またまた、アナフィラキシーに関して2021年07月09日

2021/7/9 アサブロ

 またまた、アナフィラキシーに関して。( 2021年02月24日 アナフィラキシーの診療の実際 http://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/02/24/9350430 に追加)。

 日本救急医学会が最近「アナフィラキシー対応簡易チャート」を作ったという。
【〇日本救急医学会、新型コロナウイルス感染症特別委員会 アナフィラキシー対応簡易チャート https://www.jaam.jp/info/2021/files/anaphylaxis_chart.pdf?v=20210622 】

 新型コロナワクチンを行き渡らせるために国を挙げて推進しているときに、その考え方を一般向けに均霑化しようとの姿勢には敬意を表するが、少し引っかかるものがあったので一言記すことにした。重症度の表である。
 確かに国は相変わらずブライトン分類を使って副反応を分類していて、それと共にマニュアルには過去のアレルギー学会の別の分類も国はそのまま引用している。国の場合は過去のデータとの整合性を保つためにはブライトン分類をそのまま使うのも止むを得ない措置とは思う。
【〇時事ドットコムニュース、2021年03月12日 アレルギー頻度「比較難しい」 報告17例、国際基準では7例―厚労省部会
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021031201092&g=soc 
〇東京新聞、2021年3月12日 コロナワクチン接種9割が痛み アナフィラキシー国際基準では7人 https://www.tokyo-np.co.jp/article/91215 
〇日本アレルギー学会、Anaphylaxis 対策特別委員会 2014年11月1日発行 
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/guideline_slide.pdf 
〇重篤副作用疾患別対応マニュアルアナフィラキシー平成 20年3 月厚生労働省
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0803003.pdf 】


 気になっていたことは、アナフィラキシーの定義もその重症度分類も最近まで議論の中にあり、特にその定義は2011年のWAO(世界アレルギー機構)の決定によってやっと決まったと思っていたら、今回の新型コロナ騒動で明らかになったのは、相変わらず専門家の言うことが尚バラバラで、世界の考え方も未だに統一されていないということで、そしてそれにそれぞれの国際的な学会がやっと気付いたことである。そしてその重症度分類についてはWAOの意見も多少の調整が必要であったようで、新しい?WAO声明文でもブライトン分類と整合性を持つように若干変化してきている。それでもブライトン分類が消化器症状はminor criteriaに入っている等今でもWAOとは若干の違いはある。
 そんな中で国際的な学会が意思統一をしてやっと決めた重症度分類が下記のように出来ていたのに、
【World Allergy Organization Journal(2020) 13:100472,  POSITION PAPERWorld Allergy Organization AnaphylaxisGuidance 2020
https://www.worldallergyorganizationjournal.org/action/showPdf?pii=S1939-4551%2820%2930375-6 】、である。

 今回の救急医学会の「アナフィラキシー対応簡易チャート」をみたら、これらを無視するかのように、古い重症度分類が載っていた。特に問題があるわけではないが、今回の新型コロナ騒動でアナフィラキシーへの過剰反応もある中で、アカデミアは新分類を提示する等学問的にはもう少し気を使っても良いのではないかというちょっとした疑問を感じた。

(2021/7/17反省: このWAO声明文の中のGrade1~5分類については国際的コンセンサスを得ているものではないようで例示のようだ。個人的にはこれで良いと思っているけれども。何よりも素人にも分かり易く日本政府もCDCも似たような古いブライトン分類を現に新型コロナの副反応の区分けで本来のアナフィラキシーとの違いの説明に使っている。)
( 2021/7/21更に反省: Brighton分類は2007年なのでWAO2011年の定義より古いと思っていたが現在も活動中であった。Brighton Collaboration is working diligently to fight the coronavirus disease (COVID-19) pandemic. https://brightoncollaboration.us/covid-19/
 。アナフィラキシーの分類は、大雑把には合意出来ていても分類の詳細は未だコンセンサスを得ていないようだ。 )

( 2021/7/26三たび反省:日本アレルギー学会はなぜ黙っているのかと思っていたらちゃんとそれなりに動いてはいた。
 〇「新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症 (アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」について2021年3月1日、令和3年6月14日 改訂 https://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?content_id=546 
https://www.jsaweb.jp/modules/about/index.php?content_id=81 
 〇JSA/WAO Joint Congress 2020, 2020/09/17 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsawao2020/subject/20013/detail?lang=ja 
アナフィラキシーUp-to-date アレルギー2021年70巻5号p.376-383 
https://doi.org/10.15036/arerugi.70.376
 〇コミナティ筋注®接種後のアナフィラキシーが疑われた1例に対しPolyethylene glycol 2000を用いたプリックテストの結果 アレルギー 2021年70巻5号p.392-393 
https://doi.org/10.15036/arerugi.70.392 ここにはブライトン分類とアレルギー学会分類とが一致しない例を挙げている。

※ 次代の国際疾病分類のICD-11では非アレルギー性のアナフィラキシーの項も入っている。なぜ世界の免疫・アレルギー関連学会のEAACI・AAA/ACAAI・ASCIA・NIAID・WHO ICD-11等とは合意しているのにBrighton分類作業部会とは合意しないのかわからない。 )


2021/8/9更に追加。
 〇日本アレルギー学会 学会見解 新型コロナワクチン接種について(学会声明)令和3年8月3日、など。 https://www.jsaweb.jp/modules/about/index.php?content_id=81 。本来の専門家の日本アレルギー学会でも発言してきているようだ。

 〇Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol. 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9449498/
 アドレナリン(ボスミン)注射の効果と注射経路については、この論文を根拠にしてアドレナリン吸収に5-10分かかるとか皮下注ではなく筋注でなければダメだとかと解釈している意見があるが、この論文は内因性と外因性アドレナリンの鑑別は行っていないので神経反射による内因性アドレナリン放出も含まれていると思われる。
 また、皮下注も筋注も吸収程度の差はあるが同じ最短測定時間の5分に最初のピークがあるので効果の発現時間に大きな差はなく、個体間の感受性の差も考えれば皮下注ではだめだとの根拠にもならない。勿論吸収効率の差はあるので効果発現強度や最大効果時間は異なるので薬剤追加のタイミングは違ってくるかもしれない。
 個体間の感受性や同一個体での病態による感受性変化がどの程度係わっているかの詳細は尚解っていないので、実地臨床では注射の効果を見ながら追加のタイミングを見定めているのが実態であるしこれこそが大切と思う。従って、アナフィラキシーでのボスミン注射は大腿外側広筋に拘ることなく三角筋でも皮下注でも露出している部分に行えば良いと思う。