量排出での他人への感染確率は20%位という。感染リスクは従って日常生活においては神経質すぎるのも楽観的過ぎるのも良くない。いわゆる中庸をどう保つかが実生活のポイントということになる。マスコミで特別扱いされた不織布マスクも呼気の湿気で静電効果を失えば(N95マスクは更に機能低下)普通の布マスクと効果は同じか却って機能低下してしまうのである。数時間毎に交換しなければ効果が出ない不織布マスクはSDGsの理念にも反する。このことを考えれば不織布マスクに拘る必要はないのである。にもかかわらず現実は不織布マスクが定番になって今も世の中を席巻してしまっているのは皮肉としか言いようがない。(⑨⑩⑪⑫⑬)。
C:ウイルス排出が感染リスクに直接結びつく訳ではないという事実について(SRAS-CoV-2とノロウイルスの比較も含めて)、
SARS-CoV-2は変異が激しくその発症確率も時間とともに変化し得るので、各時点での発症確率はその都度検証する必要があるがこれまでのデータから判断すれば、
英国の初回人体実験②からは、発症確率は10TCID50のウイルス量で50%であった。これは免疫がない場合で免疫がある場合(既感染±ワクチン)は更に低く発症確率はウイルス量が更に多くても全体の14%しか感染しなかった。
一方ノロウイルスは、10~100個のウイルス量で感染成立するとは公的に言い古されてきていたことである(⑭⑮)。これは素人目に分かり易い説明であるが正確に言うと⑮によれば、50%発症確率は10^6(百万)コピー、10%発症確率は10^3(1000)コピー、70%発症確率は10^8(1億)コピーである。PCRはウイルス断片も含まれるのでviableなウイルス粒子はもっとずっと少ないはずであるが参考にはなる。要するにノロウイルス10~100個で感染すると言ってもほんの一部のヒト数%が感染するだけということである。しかも感染しても必ずしも発症する訳でもないのである。
50%感染確率で比較すると、SARS-CoV-2は1万コピー、ノロウイルスは100万コピーとなる。感染力が強いとされるノロウイルスよりも100倍感染力が強いことになる。しかしPCRはウイルス粒子断片も含むので感染性ウイルス粒子の比較ではないので比較の価値があるかどうかは疑わしいが参考にはなる。
D:空気感染の定義について、
SARS発生の時もそうだったが今回のCOVID-19も早期より空気感染し得るという説が学会を含めて出たり消えたりしていた(⑯⑰⑱)。
COVID-19発生前までは空気感染(=飛沫核感染)が日本で公式に認められていたのは結核・麻疹・水痘の3つのみであった。
これまで空気感染という言葉については特別な感覚・意味合いを医療者は持っていた。同じ部屋空間の共有が不可とされた故、結核は別棟の療養所または陰圧病室と定められていたし、麻疹の子供が同じ病院内待合室にいたのが分かると病院内は大騒ぎしたし、水痘は殆どのヒトが既感染済なので普通の病院は気にしなかったが免疫能低下の白血病病棟等で発生すればパニックにさえなったという。医療者の空気感染の認識はそうであった。
2003年のSARS発生時もその問題は燻ぶっていたが今回2020年からのCOVID-19発生ではとうとう用語の曖昧さ故に放置出来なくなり、エロゾル感染やマイクロ飛沫感染等新たな無定義のままの学術語が独り歩きして飛び交うようになった。そしてついに最近(2024年4月)WHOからも用語の共通認識を図るための新定義の試みが出てきた⑲。願ってもないことである。
しかし統一見解には未だ程遠いような印象を受ける。従来のように感染粒子の大きさで区別するという考え方からは脱却して新たな視点からその感染様式を決めようと努力しているのは確かのようだ。そのIRPs(infectious respiratory particles)という別表現には対立意見もあるようで意見調整にはなお時間が必要のように見える。短時間か長時間の感染性をその空間が保っているかどうかで現場対応は大きく異なってくるが、このIRPsには時間の概念がないように見える。これだけでも意見統一はできないのではないかと思える。
今の所、尾身茂氏が示していた【・・2.7.30.の政府のアドバイザリーボード資料「新型コロナウイルス感染症はこうした経路で広がっています」の中では異なる概念であると明示している。空気感染が長時間・長距離まで感染が広がり得るのに対してエアロゾル感染は、3密等の一定条件下で起こり得る少し長い時間・少し長い距離にまで感染が拡がり得る場合を指すと言っていた(意訳)、この言葉が定着した今これがofficialな見解になるのだと思う。本書を読んで初めてその定義を知った。・・(資料⑳より)】これが日本の当面の妥当な考え方と思われる。
以下資料:
①新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 療 養 に 関 す る Q & A(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf 。
②Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nat Med. 2022 May;28(5):1031-1041. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361992/ 。
③Safety, tolerability, viral kinetics, and immune correlates of protection in healthy, seropositive UK adults inoculated with SARS-CoV-2: a single-centre, open-label, phase 1 controlled human infection study. Lancet Microbe 26/04/2024 https://www.immunology.ox.ac.uk/publications/1994167 。
④宮坂 昌之氏情報: https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0LBuoq3FUQLNAciRomhxiEHm6FcSXF395J7RKdXMkk193mjFGHFTFbmDJZXe2a798l?__cft__[0]=AZXh4nC6Iy-hHTmMqEjvwU1FKLm4d5m5wVNHBhH5rg3NAw45GD5s-9_wAr0IxSX5MgFBF4aFqGbkQMgLO1Bl3Zjv1xmDeZjXSP7zvoIZs1MIpb8eBRTpOkDvIgZGeUgPgQaIxWiMXTGYPcQZMVelGZ8odsym4BcJ-A-NOPj39HgZzg&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑤検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察 (IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10133-491d01.html 。
⑥富山県内新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離解析―富山県衛生研究所(IASR Vol. 42 p84-86: 2021年4月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10303-494d03.html 。
⑦ウイルス学エピソード(5)ウイルスの個数って数えられる? 令和2年6月26日 神奈川県衛生研究所 https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_virology/virology_episode_05.html 。
⑧厚労省:第56回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月20日)資料3-7 舘田先生提出資料(図9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html#h2_free10 。
⑨N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 2020/04/24 西村 秀一(仙台医療センター)日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html 。
⑩マスクはどうやってウイルスをろ過してる?2020年5月24日 https://infipwr.com/2020/05/24/maskfilter/ 。
⑪電気通信大学 石垣 陽:マスクの安全を守る静電気技術 http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE202_3_open.pdf 。
⑫東京大学生産技術研究所:「マスク・チャージャー」の開発――静電気の力でマスクをパワーアップ2023.04.26 https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4207/ 。
⑬新型コロナウイルスでのマスク不足について。新型コロナウイルス生存期間。BSL-4。 ―2020年02月28日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/02/28/9218715 。
⑭厚労省:ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について 平成27年国立医薬品食品衛生研究所 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf 。
⑮国土交通省:参考資料編 参考6.ノロウイルスの用量反応p70 https://www.mlit.go.jp/common/000116093.pdf 。
⑯新型コロナは"空気感染"です(第61回日本臨床ウイルス学会)仙台医療センター西村秀一氏が学会で講演2020年11月06日 メディカルトリビューン https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1106533287/?utm_source=mail&utm_medium=recent&utm_campaign=mailmag201107 。
⑰オーストラリア:Airborne transmission of SARS-CoV-2: The world should face the reality(2020年6月) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041202031254X?via%3Dihub 。
⑱新型コロナの、空気感染・エアゾル感染・マイクロ飛沫感染? 言葉の定義を巡って https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/18/9317806 。
⑲WHO:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air 18 April 2024 https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air 。
⑳尾身茂著「1100日間の葛藤」を購入して、わが身を振り返る https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02FCir8PTCV9p1k2EkKuv43T32g9jb7UmWPDRudHFWW6xyNBBT1ArHzbQ8L6biF1YJl?__cft__[0]=AZUtT06p1yfDHAR92krqzvHi-RIiiXmsSkcqG0OigXKnMsSTMPoNMV3HLPcTLIg0yJIqvhOJi_UfLvcoYErz9PNkIHoL41IVXzgw1XWbMkGyg0wPZW9hLEE5uHnqAroBlI4&__tn__=%2CO%2CP-R 。
(追加)
㉑Timing and Predictors of Loss of Infectivity Among Healthcare Workers With Mild Primary and Recurrent COVID-19: A Prospective Observational Cohort Study. Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):613-624. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37675577/ 。
【人員不足もあり医療従事者は一定の条件で5日間での出勤可能の判断が既にCDC等や日本でも許可されていた中での検証研究。カナダの大規模病院20施設の観察研究データで、2022年2月から約1年間のCOVID-19発症の軽症患者121名について感染性ウイルスの排出持続期間をウイルス分離培養にて調査した。 結果:発症日を1日目としてウイルス培養陽性率は5日目71.9%,7日目46.7%,10日目18.2%であった。即ち10日目でも18.2%は感染性ウイルスをなお排出していた。なお、10日目でもウイルス抗原検査では34.2%が陽性、RT-PCRでは61.2%が陽性であった。ウイルス培養陽性期間と症状の有無・抗原検査結果の関連はなかったが、既往感染は感染ウイルス排出期間を短縮していて10日目は0%だった。(私見では、たとえウイルス排出していてもマスク・手洗い等スタンダードプレコーションを守っていればヒトに移すことは無いと分かってきているので、無症状ならば出勤停止期間を10日以上に延長する必要はないと思う。実際そう実践してきていて問題は起きていない。)】
初期の武漢株による発生初期には肺胞への親和性が強く症状の有無に係らず感染者の半数に間質性肺炎像が認められるとの驚くべき報告が自衛隊中央病院よりなされて(2020年6月、1/3弱が重症、2/3は軽症/無症状)、事実俳優の志村けんが急死してその前後も本人の自覚が乏しい中で急死する患者が相次ぎ世界を席巻し、happy anoxiaと恐れられた。しかも肺だけでなく全身のあらゆる臓器に侵入傷害しその死因も多彩であった。しかしウイルス変異のサイクルが激しくわずか数年で肺胞をはじめとした全身への毒性が軽減してきているように見え、その感染対策への考え方も時々刻々と次々に変わり議論も百出であった。
中国武漢での初発が2019年12月で日本への初発例は2020年1月15日に確認されて以来、その後の5か月間に日本国内でも668人が死亡したとされている。
そしてウイルス自体も変異が激しく弱毒化に並行してワクチン行政も進み、昨年2023年5月8日からは感染症類型も5類に変更となっている。手放しで安心するには未だ時期尚早の段階であるが、これまでの事実をもとに現段階でのCOVID-19患者からの感染リスクの程度についてまとめてみる。
A: officialには5類になって以降は感染前後の対応が個人の判断に任されて「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」が登校・登園・出勤を控える公的な推奨期間とされた(①)。従って出勤は6日目から/7日目からに設定していることが多いと思われ、症状があれば10日までの欠勤も認めている職場等が多いのではないかと思われる。現に症状が残っていてもマスク・手洗いをはじめとした基本予防策を守っていれば出勤しても他人に移してしまう心配はないとされるようになってきている。
B:COVID-19患者からのウイルス排出量の程度と期間について、
イギリスでの健康人での2回の人体実験の報告(初回②:未感染者2022年・2回目③:既感染者2024年)からは、健康人未感染者の鼻腔にCOVID-CoV-2のウイルス(10TCID50)を直接注入しても感染したのは半数(18人/34人中)で発症しても軽中等症(16/18人中)、感染しても11%(2/18人中)は無症状だったという。しかも2回目実験の免疫獲得済の健康人ではその希釈系列max1万倍までのウイルス量を鼻腔に直接注入しても発症したのは何と全体の14%(5人/36人中)のみでしかも一過性の軽症だった(1x10^5TCID50の最大ウイルス量でも一過性感染は8例中1例のみ、一過性感染とウイルス量の相関無し)。しかもその後に変異株のオミクロン株にも罹患した者の発症者が39%(14/36)と増えたもののすべて軽症だったという。
この実験からはかなり多くのウイルスを吸入してもすべてが発症するわけではないこと、免疫効果は著明であること、変異株オミクロン株へのワクチン効果もあること、等を示していた。発症するヒトと発症しないヒトの違い、一部のヒトが何故重症化するのか、なぜ後遺症が出るヒトがいるのか等なお未解明部分が多いようだが、自然免疫能と獲得免疫能とのバランスや違いにあるとの推定もあるようだ④。
これは一般的な病原体にも言えることかもしれないがCOVID-19も、多量のウイルスを吸入しても発症しないヒトがいるという事実を上記実験で確認したことになる。
ウイルス量Ct値30≒PCR10000コピー≒10TCID50なので、10000コピー中のviableなウイルスは10-100個(1/100~1/1000)位という(⑤⑥⑦但し標準化や精度管理不明)。また上記人体実験で希釈系列max10万TCID50のviableウイルスを鼻腔内注入しても発症したのは全体の14%に過ぎないということは言い換えれば感染性を持った新型コロナウイルス粒子10~100万個が体内に入っても半数しか発病しないということである(但し免疫があった場合!)。その半数も大部分の人がカゼ程度で済んでしまうのに(実験上重症者ゼロ)、臨床現場では極一部でなぜ死に至るほどの重症になるのか、あるいは後遺症が残ってしまうのか、については今尚未解明の点が多い。
暴露ウイルス量と感染・発症との関係では暴露ウイルス量が多い方が感染・発症確率は上がるとされている(⑧)。この資料図9によれば10^10コピー/mlのウイルス量排出での他人への感染確率は20%位という。感染リスクは従って日常生活においては神経質すぎるのも楽観的過ぎるのも良くない。いわゆる中庸をどう保つかが実生活のポイントということになる。マスコミで特別扱いされた不織布マスクも呼気の湿気で静電効果を失えば(N95マスクは更に機能低下)普通の布マスクと効果は同じか却って機能低下してしまうのである。数時間毎に交換しなければ効果が出ない不織布マスクはSDGsの理念にも反する。このことを考えれば不織布マスクに拘る必要はないのである。にもかかわらず現実は不織布マスクが定番になって今も世の中を席巻してしまっているのは皮肉としか言いようがない。(⑨⑩⑪⑫⑬)。
C:ウイルス排出が感染リスクに直接結びつく訳ではないという事実について(SRAS-CoV-2とノロウイルスの比較も含めて)、
SARS-CoV-2は変異が激しくその発症確率も時間とともに変化し得るので、各時点での発症確率はその都度検証する必要があるがこれまでのデータから判断すれば、
英国の初回人体実験②からは、発症確率は10TCID50のウイルス量で50%であった。これは免疫がない場合で免疫がある場合(既感染±ワクチン)は更に低く発症確率はウイルス量が更に多くても全体の14%しか感染しなかった。
一方ノロウイルスは、10~100個のウイルス量で感染成立するとは公的に言い古されてきていたことである(⑭⑮)。これは素人目に分かり易い説明であるが正確に言うと⑮によれば、50%発症確率は10^6(百万)コピー、10%発症確率は10^3(1000)コピー、70%発症確率は10^8(1億)コピーである。PCRはウイルス断片も含まれるのでviableなウイルス粒子はもっとずっと少ないはずであるが参考にはなる。要するにノロウイルス10~100個で感染すると言ってもほんの一部のヒト数%が感染するだけということである。しかも感染しても必ずしも発症する訳でもないのである。
50%感染確率で比較すると、SARS-CoV-2は1万コピー、ノロウイルスは100万コピーとなる。感染力が強いとされるノロウイルスよりも100倍感染力が強いことになる。しかしPCRはウイルス粒子断片も含むので感染性ウイルス粒子の比較ではないので比較の価値があるかどうかは疑わしいが参考にはなる。
D:空気感染の定義について、
SARS発生の時もそうだったが今回のCOVID-19も早期より空気感染し得るという説が学会を含めて出たり消えたりしていた(⑯⑰⑱)。
COVID-19発生前までは空気感染(=飛沫核感染)が日本で公式に認められていたのは結核・麻疹・水痘の3つのみであった。
これまで空気感染という言葉については特別な感覚・意味合いを医療者は持っていた。同じ部屋空間の共有が不可とされた故、結核は別棟の療養所または陰圧病室と定められていたし、麻疹の子供が同じ病院内待合室にいたのが分かると病院内は大騒ぎしたし、水痘は殆どのヒトが既感染済なので普通の病院は気にしなかったが免疫能低下の白血病病棟等で発生すればパニックにさえなったという。医療者の空気感染の認識はそうであった。
2003年のSARS発生時もその問題は燻ぶっていたが今回2020年からのCOVID-19発生ではとうとう用語の曖昧さ故に放置出来なくなり、エロゾル感染やマイクロ飛沫感染等新たな無定義のままの学術語が独り歩きして飛び交うようになった。そしてついに最近(2024年4月)WHOからも用語の共通認識を図るための新定義の試みが出てきた⑲。願ってもないことである。
しかし統一見解には未だ程遠いような印象を受ける。従来のように感染粒子の大きさで区別するという考え方からは脱却して新たな視点からその感染様式を決めようと努力しているのは確かのようだ。そのIRPs(infectious respiratory particles)という別表現には対立意見もあるようで意見調整にはなお時間が必要のように見える。短時間か長時間の感染性をその空間が保っているかどうかで現場対応は大きく異なってくるが、このIRPsには時間の概念がないように見える。これだけでも意見統一はできないのではないかと思える。
今の所、尾身茂氏が示していた【・・2.7.30.の政府のアドバイザリーボード資料「新型コロナウイルス感染症はこうした経路で広がっています」の中では異なる概念であると明示している。空気感染が長時間・長距離まで感染が広がり得るのに対してエアロゾル感染は、3密等の一定条件下で起こり得る少し長い時間・少し長い距離にまで感染が拡がり得る場合を指すと言っていた(意訳)、この言葉が定着した今これがofficialな見解になるのだと思う。本書を読んで初めてその定義を知った。・・(資料⑳より)】これが日本の当面の妥当な考え方と思われる。
以下資料:
①新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 療 養 に 関 す る Q & A(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf 。
②Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nat Med. 2022 May;28(5):1031-1041. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361992/ 。
③Safety, tolerability, viral kinetics, and immune correlates of protection in healthy, seropositive UK adults inoculated with SARS-CoV-2: a single-centre, open-label, phase 1 controlled human infection study. Lancet Microbe 26/04/2024 https://www.immunology.ox.ac.uk/publications/1994167 。
④宮坂 昌之氏情報: https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0LBuoq3FUQLNAciRomhxiEHm6FcSXF395J7RKdXMkk193mjFGHFTFbmDJZXe2a798l?__cft__[0]=AZXh4nC6Iy-hHTmMqEjvwU1FKLm4d5m5wVNHBhH5rg3NAw45GD5s-9_wAr0IxSX5MgFBF4aFqGbkQMgLO1Bl3Zjv1xmDeZjXSP7zvoIZs1MIpb8eBRTpOkDvIgZGeUgPgQaIxWiMXTGYPcQZMVelGZ8odsym4BcJ-A-NOPj39HgZzg&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑤検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察 (IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10133-491d01.html 。
⑥富山県内新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離解析―富山県衛生研究所(IASR Vol. 42 p84-86: 2021年4月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10303-494d03.html 。
⑦ウイルス学エピソード(5)ウイルスの個数って数えられる? 令和2年6月26日 神奈川県衛生研究所 https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_virology/virology_episode_05.html 。
⑧厚労省:第56回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月20日)資料3-7 舘田先生提出資料(図9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html#h2_free10 。
⑨N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 2020/04/24 西村 秀一(仙台医療センター)日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html 。
⑩マスクはどうやってウイルスをろ過してる?2020年5月24日 https://infipwr.com/2020/05/24/maskfilter/ 。
⑪電気通信大学 石垣 陽:マスクの安全を守る静電気技術 http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE202_3_open.pdf 。
⑫東京大学生産技術研究所:「マスク・チャージャー」の開発――静電気の力でマスクをパワーアップ2023.04.26 https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4207/ 。
⑬新型コロナウイルスでのマスク不足について。新型コロナウイルス生存期間。BSL-4。 ―2020年02月28日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/02/28/9218715 。
⑭厚労省:ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について 平成27年国立医薬品食品衛生研究所 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf 。
⑮国土交通省:参考資料編 参考6.ノロウイルスの用量反応p70 https://www.mlit.go.jp/common/000116093.pdf 。
⑯新型コロナは"空気感染"です(第61回日本臨床ウイルス学会)仙台医療センター西村秀一氏が学会で講演2020年11月06日 メディカルトリビューン https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1106533287/?utm_source=mail&utm_medium=recent&utm_campaign=mailmag201107 。
⑰オーストラリア:Airborne transmission of SARS-CoV-2: The world should face the reality(2020年6月) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041202031254X?via%3Dihub 。
⑱新型コロナの、空気感染・エアゾル感染・マイクロ飛沫感染? 言葉の定義を巡って https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/18/9317806 。
⑲WHO:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air 18 April 2024 https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air 。
⑳尾身茂著「1100日間の葛藤」を購入して、わが身を振り返る https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02FCir8PTCV9p1k2EkKuv43T32g9jb7UmWPDRudHFWW6xyNBBT1ArHzbQ8L6biF1YJl?__cft__[0]=AZUtT06p1yfDHAR92krqzvHi-RIiiXmsSkcqG0OigXKnMsSTMPoNMV3HLPcTLIg0yJIqvhOJi_UfLvcoYErz9PNkIHoL41IVXzgw1XWbMkGyg0wPZW9hLEE5uHnqAroBlI4&__tn__=%2CO%2CP-R 。
(追加)
㉑Timing and Predictors of Loss of Infectivity Among Healthcare Workers With Mild Primary and Recurrent COVID-19: A Prospective Observational Cohort Study. Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):613-624. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37675577/ 。
【人員不足もあり医療従事者は一定の条件で5日間での出勤可能の判断が既にCDC等や日本でも許可されていた中での検証研究。カナダの大規模病院20施設の観察研究データで、2022年2月から約1年間のCOVID-19発症の軽症患者121名について感染性ウイルスの排出持続期間をウイルス分離培養にて調査した。 結果:発症日を1日目としてウイルス培養陽性率は5日目71.9%,7日目46.7%,10日目18.2%であった。即ち10日目でも18.2%は感染性ウイルスをなお排出していた。なお、10日目でもウイルス抗原検査では34.2%が陽性、RT-PCRでは61.2%が陽性であった。ウイルス培養陽性期間と症状の有無・抗原検査結果の関連はなかったが、既往感染は感染ウイルス排出期間を短縮していて10日目は0%だった。(私見では、たとえウイルス排出していてもマスク・手洗い等スタンダードプレコーションを守っていればヒトに移すことは無いと分かってきているので、無症状ならば出勤停止期間を10日以上に延長する必要はないと思う。実際そう実践してきていて問題は起きていない。)】
アナフィラキシー治療のアドレナリン使用・・と解釈変更してしまう不思議さについて、 ― 2024年07月31日
(2024年07月31日 facebook メモ)
(長文で失礼します)
アナフィラキシー治療のアドレナリン使用にあたって、「筋注する」が「筋注でなければならない」と変わったり「最大投与量0.5ml」が単なる「0.5mg」に変わったと解釈変更してしまう不思議さについて、
これは、日常臨床で体験している中での解釈と情報からのみ得た解釈とでは具体性が異なるので解釈変更してしまうのも止むを得ないことかも知れないが、アナフィラキシー対応は個々の重症度等でアドレナリン量の調節が必要であるし、緊急を要し場合によっては副反応にも生死にも直接係る問題でもあるし、無視できないことも含まれていると思われるので敢えて調べ言及してみた。
日本ではエピペンが2003年に厚労省から正式認可されるまではアナイラキシーリスクの高い林業者等には費用は病院持ち出しで普通の1mlシリンジにアドレナリン0.5mgを入れて本人に携行させていた。10円にも満たない安価な薬なのでエピペンが出来て(大人用0.3mg)1本1万円でしかも登録しなければ医師も処方できないとあって初期は日本では不評であった。しかし0.3mgという絶妙な量(効果もあり副反応の心配も無視できる)にして製品化したことには見事であると思い、アメリカ人は商売気があるなあと感心していた。薬の原価はゼロに近いものなので当時何故日本人は考え付かなかったのかとさえ思ったが、今や新型コロナワクチン注射など集団接種会場等のリスク現場ではアドレナリンがあるのにもかかわらずエピペンも備えないと後ろめたささえ感じるような雰囲気になっている。エピペンの使用の安心感はその充填量(大人用0.3mg,小児用0.15mg)にも無縁ではないと思っているのは、アドレナリンへの感受性は個人により更には同一人でもその時の病態等で変わり得るからである。例えば大人用ならば0.3mgという量は動悸等副反応がmax出ても心配するほどにはならない一方、1mgでは死に至る副反応リスクもあり得るし、0.5mgでも感受性の高い患者は“口から心臓が飛び出るほどに動悸がひどい”と効き過ぎることも実際あるからである。喘息患者にはアドレナリンなどβ刺激剤の内服・注射・吸入等が今でも普通に使われているが(β2-selective剤が普通)、大人でも感受性の高い患者はたとえ半量等の小児量でも手指振戦や動機は時に日常的に専門医ならば経験する事である。そして当然ながら量調節が必要となる(難吸収性のステロイド合剤が開発され製品化されてきて発作コントロールも容易になり喘息難治化率も減少してからは出会う機会も少なくなったであろうが、アドレナリンのβ効果は気管支拡張とともに動悸・頻脈・手指振戦は最も身近な過剰症状であるし薬が効いている証拠でもある。
※過剰症状出現は内服であろうが注射であろうが吸入であろうが通常使用量でも出るときは出る。手指振戦は気管支拡張と同じβ2効果とされている。(※ →2024.8.10追加)。
上記のような状況下でまず、医療の在り方はその時代の良識範囲のみで許可され得るものであることが前提である。その前提が崩れないように社会の認識を擦り合わせておく必要があることに誰も異論はないと思われるので、表題のように良識範囲の認識がずれかねない杞憂を感じ敢えて取り上げたいと思う。これは医療裁判にもかかわる問題と思っている(※※後記)。
アナフィラキシー対応の臨床現場では状況に応じた柔軟な姿勢が成功のカギとなるのは言うまでもない。現場の融通性なくしてアドレナリン使用量0.5mgと機械的に固定した場合について、および、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について分けて取り上げる。
まず、アドレナリン使用量が0.5mgに変わったという認識が周知され固定化された場合、当然のことながら機械的に0.5mg使用が当てはめられかねないことは容易に想像がつく。それは重症・軽症に係らず適用されかねない。かつて50数年前に “ペニシリンショックはアドレナリン半筒と覚えておきたまえ“ と学生時代に教科書的に教えられ、そのままをロボットの如く機械的に当てはめた医師になりたての初期の頃と変わらないことになる。0.5mgでも99%大きな問題は出ないと思われるがその中には副反応で余分な負荷を患者に与えかねないということをも内在している。それよりもっと大きく大切で注意すべき問題は、反応不十分の場合は複数回の追加を考慮しなければいけないという事である。そのことこそ現場対応での必須要件でありそれを怠ると生命のリスクが再燃しかねない。このことにはだれも異存はないと思う。それは0.2mg/1回量でも0.3mg/1回量でも0.5mg/1回量でも、1回使用量云々を超えた必須の事項であり1回量云々の問題ではない。現場状況に合わせた柔軟な対応をしてこそ真の有効な医療になる。
日本のアナフィラキシーガイドライン2022では最大投与量0.5mg(p.21)とした中での表14のように簡易化しても良いと言っているのであって表14のみ取り上げて13歳以上の子供を含む大人は0.5mgに変わったと受け取られかねない表現、しかもご丁寧に体重50kgでは0.3mgでは足りないかもしれないとしている学会グループ等が目につくがこれは誤解の元である(⑤⑥⑦)。前述のように0.5mgでも効き過ぎるときもあれば不足のこともあるので、足りなければ追加すればよいだけの話である。エピペンは0.3mg製剤しかないので使用を迷わせかねないもとになる表現である。エピペンを使って不十分ならば同成分のアドレナリンを追加すればよいだけの話である。
アドレナリン注射時のヒトの体内動態の論文は数少なく一様に取り上げられるのはSimonsの論文である(①)。アナフィラキシーガイドライン2022にもアドレナリン血中濃度は筋注後10分程度で最高になり40分程度で半減すると引用されている(p.21)。これは外因性のアドレナリンの血中濃度が最高になるとは言っていないが、何故か外因性のものの血行動態と勘違いしているのではないかと思わせるような医師等専門家の意見を聞くことが多い。これはアドレナリン代謝は体内で速やかに代謝されるという添付文書の記述にも医薬品インタビューホームの記述にも矛盾するし(②)、これまで一般的に速やかに代謝されて血中半減期は約2-3分と言われてきたことにも矛盾する(③)。AHAガイドライン2020ではCPR(心肺蘇生)中は3-5分毎にアドレナリン1mg静注としている。
ヒトでの資料が少ない中で上記Simonsの論文は貴重であり学ぶことが多いが、彼らがDiscussionで述べていることには違和感を感ずる点もある。その一つは投与前に内因性のアドレナリンをチェックしているので測定の上昇は外因性のアドレナリンであるというように思い込んでいるのではないかという違和感である。この解釈が変だと思うのには現場で経験していれば直ぐ分かることだが、複数のアドレナリン投与法がある中で0.2mlづつ頻回に行う方法もあり例えば0.2mlを20-30秒毎に5回行って計1mlになっても副反応は殆どでないが1回に1mg行えば筋注であろうが皮下注であろうが致死的になり得る危険があることは全ての医師が承知の如くである。(1回当り0.2ml・0.3ml・0.5mlと症例の重症度によって普段使い分けをしていても血圧低下や起き上がれなくなるほどの重症症例では意識があっても迷わず0.5ml施行は当然であるし、逆にCPA等以外は絶対0.5mgを越えない)。0.2mlづつ20-30秒ごとに分割投与すれば計1mgになっても副反応がなく1回投与で1mg行えば致死的リスクが発生し得ることから考えれば、アドレナリン注射後の上昇には内因性アドレナリン分泌も関与しているはずであることは容易に推定できると思う。未体験であれば実際行ってみれば直ぐ解る事である。わずかな量違いに見えるかもしれないが逆に過量についても実際1mg1回投与で事故も起きている(⑧⑨⑩)。Imgと0.5mgでは天と地ほどもその効果は違うのである。10分後20分後でも血中アドレナリン濃度が高く40分後でも半減する程度に高いというのも理解できるのである。また8分経過しなければアドレナリンが効いてこないという解釈も聞くことがあるがこれも間違いであることは、論文①の血中濃度経過グラフをみれば明らかなように、皮下注も筋注も濃度の差こそあれ最初のピークは2-3分の短時間にあると思われ、筋注・皮下注の発現時間の違いはなく同じであることが解る。実際医薬品インタビューフォームでも心血管系への反応は直ちにとなっている(②)。Simonsの論文①の意図は序文で述べているように、皮下注より筋注の方が速く吸収されるのではないかという仮説が前提になっていて、結果もその前提に矛盾しないと言っているのでそれに異を唱えるつもりはない。この論文によればもともと米国でも皮下注をしていたことに対して筋注の方が好ましいと言っているので、このことにも異を唱えるつもりはないが、このデータをもって皮下注では駄目だと結論付けるのが間違いだと言いたいだけである。要するに筋注でも皮下注でも現場の裁量で選べばよいのである。在野の仕事現場でいきなりアナフィラキシーが発現してエピペンを持ち合わせていたらたとえズボンの上からでも良いから大腿(大腿外側広筋)に筋注すればよいし、病院の診察台の上にいれば上腕の衣服を捲り上げて筋注でも皮下注でもどちらでも良いから速やかにまず1回目の注射をすればよいのである。
なお論文①にもある様に筋注でも皮下注でも強度の違いはあれ注射2-3分の短時間で速やかな血中濃度ピークが出現して脈拍上昇等も付随するという所見に対しては、その解釈が、外因性アドレナリンが吸収されたためなのか神経反射のためなのか内因性アドレナリン分泌も係るのか等については未だ未解明の点が残っているようである。
次に、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について取り上げる。
アドレナリンは日本人(高峰譲吉&上中啓三)によって1900年に発見されて、論文①にもある様にアナフィラキシー治療に使用されるようになったのはその後で、私が医師になった1970年代初めにはもう当たり前にアナフィラキシー治療に使われていた。当時は主に皮下注で行われていた。
アドレナリン注射だけでなくワクチン注射も特に日本においては小児の大腿四頭筋拘縮症の発生に凝りて、ワクチン注射までも皮下注に限定されるようになっていて小児は筋注の方がやり易いようで日本小児科学会等から筋注も認めてくれと言うようになっていた(⑱)。ところがいつの間にか刷り替えられて感染症医等から筋注にすべきという声の方が大きくて、今やワクチンの注射は筋注に限定するかのように行政府までも動かされるようになってしまった。これも日本の実態を無視した一方的な流れに傾きつつある現状がある。若くて健康な人は筋注・皮下注どちらでもよいが高齢者の一部には筋注したくても筋注できる筋肉がない人もいるのである(高齢者施設の実態は⑪⑫⑬参照)。免疫力の落ちた高齢者こそ優先的にすべきだとの意見と矛盾もしている。
例えばワクチン添付文書の記載が「筋注又は皮下注」になっていれば問題はないのだが、特に最近の新型コロナワクチン導入初期には、筋注と皮下注は天と地ほどに効果が違うと一部の医療界から喧伝されて筋注でなければ駄目だと社会までもが動かされるようになってしまった。血中吸収に違いは有れども免疫効果には大差がないことは免疫の専門家に聞いてもらえばわかることである。感染症医は免疫の専門家ではない。日本の高齢介護施設入所者は筋注限定されると約1/3は該当しなくなるという実態が日本にはあることが意外と知られていない。
筋注皮下注問題はアナフィラキシー時のアドレナリンについても同様で、既に述べた如くアドレナリンへの感受性は個々で異なりそのメカニズムは必ずしも明確にはなっていないが、CPA状態ではアドレナリン1mg静注してさえさらに3-5分毎の追加が必要だとされる如く病態によってもその使用量も回数も異なることは言うを俟たない。言い方を変えればアドレナリンの血中濃度だけで効果の判断もできないとも言えるのである。そのメカニズムはいまだに不明の点があるようで、かつてacidosisでは効かないとも言われたがその根拠が正確なのかどうかも分からない。とにかく臨床的に皮下注・筋注どちらも有効なことは前述の如く明らかなので、どちらも許容すべきである。要するに、皮下注でも筋注でもどちらでも良いから引き続くアナフィラキシー対応を次々と先手を打って打ち出すことこそ必須であると言うに尽きる。また、アナフィラキシー治療にアドレナリン注射が極めて大きい役割を持つのは確実であるが、一方、心肺停止に至る程の重症者の生死にアドレナリン注射の使用の有無をもって効果を絶対視することにも疑問符が付くのは英国での大規模試験の結果を見れば分かる(⑭a,⑭b)。救急入院前の早期からCPA患者にアドレナリン投与してもPlaceboと比べて生存率に有意差はなく、逆に重度の神経障害後遺症発生はアドレナリン使用群の方が高かったのである。
(※偉そうなことを言って申し訳ないが、意見を述べる以上その土台は明らかにしておかねばならないので茲に述べておく。自分は元アレルギー専門医であり、数年前に不要になったと自己判断してその専門医は返納してしまったが今でも日本アレルギー学会から「功労会員の証」は受けている。1972年に医師になり以来40數年に亘ってアレルギー・喘息診療に従事してきて毎週のアレルギー外来等では軽症から急速な一時的心肺停止した重症例に至るまでアナフィラキシーや重症/難治性/喘息も多く現場で診てきたと自負している。急激な重症喘息発作とアナフィラキシーの鑑別の困難症例も勿論ある。そして当然アドレナリンは極めて有効な武器の一つで無数回といって良い程に実際行ってきたが、その投与法・投与量・効果の強弱程度等も症例毎に異なることも体感してきた。そして軽症のアナフィラキシーの場合と心肺停止に至る程の重症の場合ではその使用量・使用法は当然異なってくる。そして、だらだらと慢性状態の中での悪化なのかその直前は健康であったのが重症急変したのか等の病態や環境状況によってもその効果も対応も微妙に異なってくることも理解できていたつもりである。例えば症状が無い患者がいきなりアナフィラキシーや重症喘息発作等急激に発症悪化した場合はアドレナリンが極めて良く効く一方、慢性の前者の急激悪化重症の場合はアドレナリンの効果は極めて悪い、等の違いがあり、難治性喘息かつてintractable asthmaと呼称していたが、今は重症喘息発作と難治性喘息発作は却って区別が曖昧になっている。ATSやERSに合わせて難治性喘息をrefractory asthmaと再定義するようになっている(『難治性喘息 診断と治療の手引き2019(日本呼吸器学会編)』)。
資料:
①Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis. FE Simons, JR Roberts, Xiaochen Gu, KJ Simons. J Allergy Clin Immunol 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7. https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(98)70190-3/fulltext 。
【アナフィラキー既往のある小児計17人についてアドレナリン筋注・皮下注のグループ分けの比較をしたデータを提示して、筋注の方が吸収効率が良いと考察している。】
②アドレナリン注0.1%の医薬品インタビューフォーム2018年5月改訂テルモ(製薬企業からの情報提供書) Ⅵ.薬効薬理に関する項目p10. https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2451402G1040 。
【効果発現時間: 心血管系:直ちに,気管支拡張:変動しやすい(筋注),6~15min(皮下注)。最大効果発現時間:気管支拡張:0.3hr(皮下注)。効果持続時間:心血管系:1~2min,気管支拡張:1~4hr(筋注,皮下注)。アドレナリン添付文書では交感神経細胞内に取り込まれるかあるいは組織内で主としてMAO、COMTにより速やかに・・代謝され不活性化される、とある。今回テルモか第一三共かで表現が微妙に異なることに気付いた。】
③院外心肺停止傷病者に対するアドレナリン投与間隔の社会復帰に与える影響 日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:551-8 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/23/4/23_551/_pdf/-char/ja 。
【アドレナリンの消失半減期は約 2 〜 3 分。心肺停止の場合は5分以内の再投与の方が予後が良かった。】
④心肺蘇生(CPR)と救急心血管治療(ECC)に関するAHAガイドライン 2020(ハイライト) https://cpr.heart.org/-/media/cpr-files/cpr-guidelines-files/highlights/hghlghts_2020eccguidelines_japanese.pdf 。
【CPR処置中は3-5分毎にアドレナリン静注をするフローチャートを提示し、CPR中のアドレナリン1mg静注は3-5分毎に行うとなっている。】
⑤アドレナリン(ボスミン)筋注の推奨投与量が変更になりました2023.1.31埼玉協同病院薬剤科DIニュース https://kyoudou-hp.com/DInews/2023/642.pdf 。
【誤解されやすい表現になっている】
⑥アナフィラキシーガイドライン改訂2022(2023_0301版)弘前大学医学部附属病院に高度救命救急センター2024年1月12日 https://emergency-hirosaki.com/case-reports-papers/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%94%B9%E8%A8%822022/ 。
【薬物治療:第一選択薬はアドレナリン筋注です筋注!これでは筋注でなければ駄目だと言っているように見える。】
⑦ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート公開のお知らせ( 2023/6/14 大人用を改変)日本救急医学会 https://www.jaam.jp/info/2021/info-20210622.html 。
【大人の場合はアドレナリン0.5mgに変更になったと言っている。エピペンは50kg成人に対しては容量が少ないことを念頭に置くこと、と添え書きをしている。】
⑧救急活動時の救急救命処置による事故調査・検証報告書 令和4年2月15日千葉市救急業務検討委員会 https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/220311-3-2.pdf 。
【エビを食べた10代女性にアドレナリン1A(1mg)静注して心室細動 心肺停止した2021年に起きた事故報告書】
⑨「アドレナリン静注で心停止」した事故を振り返る2022/03/24日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/yakushiji/202203/574371.html 。
【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑩アナフィラキシー症状で搬送中の10代女性、救急隊員の投薬ミスで心肺停止に
2021/10/08 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/national/20211008-OYT1T50012/ 。
【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑪皮下注か筋注かで気になったのでちょっと一言。2020年9月19日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02xnxzq2fn9JjCdzNp7zUAT2VMgVMtGdKJqMwQvHQnv5d64TGAee39wj86pNb14Vsnl?__cft__[0]=AZVSKbzOfE6LWxuV4XJHhm9-cSOH2Njtd3SpIS1WbcZGFshe38zjuyYL0AK_nyVHokkpFi0vPTm9K4wj_zqwTkcRPA84Pyelqqu_aAYnpos5hlTQHjWXxIxMUR4FXoCmnqU&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑫ワクチン筋注、たかが筋注されど筋注:古くて新しい問題。2022年9月6日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02wYERt41srBnPsZk8gA1LU91FjQrZsgonCmtLUP7k4xr9yP8zaYaKCXPM3deYyw22l?__cft__[0]=AZW8XaE_lhr60erX-v0zTCMUL22OAh9URNGQfdYDvZ6P3rcG3qdQVT-PQEPDBT22a0VdJVPBEW_ofJio70f_tPQL8004XxwlLRPLmNWSchdV2tVxiiqwVZ2FA2lDi5x76gI&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑬・・筋注・皮下注とで免疫効果は違わない・・2022年6月23日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid0wnbTDB2mt8ZFK5pdS3vwVrQ78u7KQAVvPXEDrSDUBW64LjSrqwqDpuEFSif4ZbQl?__cft__[0]=AZVuA-ePbDEzNRR0gQW9n-s_jH9cT8-Vegw51LqChGO6zLa-l4-J5sOARFKtzr5YUyRSVHInuRnznHFMI-vc6ZoCZXvff8I2bkwoCHFPs2EK6D71ck6chFJdvrgtnm0CD74&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑭a Perkins GD, Ji C, Deakin CD, et al. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med. 2018;379(8):711-21. https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1806842?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov 。
⑭b Haywood KL, Ji C, Quinn T, et al. Long term outcomes of participants in the PARAMEDIC2 randomised trial of adrenaline in out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation. 2021;160:84-93. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(21)00028-9/abstract 。
【⑭a:英国でのPARAMEDIC2試験で、2014年から3年間にわたって救急入院前からのアドレナリン使用の効果をPlaceboと比較した。計8014人に及ぶ大規模試験である。CPA患者に救急入院前からアドレナリンかplaceboを使った。30日後の生存は3.2%対2.4%と改善傾向がアドレナリン群で見られたが有意差無し、神経学的予後良好な患者の割合は更に差がなくなり2.2%対1.9%で有意差無し。しかも神経学的に強い障害が残ったのは31.0%対17.8%とアドレナリン群で多くみられた。
⑭b:さらに12か月後迄のフォローアップ結果が報告された。6か月後・12か月後の生存率はそれぞれ2.9%対2.2%・2.7%対2.0%で、神経学的予後良好の患者は6か月後で2.0%対1.5%で更に低く有意差もない。病院に到着する前からアドレナリンを使ってもその効果は絶対ではないことを示したデータである。】
其の他関連資料:
⑮アドレナリン製剤の使用上の注意の改訂について 平成30年8月3日 医薬安全対策課 厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000341843.pdf 。
【アナフィラキシー時のアドレナリン併用は抗精神薬との併用禁忌が従来あり、救急医等が代替薬としてピトレッシン等様々に主張工夫していた時期があったがどれも現実的でなく、やっと平成30(2018)年に禁忌項目が削除され、救急の現場で抗精神薬を使っていても堂々とアドレナリンを使えるようになった。】
⑯Dose-dependent vasopressor response to epinephrine during CPR in human beings Ann Emerg Med. 1989 Sep;18(9):920-6 https://www.annemergmed.com/article/S0196-0644(89)80453-6/abstract 。
【CPR試行中に5分間隔でアドレナリン1mg・3mg・5mg投与を行ったら量依存的に血圧上昇した。】
⑰マネーゲームと化した米薬価事情 仲野博文 尼崎労基協会 第374号12月号p9 平成28年11月25日 https://web.archive.org/web/20211125191554/http://www.amaroukyo.com/wp-content/uploads/2016/11/2812.pdf 。
【1987年にFDAに認可されたエピペンはその後メルク社→マイラン社に買収されて、60ドル→600ドルに値上げされ、マネーゲームに使われ米国で社会問題にまでなったと報告している。日本では2003年に厚労省に認可されて2011年薬価収載されるまでは自費でしかも許可を得た医師のみが処方できた。新型コロナワクチン注射によるアナフィラキシー対応で皮肉にも広く人口に膾炙されて、するかしないかで裁判沙汰にもなるようになった。】
⑱要望書:不活化ワクチンの筋肉内注射の添付文書への記載の変更について 日本小児科学会 平成23年6月16日 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_1106273.pdf 。
【インフルエンザワクチンなど不活化ワクチン接種時の接種方法として添付文書に、皮下接種に加えて、筋肉内注射で行うことも可能とする記載を要望する、と厚労大臣に要望している。小児科学会は筋注に変更して欲しいと言っているのではなく皮下注とともに筋注も許可してほしいと言っているのである。なお生ワクチンは米国でも皮下注。】
※※(2024/8/30追記)
上記私見を書くきっかけになったのは下記2つの事例をニュースで知ったためであり、これではまともな医療が出来なくなるのではないかと恐れたためである。その前までは1994年法医学会ガイドラインが出て以来日本医師会を含む多くの学会で喧々諤々の議論がなされ、それでも何でも警察に届出るようにとなっていて別の様々な歪みが出ていて多くの問題があったが、議論後の2015年に出来た今の医療事故調査制度は逆方向に大きく振れてしまっている現状がある。
〇愛知 愛西 ワクチン接種後女性死亡 遺族が市を提訴へ2023年11月23日NHK https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20231123/3000032905.html 。
新型コロナワクチン死亡損害賠償訴訟 愛知・愛西市は争う姿勢2024年2月9日NHK https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20240209/3000034151.html 。
【上記の2つのニュースは、2022.11.5.に起きた新型コロナワクチン集団接種会場で起きた短時間で死亡した事例の公式報告書が2023.9.26.公表されたのを受けて家族が愛西市を訴えた2023.11.23.及び2024.2.9.の裁判のニュース。この報告書が訴えのきっかけになったと思われる裁判であり、ご家族の気持ちを逆なでするような稚拙な思い込みによる公式報告書であった。一方医療側も、これが「自然死」であるはずはないが、原因究明の解剖はしていなかった。この事例を受け入れた救急病院が死後の解剖をしていないのは現在の医療事故調査制度(第3者による死因究明組織であるべき、のはずが頓挫して届出は第3者でない従来の警察になったままになっている)が歪められた解釈をされたためとしか考えられない。換言すれば今の医療事故調査制度は返って改悪された状態のままである。】
〇コロナワクチン接種後に男性死亡 遺族が国や神戸市など提訴 2024/6/3 神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202406/0017729399.shtml 。
【この死亡例も法医解剖であれ行政解剖であれ病理解剖であれ原因究明の解剖をしていない。これは死亡診断書の記載ルール上からは「自然死」と判断したとしか思われない。常識では考えられない判断だがそのもとにあるのは、2015年から新たに施行された医療事故調査制度であり、それが歪んで解釈された結果と思われる。
抑々病理解剖では家族が嫌がるのを医療側がどうにか説得してやっと解剖できるというのが正常の道筋であり、一方、法医解剖では遺族が拒否した場合は現場の刑事と病院側が相談して犯罪性はゼロなので行わないことも止むを得ないと判断しても現場を知らない決定権のある警察上司に現場刑事がお伺いを立てるのであるが、その上司は万が一の自己保身のためと思われるが犯罪性がゼロであっても警察に届出された以上は法医解剖が必要と裁判所の許可を得てでも行えと強権を発動する、これが私の多く経験した現場の実態であった。ところがこの2つの裁判例の場合は本末転倒で逆に解剖の未施行が医療側の責任として責められている。】
(以上、終わり)
(長文で失礼します)
アナフィラキシー治療のアドレナリン使用にあたって、「筋注する」が「筋注でなければならない」と変わったり「最大投与量0.5ml」が単なる「0.5mg」に変わったと解釈変更してしまう不思議さについて、
これは、日常臨床で体験している中での解釈と情報からのみ得た解釈とでは具体性が異なるので解釈変更してしまうのも止むを得ないことかも知れないが、アナフィラキシー対応は個々の重症度等でアドレナリン量の調節が必要であるし、緊急を要し場合によっては副反応にも生死にも直接係る問題でもあるし、無視できないことも含まれていると思われるので敢えて調べ言及してみた。
日本ではエピペンが2003年に厚労省から正式認可されるまではアナイラキシーリスクの高い林業者等には費用は病院持ち出しで普通の1mlシリンジにアドレナリン0.5mgを入れて本人に携行させていた。10円にも満たない安価な薬なのでエピペンが出来て(大人用0.3mg)1本1万円でしかも登録しなければ医師も処方できないとあって初期は日本では不評であった。しかし0.3mgという絶妙な量(効果もあり副反応の心配も無視できる)にして製品化したことには見事であると思い、アメリカ人は商売気があるなあと感心していた。薬の原価はゼロに近いものなので当時何故日本人は考え付かなかったのかとさえ思ったが、今や新型コロナワクチン注射など集団接種会場等のリスク現場ではアドレナリンがあるのにもかかわらずエピペンも備えないと後ろめたささえ感じるような雰囲気になっている。エピペンの使用の安心感はその充填量(大人用0.3mg,小児用0.15mg)にも無縁ではないと思っているのは、アドレナリンへの感受性は個人により更には同一人でもその時の病態等で変わり得るからである。例えば大人用ならば0.3mgという量は動悸等副反応がmax出ても心配するほどにはならない一方、1mgでは死に至る副反応リスクもあり得るし、0.5mgでも感受性の高い患者は“口から心臓が飛び出るほどに動悸がひどい”と効き過ぎることも実際あるからである。喘息患者にはアドレナリンなどβ刺激剤の内服・注射・吸入等が今でも普通に使われているが(β2-selective剤が普通)、大人でも感受性の高い患者はたとえ半量等の小児量でも手指振戦や動機は時に日常的に専門医ならば経験する事である。そして当然ながら量調節が必要となる(難吸収性のステロイド合剤が開発され製品化されてきて発作コントロールも容易になり喘息難治化率も減少してからは出会う機会も少なくなったであろうが、アドレナリンのβ効果は気管支拡張とともに動悸・頻脈・手指振戦は最も身近な過剰症状であるし薬が効いている証拠でもある。
※過剰症状出現は内服であろうが注射であろうが吸入であろうが通常使用量でも出るときは出る。手指振戦は気管支拡張と同じβ2効果とされている。(※ →2024.8.10追加)。
上記のような状況下でまず、医療の在り方はその時代の良識範囲のみで許可され得るものであることが前提である。その前提が崩れないように社会の認識を擦り合わせておく必要があることに誰も異論はないと思われるので、表題のように良識範囲の認識がずれかねない杞憂を感じ敢えて取り上げたいと思う。これは医療裁判にもかかわる問題と思っている(※※後記)。
アナフィラキシー対応の臨床現場では状況に応じた柔軟な姿勢が成功のカギとなるのは言うまでもない。現場の融通性なくしてアドレナリン使用量0.5mgと機械的に固定した場合について、および、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について分けて取り上げる。
まず、アドレナリン使用量が0.5mgに変わったという認識が周知され固定化された場合、当然のことながら機械的に0.5mg使用が当てはめられかねないことは容易に想像がつく。それは重症・軽症に係らず適用されかねない。かつて50数年前に “ペニシリンショックはアドレナリン半筒と覚えておきたまえ“ と学生時代に教科書的に教えられ、そのままをロボットの如く機械的に当てはめた医師になりたての初期の頃と変わらないことになる。0.5mgでも99%大きな問題は出ないと思われるがその中には副反応で余分な負荷を患者に与えかねないということをも内在している。それよりもっと大きく大切で注意すべき問題は、反応不十分の場合は複数回の追加を考慮しなければいけないという事である。そのことこそ現場対応での必須要件でありそれを怠ると生命のリスクが再燃しかねない。このことにはだれも異存はないと思う。それは0.2mg/1回量でも0.3mg/1回量でも0.5mg/1回量でも、1回使用量云々を超えた必須の事項であり1回量云々の問題ではない。現場状況に合わせた柔軟な対応をしてこそ真の有効な医療になる。
日本のアナフィラキシーガイドライン2022では最大投与量0.5mg(p.21)とした中での表14のように簡易化しても良いと言っているのであって表14のみ取り上げて13歳以上の子供を含む大人は0.5mgに変わったと受け取られかねない表現、しかもご丁寧に体重50kgでは0.3mgでは足りないかもしれないとしている学会グループ等が目につくがこれは誤解の元である(⑤⑥⑦)。前述のように0.5mgでも効き過ぎるときもあれば不足のこともあるので、足りなければ追加すればよいだけの話である。エピペンは0.3mg製剤しかないので使用を迷わせかねないもとになる表現である。エピペンを使って不十分ならば同成分のアドレナリンを追加すればよいだけの話である。
アドレナリン注射時のヒトの体内動態の論文は数少なく一様に取り上げられるのはSimonsの論文である(①)。アナフィラキシーガイドライン2022にもアドレナリン血中濃度は筋注後10分程度で最高になり40分程度で半減すると引用されている(p.21)。これは外因性のアドレナリンの血中濃度が最高になるとは言っていないが、何故か外因性のものの血行動態と勘違いしているのではないかと思わせるような医師等専門家の意見を聞くことが多い。これはアドレナリン代謝は体内で速やかに代謝されるという添付文書の記述にも医薬品インタビューホームの記述にも矛盾するし(②)、これまで一般的に速やかに代謝されて血中半減期は約2-3分と言われてきたことにも矛盾する(③)。AHAガイドライン2020ではCPR(心肺蘇生)中は3-5分毎にアドレナリン1mg静注としている。
ヒトでの資料が少ない中で上記Simonsの論文は貴重であり学ぶことが多いが、彼らがDiscussionで述べていることには違和感を感ずる点もある。その一つは投与前に内因性のアドレナリンをチェックしているので測定の上昇は外因性のアドレナリンであるというように思い込んでいるのではないかという違和感である。この解釈が変だと思うのには現場で経験していれば直ぐ分かることだが、複数のアドレナリン投与法がある中で0.2mlづつ頻回に行う方法もあり例えば0.2mlを20-30秒毎に5回行って計1mlになっても副反応は殆どでないが1回に1mg行えば筋注であろうが皮下注であろうが致死的になり得る危険があることは全ての医師が承知の如くである。(1回当り0.2ml・0.3ml・0.5mlと症例の重症度によって普段使い分けをしていても血圧低下や起き上がれなくなるほどの重症症例では意識があっても迷わず0.5ml施行は当然であるし、逆にCPA等以外は絶対0.5mgを越えない)。0.2mlづつ20-30秒ごとに分割投与すれば計1mgになっても副反応がなく1回投与で1mg行えば致死的リスクが発生し得ることから考えれば、アドレナリン注射後の上昇には内因性アドレナリン分泌も関与しているはずであることは容易に推定できると思う。未体験であれば実際行ってみれば直ぐ解る事である。わずかな量違いに見えるかもしれないが逆に過量についても実際1mg1回投与で事故も起きている(⑧⑨⑩)。Imgと0.5mgでは天と地ほどもその効果は違うのである。10分後20分後でも血中アドレナリン濃度が高く40分後でも半減する程度に高いというのも理解できるのである。また8分経過しなければアドレナリンが効いてこないという解釈も聞くことがあるがこれも間違いであることは、論文①の血中濃度経過グラフをみれば明らかなように、皮下注も筋注も濃度の差こそあれ最初のピークは2-3分の短時間にあると思われ、筋注・皮下注の発現時間の違いはなく同じであることが解る。実際医薬品インタビューフォームでも心血管系への反応は直ちにとなっている(②)。Simonsの論文①の意図は序文で述べているように、皮下注より筋注の方が速く吸収されるのではないかという仮説が前提になっていて、結果もその前提に矛盾しないと言っているのでそれに異を唱えるつもりはない。この論文によればもともと米国でも皮下注をしていたことに対して筋注の方が好ましいと言っているので、このことにも異を唱えるつもりはないが、このデータをもって皮下注では駄目だと結論付けるのが間違いだと言いたいだけである。要するに筋注でも皮下注でも現場の裁量で選べばよいのである。在野の仕事現場でいきなりアナフィラキシーが発現してエピペンを持ち合わせていたらたとえズボンの上からでも良いから大腿(大腿外側広筋)に筋注すればよいし、病院の診察台の上にいれば上腕の衣服を捲り上げて筋注でも皮下注でもどちらでも良いから速やかにまず1回目の注射をすればよいのである。
なお論文①にもある様に筋注でも皮下注でも強度の違いはあれ注射2-3分の短時間で速やかな血中濃度ピークが出現して脈拍上昇等も付随するという所見に対しては、その解釈が、外因性アドレナリンが吸収されたためなのか神経反射のためなのか内因性アドレナリン分泌も係るのか等については未だ未解明の点が残っているようである。
次に、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について取り上げる。
アドレナリンは日本人(高峰譲吉&上中啓三)によって1900年に発見されて、論文①にもある様にアナフィラキシー治療に使用されるようになったのはその後で、私が医師になった1970年代初めにはもう当たり前にアナフィラキシー治療に使われていた。当時は主に皮下注で行われていた。
アドレナリン注射だけでなくワクチン注射も特に日本においては小児の大腿四頭筋拘縮症の発生に凝りて、ワクチン注射までも皮下注に限定されるようになっていて小児は筋注の方がやり易いようで日本小児科学会等から筋注も認めてくれと言うようになっていた(⑱)。ところがいつの間にか刷り替えられて感染症医等から筋注にすべきという声の方が大きくて、今やワクチンの注射は筋注に限定するかのように行政府までも動かされるようになってしまった。これも日本の実態を無視した一方的な流れに傾きつつある現状がある。若くて健康な人は筋注・皮下注どちらでもよいが高齢者の一部には筋注したくても筋注できる筋肉がない人もいるのである(高齢者施設の実態は⑪⑫⑬参照)。免疫力の落ちた高齢者こそ優先的にすべきだとの意見と矛盾もしている。
例えばワクチン添付文書の記載が「筋注又は皮下注」になっていれば問題はないのだが、特に最近の新型コロナワクチン導入初期には、筋注と皮下注は天と地ほどに効果が違うと一部の医療界から喧伝されて筋注でなければ駄目だと社会までもが動かされるようになってしまった。血中吸収に違いは有れども免疫効果には大差がないことは免疫の専門家に聞いてもらえばわかることである。感染症医は免疫の専門家ではない。日本の高齢介護施設入所者は筋注限定されると約1/3は該当しなくなるという実態が日本にはあることが意外と知られていない。
筋注皮下注問題はアナフィラキシー時のアドレナリンについても同様で、既に述べた如くアドレナリンへの感受性は個々で異なりそのメカニズムは必ずしも明確にはなっていないが、CPA状態ではアドレナリン1mg静注してさえさらに3-5分毎の追加が必要だとされる如く病態によってもその使用量も回数も異なることは言うを俟たない。言い方を変えればアドレナリンの血中濃度だけで効果の判断もできないとも言えるのである。そのメカニズムはいまだに不明の点があるようで、かつてacidosisでは効かないとも言われたがその根拠が正確なのかどうかも分からない。とにかく臨床的に皮下注・筋注どちらも有効なことは前述の如く明らかなので、どちらも許容すべきである。要するに、皮下注でも筋注でもどちらでも良いから引き続くアナフィラキシー対応を次々と先手を打って打ち出すことこそ必須であると言うに尽きる。また、アナフィラキシー治療にアドレナリン注射が極めて大きい役割を持つのは確実であるが、一方、心肺停止に至る程の重症者の生死にアドレナリン注射の使用の有無をもって効果を絶対視することにも疑問符が付くのは英国での大規模試験の結果を見れば分かる(⑭a,⑭b)。救急入院前の早期からCPA患者にアドレナリン投与してもPlaceboと比べて生存率に有意差はなく、逆に重度の神経障害後遺症発生はアドレナリン使用群の方が高かったのである。
(※偉そうなことを言って申し訳ないが、意見を述べる以上その土台は明らかにしておかねばならないので茲に述べておく。自分は元アレルギー専門医であり、数年前に不要になったと自己判断してその専門医は返納してしまったが今でも日本アレルギー学会から「功労会員の証」は受けている。1972年に医師になり以来40數年に亘ってアレルギー・喘息診療に従事してきて毎週のアレルギー外来等では軽症から急速な一時的心肺停止した重症例に至るまでアナフィラキシーや重症/難治性/喘息も多く現場で診てきたと自負している。急激な重症喘息発作とアナフィラキシーの鑑別の困難症例も勿論ある。そして当然アドレナリンは極めて有効な武器の一つで無数回といって良い程に実際行ってきたが、その投与法・投与量・効果の強弱程度等も症例毎に異なることも体感してきた。そして軽症のアナフィラキシーの場合と心肺停止に至る程の重症の場合ではその使用量・使用法は当然異なってくる。そして、だらだらと慢性状態の中での悪化なのかその直前は健康であったのが重症急変したのか等の病態や環境状況によってもその効果も対応も微妙に異なってくることも理解できていたつもりである。例えば症状が無い患者がいきなりアナフィラキシーや重症喘息発作等急激に発症悪化した場合はアドレナリンが極めて良く効く一方、慢性の前者の急激悪化重症の場合はアドレナリンの効果は極めて悪い、等の違いがあり、難治性喘息かつてintractable asthmaと呼称していたが、今は重症喘息発作と難治性喘息発作は却って区別が曖昧になっている。ATSやERSに合わせて難治性喘息をrefractory asthmaと再定義するようになっている(『難治性喘息 診断と治療の手引き2019(日本呼吸器学会編)』)。
資料:
①Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis. FE Simons, JR Roberts, Xiaochen Gu, KJ Simons. J Allergy Clin Immunol 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7. https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(98)70190-3/fulltext 。
【アナフィラキー既往のある小児計17人についてアドレナリン筋注・皮下注のグループ分けの比較をしたデータを提示して、筋注の方が吸収効率が良いと考察している。】
②アドレナリン注0.1%の医薬品インタビューフォーム2018年5月改訂テルモ(製薬企業からの情報提供書) Ⅵ.薬効薬理に関する項目p10. https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2451402G1040 。
【効果発現時間: 心血管系:直ちに,気管支拡張:変動しやすい(筋注),6~15min(皮下注)。最大効果発現時間:気管支拡張:0.3hr(皮下注)。効果持続時間:心血管系:1~2min,気管支拡張:1~4hr(筋注,皮下注)。アドレナリン添付文書では交感神経細胞内に取り込まれるかあるいは組織内で主としてMAO、COMTにより速やかに・・代謝され不活性化される、とある。今回テルモか第一三共かで表現が微妙に異なることに気付いた。】
③院外心肺停止傷病者に対するアドレナリン投与間隔の社会復帰に与える影響 日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:551-8 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/23/4/23_551/_pdf/-char/ja 。
【アドレナリンの消失半減期は約 2 〜 3 分。心肺停止の場合は5分以内の再投与の方が予後が良かった。】
④心肺蘇生(CPR)と救急心血管治療(ECC)に関するAHAガイドライン 2020(ハイライト) https://cpr.heart.org/-/media/cpr-files/cpr-guidelines-files/highlights/hghlghts_2020eccguidelines_japanese.pdf 。
【CPR処置中は3-5分毎にアドレナリン静注をするフローチャートを提示し、CPR中のアドレナリン1mg静注は3-5分毎に行うとなっている。】
⑤アドレナリン(ボスミン)筋注の推奨投与量が変更になりました2023.1.31埼玉協同病院薬剤科DIニュース https://kyoudou-hp.com/DInews/2023/642.pdf 。
【誤解されやすい表現になっている】
⑥アナフィラキシーガイドライン改訂2022(2023_0301版)弘前大学医学部附属病院に高度救命救急センター2024年1月12日 https://emergency-hirosaki.com/case-reports-papers/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%94%B9%E8%A8%822022/ 。
【薬物治療:第一選択薬はアドレナリン筋注です筋注!これでは筋注でなければ駄目だと言っているように見える。】
⑦ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート公開のお知らせ( 2023/6/14 大人用を改変)日本救急医学会 https://www.jaam.jp/info/2021/info-20210622.html 。
【大人の場合はアドレナリン0.5mgに変更になったと言っている。エピペンは50kg成人に対しては容量が少ないことを念頭に置くこと、と添え書きをしている。】
⑧救急活動時の救急救命処置による事故調査・検証報告書 令和4年2月15日千葉市救急業務検討委員会 https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/220311-3-2.pdf 。
【エビを食べた10代女性にアドレナリン1A(1mg)静注して心室細動 心肺停止した2021年に起きた事故報告書】
⑨「アドレナリン静注で心停止」した事故を振り返る2022/03/24日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/yakushiji/202203/574371.html 。
【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑩アナフィラキシー症状で搬送中の10代女性、救急隊員の投薬ミスで心肺停止に
2021/10/08 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/national/20211008-OYT1T50012/ 。
【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑪皮下注か筋注かで気になったのでちょっと一言。2020年9月19日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02xnxzq2fn9JjCdzNp7zUAT2VMgVMtGdKJqMwQvHQnv5d64TGAee39wj86pNb14Vsnl?__cft__[0]=AZVSKbzOfE6LWxuV4XJHhm9-cSOH2Njtd3SpIS1WbcZGFshe38zjuyYL0AK_nyVHokkpFi0vPTm9K4wj_zqwTkcRPA84Pyelqqu_aAYnpos5hlTQHjWXxIxMUR4FXoCmnqU&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑫ワクチン筋注、たかが筋注されど筋注:古くて新しい問題。2022年9月6日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02wYERt41srBnPsZk8gA1LU91FjQrZsgonCmtLUP7k4xr9yP8zaYaKCXPM3deYyw22l?__cft__[0]=AZW8XaE_lhr60erX-v0zTCMUL22OAh9URNGQfdYDvZ6P3rcG3qdQVT-PQEPDBT22a0VdJVPBEW_ofJio70f_tPQL8004XxwlLRPLmNWSchdV2tVxiiqwVZ2FA2lDi5x76gI&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑬・・筋注・皮下注とで免疫効果は違わない・・2022年6月23日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid0wnbTDB2mt8ZFK5pdS3vwVrQ78u7KQAVvPXEDrSDUBW64LjSrqwqDpuEFSif4ZbQl?__cft__[0]=AZVuA-ePbDEzNRR0gQW9n-s_jH9cT8-Vegw51LqChGO6zLa-l4-J5sOARFKtzr5YUyRSVHInuRnznHFMI-vc6ZoCZXvff8I2bkwoCHFPs2EK6D71ck6chFJdvrgtnm0CD74&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑭a Perkins GD, Ji C, Deakin CD, et al. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med. 2018;379(8):711-21. https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1806842?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov 。
⑭b Haywood KL, Ji C, Quinn T, et al. Long term outcomes of participants in the PARAMEDIC2 randomised trial of adrenaline in out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation. 2021;160:84-93. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(21)00028-9/abstract 。
【⑭a:英国でのPARAMEDIC2試験で、2014年から3年間にわたって救急入院前からのアドレナリン使用の効果をPlaceboと比較した。計8014人に及ぶ大規模試験である。CPA患者に救急入院前からアドレナリンかplaceboを使った。30日後の生存は3.2%対2.4%と改善傾向がアドレナリン群で見られたが有意差無し、神経学的予後良好な患者の割合は更に差がなくなり2.2%対1.9%で有意差無し。しかも神経学的に強い障害が残ったのは31.0%対17.8%とアドレナリン群で多くみられた。
⑭b:さらに12か月後迄のフォローアップ結果が報告された。6か月後・12か月後の生存率はそれぞれ2.9%対2.2%・2.7%対2.0%で、神経学的予後良好の患者は6か月後で2.0%対1.5%で更に低く有意差もない。病院に到着する前からアドレナリンを使ってもその効果は絶対ではないことを示したデータである。】
其の他関連資料:
⑮アドレナリン製剤の使用上の注意の改訂について 平成30年8月3日 医薬安全対策課 厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000341843.pdf 。
【アナフィラキシー時のアドレナリン併用は抗精神薬との併用禁忌が従来あり、救急医等が代替薬としてピトレッシン等様々に主張工夫していた時期があったがどれも現実的でなく、やっと平成30(2018)年に禁忌項目が削除され、救急の現場で抗精神薬を使っていても堂々とアドレナリンを使えるようになった。】
⑯Dose-dependent vasopressor response to epinephrine during CPR in human beings Ann Emerg Med. 1989 Sep;18(9):920-6 https://www.annemergmed.com/article/S0196-0644(89)80453-6/abstract 。
【CPR試行中に5分間隔でアドレナリン1mg・3mg・5mg投与を行ったら量依存的に血圧上昇した。】
⑰マネーゲームと化した米薬価事情 仲野博文 尼崎労基協会 第374号12月号p9 平成28年11月25日 https://web.archive.org/web/20211125191554/http://www.amaroukyo.com/wp-content/uploads/2016/11/2812.pdf 。
【1987年にFDAに認可されたエピペンはその後メルク社→マイラン社に買収されて、60ドル→600ドルに値上げされ、マネーゲームに使われ米国で社会問題にまでなったと報告している。日本では2003年に厚労省に認可されて2011年薬価収載されるまでは自費でしかも許可を得た医師のみが処方できた。新型コロナワクチン注射によるアナフィラキシー対応で皮肉にも広く人口に膾炙されて、するかしないかで裁判沙汰にもなるようになった。】
⑱要望書:不活化ワクチンの筋肉内注射の添付文書への記載の変更について 日本小児科学会 平成23年6月16日 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_1106273.pdf 。
【インフルエンザワクチンなど不活化ワクチン接種時の接種方法として添付文書に、皮下接種に加えて、筋肉内注射で行うことも可能とする記載を要望する、と厚労大臣に要望している。小児科学会は筋注に変更して欲しいと言っているのではなく皮下注とともに筋注も許可してほしいと言っているのである。なお生ワクチンは米国でも皮下注。】
※※(2024/8/30追記)
上記私見を書くきっかけになったのは下記2つの事例をニュースで知ったためであり、これではまともな医療が出来なくなるのではないかと恐れたためである。その前までは1994年法医学会ガイドラインが出て以来日本医師会を含む多くの学会で喧々諤々の議論がなされ、それでも何でも警察に届出るようにとなっていて別の様々な歪みが出ていて多くの問題があったが、議論後の2015年に出来た今の医療事故調査制度は逆方向に大きく振れてしまっている現状がある。
〇愛知 愛西 ワクチン接種後女性死亡 遺族が市を提訴へ2023年11月23日NHK https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20231123/3000032905.html 。
新型コロナワクチン死亡損害賠償訴訟 愛知・愛西市は争う姿勢2024年2月9日NHK https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20240209/3000034151.html 。
【上記の2つのニュースは、2022.11.5.に起きた新型コロナワクチン集団接種会場で起きた短時間で死亡した事例の公式報告書が2023.9.26.公表されたのを受けて家族が愛西市を訴えた2023.11.23.及び2024.2.9.の裁判のニュース。この報告書が訴えのきっかけになったと思われる裁判であり、ご家族の気持ちを逆なでするような稚拙な思い込みによる公式報告書であった。一方医療側も、これが「自然死」であるはずはないが、原因究明の解剖はしていなかった。この事例を受け入れた救急病院が死後の解剖をしていないのは現在の医療事故調査制度(第3者による死因究明組織であるべき、のはずが頓挫して届出は第3者でない従来の警察になったままになっている)が歪められた解釈をされたためとしか考えられない。換言すれば今の医療事故調査制度は返って改悪された状態のままである。】
〇コロナワクチン接種後に男性死亡 遺族が国や神戸市など提訴 2024/6/3 神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202406/0017729399.shtml 。
【この死亡例も法医解剖であれ行政解剖であれ病理解剖であれ原因究明の解剖をしていない。これは死亡診断書の記載ルール上からは「自然死」と判断したとしか思われない。常識では考えられない判断だがそのもとにあるのは、2015年から新たに施行された医療事故調査制度であり、それが歪んで解釈された結果と思われる。
抑々病理解剖では家族が嫌がるのを医療側がどうにか説得してやっと解剖できるというのが正常の道筋であり、一方、法医解剖では遺族が拒否した場合は現場の刑事と病院側が相談して犯罪性はゼロなので行わないことも止むを得ないと判断しても現場を知らない決定権のある警察上司に現場刑事がお伺いを立てるのであるが、その上司は万が一の自己保身のためと思われるが犯罪性がゼロであっても警察に届出された以上は法医解剖が必要と裁判所の許可を得てでも行えと強権を発動する、これが私の多く経験した現場の実態であった。ところがこの2つの裁判例の場合は本末転倒で逆に解剖の未施行が医療側の責任として責められている。】
(以上、終わり)
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