最近、某感染症専門医に送った資料のメモ2025年03月15日

2025/2/■
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■■■■先生 御机下

■■先生へ最近のワクチン行政への助言のお願い、

 突然のメールで失礼します。お願いがあってメールさせて頂きました。■■先生が不活化ワクチンは世界標準の筋注にすべきとのご意見は承知の上でのお願いです。先生のご指摘の通りに実際のワクチン行政が筋注に動いていることに対して一部危惧を感じている者ですが、御高名で発信力の強い先生故に是非高齢者施設の実態(医学的には筋注不可で医学的には皮下注になって仕舞う方「見做し筋注」が少なからずいるという実態)を知っておいて欲しいという思いからメール致します。(私は定年退職後に老健に勤務し、その最中にCOVID-19パンデミックを経験し、その老健も退職して今はアドバイザーとして週2日のみ関わっている78才内科医です。)

 SARS-CoV-2ワクチンの導入初期の当時は副反応がどの程度出るのか不明であったために私の職場(■■:入所者100名)で筋注の可否をエコー検査でチェックした所入所者の約3割が医学的に筋注不可(エコー検査で明瞭に判定可能です。医療上は「見做し筋注」とも言える?)という結果でした。
免疫学で高名な専門家(■■■■教授)に当時お聞きした所では免疫効果は同じなので筋注できなければ皮下注すれば良いのではないかと気楽におっしゃっていましたが、私達現場の医師は添付文書に違反していないかどうかは診療上大事なポイントです。万が一ワクチン注射が原因で死亡して訴訟になれば裁判官や検事はその違反をつきかねないことは明白なので、施設での初回のSARS-CoV-2ワクチン注射の時はその3割の方は医学的に非適応との理由でワクチン注射を私はしませんでした。このことは全国老人保健施設協会(全老健)の■■■■■会議にも議題として取り上げて頂きましたが(幸い知人がその一人であったため)、出席者全員が “何処かに筋注できる筋肉があるのではないか“ との一同の意見でその知人からはお役に立てず申し訳ありませんでしたとのご返事でした。■■の指導者達さえ認識していないという現実がその時にはありました。
当時私は万が一を考えて「見做し筋注を認めてくれなければワクチン筋注できない高齢者がいると官邸にもメールした上で医学的に筋注不可の約3割の方には初回の新型コロナワクチン注射はしませんでした。勿論官邸からの返事はありませんでしたが最悪の場合を考えての行動でした。2回目3回目と高齢者のワクチン実施率が上がって90%位迄きたのを知り世間では皆、見做し筋注を行っているという実態を確信してそれからは実質医学的には皮下注であっても私も見做し筋注という名目でワクチン接種を行うようにしました(勿論衰弱しきった方は別の意味で非適応。なお日本製のインフルエンザワクチンは皮下注でかつアジュバント非含有で副反応も弱いので希望があれば気に病むことなく衰弱高齢者にも行えております)。

 ■■入所者と言っても施設毎にその廃用症候群のレベルは様々で、私たちは他の■■では受け入れられない方こそご家族のためには受け入れるべきだという方針で受け入れてきましたので普通の風邪合併でも死に直結するような方も少なからず入所しておりました。■■を運営しているDr達でさえも廃用症候群の筋委縮の実態と筋注・皮下注の法令上の違いは認識していないことの証左でした。
 一方SARS-CoV-2ワクチンだけでなく、ここ数年の高齢者のワクチン行政は筋注限定に傾いていて昨年もPCV20が日本でも認可されましたがその添付文書には、小児は「皮下注ないし筋注/成人には筋注に限定」となっています。その状況については以前のPCV7から最新のPCV20に至るまで行政上の対応は同様でした。ワクチンの臨床試験自体が筋注のみで行っていますので添付文書記載の仕方も止むを得ないとも言えますが、それでは益々高齢化して医学的筋注ができなくなる高齢者が増えてくるという超高齢社会の現実から矛盾した行政対応になって仕舞うことは間違いありません。
 免疫力の衰えた高齢者こそワクチン接種すべきだという一方で、高齢者のワクチンを筋注に限定するのは、超高齢社会のフロントランナーである日本の在り方としては矛盾している医療行政と言えます。
ワクチン認可のための治験が外国ではすべて筋注で、日本においては小児で少しの皮下注・筋注の比較試験があるのみで皮下注を許可していますので、ワクチン行政は実態の逆を走っているとも言えます。このままいけば超高齢射会のフロントランナーの日本の役割が世界に向けて果たせなくなるのではないでしょうか。高齢者にも適応になるワクチンの場合は試験の段階での皮下注・筋注の比較試験も併せて行い、ひいてはワクチンの添付文書の用法を高齢者も「皮下注ないし筋注」との融通ある表現に改めて頂けるようにワクチン行政を預かる方々にアドバイスして頂きたくお願い申し上げる次第です。

 なお皮下注より筋注の方が副反応が少ないという筋注誘導への思惑が見え隠れする表現が専門家の間でもありますが、これも科学的な根拠に乏しい気がします。いくつかの治験データを見る限り有意差を認める副反応の違いはないようです。むしろアジュバントの違いや有無、そして筋注の方が深いので発赤や腫脹は目立ちにくいのが当たり前で局所疼痛という炎症効果の点では差がないということから見ても大きな差がないと取るのが順当ではないでしょうか(皮下注筋注の副反応比較資料は下記①②③)。
 (長文で申し上げ失礼しました。)

①2022年6月23日Hidemasa Kuwabara免疫学の専門家が初めて、筋注・皮下注とで免疫効果は違わない・・・ https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid025WQuzhedNw96r7YAx4gKEAAcF18LYjVozfsiLfTc2Q8rhdNsvErG8M9peYsfyLWgl?__cft__[0]=AZWmHUwiYlqH1-EZowhecj4HcLYUOwLKJeku-cEFCN-MG36R995QWvu3HQSUY77NrAdsdKpMIOxqtYOZPQoDz8IYeldmk7fdOHSQnRUOOB9xq1lGdm9-WXfqxIsHZStl6iI&__tn__=%2CO%2CP-R 。
②審査結果報告書平成21年9月8日医薬食品局審査管理課(沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン)安全性について局所反応全身反応p51-53. https://www.pmda.go.jp/drugs/2009/P200900053/53039600_22100AMX02255_A100_1.pdf 。
③審議結果報告書 令和6年3月4日 医薬局医薬品審査管理課(沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン)7.2 国内第Ⅲ相試験p16-20. https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240327001/672212000_30600AMX00115_A100_2.pdf 。

ーーーー以上です。
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COVID-19ワクチンによる極々稀なアナフィラキシー併発症等(ATAK-complex)について2025年02月28日

アサブロ(facebookメモ)

COVID-19ワクチンによる極々稀なアナフィラキシー併発症等(ATAK-complex)について

アナフィラキシー治療の第一選択はアドレナリンであることは誰も異論はないと思うけれども、アドレナリン自体がアナフィラキシーを誘発する場合も極々稀ながらあり得るという。
言われてみればアレルギー治療薬の副腎皮質ホルモン自体でアレルギー/アナフィラキシーを稀に起こし得ることは専門医であれば既知のことであるので驚くことではないかもしれない(主に含有安定剤として含まれるパラベンに依ることが多いがコハク酸塩自体が誘発する場合もある)。アドレナリン製剤の添付文書を見ると亜硫酸水素ナトリウム 0.5mg/ampleを含有と確かにある(⑦)。
 しかし、米国接触皮膚炎協会(学会)がアドレナリン製剤に含まれる亜硫酸塩をアレルゲン・オブ・ザ・イヤーに指定したとなると気にしない訳にはいかない。あらゆる日常品に含まれ無害とされている亜硫酸塩にも注意すべきとの注意喚起の意味と思う(①②③④)。ATAK-complexもあるよと言われても時間を争うアナフィラキシーならば対応に逡巡している余裕はないので取り敢えず迷わずアドレナリン注する以外に選択肢はない。そして単純に器械的にこうすれば完璧だなどというものはなく、担当Drの心の内は悩みながらも迅速対応して反応を見て次の一手に対処する以外にはないのである。
 COVID-19ワクチンによる急死例の原因も極めて稀ながら複数あり(それでもCOVID-19罹患よりは余程少ない)その原因の一つにアナフィラキシーがあるけれど、鑑別し難いいくつかが併発することにも注意すべきとATAK-complexとも表現されているようだ。通常のアナフィアキシーだけでなくアドレナリン誘発やたこつぼ心筋炎やKounis症候群が併発することも有り得ると言われては治療実践する立場としては益々悩まざるを得ないわけですが、推定死亡時体温46℃程の超高熱が出る死因もありその場合はAKAK-complexでも説明できないので更に別疾患と思われる(⑤⑥)。自分にはその超過換気症候群のような発熱原因現象を伴う場合は悪性症候群しか思い当たらない(⑧⑨)。今でも自分はそう思っている。
 (資料)
① Covid-19ワクチン接種後のATAK複合体・・(ATAK Complex (Adrenaline, Takotsubo, Anaphylaxis, and Kounis Hypersensitivity-Associated Coronary Syndrome) after COVID-19 Vaccination and Review of the Literature .  Vaccines 2023, 11(2), 322; https://doi.org/10.3390/vaccines11020322 ) https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/36851200 。
② 亜硫酸塩に関するファクトシート(内閣府食品安全委員会資料2012年2月2日) https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03520110208#:~:text=%E4%BA%9C%E7%A1%AB%E9%85%B8%E5%A1%A9%E3%81%AF%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%8B,%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A8%E7%B5%90%E8%AB%96%E4%BB%98%E3%81%91%E3%81%9F%E3%80%82 。
③ 亜硫酸塩:2024年米国接触皮膚炎協会アレルゲン・オブ・ザ・イヤー(Sulfites: The 2024 American Contact Dermatitis Society Allergen of the Year) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39787305/ 。
④ アレルギー性心筋梗塞のジレンマ:それはアナフィラキシーかエピネフリンか?(The allergic myocardial infarction dilemma: is it the anaphylaxis or the epinephrine?) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33544285/ 。
⑤ Four cases of cytokine storm after COVID-19 vaccination: Case report Front Immunol. 2022 Aug 15:13:967226. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36045681/ .。
⑥ コロナワクチン接種後死亡剖検例報告 大学病院医療情報ネットワークセンター https://square.umin.ac.jp/~massie-tmd/nagao_masataka.html 。
<急死時の推定体温30~max46℃、これは通常のアナフィラキシーやKounis症候群では説明できない。>
⑦ 日本薬局方 アドレナリン注射液(ボスミン注1mgアンプル、第一三共kk)添付文書 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057227.pdf 。
<1アンプル中には亜硫酸水素ナトリウム 0.5mgを含有している。>
⑧ 愛西市ワクチン死亡の件 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid031NzLc6LfbM2xpWSoMEG7KGmycCzeFkrGubosQDHv3AXQ4TqcHVWvHvfG7gxhJGnxl?__cft__[0]=AZX1HYN2kYpUlHUSD5_oP5tbaq7ARFoh_I2ZQBH7raJ5OCuGyH5QsdSk-jn5kXM0mOZXEqsBISO2V78kdm2wMLmhSr1IgPQn9SNMB8tBU__zMscw6NIJUFXY9JulmiDGaps0aHpS4xxTQFZk7jCa7uFYpUUdzQI_a3Alq0bLdN2nVw&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑨ オミクロン株BA.4/5ワクチン注射直後に急変した事例は悪性症候群? https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02iE7SDPnmbH4RazBkpy2H1cYrDf61JtF3pU3GHd4quiJhmKxhhHBwcMxGhrM7P1tsl?__cft__[0]=AZWAgZ8D6zH4QErytUSC-JNldPj6pjPcDu7MBMo-mGYKEFFTrwjoCbr6jfD1wZ3uKnPO6Wtg079dYWI74is-oEKqh-uvpmcVa5cnVONix98y9pLU_ZDICuyGya3tLxgB4Ow&__tn__=%2CO%2CP-R 。

スピリチュアルということ2025年02月16日

スピリチュアルということ

今や不治の病ではなくなった癌もかつては不治の病でその苦痛を表現するときに身体的・精神的・社会的苦痛の他にスピリチュアルな苦痛があるとされた。心の癒しだけではない、生きがいの本質を探るその解決策として 樋野興夫先生の始めた癌哲学外来や松本文男先生が始めた傾聴療法士養成等の試みがある。この両者共にヒトのこころを引きつけるのはその神髄にスピチュアリティの視点があるからだと思っている。
日本人は「こころ」という一語に幅広い意味を包含させてある時は浅くある時はとてつもなく深いスピリチュアルまでを含む意味をしのばせて使い、かつその使い方で深さの違いをかぎ分ける能力を備えていると思う。
しかし欧米では従来よりmentalとspiritualは分けて使っているという。石丸昌彦氏はかつてアメリカ留学時の1995年に長男の入園した幼稚園の園長先生が「皆さんはこれからお子さんたちが4つの面で日毎に成長していくのを楽しまれることでしょう。4つの面での成長、即ちphysical、mental、social and spiritual developmentです。」と挨拶していたと述べている(NHKテキストこころをよむ2024年7月-9月号,第12回9月22日放送)。WHOでも1999年にヒトの健康の定義にspiritualも含めることが話合われほぼ決定する寸前での総会で統一見解が得られずに頓挫してしまった。決まらなかった背景には捉え方が様々で特に宗教的背景が見え隠れすることを嫌ったり宗教と混同されたり代替医療が横行する危惧等への不審があったゆえに採決に至らなかったというのがその理由ではないかともいう。スピリチュアルの定義を限定しようとする論考はWHOも含めて少なからずあるようであるが未だに成功しているとは思えない。
Frailが適当な訳語が決まらずフレイルになったようにspiritualも適当な日本語訳が決まらずスピリチュアルに決まった経緯があったがもともとスピチチュアルは多義的がその本質かもしれない(frailの日本語訳が決まらなかった理由は別にある)。しかし高校保健体育の教科書には「生きがい」と表現されているというし、Spiritual painは生きがいの喪失と捉える方もいる。樋野興夫先生の癌哲学外来はまさにその生きがい喪失を取り戻すことに視点を置いた実演面接をしていた。その「生きがい」自体は個人ごとに異なっても良いし宗教色の有無も問わない。
前記の樋野興夫先生や松本文男先生の見定める先にはこの生きがいを見つける手助けがあり、樋野先生は「偉大なおせっかい」と表現していた。松本先生は全てのヒトが潜在能力を持っていると100%信頼していた。このご両人についてはかつて普及初期の頃に自分の病院でも講演を何回かお願いしたり定期的に実演開催したりしていた。そのスピリチュアルの捉え方はヒト毎に異なりその心象風景はヴィトゲンシュタイン(L.Wittgenstein,1889-1951)が言うようにヒトの数だけある。
上記の所謂通俗的なスピリチュアルとは別の側面であるのように見えるスピリチュアルの、その入口へのヒントを与えてくれるかもしれない著書に出会った。
そう言う自分も担癌生体のまま今10年になれども予想を超えて今尚元気である。癌もまた様々なのである。

(資料)
①がん哲学外来とは https://gantetsugaku.org/aboutus/ 。 https://www.yuumi.or.jp/wp-content/uploads/2022/06/booklet19.pdf 。 https://numata.hosp.go.jp/info/20160731.html 。
②傾聴療法士養成講座 NHK文化センター https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1245316.html 。
③WHO憲章における「健康」の定義の改正案のその後について(第52回WHO総会の結果)厚労省報道発表資料 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1110/h1026-1_6.html 。
④スピリチュアリティ『ウィキペディア(Wikipedia)』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3 。
⑤スピリチュアル『ウィキペディア(Wikipedia)』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB 。
⑥スピリチュアリティとQOLの関係に関する理論的検討.真鍋顕久他著,名古屋女子大学紀要56(人・社)41〜52.2010. https://researchmap.jp/read0084617/published_papers/24440906 。
⑦『あの世とこの世の仕組み』三上直子著2021年 https://booklive.jp/product/index/title_id/1315836/vol_no/001 。

4年前の心を打つ不思議な短文2025年02月11日

4年前の心を打つ不思議な短文

もう4年前になるけれど折に触れ思い出し、何故その奥様は小生にあの時あの短文を手紙に添付してきたのだろうかと、今でも少しいぶかしくも不安にもなる文章だった。それとも生前患者さんから頂いたものなのだろうか。亡くなったご主人の机の中にあったという。そのDrは小生より5年先輩だった。そして添え書きもなく唐突に送ってくれたその奥様もDrだった。以下に忘備録として載せておく。

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2021/3/11 facebook  ある介護老人の短文ー心の吐露
 長らく疎遠でありましたが最近足利でいとこが亡くなり、遺族からご報告のお手紙を頂き、下記の詠み人しらずの短文が同封されていましたが妙に胸に刺さりました。
 高齢者の医療介護業務に従事する者は、この様なお心を皆が奥に秘めているかもしれないことを忘れてはならないと訴えているような、自らを戒めてくれる言葉ではないかと思い紹介致します。以下がその短文
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君は老ひたる者の悲しみを知るまい。
歳老ひて生きつづけるとき
もはや 道化して過ごすしかないことを知るまい。
そして私も それを知らなかった。

思いもしないものによって
老人は 『老い』 という オリ につながれてゐる。
つなぐ側も つながれてゐる側も
つゆ それを知ることなく。
君は 老の悲しみを
知ってゐるか。
       72歳女性 老人ホーム入所中  S.60年
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ーー以上です。

ビジョン・ビジョナリー 違い2025年01月24日

アサブロ ビジョン・ビジョナリー違い
ビジョナリー力を調べていて、改めて考えてみた

今度の大阪大学総長は人徳のある方がなったらしいと聞きかじり調べてみたら、何とその選考会議の議長があの大波から生還した村木厚子氏だったと知り更に興味がわき、勉強のためと思い選考理由をチェックしてみた。15の共通評価指標が載っていたが、その一部にビジョナリー力と言うのがあり、ビジョンと言わずにビジョナリー力と表現した理由を知りたくて調べてみた。
 ビジョンは単純に将来構想又はあるべき姿、ビジョナリーは先見の明をもって先導することを意味して革新的な実行力も伴うというニュアンスを含むという。初めてその違いを知った。
 ビジョナリーの由来は『ビジョナリーカンパニー』ジム・コリンズ著山岡洋一訳1995年発行(原著「Built to Last: Successful Habits of Visionary Companies」1994年)、の中で定義付けられて以来定着した言葉であると言いその本は今では不朽のビジネス書になって続編も多く出ていると言う。ビジョナリー力とはこういうものかと勉強になった。Oxford dictionaryではvisionaryは意味が12種類あると書いてあった。Visionは更に曖昧模糊として幅が広すぎるようだ。しかし自分にとってビジョンは思い入れの深い言葉である。なぜなら使命や理念や運営哲学よりも上位概念としておいた方が分かり易いと自分なりにこれまで捕えてきたからである。
 組織のマネジメントではビジョン・哲学・使命・理念・基本方針・コンセプト・モットー・社是・信条・パーパス・クレド・ポリシー・スローガン・行動指針・行動姿勢・戦略・戦術等様々な言葉が使われていた。組織マネジメントに理念は必須と言われているが、ビジョンやミッション(使命)との関係をどう位置付けるかは使う人によって未だにバラバラのようだ。 自分の位置付けは下記であった。自分なりに七転八倒して得た考え方である。
  
  ・ビジョン(Vision) → 哲学を超えると思われる理性的な人間の道しるべ(但し広義過ぎて使い方で理念の一部とみる捉え方も含まれる。)
  ・哲学(Philosophy) → 理性的な人間としての生き方の道しるべ
  ・使命(ミッションMission) → その社会※から期待され求められるべき客観的役割
  ・理念(Management philosophy) → 家訓(family rules)と同じレベルで組織毎に異なるのが当たり前の組織の主観的役割 (善悪を超えた宗教やイデオロギーは理念の範疇に入ると最近は思っている)
  ・行動指針(Management philosophy) → 行動の向かう方向の道しるべ(結果の方向性を示すベクトル)
  ・行動姿勢(Policy) → 行動の道しるべ(経過のあるべき姿の行動ベクトル)
  ・戦略(Strategy) → 中長期目標
  ・戦術(Tactics) → 年度目標等短期目標
※拠って立つ座標が同じ(同じ土俵)でなければ咬み合わない。
※※理念が使命から外れていれば反社会的になるので理念は使命と調和していなければならない。簡略な理念(基本方針)の具体的説明として行動指針と行動姿勢を添え理念とする。離職する理由の大部分は仲間同士の不和なので、最近は「話し合いの3原則」も必要であると思っている。



参考:
① 大阪大学次期総長予定者の決定について2024.11.29 ※選考理由 https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2024/11/29003 。
② 経営理念とは?実例から目的や作り方をわかりやすく解説(創業手帳)更新日:2024年3月29日 https://sogyotecho.jp/management-philosophy/ 。
③ ビジョン・戦略・戦術を理解することで成功へのステップが描ける2024 7/25(comodo) https://comodobiz.jp/2024/07/25/vision-strategy-2/ 。
④ 1000万部超の大ヒットは偶然の産物?『ビジョナリー・カンパニーZERO』(南龍太) https://www.flierinc.com/pickup/sp12 。
⑤1. ミッション基本編(事業計画情報) http://bplanhacks.com/mission/ 。

高度先進医療と社会インフラとしての医療の違い2024年12月25日

(facebookからのメモに追加した)
高度先進医療と社会インフラとしての医療の違い

新型コロナの惨事の時には早くから医療・介護が社会インフラとして途切れさせてはいけないものとしてその重要性を国が認識主導したのでその点では現場の我々当事者にとっては逃げる気持を払拭し背水の陣の覚悟を敷けたので良かったと思っている。そのうちの医療にはそもそも2種類ある。
一つは選択と集中の企業理念に通じる側面を持つ高度先進医療であり、もう一つは社会インフラとしての医療である。華やかな先端医療に比べて社会インフラの医療は地味である。しかしそれが無くなると社会自体が成り立たなくなるという点で大事な医療でもある。
 医師の働き方改革が唱えられてもう10年以上たった(①)が状況は変わらず、今でも下記のようなDrがいるからこそ、社会インフラとしての医療は成り立っている。エールを送り秘かにありがとうと言いたい。

< 地域情報(県別)地域ニュース 【群馬】みどり市唯一の分娩施設、年500件の分娩実施‐星野正道・岩宿クリニック院長に聞く◆Vol.1 周産期医療崩壊の危機に、実家の隣の土地が売りに出て開業決断 2024年12月20日 (金)配信m3.com地域版 https://www.m3.com/news/kisokoza/1247364?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=MD241222&dcf_doctor=true&mc.l=1090921980 。>


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(以下は蛇足)
医師の働き方改革の始まりは梅村聡参議院議員が国会で医師も労働基準法を守るべきだと質問し、事もあろうに舛添要一厚労大臣が自分もそう思うと応答したのに始まったと思っている(②③)。たまたま当時それを見ていて “あーあ、とうとうパンドラの箱を開けてしまった” と居合わせた同僚と言ったのを覚えている。何と浅はかな(失礼)と思いながらも、もう後戻りはできないのは確かと複雑な感情に包まれたが現在に至るも未だに改革が成功したとはとても思えない。
企業も官も行政でさえも企業理念の選択と集中に浮かれていた頃でも、哲学者宇沢弘文氏は社会インフラとしての医療の大切さを理解できた数少ない有識者であった(④)。
(資料)
①厚生労働省ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医師の働き方改革  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355.html 。
②第171回国会 参議院 厚生労働委員会 第8号 平成21年4月14日(発言No095梅村聡質問、096 舛添要一答弁) https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117114260X00820090414&spkNum=75&current=5 。
③パンドラの箱を開けるのは今―宿直問題は国民的議論の入口にすぎません!梅村聡(参議院議員)2009/05/11 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/mric/200905/510465.html 。
④日本医師会 日医NEWS 第1012号(平成15年11月5日)オピニオン―各界有識者からの提言―ヒポクラテスの誓いと,社会的共通資本としての医療 宇沢弘文(日本学士院会員,東京大学名誉教授) https://www.med.or.jp/nichinews/n151105i.html 。


(以下追加分、時系列で其の他の関連事象を思いつくまま下記に列記してみた)

・1998年川崎協同病院事件がおきた。(しかし裁判では、本来の筋と混同され、裁判官の理解の限界が見えた事件であった)。
・1999年横浜市大附属病院患者取り違え事件(この頃より医師バッシングが始まった。今では診療援助の表現になったが当時はバイトと表現して厳禁と厳しく扱われ、まず麻酔科医確保が困難になって民間麻酔科医プールを持つ開業医からの派遣に頼る以外方法が無くなった。医師不足は麻酔医不足から始まっていたが、更に悪化し手術料収入が麻酔医手当で消えてしまうという珍現象が出現した時期でもあった。社会の専門医信仰故に手術には麻酔医が必須とされるようになっていた。それ以前は外科医が麻酔の研修もして麻酔医不足は目立たなかったが世情がそれを許さなくなった、専門医信仰の一端である。)。
・1999年東京都立広尾病院事件(最高裁が、医師法第21条の検案を「死体の外表を検査すること」との限定解釈を出した。以後これが法律上の異状死体の医師届出義務の定義となったが、実際の自治体の指導では毎年更新している厚労省死亡診断書記入マニュアルに基づき病死自然死以外はすべて外因死として警察への届出は今尚変わらず、現在でも相変わらず義務付けている。要するにH27年の医療事故報告制度施行後も肝心の問題は何も解決していないのである)。
・2002年~、ナンバー講座制から臓器別講座制へ(一人の患者が臓器別診療科に受診して回る専門医信仰の始まりで複合疾患が当たり前の患者にとっては個人医療費も倍増しても不満は出ていないしむしろ複数科受診を希望さえしている。内科も内科と言う科は無くなったと一部で揶揄されるようになった。2018年新専門医制度で正式に総合診療科が基本領域として設置されたが2024年の現在もそれは未だに定着していない。抑々病気を見て病人を見ないとの悪弊はそれ以前より既に医療界では戒められていたが公認されてしまうようになった)。
・2003年横浜市堀病院事件(警察の横暴と医師側からの反発が起きて、大きな社会問題になったが警察の捜査課長も厚労省看護課長も看護協会もルール通りと嘯き木で鼻を括る応答をしたのみであり、その後通知で条件付き許可は出たが既に遅しで以後お産難民が各地で発生するようになった)。
・2004年福島県立大野病院事件。(社会的医療と純粋医学的医療の判断は分ける必要があると自覚の有無に係りなく医師が実感するようになる頃でもあった。その医師の無罪判決が出たのは4年後であった。亡くなった妊婦に対して良かれと思って書いた県による公費出費理由が警察介入逮捕のきっかけになったと記憶している。)
・2004年~この頃より企業理念の「選択と集中」が国の政策にも取り入れられてきた。これは企業にこそ必要な理念と思われたが、何故か官と行政が社会インフラの医療システムにまで取り入れるようになって医療界も大きな流れに飲み込まれていった。例えば行政と大学が産科医や小児科医を僻地から引き剥がし中央に集めたこともあった。当然周辺小病院には医師がいなくなる。医師を初め医療資源が限られる中で医師余り・看護師余りの共通概念が逆回転し始めて不足に転じた頃でもあり、引き続く2006年の7:1導入は一気に看護師不足に拍車をかけた。それまでの医師抑制策が増加策に逆転したのも2008年だった。
・2006年 射水市民病院事件。(この事件以後、救急蘇生の現場が変わった。個人的には一時的にでも人工呼吸器を取り付けるべきではないかと思われる症例でさえ一旦装着すれば外せなくなるとして救急現場等で躊躇するようになったのである)
・2006年『医療崩壊: 「立ち去り型サボタージュ」とは何か』小松秀樹著が発刊された。(これがベストセラーとなる。世の中には優秀な人がいるものだと上手い表現に感心する中で、でも話せば分かるはずと自分は苦闘している中でこんなことでは医療が成り立たないと本省の訟務専門官にも聞きに言ったが全く得るものが無かった頃である)
・2006年の診療報酬改定で7対1看護体制が導入された。(当時の本省の看護課長自身があまりにも大きい影響にたじろいだが、厚労省から取り消されることなく条件を厳しくしながら今もなお存続している(国は一旦決めると戻せないという無謬主義の典型例であった)。当時東大病院が全国看護学校行脚をして一気に300人看護師採用したのはあまりにも有名である。当然ながら地方の病院の看護師余りはその年に一気に著明不足に逆転した。診療報酬上の7:1看護の発想の原点を遡ると『にわか役人奮闘記』を書き看護師余りの将来予測を先取りした久常節子元本省看護課長だった。)
・2006年8月奈良県大淀病院事件(32才妊婦たらい回し事件、脳出血で死亡。)
・2007年8月同じく奈良県たらい回し事件(今度は38才妊婦で救急車からの救急要請16回の末に死産、奈良県立医大病院は空きベッドがあったのに断ったとマスコミによる医療バッシングが行われ、その過程で全国の産科救急の過酷な実態が明らかになった。この年には11月にも札幌未熟児たらい回し事件が報道された。
しかしこの頃より逆にたらい回しが当たり前になり社会も専門医がいないのだからと容認に逆転してきた頃でもある。たらい回しこそ避けるべきであるとのそれまでの医師(医療界)の常識が、世間の専門医信仰と相まって覆されるようになったのである。萎縮医療・小間切れ医療を患者側も医療側も容認するようになった頃でもある。以来今に至るまで救急たらい回しがあっても世間もマスコミも専門医がいないので当たり前と受け入れている珍現象の不思議が続いている。)
・2007年日本学術会議が「公開シンポジウム「医療を崩壊させないために:医療システムのゆくえ」」を開催。(既に医療崩壊は生じていたのであるが、日本の有識者は何を考えているのかと思いつめ清水の舞台から飛び降りる位の覚悟で六本木に行ったが有識者のレベルはこんな程度のものだったのかとがっかりして帰った。以来日本学術会議には不信を持っている。)
・2007年12月28日厚労省通知が出る<医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について(通知)医政発第1228001号平成19年12月28日>。(よし、これで明日からは世の中が良い方に変わると希望を抱いた通知であったが、変わる兆しはその後も全く見えなかった。世の動きとはこういうものなのかとがっかりした出来事だった)。
・2008年 それまで医療費亡国論から始まり引き続く小泉内閣等の医師数抑制策が一転、舛添厚労大臣主導で医師増加策に逆転した。
・2008年専門医信仰の始まり(日本専門医制評価・認定機構が出来る)。(臓器別講座制が導入される以前より医師の役割は専門馬鹿になってはいけないと自浄作用が働いていたが、臓器別講座制が始まり社会的にも専門医信仰が助長されるようになり、縦割り専門医の弊害も既に指摘されているにも係らず現実は逆行しており、その後2018年に正式に総合診療科も創設されたが6年経っても旧態依然のままで細切れ医療が当たり前の世情になり現在に至っている)
・2008年都立墨東病院事件。(36才妊婦が脳出血で死亡、赤ちゃん無事、たらい回しの末に死亡したとマスコミによる病院バッシングがあったが気丈にも夫は「病院にはお世話になった、誰も責めるつもりはない、担当医は辞めないでいて欲しい」といったという。現場医療者にはせめてもの慰めにはなったと思われる。)
・2009年3月東京の恩賜財団愛育病院が労基署の指導を受け、それでは病院運営が遂行できないとして総合周産期母子医療センターの認定を返上した。
・2009年4月14日、国会質問に対して舛添厚労大臣が医師働き方改革の必要性に同意して労働基準法を守るべきと答弁して自らパンドラの箱を開けた。前年の2008年に舛添大臣によって医師増員に急転するまでは長らく医師余り看護師余りが疑うことなく予測されていて医学部定員制限や看護学校統廃合が実際行われていたのである。このパンドラの箱が開けられてからは更に医師不足・看護師不足の世相は専門医信仰と相まって坂道を転げ落ちるように一変して行った。今もなお混沌の状況から抜け出せてはいない。

手術で救える病院と救えない病院の違いとは?2024年12月06日

(詳しく調べようと思いながらそのままにしていた下記をメモ代わりにアサブロに載せておく)

手術で救える病院と救えない病院の違いとは?

(手術で救える病院と救えない病院の違いとは? 消化器外科のFTR率に焦点を当てた日本の研究から 2024年07月26日 https://medical-tribune.co.jp/rensai/2024/0726563759/ 。)

 この情報は全ての専門医からは反論が出そうな論文であるがそんなことをよく言ったものだと拍手を送りたいと思う一方、詳しく調べようと思ってもいながら放置したままになっていたものである。
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今の世の中の医療はEBMに基づく考え方が正当なものだと捉えられている。しかしEBMとされる根拠の大部分は疫学的な論法によるものが殆どである。従ってその場合は統計学的には正しいとしても個々人の医療にそのまま当てはめようとする場合は落とし穴が存在するので注意せよということでもある。現場の医療はそれをわきまえた上で個々に適正な医療を行わなければならないのは周知の事である。
手術の腕も同様に術数件数が多ければ多い程手術成績も向上する、だから集約化すべきだとの方針で医療体制も構築されてきた。即ちある手術で100人行った医師と10人行った医師の腕を比べた場合100人行った医師の方が腕が上がる、との捉え方が正しいとされる。これは統計学的には正しいかもしれないが個々の医師に当てはめた場合は1例1例に込めた内容によっては10例行った医師の方が腕が良い場合もあるということでもある。

この論文の結論は、手術成績が良好な理由は大病院だからではなく、学会認定の有無でもなく、多職種がカンファレンスに参加しているからでもなかった。これまで大病院の方が成績が良いとか手術数が多い方が成績が良いとか、表面的に捉えられた理由のみが付けられて説明され、しかも実際それで医療政策も組み立てられてきた感があった。
今回の論文は、その考え方から、一歩踏み込んで、深く掘り下げられた論文である。しかもこの論文は日本の大学から提出されたものである。現在の日本の政策の流れに待ったをかけるような重要なデータではないかとも思った。この論文を論評したこの著者も立派である、そうも思った。
見方を変えれば、医療事故を専門医が行っても上手く行かなかったのだから仕方ないという専門故の単純な免罪符にしていけないということでもあり、常に専門でも非専門でも気になる点があれば常に検証が欠かせないということでもある。
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さらに話を広げれば報告すべき医療事故とは何ぞや、と言うことにも係る問題でもある。この論争は法医学会ガイドラインがH6年に発表されて以来H27年に一段落して医療事故調査制度が出来るまで喧々諤々と続いたのを覚えている。
医療過誤のない医療事故もあるし、知識や腕が未熟故の医療事故もあり得るし、どんなに腕が良くても100%上手く行くとは限らないし、これが医療である。あってはならないが有り得る宿命を背負っているという意味で航空機事故と医療事故は似ていると言われてきた。そのために医療事故に対しては責任追及よりも再発防止が優先される。これは理屈上は万人が認めることでもある。しかし現実の行政上運用になると立場立場で齟齬が生じてしまう。総論賛成・各論反対である。
医療に限らないことではあるが、犯罪性があればそれ相当のペナルティを個人に与えられるべきなのは当たり前である。しかし必要以上に医師個人への責任追及を行えばそれに対抗する防衛医療・萎縮医療に傾くのもこれまた当たり前のことである。そして防衛医療に傾けば傾くほど本来なら助けられるべき命も助けられなくなるということもこれまた当たり前の流れである。例えば90%助けられないとしても10%の可能性があれば手を出すかどうかはその防衛医療のレベルに依存する、勿論医師の独断ではなく本人や家族とのI.C.の上での場合である。
自分はかつて大手術を経験して幸い未だに生きているが、今の責任追及が厳しい時代で防衛医療・萎縮医療の中であればおそらく手術そのものの適応がないと諦められていた病気であった。そういう意味で危険を承知で手術して下さったDrには感謝しているし術前に駄目だったらそのまま閉じると言われてもそれは仕方ないと完全に俎上の鯉になることが出来ていたし複数の幸運が重なって今がある、と今でも思っている。

そもそも今の医療事故の報告制度・調査制度は21年以上前からの様々な議論の末にできたが、このH27年に出来た今の制度のその後の実態は却ってそれ以前より悪化ないし退歩していると最近は思っている。詳しく検討すべき責任の判断が各病院の院長に委ねられるようになったがその検証がなされていないと感ずる事例が複数でてきているからである。これは院長の責任と言うよりも係る担当行政者が院長の役割(予想できなかったとする根拠の施行規則3条件を確認していること)の実のある研修を怠っているからではないかと思っている。ましてや大学からの天下り院長など余程勉強しなければ理解の外で或るのが当たり前であるから院長個人にのみ責任を負わせるのは酷である。医師不足・医療崩壊を経てきたためか最近はマスコミも医療崩壊の過去に遠慮してか回りくどい言い方しかしていない。
新型コロナワクチン後の突然死の原因は複数あるが原因究明の解剖もしないと逆に遺族から訴えられている事例が2例あったし、名古屋セントラル病院の心カテ事例も然りである。これらが自然死で処理できるわけがない。先に記した如く医療事故は航空機事故に似てあってはならないけれども残念ながら有り得るという宿命を背負っているという意味で、医療事故もワクチン副反応も同じで責任追及ではなく再発防止こそが本質であるべきである。それが自然死扱いでは本末転倒である。その都度の検証と責任追及ではなく再発防止への途切れない努力とはとても言えない。

H6(1994)年異状死は何でも警察に届け出るようにとの日本法医学会異状死ガイドラインが発表された同じ頃多くの他学会からも賛成の意をもって同様のガイドラインが次々と発表されたがまもなく少なからぬ問題が内蔵されていることが解り、法医学会ガイドラインを除くすべての学会のガイドラインが取り下げられ法医学会ガイドラインのみ残存する中で、それ以来多くの議論が喧々諤々なされてきた。
厚労省見解が医師法21条は異状死ではなく異状死体を指すとの見解を出し一時は日本医師会初めとした多くの団体は矛を収めたと思われたが、厚労省が毎年更新している死亡診断書マニュアルの法医学会のガイドラインを参考にする様にとの数行の項目がH27年度版で削除されるまでは問題がなおくすぶっていた。
またH27年になりようやく医療法(法律)、その施行規則(省令)さらにその通知が出され(②)、医療事故調査制度が新たな出発を迎えて、問題は解消するかに思われた。しかしそれから今、はやくも9年経ったが最近感ずることは、医療事故報告もその調査の制度も返って改悪されてしまっているという印象を持つようになった。報告されるべきであろうと思われるものも報告されなくなり、厚労省の死亡診断書記入マニュアルは旧態依然で自然死以外は外因死(異状死)として警察が届出先になっているのである。報告先は第3者機関であるべきだとすべての関連団体がしていたにも係らずであるが、行政上は旧態依然として警察が届け先の変更はされていない。厚労省の死亡診断書記入マニュアルでは病死か自然死以外は外因死(事実上異状死)として警察に届出ることとの行政指導も実際している。之は旧態依然として変わっていないことを示している。即ち今は異状死(外因死)の届出は旧態依然の警察への届出と医療機能調査機構への届出との双方に届けなければならなくなっていて、手間が増えただけである。
現場のDrや病院管理者の気持ちを思うと異状死判断をして煩わしい手続きをしたくないのは分からないではないが、極めて稀な新型コロナワクチンの急死例が異状死でなく原因究明も不要とはとても思えない。

① 医療事故調査制度について 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html 。
② 厚生労働省通知(医政発0508第1号平成27年5月8日) https://www.hospital.or.jp/pdf/15_20150508_01.pdf 。
③ 長文で失礼します。(愛西市ワクチン死亡の件)2024/6/3 facebook https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid0wdYjhJk6mkFB5LD3M3andEB2wxcSE3BEc3BzSXprhTDtSgxZG782kfp5bekEGHKEl?__cft__[0]=AZW76nxIXPrziaphFcTDygQzEA9dQd7cspueCqVO_0TWOFe6Cpx27F6mof3bez6i6ZFJF9TC9nlrn-FEt-Q5f6-jghphxFzlVDws_0thLX4kvU3TszeewCgnf8zxyyoUwsSLhknX_SyT5CSjkN7uUcrvEa9w2O1la79XwMppbwZUtA&__tn__=%2CO%2CP-R 。

夾竹桃(キョウチクトウ)の毒性への振り返り2024年10月13日

7月:A+B(前橋公園).jpg
(2024年7月:前橋公園と敷島の夾竹桃の花はこの時盛りである。)                  [7月:A+B(前橋公園+敷島公園)]
8月:C~G(前橋公園).jpg
8月:C~G(前橋公園)樹の上の方は白い花が咲き(A)、樹の下には散ったばかりの花が落ちていた(D,E)。樹の中段には散ったばかりと思われる花の付け根が見えていた(F)。樹の下の地面には散った枯葉も散在していた(G)。これだけ散っている枯葉や花びらを見ると一般ごみとは分けて処理しているとはとても思えない。 [8月:C~G(前橋公園)]
9月:無,H,J(前橋公園).jpg
9月:無,H,J(前橋公園)樹の上には相変わらず白い花が咲き、樹の中段には実が出来(H)、樹に着いた枯葉も見える。樹に着いたままの葉を折ってみたら透明な樹液が直ちに浸みだし写真撮る間もなく滴り始めた(J)。  樹液圧が高く染み出しやすいのは確認できた。やはり触らぬ神に祟りなしで触らないのが無難である。そうでないと原因不明の体調不良に悩まされかねない。 [9月:無,H,J(前橋公園)]
1月:I(前橋公園).jpg
1月:(前橋公園)昨年の実がはじけて中身が既に跳んでいた。 [1月:I(前橋公園)]

  夾竹桃(キョウチクトウ)の毒性への振り返り
 夾竹桃の毒性については紀元前のアレクサンダー大王の遠征軍隊での集団中毒死をはじめとした多くの中毒死例の逸話が知られており、その中毒例は現在もなお人畜共に時々報告されている。人の致死率は5~10%とも言われている。自殺・他殺・知識不足故の事故死・人工妊娠中絶の民間療法・インドでは性病潰瘍の塗り薬外用・健康補助サプリ等でも使われ中毒等が生じている。
 毒性が強いということには誰も異論がないとは思うけれども、医学の発達した地域では殆ど死なないとか、バーべキューで死ぬというのは都市伝説であるとか、更には夾竹桃エキスのサプリの宣伝とか、という記述も見掛けるなど極端すぎる情報もあるので、それも言い過ぎではないかと思い調べてみた(本年4月には食品安全情報が出た㉟)。
 調べてみると意外や意外、情報は伝言ゲームそのもので、両極端に分かれる。そしていかに人の心の奥底にまでその花の魅力が浸み込んでいるか、夾竹桃の花への思い入れは宗教にも近いように思えてきた。その個人の思い入れは説得で変わるものではないようだ。江戸時代後期1800年頃に渡来したこの新しい外来植物はその美しさ故かその逞しき生存力のためか底知れぬ人気があるようである。この自由平等の社会でさえも声が大きい方で社会の方向が決まるので自分なりの視点はしっかり見極めておかなければならない、そう思う。

 その毒性は人に限らず人畜共通で枯葉等での家畜の死亡例も現在も時々報告されている。その毒性は花・樹液・枝・幹・根の植物全体に有毒成分がありそれらの枯葉・小枝・木の焼却時の煙や焼却灰自体も毒性があるという特徴がある。しかも焼却灰の毒性は1年以上残存しその土壌中で育った食物にも吸収されるという報告もある。インドやスリランカでは自殺目的や人工流産(中絶薬)目的でも使用されている。その他国によっていかがわしい民間療法やサプリで使われる場合もある。牛の流産は日本でもあった。(⑩⑲㉓㉔㉟)。これらの情報に間違いはないが、時と場所、毒性の程度等についてどこまで大げさに捉えねばならないかの視点が欠けていることに気付いた。

 キョウチクトウの毒の主成分はOleandrinとされているが、そのほかにもジギタリス配糖体や非ジギタリス配糖体からなる総称強心配糖体だけでも30種類以上含まれ、他の化学物質も含むと100種類以上の成分が含まれると言われている。
 その毒性は青酸カリの1000倍強いと言われていたり、過敏な人は近くに寄っただけで喘息発作が出たり、花の香りを深呼吸しただけで翌日に喀血したという例もあると言われている。(①~㉒)。
一方、過剰な心配故に都市伝説(根拠不明の口承話)であるとの指摘も最近されるようになってきている(㊷㊸)。
それは1999年にアメリカでのボーイスカウトがキャンプでホットドッグを夾竹桃の枝串を使って食べた所翌日皆死んだという話に疑問を持った人がファクトチェックとして実験をしたところ、死に至る程の毒物が検出されなかったと報告し(その原文を見るとmax 1.5mg/HotDogのOleandrinしか検出されなかった)、故に過剰な反応による都市伝説であると結論づけたものである。同様な報告は別にもあり(0.3~0.7mgのOleandrin検出。人の致死量は0.3mg/kgと言われる)、毒性に輪をかけた警告話として大げさに伝わったためであろうとしている。これら著者の言いたい主旨は受け止めるが、食べるのは1個で済むわけがない。これは一点のみからの明らかにバイアスがかかった見方であることが解る。
 また、先進国では死に至る例はまれである等の論者の記載も見られるが、それらの例を調べてみると大量服用とあっても血中Oleandrin測定はされておらず、実際の毒素吸収量が不明であるものがほとんどである。とにかく嘔気嘔吐が酷いだけでなく苦いし辛いしとても食べられる代物ではないらしい。ジギトキシンで代用できないことは既に解明されている。またOleandrinを中心とした毒素の致死量は解明されているとはいえず、人にしても家畜にしても致死摂取量即ち毒素致死量とはならず、大量と思われても死ななかったり少量と思われても死に至ったり、決して一様ではないことが調べてみると分かる通り、まだ未解明の点もいまだに少なくないようである。好気性発酵の堆肥化がOleandrinの分解を促進することは確かだがそれでもキョウチクトウの剪定枝や葉を混ぜるべきではないと論文を載せた農研機構の報告書でも述べている(53)。
 日本の厚労省は2024年の食品安全情報No.8/2024(2024.04.17)(㉟)において、米国FDAが、キバナキョウチクトウを含むサプリ等による健康被害が出たために警告を発し、一部会社製品の回収命令を出したと情報提供している。調べてみると日本でも対岸の火事ではないことが分かる(㊺)。
夾竹桃は原爆でも生き残ったという謂れ故に希望の花として受け入れられており悪環境にも強いために高速道路の街路樹や公園等に多く植栽されていてそこの土壌や環境を選ばず良好に生育する。世界的にも身近な植物と扱われており何処にでもあるという。心を癒す園芸植物としての根強い人気もある。実際福岡市教育委員会では一部の住民の意見で撤去しようとした所反対意見が出て朝令暮改で現状維持となり、一部の住民の意見がかき消されるほどに他の住民の意見もあったようで、他の自治体の対応もバラバラで調べてみるとネット上での注意情報程度でお茶を濁しているのが実情であるようだ。
熱にも強いその毒性は焼却灰になっても土壌の中で残りしかもその土壌で育った野菜にもわずかながら吸収される、という論文もある。しかしその残存毒性は直接中毒症状を起こす量からは程遠く微量であることもまた事実である。論文(55)のように半減期という見方をすれば、好気性発酵による堆肥化しなければ1年以上極微量ながら土壌中に残存しているという意見があってもおかしくはない。通念上、良くコントロールされた焼却炉により800℃以上で焼却した場合バラバラに分解されるといわれているが一方ダイオキシンが典型であるが冷却過程で再合成されたり、1100℃以上でもガスの再重縮合でPAHsは再合成されることが解っている(㊶,61,)。Oleandrinについては調べた限り無毒化の焼却条件について行ったデータは、不完全燃焼がどの程度係わっているのかを含めて、見つけられなかった。
更に焼却灰に毒性が残るか残らないかYES/NOだけで話を進めればまさに伝言ゲームになって仕舞う。かといって症状が出ないからと微量を飲み続けて良いかというとそうにはならないこともまた言うまでもない。ましてやキョウチクトウの粗抽出物をサプリに使うなどは論外である(有効成分を抽出しての使用は別)。あいだを採って「触るくらいは大丈夫、でも避けた方が良い」、という位が無難な表現かも知れない。
とにかく、キョウチクトウ植栽は幼児の手が届きやすい場所の児童公園や小学校、あるいは家畜の飼料に混入しやすい場所ではそれなりの配慮が必要と思うし、下記資料(72)の方が言う “欧米諸国では教育プログラム「身の回りの毒性植物」を実施して注意喚起に努めている” 等の周知への具体策を実行する姿勢は日本にも必要と思う。キョウチクトウに限らず有害植物は身近にも沢山ありそれらの判別知識は生きていくための必要な基礎知識なのだから。

(キョウチクトウ(夾竹桃)の猛毒性は更に幅広い周知が必要か?2023年8月2日  https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid0d7YbJaGGaGkXEJzFRdkjpGumeyedAAWgvcCdT3RC6JScttiWTmp7wtnfz7g4wt9Nl?__cft__[0]=AZXoITHLbyPaRUmOmMeejG-oXc672QujPvHz4SNLGBmmzhKHYi627CFq_kuurHE1hbain1ftUycwsF5duz4NAqJLLBdIHFE7MAItV4c-3cEzXXq_CFueZIBC-aTAkuGWSvE&__tn__=%2CO%2CP-R 。)
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人でのキョウチクトウ中毒の症例報告等:
① Fatal poisoning due to ingestion of boiled oleander leaf extract J Forensic Sci 2024 Jan;69(1):351-354.   https://doi.org/10.1111/1556-4029.15393 。  【2024年 奈良県立医大から自殺目的で夾竹桃の葉を煎じて飲んだ結果の中毒死1例報告。Oleandrin血中濃度は33.4ng/ml。致死量は約10ng/ml・中毒量は1-2ng/mlとされる。交差反応するとも言われるジギトキシンも測定したが正常値でこの症例は交差反応はなかったと報告している。乳酸acidosis・高K血症・徐脈あり、ECMO等も行うも救急到着後2時間で死亡判定された。】
② キョウチクトウ中毒により完全房室ブロックを呈した 1 症例 松本 優他、兵庫県立尼崎総合医療センター 日集中医誌 2022;29:543-4.  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/29/5/29_29_543/_pdf 。  【2022年 自殺目的で葉を煎じて飲み嘔吐して4時間後に救急入院したが6日目には軽快退院した。Oleandrinの血中濃度測定は未施行。キョウチクトウは尼崎市や広島市の市の花である。】
③ キョウチクトウ大量摂取の1例 神戸将彦他、群馬大学救急医学 北関東医学 70 (4), 359-362, 2020.  https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/70/4/70_359/_pdf 。  【2020年 自傷目的でキョウチクトウの葉12枚摂取して増悪する嘔吐のために摂取19時間後に救急入院し、5日目に軽快退院した。Oleandrin血中濃度測定はしていない。代わりにジゴキシン血中濃度を測定しているが正常値だったと報告している。】
④ キョウチクトウ中毒の1症例 門田奈実他 鳥取市立病院 日集中医誌 2012;19:685-6.  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/19/4/19_685/_pdf 。  【2012年 女性45才が自殺目的で夾竹桃乾燥葉を手掌一杯服用して6時間後に救急搬送された。血中カリウム・ジゴキシン血中濃度は正常。3日目には軽快退院した。】
⑤ 鎌倉とオレアンドリン中毒(そのⅡ)神津仁の名論卓説e-doctor2月号20202.1.©Linkstaff https://www.e-doctor.ne.jp/c/kozu/2002/ 。(吸い込んだ本人:山田海人の鎌倉いきもの会議2017年6月8日 http://blog.livedoor.jp/kamakuraikimono/archives/8858058.html 。) 【2017年 花の香りを胸一杯吸い込んだ30時間後に喀血した例を報告している。危険を承知で胸一杯吸い込むだろうか。両報告には1か月のズレがあるが単なるミスプリかどうかは不明。】
⑥ キョウチクトウ中毒 武藤憲哉他 日集中医誌 2022;29:498-9.  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/29/5/29_29_498/_pdf/-char/ja 。   【2022年 キョウチクトウ中毒8例中6例の生存・2例死亡を提示している。摂取量と中毒重症度との相関はないとする報告があると述べている。】
⑦ 植物性自然毒による食中毒が発生 平成29年12月15日 高松市保健所生活衛生課 https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/udopen/press/attach/17/2017-01732_0_syokutyuudokunogaiyou2017.12.15_s.pdf 。 【平成29(2017)年に香川県内の小学児童2名が小学校校庭にあるキョウチクトウの葉を勘違いして3-5枚ほど誤食して入院し、軽快退院した。】
⑧ 9月夾竹桃(きょうちくとう)H27.09.07.理事長の部屋 桑名市総合医療センター https://www.kuwanacmc.or.jp/rijichoblog/1348/ 。   【1975年フランスで、バーベキューをしていて11人中7人の男女が死亡する事故が起来た。夾竹桃の枝をバーベキューの串に使ったためという。中には警察の捜査が行われたともあるが、しかし皆同じような表現の伝言ゲームのようで原典が見つからない。】
⑨ Electrocardiographic changes during inhalational oleander toxicity. S Senthilkumaran et al, Journal of Electrocardiology Volume 44, Issue 4, 2011, p 470-472.  https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022073610006230 。   【2011年 インドでの煙による中毒報告で、夾竹桃の小枝を燃やした煙を吸って家族4人がキョウチクトウ中毒を起こした。心電図上房室ブロックⅡ度やジギ中毒様異常が見られ4日目には正常化した。巷で良く言われるバーベキューでのソーセージの串焼きが原因のキョウチクトウ中毒死が都市伝説視されるようになったが煙に言及した報告は少ない。】
   ⑩ Cutaneous absorption of Oleander: Fact or fiction. J Emerg Trauma Shock. 2009 Jan-Apr; 2(1): 43–45. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2700576/ 。   【2009年 インドでの塗り薬による中毒報告で、1名は息切れ等で救急受診し心電図上MobitzⅡ型病変を認めたが対症療法で回復した。原因不明であったが陰茎潰瘍に気付き黄色夾竹桃成分を含んだ伝統医学の塗り薬を使っていることを突き止めた。伝統医学施療者から別の3例を聞き出した。3例とも梅毒と思われる陰茎潰瘍に塗り薬を使っていてキョウチクトウ中毒変化のECG異常を確認した。4人のうち3人は無症状だった。MobitzⅡ型は心停止の急変リスクの高い異常である。】
⑪ Accidental fatal poisoning in a child due to ingestion of Nerium oleander leaf. Sathish Ayyappan et al,Forensic Sci Med Pathol.2023 Dec 22. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38133853/ 。 【2023年 インドからの中毒死報告で、グアバ葉と勘違いして子供が服用して心腎不全・出血傾向・高K血症・ショック等で36時間後には死亡し解剖もしている。住環境には植栽すべきでないと言っている。】
⑫ A fatal case of self-poisoning through the ingestion of oleander leaves. Elena Azzalini et al, J Forensic Leg Med 2019 Jul:65:133-136. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31153008/ 。 【2019年 イタリアからの中毒死報告で、自殺目的でキョウチクトウの葉を服用して死亡、解剖にて致死量のOleandrinを確認している。この報告では、キョウチクトウ中毒が事故によるものが多く自殺目的での使用が少ないのは、その毒性を一般の人が知らないためであろうとしている。】
⑬ A non-fatal oleander poisoning. J. Pietsch et al. International Journal of Legal Medicine, Vol 119, p 236–240, (2005). https://link.springer.com/article/10.1007/s00414-005-0548-6 。   【2005年 Oleandrinの血中濃度の非致死性の中毒レベルは1-2ng/mlとしている。】
⑭ A case of non-fatal oleander poisoning. Behçet Al et al, BMJ Case Rep. 2010; 2010: bcr02.2009.1573.  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3027391/ 。   【2010年 除痛目的で夾竹桃の花を煎じて飲んだ42才の担癌女性のキョウチクトウ中毒例の報告であり入院36時間後に回復退院した。通常は死に至るOleandrin致死量14.7ng/mlが検出されたにも係らず対症療法のみで回復生存した症例は初めてであると述べている。文献を含めた考察にて、交差反応をすると言われるジゴキシン血中濃度測定が正常でもOleandrin値は上昇しており当てにならず死亡例・回復例が混在している。Oleandrin血中濃度測定値は参考になるが、その中毒症状や治療内容はOleandrin血中濃度とは相関しない。Oleandrin血中濃度ほぼ10ng/mlでは何をやっても死亡してしまう例がある一方対症療法だけで回復する本例のような例もある。生体実験とも言えるカナダからの報告についても述べている。抗がん剤として第一相試験として認められた夾竹桃抽出物(Anvirzel)をボランティアに15mg筋注したところ3時間後のOleandrin血中濃度は7ng/mlだったと言いこの著明高値でも問題が起きないのはそのボランティアの個人的耐性があるとしか思われないと述べている。】
⑮ LC/MS/MS analyses of an oleander extract for cancer treatment. X Wang et al, Anal Chem. 2000 Aug 1;72(15):3547-52.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10952541/ 。   【2000年 上記Behçet Alらの報告にあるカナダからの生体実験とも思える抗がん剤phase1の報告である。(※キョウチクトウにはジギタリス配糖体を含む強心配糖体だけでも30種類以上含まれ、他の化学物質も含むと100種類以上含まれると言われている。同じ強心配糖体でもジギタリス配糖体は水様性でOleandrinは脂溶性である。)】
⑯ Confirmation of oleander poisoning by HPLC/MS. A Tracqui et al, Int J Legal Med. 1998;111(1):32-4. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9457536/ 。 【1998年 自殺目的で夾竹桃中毒になり生還した45才女性のフランスから報告で、Oleandrin血中濃度は1.1ng/mlであった。測定法は高感度のHPLC/MSを行った初めての報告であると言っている。しかし資料56で示す如く臓器移行性が強く血中濃度だけではその毒性の判断が不十分であることが解ってきている。】 
    ⑰ Deliberate Self-poisoning due to Plant Toxins: Verdant Footprints of the Past into the Present. Indian J Crit Care Med. 2021 Apr; 25(4): 392–397.  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8138652/pdf/ijccm-25-392.pdf 。   【2021年 南インドの病院の自殺目的の植物毒中毒150例について報告している。夾竹桃使用例63%・oduvanthalai使用例50%だった(oduvanthalaiはタミル語で日本名は未だないが南インドの熱帯植物で自殺・中絶薬に使われる。コミカンソウ科で学名Cleistanthus collinusと言う)。致死率は9.3%。】
⑱ アマメシバ事件:都道府県等から報告されたいわゆる健康食品に係る健康被害事例について(お知らせ)平成15年8月22日厚労省 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/08/h0822-1.html 。 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/6c.html 。   【2003年 上記文献⑰に関連したコミカンソウ科の健康食品アマメシバの長期服用で閉塞性細気管支炎の発症例があり裁判にもなった。販売禁止になっている。】
⑲ Management of acute yellow oleander poisoning. Eddleston M, et al, Q J Med 92:483–485. (1999).  https://scholar.google.com/scholar_lookup?title=Management%20of%20acute%20yellow%20oleander%20poisoning&journal=Q%20J%20Med&volume=92&pages=483-485&publication_year=1999&author=Eddleston%2CM&author=Warrell%2CDA 。   【1999年 オックスフォード大学からキバナキョウチクトウ中毒の管理についての現状報告である。植物の強心配糖体は少なくとも12科の数十種類の植物に数百種類以上が確認されており、そのうちキョウチクトウは致死的な毒を持ちながら最も美しい花をも持つ熱帯性低木であると言っている。 この報告の時点では活性炭もジギタリス抗体も有効であろうと言っている(その後無効という報告も出た)。ジギタリス中毒とキョウチクトウ中毒では不整脈の性状に違いがあり、前者では心室性不整脈やVTが多いが後者ではVTは1%、心室性不整脈は8%にしか見られなかった。キョウチクトウはVF等による不整脈死が多いのではないかと推定し高K血症がその違いに係わっているかもしれないとしている。中毒致死率も英国では1%、開発途上国では20%であると言っている。スリランカでは1980年2人の少女が中毒死して大々的に報道されて以来、自殺目的のキョウチクトウ中毒が急増した(前年ゼロから10年後には年間103人ジャフナ病院に入院した)。キョウチクトウは世界中に見られアフリカでは矢毒に用いられ、インド・タイ・ブラジルでは自殺・殺人・流産・民間療法薬等にも使われている等も述べている。】
⑳ Toxicity effects of Nerium oleander, basic and clinical evidence: A comprehensive review. T Farkhondeh et al, Sage Journal, Online January 23, 2020. https://doi.org/10.1177/0960327120901571 。 【2020年 イランからの文献検索上のレヴューで、ヒト症例・動物実験結果等からその中毒の実態の要約をしている。全身臓器に様々な所見を呈する。肺:間質も肺胞内も気管支粘膜も出血・浮腫・うっ血・炎症細胞診潤等あり、肝臓:様々な程度の浮腫・出血・変性壊死・細胞浸潤等あり、心臓:うっ血・心筋繊維変性断裂空胞変性凝固壊死・間質浮腫・心筋組織出血・心内膜下出血・炎症細胞診潤等あり、血液:出血班は口内・胃・肺等にある、等臓器別にも詳しく述べている。毒性致死量に関しては動物によって感受性が違うこと、ヒトでは同じ量でも生還することもあれば死亡することもあること、子供は感受性が高いこと、等ありNa,K-ATPase阻害がその本態とされるがその毒性の分子学的機序はなお未解明としている。結論として毒性植物のキョウチクトウは子供や動物の中毒防止のために庭園や公共用地には植栽すべきではないと総括している。】
㉑ Self-harm and self-poisoning in southern India: choice of poisoning agents and treatment. Anuradha Bose et al, A Europian Journal of Tropical Medicine and International Health. Vol 14, Issue 7 Jul 2009, p709-837. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/j.1365-3156.2009.02293.x 。   【2009年 に南インドの2年間の田舎の自殺についての調査報告で、服毒自殺は31%、そのうち農薬服毒死は78.3%、有毒植物服毒死は19.7%。その有毒植物は主にキバナキョウチクトウとoduvanthalai(⑰参照)だった。インドでは自殺は犯罪とされているので自殺未遂を含めるとその実数は大幅に過小評価されているという。】
㉒ Epidemic of self-poisoning with seeds of the yellow oleander tree (Thevetia peruviana) in northern Sri Lanka. M. Eddleston et al, A Europian Journal of Tropical Medicine and International Health. Vol 4, Issue 4, Apr 1999, p243-318.  https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1046/j.1365-3156.1999.00397.x 。   【1999年 (⑲参照、同人報告)スリランカの二次医療機関であるアヌラーダプラ病院で1995年に実施された罹患率・致死率の結果の報告である。この報告時点でスリランカ国内のキョウチクトウ中毒は急増し年間数千例となり、同病院だけでも過去7年間で4倍に増加したという。11か月間で415人が入院し61%が女性でしかも21才未満が46%を占めた。しかもそのきっかけは子供の場合大半が死にたいと思って自殺行為に及ぶわけではなく些細な理由だったという。前向き研究をした79名中5名(6%)は入院直ぐ死亡、34名(43%)は房室ブロックⅡ~Ⅲ度、ペースメーカー処置に救急車移動で4時間かかり移送中にうち1名死亡、40人は生還退院した。徐脈や伝導障害が多くVTは稀だった。致死量については摂取量との直接関係は見いだせず、しかも3日以上経ってからAVブロックⅡ度に陥った例もあった。致死率は10%或いはそれ以上であった。】

家畜のキョウチクトウ中毒:
㉓黒毛和種繁殖雌牛群に発生したキョウチクトウ混入粗飼料給与によるオレアンドリン中毒事例. 2011年10月発生、大分保健所 大分県 https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/178943.pdf 。   【2011年 牛計170頭を飼育する農場で、夾竹桃の枯葉が混入した飼料で牛16頭が死亡した。他の牛の中毒症状が収束するまで1か月半を要し、流産した牛もいた。夾竹桃枯葉の混入した飼料は知人から譲り受けたもので危険の認識はなかったという。調査の結果から個体ごとにオレアンドリンに対する感受性(致死量)が異なっていたのではないかと推定している。】
㉔有毒植物による中毒の再発防止対策 キョウチクトウ中毒2015年7月発生 紀南家畜保健衛生所 和歌山県 https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070400/h27kentoukai_d/fil/05niwa.pdf 。   【2015年 夾竹桃枯葉の飼料混入により飼育牛5頭のうち2頭死亡、1頭流産した。周辺畜産農家を調べたところキョウチクトウ以外にも毒性植物が身近にあり牛の流産もその為と判定している。】
㉕431 キョウチクトウによる牛の死亡事故発生事例、鹿児島県 農林水産省 家畜衛生の進歩 No.39 全国家畜保健衛生業績抄録 平成17(2005)年度(平成18年4月 農林水産省消費・安全局動物衛生課) https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_kaho/pdf/syoroku_47.pdf 。   【2005年 鹿児島県内の農家で牛の下痢が散発していてそのうち重篤な牛2頭が死亡した。解剖で出血病変を認めるも原因特定には至らなかったが現場への立ち入り検査で野草飼料中の夾竹桃の枯葉を確認。刈り取った場所に夾竹桃が植えてあり周囲に枯葉も散在していたため血中Oreandrinを測定した所50ng/mlの著明高値だった。】
㉖千葉県の農場で昭和55(1980)年に飼料にキョウチクトウの葉が混入し、乳牛20頭が中毒をおこし、そのうちの9頭が死亡した。混入した量は、牛1頭あたり、乾いたキョウチクトウの葉約0.5g程度だったという。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%81%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%A6 。   【1980年に発生 どういうわけか行政からの発出文書が見当たらない。夾竹桃は千葉市の市花である。】
㉗A Probable Fatal Case of Oleander (Nerium oleander) Poisoning on a Cattle Farm: A New Method of Detection and Quantification of the Oleandrin Toxin in Rumen. Silva Rubini et al, Toxins (Basel). 2019 Jul 25;11(8):442.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31349685/ 。   【2019年 イタリアの牛肥育農家で牛6頭全部が夾竹桃中毒で死亡した。野草飼料中の夾竹桃葉の含量は2.6%であった。また夾竹桃自体の強心配糖体総含量は0.08%でありその主なものはOleandrinである。その飼料中の葉のOleandrin濃度は2.7mg/g、第1胃中の胃液中300ng/ml、胃固形物中294ng/gであった。牛死亡発見翌日に獣医に連絡があったために死後時間が1日以上経っていて既に腐敗が始まっていたためキョウチクトウ中毒は確かだが一部の牛は通報が速ければ助かっていた可能性も否定できないと言っている。毒素検出法には新たな分析法LC-HRMSを導入した初めての報告であると言っている。考察ではキョウチクトウの致死的毒性は昔から周知されていることなのに未だに同様なことが繰り返されていることが懸念事項で相変わらず家畜も人も中毒例の報告が繰り返されているために、Oleandrinの化学的性状から家畜への被害や人の致死量の問題まで幅広く論述している。キョウチクトウには強心配糖体が30種類以上含まれ、同じキョウチクトウでも強心配糖体の詳細成分はその部位、根=種>実>葉で異なり花の色も白色より紅色の方が毒性は強い。一般に強心配糖体は100種類以上知られているがジギタリス配糖体とそれ以外の強心配糖体に分けられ、ジギタリス配糖体は初めヒキガエル等から皮膚障害物質として発見されたがキョウチクトウの強心配糖体は乾燥しても毒性が保たれ、燃やした煙にも毒性があるという特徴がある。ジギタリス配糖体は水様性だがOleandrinは脂溶性である。バーベキューというと串による中毒が神話の如く強調されているがこの論文ではバーべキュー時の煙による中毒例を示している。牛の致死量については、成牛一頭当たり葉3~10枚・50mg/kg・110mg/kg等と報告により大きなバラツキがある。人の子供では1枚でも致死量になり得る。懇切丁寧に詳しく報告している論文である。実際のヒト報告例は大量に服用しても回復した例が多いようであるが酷い嘔気嘔吐が必発であること、夾竹桃毒の保持は植物間でもその部位間でも大きく異なること等から摂取量は毒吸収を反映していないのではないかとも考えられる。実際、米国マウントサイナイ病院のキョウチクトウ中毒の項には症状はあらゆる臓器に及び致死率は低いものの成人でさえも葉1枚でも死亡し得る、としている(Oleander poisoning https://www.mountsinai.org/health-library/poison/oleander-poisoning )。】
 
  夾竹桃の毒性等の説明:
㉘『ビジュアル「毒」図鑑250種』齋藤勝裕著 2023年 秀和システム発行 https://www.shuwasystem.co.jp/book/b623719.html 。   【毒の専門家による本。キョウチクトウについて正当な説明がなされている。原爆復興のシンボルとなったこと、燃え難いので耐火樹として知られて乾燥や大気汚染に強く街路樹や高速道路によくみられること、有毒故に食害昆虫は少ないがキョウチクトウアブラムシ・シロマダラノメイガ幼虫・キョウチクトウスズメの幼虫が寄生して育つこと、毒性は樹の全ての部分・周辺の土壌・生木を燃やした煙・腐葉土にしても1年間は毒性が残ること・家畜飼料に1頭当たり乾燥葉0.5gが混入して牛16頭が死亡したこと等が記載されている。】
㉙『毒草を食べてみた』植松黎著 文春新書099文藝春秋 2000年発行 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%92%E8%8D%89%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%81%9F 。   【毒草に造詣の深い著者が書いた本で驚いて購入して読んで見た。1話~44話で構成されており、驚異の表題であるが実際は3種以外は口に入れてはいない。1話のドクウツギはその実1粒を口に入れて吐き出したがラリッた状態で睡眠薬中毒のようになったと書いてあった。その後果実酒を飲んで生死をさまよった実例を聞き悪夢のような症状に陥らなくて良かったと振り返って胸をなでおろしたという。第3話の夾竹桃については全く試そうとはせず、逆に高速道路の生垣について「道路が火事になることなど考えてもいないのだろう、その時こそキョウチクトウが恐るべき毒草として復活する日なのではないだろうか」と皮肉を込めた感想で終わっている。】
㉚ キョウチクトウの乳液が有毒とされるがそもそもキョウチクトウが乳液を出すのか?2016.3続・樹の散歩道205,木のメモ帳 https://kinomemocho.com/sanpo_oleander.html 。   【夾竹桃についての体験に基づいた記録で分かり易く解説している。樹液で皮膚炎を起こす。キョウチクトウとセイヨウキョウチクトウは日本では変種扱いだが日本以外は同義語扱いだと言っている。またインド原産と言っているのは日本だけでインド自体もインド原産の自覚はなく、一般的には原産地は地中海沿岸や南西アジア・インドを含む広い地域が起源とされる。花の芳香は有るもの無いものがある(強心配糖体はラクトン環を持つので芳香を持つものが多いがないものもあるということ)。花には蜜がないとされるが科学的根拠は未だにないし、結実も滅多にしないとされるが実際はする。現に前橋公園の夾竹桃も毎年結実している。しかし花の蜜によるハチミツ中毒は心配ないという。レンゲツツジ・トリカブト・シャクナゲ等の花の蜜が混入して発生したハチミツ中毒と違って夾竹桃ではその蜜が混入する心配はないという。】
㉛ 医薬品情報21 夾竹桃(Oleandere)の毒性 古泉秀夫 2004.8.17. .http://www.drugsinfo.jp/2007/12/10-231834 。   【夾竹桃の毒性についてコンパクトにかつ詳しく纏めて説明している。強心配糖体の一部にジギタリス配糖体がある。致死量は0.3mg/kgとしている。フランスで7人が死亡したことにも言及している。】
㉜ Na,K-ATPaseの反応機構とNa,K-ATPaseをターゲットとする薬物。鈴木邦明,北海道歯学雑誌 第38巻 第1号 p16-27.(2017) https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/67303/1/38_01_02_Suzuki.pdf 。   【ほぼすべての動物細胞膜に存在するNa,K-ATPaseを専門に研究してきた方の説明である。心臓への作用はほんの一部で全身あらゆる臓器の症状を呈する理由が分かる。】
㉝ Oleander poisoning. The mount Sinai Hospital https://www.mountsinai.org/health-library/poison/oleander-poisoning 。 【2024年時点:この米国マウントサイナイ病院のキョウチクトウ中毒の説明にあるように、実際キョウチクトウ中毒に対応する救急現場では、症状は心臓等循環器に限らず胃腸・神経系・目・耳・鼻・口・喉・皮膚などあらゆる臓器に出現し得る。ここでは致死率は低いとなっているがたとえ1枚の葉でも成人が死に至ることもある毒であるといっている。服用量と致死率の相関はないということにも矛盾しない。酷い嘔吐は必発である。】 
      ㉞ キョウチクトウ抽出物、その医薬組成物及びその調整方法 https://patents.google.com/patent/JP2002526452A/ja 。   【2002年特許 キョウチクトウ(Nerium oleander)の100種以上の化学物質が含まれているとしている。ジギトキシンとの交差反応成分があるとしてもそのごく一部と思われるので患者の毒性成分分析の代用はできないと思われる。】
㉟ 食品安全情報(化学物質)No. 8/ 2024(2024. 04. 17)p.37-38.国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 厚労省 https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2024/foodinfo202408c.pdf 。   【2024年 米国FDAが、キバナキョウチクトウを含むサプリ等による健康被害が出たために日本でも警告を発し、一部会社製品の回収命令を出したと情報提供している。】
㊱ 高知県の外来植物2019調査報告書(牧野植物園) https://www.makino.or.jp/img_data/PAGE_science-new_2_19.pdf?8 。   【高知県立牧野植物園はキョウチクトウ7種について、甚大な被害が予想されるため対策の必要性が高い「重点対策外来種」に挙げている。それには日本で一般的にみられるものと思われるNerium oleander L. var. indicumも含まれている。】 
㊲ Quantitative variations in the cardiac glycosides of oleander.  Yamauchi T, et al Phytochemistry 22:2211–2214, (1983).  https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0031942200801491?via%3Dihub 。   【1983年 同じキョウチクトウでも個々でOleandrinの含有量は大きく異なると報告している。キョウチクトウの毒性を軽く見るか重く見るかの個々人の判断の違いの原因の一つと言えそうだ。】
㊳ Oleandrin: A Systematic Review of its Natural Sources, Structural Properties, Detection Methods,Pharmacokinetics and Toxicology. Jinxiao Zhai et al. Front Pharmacol. 2022; 13: 822726.  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8902680/pdf/fphar-13-822726.pdf 。   【2022年 中国の大学からの報告で包括的レビューである。同じ強心配糖体のジギタリスについては豊富なデータがあるがOleandrinについてはデータ不十分で殆ど解っていないと言う中で、乏しい症例報告内容と動物実験データを併せて考察をし、P糖タンパク等の個々の遺伝子多型の違い・腸内細菌叢の違い・などで個々の反応の違いがあるらしいとし、体内薬物動態について吸収・体内分布・代謝・排泄に分けて特に詳しく著者の考えを述べている。実験的に筋注や静注・腹腔内投与よりも内服の方が排泄遅延するのは腸肝循環があるためだとしている。血液脳関門も容易に通過しこれは神経症状の発現に直接繋がる。全身のあらゆる臓器障害も生じる。なおここではキバナキョウチクトウの毒はOleandrinではなくThevetinAが主だとしている。】
㊴ A review of the natural history, toxinology, diagnosis and clinical management of Nerium oleander (common oleander) and Thevetia peruviana (yellow oleander) poisoning. Veronika Bandara et al, Toxicon. 2010 Sep 1;56(3):273-81. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20438743/ 。   【2010年 レビュー報告】
㊵ Review of Current Evidence in Management of Oleander Poisoning. Vineeth Varghese Thomas et al, Current Medical Issues 20(2):p 82-88, Apr–Jun 2022. https://www.researchgate.net/publication/360429948_Review_of_current_evidence_in_management_of_oleander_poisoning 。   【2022年 レビュー報告】
㊶ 焼却とダイオキシン問題について考える.2003年2月1日 塩ビ工業・環境協会 坪田勝也. https://www.vec.gr.jp/mag/02/koramu.html 。   【加熱でも土壌中でもすぐには分解しないキョウチクトウ毒素の焼却処分は如何なる条件ならば安全か、それはダイオキシン問題での議論が参考になる。この資料は素人でも分かり易く説明している。一時期、目の敵のようにマスコミをはじめとしたダイオキシンへの攻撃は平成11年「ダイオキシン類特別処置法」が制定されて一段落した。以後、野焼きは原則禁止になってしまったが、そもそもダイオキシン発生が抑えられるのは「良い燃焼条件」がそろった場合の事でそうでなければ何を燃やしてもダイオキシンに限らず有害物質は排出してしまう。キョウチクトウ焼却も同じと考えてよいようだ。「良い燃焼条件」でなければダイオキシンに限らずHCNやPAHs(多環芳香族炭化水素、発癌物質や内分泌攪乱物質)をはじめとした公害物質が発生する必然がある。地球上に宇宙放射線がある様に、あるいはどの原発でも稼働する以上必ず出るトリチウム(半減期12.3年)の存在が避けがたいように、あるいは原爆実験で既に出来てしまったプルトニウム239(半減期2.4万年)が避けがたいように、焼却で有害物質ゼロにすることは不可能なのである。800℃以上ならばダイオキシンも分解し得るとしても発生したガスが冷却する過程で再重合によりダイオキシンが再生するという。PAHsは石油製品の不完全燃焼で多く発生すると言われるが木材でさえもその成分のリグニンからPAHが生成される。防腐剤や合剤が混ざっていれば尚更だ。PAHの一部のベンゼンやトルエンは800℃を超えても増加し1500℃でも生成するという。NOxは1200℃以上なら逆に急激に増加し、ABS樹脂で出るHCNは1200℃以上にならないと分解しないという。完璧は無理のため現実の焼却炉は800~1000℃の維持コントロールが目標であるという(別資料)。しかも焼却後ガスは200℃以下に急激に下げないとその間に再重合も起き易い。ガス冷却と集塵フィルターも当然必要になる。無機化した焼却灰や飛灰だけではない。これらの後工程がそろって初めて「良い燃焼条件」というが、そのためには終日運転が必要とされているという。一方経費が掛かるために一旦導入した終日運転の自治体も最近撤退の動きが出て来ているという現実もある。とにかく焼却条件を知って折り合いをつけてヒトが生きていかなければならない。その一端を教えてくれる資料である。】

都市伝説(根拠不明の口承話)あるいは夾竹桃毒性の軽視、逆に有効利用を考える資料、その他:
㊷ Oleander Poisoning by D Mikkelson Updated July 30, 2011 Fact Check Snopes.com https://www.snopes.com/fact-check/fatal-wienie-roast/ 。   【2011年 max 1.5mg/HotDogのOleandrinしか検出されなかった故に過剰な反応による都市伝説であると結論づけている。しかし食べるのがホットドッグ1ケだけとは思われないのでこの報告もfact checkとあるが眉唾の域を出ない。】
㊸ Negligible Oleandrin Content of Hot Dogs Cooked on Nerium oleander Skewers. J Suchard et al, Journal of Medical Toxicology (2021) 17:57–60.  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7785611/pdf/13181_2020_Article_805.pdf 。   【2021年 HotDogに0.3~0.7mgのOleandrinしか検出されなかったので、毒性に輪をかけた警告話として大げさに伝わったためであろうとしている。】
㊹ キョウチクトウ中毒 木の枝や葉を家畜に与えない 家畜疾病図鑑Web(動物衛生研究部門 山中典子)国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 https://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_dictionary/other/o14.html 。   【2021年 口に入れない限り葉や幹に触っても中毒を起こすことはない、としている。漆と同じで大部分のヒトには大丈夫であろうことには同意できる。】
㊺ 庭園から食料品まで: 食品および飲料におけるキョウチクトウエキスの台頭© 2024 市場調査インテリジェンスMarket Research Intellect https://www.marketresearchintellect.com/ja/blog/from-gardens-to-groceries-the-rise-of-oleander-extract-in-food-and-beverages/ 。   【2024年 毒性だけでなく使い方によってはサプリメント・スキンケア・抗がん作用・抗ウイルス作用・抗炎症作用等有用であると宣伝している。しかしアマメシバ事件の如くじわじわと体を蝕む事例があるので慎重になる必要があるであろう。(※キョウチクトウにはジギタリス配糖体を含む強心配糖体だけでも30種類以上含まれ、他の化学物質も含むと100種類以上の成分が含まれると言われているからである。因みにホメオパシーと言われる怪しい民間療法は効果のない代替療法とされている。)】
㊻ キョウチクトウ科植物由来抽出物による炎症促進性型M1マクロファージ活性化と破骨細胞分化の抑制 石田千賀他 日本薬理学会年会要旨集95_3-P-164,2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpssuppl/95/0/95_3-P-164/_article/-char/ja/ 。   【2022年 実際有用性研究のための試みもなされていて、これはキョウチクトウ抽出物の抗炎症効果の実験段階の報告である。本来、毒を治療に結び着けようとの発想は正常細胞と癌細胞等との感受性の差を利用するもので正常細胞には一時的に耐えられても毒は毒なので、その抗炎症成分を分離確認しない限り、粗抽出物を人間のサプリに応用しようとの発想はもっての外であるが、結びつけようとする業者がいるのには驚く。】
㊼Food Poisoning by Oleander Skewers: Investigation of a Toxicologic Urban Legend. Jeffrey R. Suchard et al, Journal of Medical Toxicology, Vol 20, p 222–225, (2024). https://link.springer.com/article/10.1007/s13181-024-00993-3 。   【2024年 この著者は2021年にもキョウチクトウの串焼きのホットドッグにはオレアンドリンがほとんど含まれていないと報告している(㊸)。】
㊽ 福岡市が学校のキョウチクトウ伐採 ?2009年12月17日 Gooブログ 筑紫の国から『花つくし日記』 https://blog.goo.ne.jp/shitorin/e/87fc0e4e871fc1781ca39bf413be7dc3 。   【2009年 学校のキョウチクトウ伐採 福岡市教委、一転見送り 「安易に切らないで」指摘受けて朝令暮改。】
㊾ YAHOO!Japan知恵袋:2009/12/11 キョウチクトウ伐採、福岡は国中の笑いものですか? https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1033989595 。 【2009年 福岡市教育委員会の対応は決して馬鹿にできるものではないと思うが、この質問に対する回答の数々が面白い。単なるyesかnoだけの意見で解り合えない溝の典型に見える。】
㊿ 毒がある夾竹桃(キョウチクトウ)をなぜ植える?5つの理由をご紹介します2022年12月11日 https://rs-hamada.net/?p=6713 。   【2022年 有毒にも係らず広く植栽されているその一般的な理由をのべている。】
51 急性中毒への活性炭投与は効果なし 死亡率の低減効果見られず Lancet誌2008年2月16日号より 2008/03/10 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/200803/505682.html 。   【2008年 農薬中毒又はキバナキョウチクトウ中毒患者のRCTで活性炭使用の有無での効果の有意差無しだった。但し治療開始までの平均時間が4時間経っていたのでもっと早かった場合の効果は不明。】
52 水田の(復古化)のためのキョウチクトウを利用したジャンボタニシ駆除の有効性解明. 池田充著 科学研究費助成事業 研究成果報告書(文科省) 令和2年5月25日(2020). https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-19H00312/19H00312_2019_seika.pdf 。   【2020年 バケツ稲栽培でのキョウチクトウ乾燥葉の有効性の検討を行い、有害ジャンボタニシは即座に死滅できた。メダカやオタマジャクシは更に簡単に死滅した。毒性成分のOleandrinは収穫米には検出されなかった。】
53 キョウチクトウ剪定枝混入豚ふん堆肥の施用による作物へのオレアンドリン移行可能性の検討.二宮恵介他 沖縄県畜産研究センター研究報告 第56号p11-16.(2018) https://www.pref.okinawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/275/56_03_2018_56-03_02-03_kachiku_haisetsubutsu_taihi-kanri_gijutsu.pdf 。 https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/prefectural_results/files/30_3_18.pdf    【2018年 豚ふんに粉砕したキョウチクトウ剪定枝を14.3%混ぜて堆肥化(一週間ごとに好気発酵のために切り返し)、3週間後にはOleandrinは21%まで減少した。その3週間目の堆肥の5%を土壌に混入して小松菜を栽培した所、堆肥の濃度のごく一部0.0063μg(堆肥濃度の10万分の1以下)が小松菜に吸収された。Oleandrin測定は高感度のHPLC-MS/MSを使っている。考察では著者もこの要約を載せた農研機構も混入は避けるべきであるとしている。特に農研機構はキョウチクトウ剪定枝の利用を推奨するものではないと釘を刺している。 】
54 オガコ養豚における粉砕剪定枝の利用確立試験(3)キョウチクトウ混入剪定枝の堆肥化処理による効果の検証,嘉数良子他,沖縄県畜産研究センター研究報告,第54号.99-103.(2016) https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010912210.pdf 。   【2016年 前記期論文53.の2年前の論文で、キョウチクトウ剪定枝と乾燥葉を併せた堆肥化の検討である。3週間でOleandrinは1.44%まで減少したと報告している。考察では、Oleandrinは分解され低減したがそれ以外の毒性は不明のままなので更なる検討が必要としている。ここでは成牛450kgの致死量は6.08mgでキョウチクトウ乾燥葉は0.27μg/gのOleandrinを含むとしている。】
55 Toxic potential of oleander derived compost and vegetables grown with oleander soil amendments. Jim Downer et al, Vet Hum Toxicol. 2003 Aug;45(4):219-21.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12882497/ 。   【2003年 Oleandrinは堆肥化によって半減期が15日となり、50日で10%まで分解される。Oleandrinの野菜への吸収は一部に極微量が検出されたほかは検出されなかったとしている。考察ではOleandrinの土壌汚染については更なる研究をしたいと記しているが調べた限りではその後の論文は提出されていないようである。】
56 Outbreak of Oleander (Nerium oleander) Poisoning in Dairy Cattle: Clinical and Food Safety Implications . by Luigi Ceci et al, Toxins 2020, 12(8), 471.  https://www.mdpi.com/2072-6651/12/8/471 。   【2020年 イタリアの農場で乳牛50頭のうち13頭が死亡した。解剖して血液中にはOleandrin 1ng/mlだったが臓器中にはその約15倍の濃度のOleandrinが検出された(ほぼ心臓15ng/ml,肝臓16ng/ml)。製造されていた牛乳・チーズ中にも検出された(牛乳1.3ng/ml,チーズ0.8ng/ml)。Oleandrinは脂溶性である。消費者にも影響し得る報告の最初であると言っている。測定法はUHPLC-MS/MSに依った。そのほかキョウチクトウ中毒の概況、症状等についても詳しく説明している資料である。キョウチクトウ中毒の症状は動物種によっても牛個々によっても違うとしている。キョウチクトウ中毒はヒトでは自殺目的が一般的であるが、動物の場合はキョウチクトウの味は苦くて辛いので動物も普通は食べないが偶発事故で頻繁に牛などの動物で発生しているとしている。その症状は、元気がなくなり反芻が無くなり不整脈や下痢だけでなく全身臓器に様々な症状が出得る(牛の場合下痢はあるが嘔吐はない?)。病理学的所見は実験的に中毒させた羊での報告と同じという。幸いなことに人は嘔吐する症状がある事でリスク低減効果があるとしている。牛は感受性が高く致死量は50mg/kgで羊はその5倍の250mg/kg、ヒトの子供は葉1枚でも致死量になり得るとしている。】
57 Toxicity of Oleander Derived Compost. James A Downer et al, EJ Slosson Endowment, University of California, Division of Agriculture and Natural Resources. (1998) https://slosson.ucdavis.edu/newsletters/Downer_199829067.pdf .    【1998年 上記論文55の基礎資料と思われる。キョウチクトウ毒性低下には堆肥化が極めて有効としている。野菜の栽培には堆肥化前のキョウチクトウ粉砕物を使っているが1例を除いてレタス・トマトにOleandrinは検出されなかったと報告している。論文55と57の著者の名前は一部違うが経歴書によれば同一人物である。】
58 ポリエチレン熱分解に及ぼす雰囲気並びに分解温度の影響。山村光夫著,分析化学,1983年32巻4号 p. 228-233. https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/32/4/32_4_228/_pdf 。   【1983年 ポリエチレンを空気下の300~800℃で熱分解の実験で、分解生成物はPAHs(ベンゼン・トルエン・スチレン等の芳香族炭化水素)が温度に伴って増加生成しアルデヒドも伴って出現した。】
59 炭化水素熱分解における多環芳香族化合物の生成機構。三枝直路他,化学工学会 研究発表講演要旨集化学工学会第40回秋季大会2008年9月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/scej/2008f/0/2008f_0_230/_pdf 。   【2008年 エチレンガス等を高温下で注入してのPAHs生成機構についての研究で1100℃を超えてもPAHsが生成されるようだ。】
60 熱分解プロセスにおけるタールおよびコーク生成機構の解明と反応速度論に関する研究。香束,明広著,2014 年,京都大学 工学博士論文(工博第3909号) https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/189366/1/dkogk03909.pdf 。   【2014年 熱分解プロセスでPAHsがより大きなPAHsに成長する機構についても述べている。】
61 廃木材のリサイクリングに伴う重金属類,PCP,ダイオキシン類及び多環芳香族炭化水素への曝露。浅利美鈴他, 環境化学Vol.13,No.1p77-88.(2003) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec1991/13/1/13_1_77/_pdf 。   【2003年 廃木材にはヒ素等重金属・防虫防カビ剤等の様々な木材保存剤が含まれている。焼却・リサイクルそれぞれの場面での暴露の程度について検討している。】 62 焼却残さ資源化システムとは?太平洋セメント https://www.taiheiyo-cement.co.jp/service_product/recycle_mw/hai/index.html 。 【2024年時点 焼却に伴って出る焼却残さ(焼却灰や煤塵)のセメント原料への再利用について解説している。】
63 処理方式の検討(資料 5-3)明石市:市政情報>審議会等>設置している審議会等>新ごみ処理施設整備技術支援会議(第1回技術支援会議 配布資料)令和元年10月16日 http://www.city.akashi.lg.jp/kankyou/shigen_junkan_ka/sinnro/documents/1-5-3shorihoushiki.pdf 。   【2019年 可燃ごみの焼却方式の分類と特徴について分かり易く説明している。】

自治体によって異なる対応 その他の資料:
64 愛知県安城市:小学校校庭の夾竹桃の撤去の要望が住民より有ったが撤去せずの返答あり 令和元(2019)年6月 https://www.city.anjo.aichi.jp/shisei/jouhou-hassin/2019koe/0619.html 。   【2019年 小学校校庭のキョウチクトウ撤去依頼の意見に対して、有益な面もあるとして拒否している。いかに福岡県教育委員会の朝令暮改の件が影響しているかを物語っている。キョウチクトウへの愛着者がいかに多くいるか、それ故敵に回したくないとの教育委員会の思惑が働いていることを示している。(㊽参照)】
65 愛知県江南市:剪定枝・草 https://www.city.konan.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/248/eda.pdf 。  【2024年時点 《夾竹桃(キョウチクトウ)の処分について》毒性が強く、堆肥化できないため、受入不可。但し、他の枝草とは別々にし「可燃ごみ」もしくは「焼却場へ持込み(200 円/10kg)」での処分をお願いします、となっている。】
66 佐世保市が指定する「市の花」はどれでしょう?2021年12月11日させぼ通信編集部。 https://sasebo2.com/entertainment/quiz/19400/ 。   【2021年 昭和43(1988)年佐世保市がキョウチクトウを市の花に指定した直後に牛が葉を食べて中毒死して物議を醸し平成14(2005)年市制施行100周年を機にカノコユリに変えた。一方、鹿児島市・千葉市・広島市はキョウチクトウが市の花である。】
67 大阪府:府民の声 公表(詳細) https://www.pref.osaka.lg.jp/cgi-bin/citizen_voice/detail.php?id=16896&site=f-koe2 。   【2022年 公園の夾竹桃の撤去希望の公表のみでそれに対しての回答無し。】
68 栃木県真岡市:夾竹桃(キョウチクトウ)の捨て方・処分方法. https://www.city.moka.lg.jp/kakuka/kankyo/gyomu/gomi/bunbetsu_shushu/11394.html 。   【2024年時点 燃えるゴミで出して良いとしている。】
69 千葉県福津市:家庭ごみ の 出し方 令和6年度保存版 https://www.city.fukutsu.lg.jp/material/files/group/21/R6kateigomi.pdf 。   【2024年時点 庭木の剪定くず・草類:夾竹桃は毒性があるため出せません。剪定くず・草ステーションでも出せないとなっている。但し燃やすごみ項に記載なし。】
70 沖縄県南風原町:平成26年第4回定例会 会議録(第4号-2) http://www.town.haebaru.lg.jp/docs/2016081600013/ 。   【2014年 町内各公園の毒性樹木の管理について(1)と(2)は関連しますので一括して答弁しますとして、一部は撤去し、一部は札を立て清掃員が毎日チェックしていると答弁している。毎日チェックする方は大変だと思う。】
71 キョウチクトウの毒はどのくらい危険?なぜ広島では平和の象徴?蜜を分泌しないキョウチクトウの花は絶滅種に擬態していた!? https://ecological-information.com/archives/2647 。   【2022年 一般的な説明だけれど根拠を示しているところに共感を持てる。】 
72 夾竹桃 EGGSEED 2023年7月26日 # 植物図鑑 『有毒編』note https://note.com/eggseed13/m/m3308346cfac1/archive/2023-07 。   【2023年 フランスでの1975年のバーベキュー7人死亡事故以来、欧米諸国では教育プログラム「身の回りの毒性植物」を実施して注意喚起に努めているのに比べて、日本にはこんな大事なプログラムがないと嘆いている。そしてその教育プログラムの実例を示している。 】 
73 Behind Puducherry’s suicide problem. 20 Mar 2015,by Ashwaq Masoodi, mint(e-paper) https://www.livemint.com/Politics/PqUjAR1Fn62kjeCsM0ay8M/Waves-of-despair.html 。   【2015年 南インド東海岸の元フランス植民地である通称ポンディシェリー(プドウチェリー)での新聞Mintの報道(2015年3月20日)。インドでは若者の自殺率が世界で最も高いとWHOは指摘している。特に当地域ではインド平均の3倍自殺が多く、そのよく知られている自殺方法の一つであるキバナキョウチクトウを食べて20歳の女性が家庭内不和で自殺したことをきっかけに、その背景について報告している。特に若者の自殺が多く、自殺に対する偏見があるために実際はもっと多いかもしれないという。高所得国の自殺の90%が精神ストレスによるとされるがインドでは60%しかなく自殺の他の要因が多く複雑に絡み合っている結果という。当地域の識字率は85.8%と全国平均の74.04%より高く、観光地としても有名な地域である。大学院生や博士号取得者や教授さえ自殺しているという。ポンディシェリでは自殺率が高いにもかかわらず、この問題に関して証拠に基づいた実質的な研究はこれまで行われていない、とこの新聞は訴えている。】
74 Fatal Oleander Toxicosis in Two Miniature Horses. J Butler et al, J Am Anim Hosp Assoc. 2016 Nov/Dec;52(6):398-402. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27685366/  。   【2016年 キョウチクトウ中毒で馬が死亡、1頭は3日後に死亡、もう一頭は回復見込み無く安楽死させた。多胃動物の牛と違い、同じ単胃動物でも人は嘔吐できるのに反して馬は嘔吐できないという。】
75 Retrospective study of cattle poisonings in California: recognition, diagnosis, and treatment. Anita Varga et al, Vet Med (Auckl). 2012; 3: 111–127. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6065581/ .   【2013年 米国カリフォルニア州で2011年までの12年間に届出された牛中毒例1199例(乳牛55%、肉牛41%)についての分析結果の報告である。中毒の原因が分かったのは13.5%にしかならず、そのうち最も多かったのは亜硝酸塩中毒で次がキョウチクトウ中毒とゴシポール中毒だったという(ゴシポール:木綿植物が含む黄色の有毒色素で食用油の粗綿実油に含まれる。精製綿実油は除去されている。但しその絞り粕は飼料に再利用され飼料への配合割合に注意を払いながら使っているという。人の精子に障害を与えるので中国のある地域では綿実油を使っていた故に出生率が低かった。実際、男性不妊薬にも使われた)。家畜の食用肉自体や生産牛乳への混入まで配慮を要し、ひいてはヒトの健康にも係る事なので、この報告は正確な診断と治療と対処をすべき獣医にとっては大切な意味を持つとしている。新規発生を予防・生産牛肉や牛乳の摂取禁止措置・適切な治療等役割は多岐にわたるが、解毒剤も乏しく費用も手間もかかると言っている。80%以上が原因不明とは驚きだ。】
76 重質油の熱分解技術(特集 重質油対策技術の開発)吉井茂雄他 エ ネ ル ギ ー ・ 資 源 Vol.4No.2(1983)p139-144. http://jser.gr.jp/kaiin/JSER_BOOK/1983/4-139.pdf 。   【熱分解および生成物等について分かり易く説明している。一般に1300℃の石炭乾留の生成物は大きなバラツキあるが大略コークス60%・ガス30%・タール5%・灰分10%とも言われる。ここでは1100℃以上でカーボンブラック(炭素純度99%)になるという。熱分解ではガス・タール等の重縮合でPAHsも生成する。カーボンブラックであってもPAHsを含む。】
77 1.炭素と黒鉛の違い~カーボンとグラファイトの違い(炭素入門編)株式会社レイホー製作所 https://www.0ho.co.jp/carbon/p1/ 。   【分かり易くその違いを説明している。黒鉛(グラファイト)は2700℃以上の無酸素下で作るという。】
78 硝酸塩中毒をご存じですか?(家保通信平成17年度 第3号)熊本県天草家畜保健衛生所 https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/104922.pdf 。   【硝酸塩/亜硝酸塩の急性中毒で、牛のヘモグロビンがメトヘモグロビンになり、酷い場合は酸欠で急死することもあると啓発している。】
79 土壌有機物と農業生産との関係についての総説 松﨑守夫 農研機構研究報告2021年6号p.1-9  https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2021/6/2021_1/_pdf/-char/ja 。   【窒素飢餓、窒素過剰についても述べている。】
80 飼料中の硝酸態窒素―中毒と対策― 高橋潤一 牧草と園芸第40巻第6号p5-9(1992). https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/grass/grass_199206_03.pdf 。   【乳牛の硝酸塩中毒が米国で1937年報告されて以来、今も相変わらず死亡報告例が後を絶たない。日本でも乳牛用の輸入粗飼料が利用拡大しているが、急性中毒死が報告されない限り意外にも見過ごされて対策もしていないという。亜急性中毒の場合は臨床症状が表面化しないので判別が難しい。専門書や実用書でも紹介されているが必ずしもその本質が理解されていないという。その解説をしている。(その後平成19年に硝酸態窒素を含む輸入乾牧草を原因とする牛の中毒事例(8 頭死亡)が報告されている。「硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素」農林水産省)】

アナフィラキシー治療のアドレナリン使用・・と解釈変更してしまう不思議さについて、2024年07月31日

(2024年07月31日 facebook メモ)

(長文で失礼します)
アナフィラキシー治療のアドレナリン使用にあたって、「筋注する」が「筋注でなければならない」と変わったり「最大投与量0.5ml」が単なる「0.5mg」に変わったと解釈変更してしまう不思議さについて、

 これは、日常臨床で体験している中での解釈と情報からのみ得た解釈とでは具体性が異なるので解釈変更してしまうのも止むを得ないことかも知れないが、アナフィラキシー対応は個々の重症度等でアドレナリン量の調節が必要であるし、緊急を要し場合によっては副反応にも生死にも直接係る問題でもあるし、無視できないことも含まれていると思われるので敢えて調べ言及してみた。

 日本ではエピペンが2003年に厚労省から正式認可されるまではアナイラキシーリスクの高い林業者等には費用は病院持ち出しで普通の1mlシリンジにアドレナリン0.5mgを入れて本人に携行させていた。10円にも満たない安価な薬なのでエピペンが出来て(大人用0.3mg)1本1万円でしかも登録しなければ医師も処方できないとあって初期は日本では不評であった。しかし0.3mgという絶妙な量(効果もあり副反応の心配も無視できる)にして製品化したことには見事であると思い、アメリカ人は商売気があるなあと感心していた。薬の原価はゼロに近いものなので当時何故日本人は考え付かなかったのかとさえ思ったが、今や新型コロナワクチン注射など集団接種会場等のリスク現場ではアドレナリンがあるのにもかかわらずエピペンも備えないと後ろめたささえ感じるような雰囲気になっている。エピペンの使用の安心感はその充填量(大人用0.3mg,小児用0.15mg)にも無縁ではないと思っているのは、アドレナリンへの感受性は個人により更には同一人でもその時の病態等で変わり得るからである。例えば大人用ならば0.3mgという量は動悸等副反応がmax出ても心配するほどにはならない一方、1mgでは死に至る副反応リスクもあり得るし、0.5mgでも感受性の高い患者は“口から心臓が飛び出るほどに動悸がひどい”と効き過ぎることも実際あるからである。喘息患者にはアドレナリンなどβ刺激剤の内服・注射・吸入等が今でも普通に使われているが(β2-selective剤が普通)、大人でも感受性の高い患者はたとえ半量等の小児量でも手指振戦や動機は時に日常的に専門医ならば経験する事である。そして当然ながら量調節が必要となる(難吸収性のステロイド合剤が開発され製品化されてきて発作コントロールも容易になり喘息難治化率も減少してからは出会う機会も少なくなったであろうが、アドレナリンのβ効果は気管支拡張とともに動悸・頻脈・手指振戦は最も身近な過剰症状であるし薬が効いている証拠でもある。
※過剰症状出現は内服であろうが注射であろうが吸入であろうが通常使用量でも出るときは出る。手指振戦は気管支拡張と同じβ2効果とされている。(※ →2024.8.10追加)。

 上記のような状況下でまず、医療の在り方はその時代の良識範囲のみで許可され得るものであることが前提である。その前提が崩れないように社会の認識を擦り合わせておく必要があることに誰も異論はないと思われるので、表題のように良識範囲の認識がずれかねない杞憂を感じ敢えて取り上げたいと思う。これは医療裁判にもかかわる問題と思っている(※※後記)。
アナフィラキシー対応の臨床現場では状況に応じた柔軟な姿勢が成功のカギとなるのは言うまでもない。現場の融通性なくしてアドレナリン使用量0.5mgと機械的に固定した場合について、および、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について分けて取り上げる。

まず、アドレナリン使用量が0.5mgに変わったという認識が周知され固定化された場合、当然のことながら機械的に0.5mg使用が当てはめられかねないことは容易に想像がつく。それは重症・軽症に係らず適用されかねない。かつて50数年前に “ペニシリンショックはアドレナリン半筒と覚えておきたまえ“ と学生時代に教科書的に教えられ、そのままをロボットの如く機械的に当てはめた医師になりたての初期の頃と変わらないことになる。0.5mgでも99%大きな問題は出ないと思われるがその中には副反応で余分な負荷を患者に与えかねないということをも内在している。それよりもっと大きく大切で注意すべき問題は、反応不十分の場合は複数回の追加を考慮しなければいけないという事である。そのことこそ現場対応での必須要件でありそれを怠ると生命のリスクが再燃しかねない。このことにはだれも異存はないと思う。それは0.2mg/1回量でも0.3mg/1回量でも0.5mg/1回量でも、1回使用量云々を超えた必須の事項であり1回量云々の問題ではない。現場状況に合わせた柔軟な対応をしてこそ真の有効な医療になる。
日本のアナフィラキシーガイドライン2022では最大投与量0.5mg(p.21)とした中での表14のように簡易化しても良いと言っているのであって表14のみ取り上げて13歳以上の子供を含む大人は0.5mgに変わったと受け取られかねない表現、しかもご丁寧に体重50kgでは0.3mgでは足りないかもしれないとしている学会グループ等が目につくがこれは誤解の元である(⑤⑥⑦)。前述のように0.5mgでも効き過ぎるときもあれば不足のこともあるので、足りなければ追加すればよいだけの話である。エピペンは0.3mg製剤しかないので使用を迷わせかねないもとになる表現である。エピペンを使って不十分ならば同成分のアドレナリンを追加すればよいだけの話である。
アドレナリン注射時のヒトの体内動態の論文は数少なく一様に取り上げられるのはSimonsの論文である(①)。アナフィラキシーガイドライン2022にもアドレナリン血中濃度は筋注後10分程度で最高になり40分程度で半減すると引用されている(p.21)。これは外因性のアドレナリンの血中濃度が最高になるとは言っていないが、何故か外因性のものの血行動態と勘違いしているのではないかと思わせるような医師等専門家の意見を聞くことが多い。これはアドレナリン代謝は体内で速やかに代謝されるという添付文書の記述にも医薬品インタビューホームの記述にも矛盾するし(②)、これまで一般的に速やかに代謝されて血中半減期は約2-3分と言われてきたことにも矛盾する(③)。AHAガイドライン2020ではCPR(心肺蘇生)中は3-5分毎にアドレナリン1mg静注としている。
ヒトでの資料が少ない中で上記Simonsの論文は貴重であり学ぶことが多いが、彼らがDiscussionで述べていることには違和感を感ずる点もある。その一つは投与前に内因性のアドレナリンをチェックしているので測定の上昇は外因性のアドレナリンであるというように思い込んでいるのではないかという違和感である。この解釈が変だと思うのには現場で経験していれば直ぐ分かることだが、複数のアドレナリン投与法がある中で0.2mlづつ頻回に行う方法もあり例えば0.2mlを20-30秒毎に5回行って計1mlになっても副反応は殆どでないが1回に1mg行えば筋注であろうが皮下注であろうが致死的になり得る危険があることは全ての医師が承知の如くである。(1回当り0.2ml・0.3ml・0.5mlと症例の重症度によって普段使い分けをしていても血圧低下や起き上がれなくなるほどの重症症例では意識があっても迷わず0.5ml施行は当然であるし、逆にCPA等以外は絶対0.5mgを越えない)。0.2mlづつ20-30秒ごとに分割投与すれば計1mgになっても副反応がなく1回投与で1mg行えば致死的リスクが発生し得ることから考えれば、アドレナリン注射後の上昇には内因性アドレナリン分泌も関与しているはずであることは容易に推定できると思う。未体験であれば実際行ってみれば直ぐ解る事である。わずかな量違いに見えるかもしれないが逆に過量についても実際1mg1回投与で事故も起きている(⑧⑨⑩)。Imgと0.5mgでは天と地ほどもその効果は違うのである。10分後20分後でも血中アドレナリン濃度が高く40分後でも半減する程度に高いというのも理解できるのである。また8分経過しなければアドレナリンが効いてこないという解釈も聞くことがあるがこれも間違いであることは、論文①の血中濃度経過グラフをみれば明らかなように、皮下注も筋注も濃度の差こそあれ最初のピークは2-3分の短時間にあると思われ、筋注・皮下注の発現時間の違いはなく同じであることが解る。実際医薬品インタビューフォームでも心血管系への反応は直ちにとなっている(②)。Simonsの論文①の意図は序文で述べているように、皮下注より筋注の方が速く吸収されるのではないかという仮説が前提になっていて、結果もその前提に矛盾しないと言っているのでそれに異を唱えるつもりはない。この論文によればもともと米国でも皮下注をしていたことに対して筋注の方が好ましいと言っているので、このことにも異を唱えるつもりはないが、このデータをもって皮下注では駄目だと結論付けるのが間違いだと言いたいだけである。要するに筋注でも皮下注でも現場の裁量で選べばよいのである。在野の仕事現場でいきなりアナフィラキシーが発現してエピペンを持ち合わせていたらたとえズボンの上からでも良いから大腿(大腿外側広筋)に筋注すればよいし、病院の診察台の上にいれば上腕の衣服を捲り上げて筋注でも皮下注でもどちらでも良いから速やかにまず1回目の注射をすればよいのである。
なお論文①にもある様に筋注でも皮下注でも強度の違いはあれ注射2-3分の短時間で速やかな血中濃度ピークが出現して脈拍上昇等も付随するという所見に対しては、その解釈が、外因性アドレナリンが吸収されたためなのか神経反射のためなのか内因性アドレナリン分泌も係るのか等については未だ未解明の点が残っているようである。

次に、皮下注でなく筋注に機械的に限定した場合の支障や問題点について取り上げる。
アドレナリンは日本人(高峰譲吉&上中啓三)によって1900年に発見されて、論文①にもある様にアナフィラキシー治療に使用されるようになったのはその後で、私が医師になった1970年代初めにはもう当たり前にアナフィラキシー治療に使われていた。当時は主に皮下注で行われていた。
アドレナリン注射だけでなくワクチン注射も特に日本においては小児の大腿四頭筋拘縮症の発生に凝りて、ワクチン注射までも皮下注に限定されるようになっていて小児は筋注の方がやり易いようで日本小児科学会等から筋注も認めてくれと言うようになっていた(⑱)。ところがいつの間にか刷り替えられて感染症医等から筋注にすべきという声の方が大きくて、今やワクチンの注射は筋注に限定するかのように行政府までも動かされるようになってしまった。これも日本の実態を無視した一方的な流れに傾きつつある現状がある。若くて健康な人は筋注・皮下注どちらでもよいが高齢者の一部には筋注したくても筋注できる筋肉がない人もいるのである(高齢者施設の実態は⑪⑫⑬参照)。免疫力の落ちた高齢者こそ優先的にすべきだとの意見と矛盾もしている。
例えばワクチン添付文書の記載が「筋注又は皮下注」になっていれば問題はないのだが、特に最近の新型コロナワクチン導入初期には、筋注と皮下注は天と地ほどに効果が違うと一部の医療界から喧伝されて筋注でなければ駄目だと社会までもが動かされるようになってしまった。血中吸収に違いは有れども免疫効果には大差がないことは免疫の専門家に聞いてもらえばわかることである。感染症医は免疫の専門家ではない。日本の高齢介護施設入所者は筋注限定されると約1/3は該当しなくなるという実態が日本にはあることが意外と知られていない。

筋注皮下注問題はアナフィラキシー時のアドレナリンについても同様で、既に述べた如くアドレナリンへの感受性は個々で異なりそのメカニズムは必ずしも明確にはなっていないが、CPA状態ではアドレナリン1mg静注してさえさらに3-5分毎の追加が必要だとされる如く病態によってもその使用量も回数も異なることは言うを俟たない。言い方を変えればアドレナリンの血中濃度だけで効果の判断もできないとも言えるのである。そのメカニズムはいまだに不明の点があるようで、かつてacidosisでは効かないとも言われたがその根拠が正確なのかどうかも分からない。とにかく臨床的に皮下注・筋注どちらも有効なことは前述の如く明らかなので、どちらも許容すべきである。要するに、皮下注でも筋注でもどちらでも良いから引き続くアナフィラキシー対応を次々と先手を打って打ち出すことこそ必須であると言うに尽きる。また、アナフィラキシー治療にアドレナリン注射が極めて大きい役割を持つのは確実であるが、一方、心肺停止に至る程の重症者の生死にアドレナリン注射の使用の有無をもって効果を絶対視することにも疑問符が付くのは英国での大規模試験の結果を見れば分かる(⑭a,⑭b)。救急入院前の早期からCPA患者にアドレナリン投与してもPlaceboと比べて生存率に有意差はなく、逆に重度の神経障害後遺症発生はアドレナリン使用群の方が高かったのである。



(※偉そうなことを言って申し訳ないが、意見を述べる以上その土台は明らかにしておかねばならないので茲に述べておく。自分は元アレルギー専門医であり、数年前に不要になったと自己判断してその専門医は返納してしまったが今でも日本アレルギー学会から「功労会員の証」は受けている。1972年に医師になり以来40數年に亘ってアレルギー・喘息診療に従事してきて毎週のアレルギー外来等では軽症から急速な一時的心肺停止した重症例に至るまでアナフィラキシーや重症/難治性/喘息も多く現場で診てきたと自負している。急激な重症喘息発作とアナフィラキシーの鑑別の困難症例も勿論ある。そして当然アドレナリンは極めて有効な武器の一つで無数回といって良い程に実際行ってきたが、その投与法・投与量・効果の強弱程度等も症例毎に異なることも体感してきた。そして軽症のアナフィラキシーの場合と心肺停止に至る程の重症の場合ではその使用量・使用法は当然異なってくる。そして、だらだらと慢性状態の中での悪化なのかその直前は健康であったのが重症急変したのか等の病態や環境状況によってもその効果も対応も微妙に異なってくることも理解できていたつもりである。例えば症状が無い患者がいきなりアナフィラキシーや重症喘息発作等急激に発症悪化した場合はアドレナリンが極めて良く効く一方、慢性の前者の急激悪化重症の場合はアドレナリンの効果は極めて悪い、等の違いがあり、難治性喘息かつてintractable asthmaと呼称していたが、今は重症喘息発作と難治性喘息発作は却って区別が曖昧になっている。ATSやERSに合わせて難治性喘息をrefractory asthmaと再定義するようになっている(『難治性喘息 診断と治療の手引き2019(日本呼吸器学会編)』)。

資料:
①Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis. FE Simons, JR Roberts, Xiaochen Gu, KJ Simons. J Allergy Clin Immunol 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7.  https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(98)70190-3/fulltext 。
 【アナフィラキー既往のある小児計17人についてアドレナリン筋注・皮下注のグループ分けの比較をしたデータを提示して、筋注の方が吸収効率が良いと考察している。】
②アドレナリン注0.1%の医薬品インタビューフォーム2018年5月改訂テルモ(製薬企業からの情報提供書) Ⅵ.薬効薬理に関する項目p10.  https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2451402G1040 。
 【効果発現時間: 心血管系:直ちに,気管支拡張:変動しやすい(筋注),6~15min(皮下注)。最大効果発現時間:気管支拡張:0.3hr(皮下注)。効果持続時間:心血管系:1~2min,気管支拡張:1~4hr(筋注,皮下注)。アドレナリン添付文書では交感神経細胞内に取り込まれるかあるいは組織内で主としてMAO、COMTにより速やかに・・代謝され不活性化される、とある。今回テルモか第一三共かで表現が微妙に異なることに気付いた。】
③院外心肺停止傷病者に対するアドレナリン投与間隔の社会復帰に与える影響 日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:551-8 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/23/4/23_551/_pdf/-char/ja 。
 【アドレナリンの消失半減期は約 2 〜 3 分。心肺停止の場合は5分以内の再投与の方が予後が良かった。】
④心肺蘇生(CPR)と救急心血管治療(ECC)に関するAHAガイドライン 2020(ハイライト) https://cpr.heart.org/-/media/cpr-files/cpr-guidelines-files/highlights/hghlghts_2020eccguidelines_japanese.pdf 。
 【CPR処置中は3-5分毎にアドレナリン静注をするフローチャートを提示し、CPR中のアドレナリン1mg静注は3-5分毎に行うとなっている。】
⑤アドレナリン(ボスミン)筋注の推奨投与量が変更になりました2023.1.31埼玉協同病院薬剤科DIニュース https://kyoudou-hp.com/DInews/2023/642.pdf 。
 【誤解されやすい表現になっている】
⑥アナフィラキシーガイドライン改訂2022(2023_0301版)弘前大学医学部附属病院に高度救命救急センター2024年1月12日 https://emergency-hirosaki.com/case-reports-papers/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%94%B9%E8%A8%822022/ 。
 【薬物治療:第一選択薬はアドレナリン筋注です筋注!これでは筋注でなければ駄目だと言っているように見える。】
⑦ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート公開のお知らせ( 2023/6/14 大人用を改変)日本救急医学会 https://www.jaam.jp/info/2021/info-20210622.html 。
 【大人の場合はアドレナリン0.5mgに変更になったと言っている。エピペンは50kg成人に対しては容量が少ないことを念頭に置くこと、と添え書きをしている。】
⑧救急活動時の救急救命処置による事故調査・検証報告書 令和4年2月15日千葉市救急業務検討委員会 https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/220311-3-2.pdf 。
 【エビを食べた10代女性にアドレナリン1A(1mg)静注して心室細動 心肺停止した2021年に起きた事故報告書】
⑨「アドレナリン静注で心停止」した事故を振り返る2022/03/24日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/yakushiji/202203/574371.html 。
 【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑩アナフィラキシー症状で搬送中の10代女性、救急隊員の投薬ミスで心肺停止に
2021/10/08 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/national/20211008-OYT1T50012/ 。
 【前記2021年のアドレナリン1mg静注事故について】
⑪皮下注か筋注かで気になったのでちょっと一言。2020年9月19日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02xnxzq2fn9JjCdzNp7zUAT2VMgVMtGdKJqMwQvHQnv5d64TGAee39wj86pNb14Vsnl?__cft__[0]=AZVSKbzOfE6LWxuV4XJHhm9-cSOH2Njtd3SpIS1WbcZGFshe38zjuyYL0AK_nyVHokkpFi0vPTm9K4wj_zqwTkcRPA84Pyelqqu_aAYnpos5hlTQHjWXxIxMUR4FXoCmnqU&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑫ワクチン筋注、たかが筋注されど筋注:古くて新しい問題。2022年9月6日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02wYERt41srBnPsZk8gA1LU91FjQrZsgonCmtLUP7k4xr9yP8zaYaKCXPM3deYyw22l?__cft__[0]=AZW8XaE_lhr60erX-v0zTCMUL22OAh9URNGQfdYDvZ6P3rcG3qdQVT-PQEPDBT22a0VdJVPBEW_ofJio70f_tPQL8004XxwlLRPLmNWSchdV2tVxiiqwVZ2FA2lDi5x76gI&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑬・・筋注・皮下注とで免疫効果は違わない・・2022年6月23日 https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid0wnbTDB2mt8ZFK5pdS3vwVrQ78u7KQAVvPXEDrSDUBW64LjSrqwqDpuEFSif4ZbQl?__cft__[0]=AZVuA-ePbDEzNRR0gQW9n-s_jH9cT8-Vegw51LqChGO6zLa-l4-J5sOARFKtzr5YUyRSVHInuRnznHFMI-vc6ZoCZXvff8I2bkwoCHFPs2EK6D71ck6chFJdvrgtnm0CD74&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑭a Perkins GD, Ji C, Deakin CD, et al. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med. 2018;379(8):711-21.  https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1806842?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov 。
⑭b Haywood KL, Ji C, Quinn T, et al. Long term outcomes of participants in the PARAMEDIC2 randomised trial of adrenaline in out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation. 2021;160:84-93.  A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(21)00028-9/abstract 。
 【⑭a:英国でのPARAMEDIC2試験で、2014年から3年間にわたって救急入院前からのアドレナリン使用の効果をPlaceboと比較した。計8014人に及ぶ大規模試験である。CPA患者に救急入院前からアドレナリンかplaceboを使った。30日後の生存は3.2%対2.4%と改善傾向がアドレナリン群で見られたが有意差無し、神経学的予後良好な患者の割合は更に差がなくなり2.2%対1.9%で有意差無し。しかも神経学的に強い障害が残ったのは31.0%対17.8%とアドレナリン群で多くみられた。
 ⑭b:さらに12か月後迄のフォローアップ結果が報告された。6か月後・12か月後の生存率はそれぞれ2.9%対2.2%・2.7%対2.0%で、神経学的予後良好の患者は6か月後で2.0%対1.5%で更に低く有意差もない。病院に到着する前からアドレナリンを使ってもその効果は絶対ではないことを示したデータである。】


其の他関連資料:
⑮アドレナリン製剤の使用上の注意の改訂について 平成30年8月3日 医薬安全対策課 厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000341843.pdf 。
 【アナフィラキシー時のアドレナリン併用は抗精神薬との併用禁忌が従来あり、救急医等が代替薬としてピトレッシン等様々に主張工夫していた時期があったがどれも現実的でなく、やっと平成30(2018)年に禁忌項目が削除され、救急の現場で抗精神薬を使っていても堂々とアドレナリンを使えるようになった。】
⑯Dose-dependent vasopressor response to epinephrine during CPR in human beings Ann Emerg Med. 1989 Sep;18(9):920-6  https://www.annemergmed.com/article/S0196-0644(89)80453-6/abstract 。
 【CPR試行中に5分間隔でアドレナリン1mg・3mg・5mg投与を行ったら量依存的に血圧上昇した。】
⑰マネーゲームと化した米薬価事情 仲野博文 尼崎労基協会 第374号12月号p9 平成28年11月25日 https://web.archive.org/web/20211125191554/http://www.amaroukyo.com/wp-content/uploads/2016/11/2812.pdf 。
 【1987年にFDAに認可されたエピペンはその後メルク社→マイラン社に買収されて、60ドル→600ドルに値上げされ、マネーゲームに使われ米国で社会問題にまでなったと報告している。日本では2003年に厚労省に認可されて2011年薬価収載されるまでは自費でしかも許可を得た医師のみが処方できた。新型コロナワクチン注射によるアナフィラキシー対応で皮肉にも広く人口に膾炙されて、するかしないかで裁判沙汰にもなるようになった。】
⑱要望書:不活化ワクチンの筋肉内注射の添付文書への記載の変更について 日本小児科学会 平成23年6月16日 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_1106273.pdf 。
 【インフルエンザワクチンなど不活化ワクチン接種時の接種方法として添付文書に、皮下接種に加えて、筋肉内注射で行うことも可能とする記載を要望する、と厚労大臣に要望している。小児科学会は筋注に変更して欲しいと言っているのではなく皮下注とともに筋注も許可してほしいと言っているのである。なお生ワクチンは米国でも皮下注。】

※※(2024/8/30追記)
 上記私見を書くきっかけになったのは下記2つの事例をニュースで知ったためであり、これではまともな医療が出来なくなるのではないかと恐れたためである。その前までは1994年法医学会ガイドラインが出て以来日本医師会を含む多くの学会で喧々諤々の議論がなされ、それでも何でも警察に届出るようにとなっていて別の様々な歪みが出ていて多くの問題があったが、議論後の2015年に出来た今の医療事故調査制度は逆方向に大きく振れてしまっている現状がある。
〇愛知 愛西 ワクチン接種後女性死亡 遺族が市を提訴へ2023年11月23日NHK  https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20231123/3000032905.html 。
新型コロナワクチン死亡損害賠償訴訟 愛知・愛西市は争う姿勢2024年2月9日NHK https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20240209/3000034151.html 。
 【上記の2つのニュースは、2022.11.5.に起きた新型コロナワクチン集団接種会場で起きた短時間で死亡した事例の公式報告書が2023.9.26.公表されたのを受けて家族が愛西市を訴えた2023.11.23.及び2024.2.9.の裁判のニュース。この報告書が訴えのきっかけになったと思われる裁判であり、ご家族の気持ちを逆なでするような稚拙な思い込みによる公式報告書であった。一方医療側も、これが「自然死」であるはずはないが、原因究明の解剖はしていなかった。この事例を受け入れた救急病院が死後の解剖をしていないのは現在の医療事故調査制度(第3者による死因究明組織であるべき、のはずが頓挫して届出は第3者でない従来の警察になったままになっている)が歪められた解釈をされたためとしか考えられない。換言すれば今の医療事故調査制度は返って改悪された状態のままである。】
〇コロナワクチン接種後に男性死亡 遺族が国や神戸市など提訴 2024/6/3 神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202406/0017729399.shtml 。
 【この死亡例も法医解剖であれ行政解剖であれ病理解剖であれ原因究明の解剖をしていない。これは死亡診断書の記載ルール上からは「自然死」と判断したとしか思われない。常識では考えられない判断だがそのもとにあるのは、2015年から新たに施行された医療事故調査制度であり、それが歪んで解釈された結果と思われる。
 抑々病理解剖では家族が嫌がるのを医療側がどうにか説得してやっと解剖できるというのが正常の道筋であり、一方、法医解剖では遺族が拒否した場合は現場の刑事と病院側が相談して犯罪性はゼロなので行わないことも止むを得ないと判断しても現場を知らない決定権のある警察上司に現場刑事がお伺いを立てるのであるが、その上司は万が一の自己保身のためと思われるが犯罪性がゼロであっても警察に届出された以上は法医解剖が必要と裁判所の許可を得てでも行えと強権を発動する、これが私の多く経験した現場の実態であった。ところがこの2つの裁判例の場合は本末転倒で逆に解剖の未施行が医療側の責任として責められている。】



(以上、終わり)

新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り2024年07月12日

新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り

初期の武漢株による発生初期には肺胞への親和性が強く症状の有無に係らず感染者の半数に間質性肺炎像が認められるとの驚くべき報告が自衛隊中央病院よりなされて(2020年6月、1/3弱が重症、2/3は軽症/無症状)、事実俳優の志村けんが急死してその前後も本人の自覚が乏しい中で急死する患者が相次ぎ世界を席巻し、happy anoxiaと恐れられた。しかも肺だけでなく全身のあらゆる臓器に侵入傷害しその死因も多彩であった。しかしウイルス変異のサイクルが激しくわずか数年で肺胞をはじめとした全身への毒性が軽減してきているように見え、その感染対策への考え方も時々刻々と次々に変わり議論も百出であった。
 中国武漢での初発が2019年12月で日本への初発例は2020年1月15日に確認されて以来、その後の5か月間に日本国内でも668人が死亡したとされている。
 そしてウイルス自体も変異が激しく弱毒化に並行してワクチン行政も進み、昨年2023年5月8日からは感染症類型も5類に変更となっている。手放しで安心するには未だ時期尚早の段階であるが、これまでの事実をもとに現段階でのCOVID-19患者からの感染リスクの程度についてまとめてみる。
A: officialには5類になって以降は感染前後の対応が個人の判断に任されて「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」が登校・登園・出勤を控える公的な推奨期間とされた(①)。従って出勤は6日目から/7日目からに設定していることが多いと思われ、症状があれば10日までの欠勤も認めている職場等が多いのではないかと思われる。現に症状が残っていてもマスク・手洗いをはじめとした基本予防策を守っていれば出勤しても他人に移してしまう心配はないとされるようになってきている。
B:COVID-19患者からのウイルス排出量の程度と期間について、
 イギリスでの健康人での2回の人体実験の報告(初回②:未感染者2022年・2回目③:既感染者2024年)からは、健康人未感染者の鼻腔にCOVID-CoV-2のウイルス(10TCID50)を直接注入しても感染したのは半数(18人/34人中)で発症しても軽中等症(16/18人中)、感染しても11%(2/18人中)は無症状だったという。しかも2回目実験の免疫獲得済の健康人ではその希釈系列max1万倍までのウイルス量を鼻腔に直接注入しても発症したのは何と全体の14%(5人/36人中)のみでしかも一過性の軽症だった(1x10^5TCID50の最大ウイルス量でも一過性感染は8例中1例のみ、一過性感染とウイルス量の相関無し)。しかもその後に変異株のオミクロン株にも罹患した者の発症者が39%(14/36)と増えたもののすべて軽症だったという。
 この実験からはかなり多くのウイルスを吸入してもすべてが発症するわけではないこと、免疫効果は著明であること、変異株オミクロン株へのワクチン効果もあること、等を示していた。発症するヒトと発症しないヒトの違い、一部のヒトが何故重症化するのか、なぜ後遺症が出るヒトがいるのか等なお未解明部分が多いようだが、自然免疫能と獲得免疫能とのバランスや違いにあるとの推定もあるようだ④。
 これは一般的な病原体にも言えることかもしれないがCOVID-19も、多量のウイルスを吸入しても発症しないヒトがいるという事実を上記実験で確認したことになる。
 ウイルス量Ct値30≒PCR10000コピー≒10TCID50なので、10000コピー中のviableなウイルスは10-100個(1/100~1/1000)位という(⑤⑥⑦但し標準化や精度管理不明)。また上記人体実験で希釈系列max10万TCID50のviableウイルスを鼻腔内注入しても発症したのは全体の14%に過ぎないということは言い換えれば感染性を持った新型コロナウイルス粒子10~100万個が体内に入っても半数しか発病しないということである(但し免疫があった場合!)。その半数も大部分の人がカゼ程度で済んでしまうのに(実験上重症者ゼロ)、臨床現場では極一部でなぜ死に至るほどの重症になるのか、あるいは後遺症が残ってしまうのか、については今尚未解明の点が多い。
暴露ウイルス量と感染・発症との関係では暴露ウイルス量が多い方が感染・発症確率は上がるとされている(⑧)。この資料図9によれば10^10コピー/mlのウイルス量排出での他人への感染確率は20%位という。感染リスクは従って日常生活においては神経質すぎるのも楽観的過ぎるのも良くない。いわゆる中庸をどう保つかが実生活のポイントということになる。マスコミで特別扱いされた不織布マスクも呼気の湿気で静電効果を失えば(N95マスクは更に機能低下)普通の布マスクと効果は同じか却って機能低下してしまうのである。数時間毎に交換しなければ効果が出ない不織布マスクはSDGsの理念にも反する。このことを考えれば不織布マスクに拘る必要はないのである。にもかかわらず現実は不織布マスクが定番になって今も世の中を席巻してしまっているのは皮肉としか言いようがない。(⑨⑩⑪⑫⑬)。
C:ウイルス排出が感染リスクに直接結びつく訳ではないという事実について(SRAS-CoV-2とノロウイルスの比較も含めて)、
 SARS-CoV-2は変異が激しくその発症確率も時間とともに変化し得るので、各時点での発症確率はその都度検証する必要があるがこれまでのデータから判断すれば、
 英国の初回人体実験②からは、発症確率は10TCID50のウイルス量で50%であった。これは免疫がない場合で免疫がある場合(既感染±ワクチン)は更に低く発症確率はウイルス量が更に多くても全体の14%しか感染しなかった。
 一方ノロウイルスは、10~100個のウイルス量で感染成立するとは公的に言い古されてきていたことである(⑭⑮)。これは素人目に分かり易い説明であるが正確に言うと⑮によれば、50%発症確率は10^6(百万)コピー、10%発症確率は10^3(1000)コピー、70%発症確率は10^8(1億)コピーである。PCRはウイルス断片も含まれるのでviableなウイルス粒子はもっとずっと少ないはずであるが参考にはなる。要するにノロウイルス10~100個で感染すると言ってもほんの一部のヒト数%が感染するだけということである。しかも感染しても必ずしも発症する訳でもないのである。
 50%感染確率で比較すると、SARS-CoV-2は1万コピー、ノロウイルスは100万コピーとなる。感染力が強いとされるノロウイルスよりも100倍感染力が強いことになる。しかしPCRはウイルス粒子断片も含むので感染性ウイルス粒子の比較ではないので比較の価値があるかどうかは疑わしいが参考にはなる。
D:空気感染の定義について、
 SARS発生の時もそうだったが今回のCOVID-19も早期より空気感染し得るという説が学会を含めて出たり消えたりしていた(⑯⑰⑱)。
 COVID-19発生前までは空気感染(=飛沫核感染)が日本で公式に認められていたのは結核・麻疹・水痘の3つのみであった。
これまで空気感染という言葉については特別な感覚・意味合いを医療者は持っていた。同じ部屋空間の共有が不可とされた故、結核は別棟の療養所または陰圧病室と定められていたし、麻疹の子供が同じ病院内待合室にいたのが分かると病院内は大騒ぎしたし、水痘は殆どのヒトが既感染済なので普通の病院は気にしなかったが免疫能低下の白血病病棟等で発生すればパニックにさえなったという。医療者の空気感染の認識はそうであった。
2003年のSARS発生時もその問題は燻ぶっていたが今回2020年からのCOVID-19発生ではとうとう用語の曖昧さ故に放置出来なくなり、エロゾル感染やマイクロ飛沫感染等新たな無定義のままの学術語が独り歩きして飛び交うようになった。そしてついに最近(2024年4月)WHOからも用語の共通認識を図るための新定義の試みが出てきた⑲。願ってもないことである。
 しかし統一見解には未だ程遠いような印象を受ける。従来のように感染粒子の大きさで区別するという考え方からは脱却して新たな視点からその感染様式を決めようと努力しているのは確かのようだ。そのIRPs(infectious respiratory particles)という別表現には対立意見もあるようで意見調整にはなお時間が必要のように見える。短時間か長時間の感染性をその空間が保っているかどうかで現場対応は大きく異なってくるが、このIRPsには時間の概念がないように見える。これだけでも意見統一はできないのではないかと思える。
今の所、尾身茂氏が示していた【・・2.7.30.の政府のアドバイザリーボード資料「新型コロナウイルス感染症はこうした経路で広がっています」の中では異なる概念であると明示している。空気感染が長時間・長距離まで感染が広がり得るのに対してエアロゾル感染は、3密等の一定条件下で起こり得る少し長い時間・少し長い距離にまで感染が拡がり得る場合を指すと言っていた(意訳)、この言葉が定着した今これがofficialな見解になるのだと思う。本書を読んで初めてその定義を知った。・・(資料⑳より)】これが日本の当面の妥当な考え方と思われる。


以下資料:
①新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 療 養 に 関 す る Q & A(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf 。
②Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nat Med. 2022 May;28(5):1031-1041.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361992/ 。
③Safety, tolerability, viral kinetics, and immune correlates of protection in healthy, seropositive UK adults inoculated with SARS-CoV-2: a single-centre, open-label, phase 1 controlled human infection study. Lancet Microbe 26/04/2024 https://www.immunology.ox.ac.uk/publications/1994167 。
④宮坂 昌之氏情報: https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0LBuoq3FUQLNAciRomhxiEHm6FcSXF395J7RKdXMkk193mjFGHFTFbmDJZXe2a798l?__cft__[0]=AZXh4nC6Iy-hHTmMqEjvwU1FKLm4d5m5wVNHBhH5rg3NAw45GD5s-9_wAr0IxSX5MgFBF4aFqGbkQMgLO1Bl3Zjv1xmDeZjXSP7zvoIZs1MIpb8eBRTpOkDvIgZGeUgPgQaIxWiMXTGYPcQZMVelGZ8odsym4BcJ-A-NOPj39HgZzg&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑤検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察 (IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)国立感染症研究所  https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10133-491d01.html 。
⑥富山県内新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離解析―富山県衛生研究所(IASR Vol. 42 p84-86: 2021年4月号)国立感染症研究所  https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10303-494d03.html 。
⑦ウイルス学エピソード(5)ウイルスの個数って数えられる? 令和2年6月26日 神奈川県衛生研究所 https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_virology/virology_episode_05.html 。
⑧厚労省:第56回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月20日)資料3-7 舘田先生提出資料(図9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html#h2_free10 。
⑨N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 2020/04/24 西村 秀一(仙台医療センター)日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html 。
⑩マスクはどうやってウイルスをろ過してる?2020年5月24日 https://infipwr.com/2020/05/24/maskfilter/ 。
⑪電気通信大学 石垣 陽:マスクの安全を守る静電気技術 http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE202_3_open.pdf 。
⑫東京大学生産技術研究所:「マスク・チャージャー」の開発――静電気の力でマスクをパワーアップ2023.04.26 https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4207/ 。
⑬新型コロナウイルスでのマスク不足について。新型コロナウイルス生存期間。BSL-4。 ―2020年02月28日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/02/28/9218715 。
⑭厚労省:ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について 平成27年国立医薬品食品衛生研究所 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf 。
⑮国土交通省:参考資料編 参考6.ノロウイルスの用量反応p70 https://www.mlit.go.jp/common/000116093.pdf 。
⑯新型コロナは"空気感染"です(第61回日本臨床ウイルス学会)仙台医療センター西村秀一氏が学会で講演2020年11月06日 メディカルトリビューン https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1106533287/?utm_source=mail&utm_medium=recent&utm_campaign=mailmag201107 。
⑰オーストラリア:Airborne transmission of SARS-CoV-2: The world should face the reality(2020年6月) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041202031254X?via%3Dihub 。
⑱新型コロナの、空気感染・エアゾル感染・マイクロ飛沫感染? 言葉の定義を巡って https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/18/9317806 。
⑲WHO:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air 18 April 2024  https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air 。
⑳尾身茂著「1100日間の葛藤」を購入して、わが身を振り返る https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02FCir8PTCV9p1k2EkKuv43T32g9jb7UmWPDRudHFWW6xyNBBT1ArHzbQ8L6biF1YJl?__cft__[0]=AZUtT06p1yfDHAR92krqzvHi-RIiiXmsSkcqG0OigXKnMsSTMPoNMV3HLPcTLIg0yJIqvhOJi_UfLvcoYErz9PNkIHoL41IVXzgw1XWbMkGyg0wPZW9hLEE5uHnqAroBlI4&__tn__=%2CO%2CP-R 。


(追加)
㉑Timing and Predictors of Loss of Infectivity Among Healthcare Workers With Mild Primary and Recurrent COVID-19: A Prospective Observational Cohort Study. Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):613-624.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37675577/ 。
 【人員不足もあり医療従事者は一定の条件で5日間での出勤可能の判断が既にCDC等や日本でも許可されていた中での検証研究。カナダの大規模病院20施設の観察研究データで、2022年2月から約1年間のCOVID-19発症の軽症患者121名について感染性ウイルスの排出持続期間をウイルス分離培養にて調査した。 結果:発症日を1日目としてウイルス培養陽性率は5日目71.9%,7日目46.7%,10日目18.2%であった。即ち10日目でも18.2%は感染性ウイルスをなお排出していた。なお、10日目でもウイルス抗原検査では34.2%が陽性、RT-PCRでは61.2%が陽性であった。ウイルス培養陽性期間と症状の有無・抗原検査結果の関連はなかったが、既往感染は感染ウイルス排出期間を短縮していて10日目は0%だった。(私見では、たとえウイルス排出していてもマスク・手洗い等スタンダードプレコーションを守っていればヒトに移すことは無いと分かってきているので、無症状ならば出勤停止期間を10日以上に延長する必要はないと思う。実際そう実践してきていて問題は起きていない。)】