新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り ― 2024年07月12日
新型コロナ感染症(COVID-19)罹患患者からのウイルス感染にどこまで気を付けるべきか、についての振り返り
初期の武漢株による発生初期には肺胞への親和性が強く症状の有無に係らず感染者の半数に間質性肺炎像が認められるとの驚くべき報告が自衛隊中央病院よりなされて(2020年6月、1/3弱が重症、2/3は軽症/無症状)、事実俳優の志村けんが急死してその前後も本人の自覚が乏しい中で急死する患者が相次ぎ世界を席巻し、happy anoxiaと恐れられた。しかも肺だけでなく全身のあらゆる臓器に侵入傷害しその死因も多彩であった。しかしウイルス変異のサイクルが激しくわずか数年で肺胞をはじめとした全身への毒性が軽減してきているように見え、その感染対策への考え方も時々刻々と次々に変わり議論も百出であった。
中国武漢での初発が2019年12月で日本への初発例は2020年1月15日に確認されて以来、その後の5か月間に日本国内でも668人が死亡したとされている。
そしてウイルス自体も変異が激しく弱毒化に並行してワクチン行政も進み、昨年2023年5月8日からは感染症類型も5類に変更となっている。手放しで安心するには未だ時期尚早の段階であるが、これまでの事実をもとに現段階でのCOVID-19患者からの感染リスクの程度についてまとめてみる。
A: officialには5類になって以降は感染前後の対応が個人の判断に任されて「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」が登校・登園・出勤を控える公的な推奨期間とされた(①)。従って出勤は6日目から/7日目からに設定していることが多いと思われ、症状があれば10日までの欠勤も認めている職場等が多いのではないかと思われる。現に症状が残っていてもマスク・手洗いをはじめとした基本予防策を守っていれば出勤しても他人に移してしまう心配はないとされるようになってきている。
B:COVID-19患者からのウイルス排出量の程度と期間について、
イギリスでの健康人での2回の人体実験の報告(初回②:未感染者2022年・2回目③:既感染者2024年)からは、健康人未感染者の鼻腔にCOVID-CoV-2のウイルス(10TCID50)を直接注入しても感染したのは半数(18人/34人中)で発症しても軽中等症(16/18人中)、感染しても11%(2/18人中)は無症状だったという。しかも2回目実験の免疫獲得済の健康人ではその希釈系列max1万倍までのウイルス量を鼻腔に直接注入しても発症したのは何と全体の14%(5人/36人中)のみでしかも一過性の軽症だった(1x10^5TCID50の最大ウイルス量でも一過性感染は8例中1例のみ、一過性感染とウイルス量の相関無し)。しかもその後に変異株のオミクロン株にも罹患した者の発症者が39%(14/36)と増えたもののすべて軽症だったという。
この実験からはかなり多くのウイルスを吸入してもすべてが発症するわけではないこと、免疫効果は著明であること、変異株オミクロン株へのワクチン効果もあること、等を示していた。発症するヒトと発症しないヒトの違い、一部のヒトが何故重症化するのか、なぜ後遺症が出るヒトがいるのか等なお未解明部分が多いようだが、自然免疫能と獲得免疫能とのバランスや違いにあるとの推定もあるようだ④。
これは一般的な病原体にも言えることかもしれないがCOVID-19も、多量のウイルスを吸入しても発症しないヒトがいるという事実を上記実験で確認したことになる。
ウイルス量Ct値30≒PCR10000コピー≒10TCID50なので、10000コピー中のviableなウイルスは10-100個(1/100~1/1000)位という(⑤⑥⑦但し標準化や精度管理不明)。また上記人体実験で希釈系列max10万TCID50のviableウイルスを鼻腔内注入しても発症したのは全体の14%に過ぎないということは言い換えれば感染性を持った新型コロナウイルス粒子10~100万個が体内に入っても半数しか発病しないということである(但し免疫があった場合!)。その半数も大部分の人がカゼ程度で済んでしまうのに(実験上重症者ゼロ)、臨床現場では極一部でなぜ死に至るほどの重症になるのか、あるいは後遺症が残ってしまうのか、については今尚未解明の点が多い。
暴露ウイルス量と感染・発症との関係では暴露ウイルス量が多い方が感染・発症確率は上がるとされている(⑧)。この資料図9によれば10^10コピー/mlのウイルス量排出での他人への感染確率は20%位という。感染リスクは従って日常生活においては神経質すぎるのも楽観的過ぎるのも良くない。いわゆる中庸をどう保つかが実生活のポイントということになる。マスコミで特別扱いされた不織布マスクも呼気の湿気で静電効果を失えば(N95マスクは更に機能低下)普通の布マスクと効果は同じか却って機能低下してしまうのである。数時間毎に交換しなければ効果が出ない不織布マスクはSDGsの理念にも反する。このことを考えれば不織布マスクに拘る必要はないのである。にもかかわらず現実は不織布マスクが定番になって今も世の中を席巻してしまっているのは皮肉としか言いようがない。(⑨⑩⑪⑫⑬)。
C:ウイルス排出が感染リスクに直接結びつく訳ではないという事実について(SRAS-CoV-2とノロウイルスの比較も含めて)、
SARS-CoV-2は変異が激しくその発症確率も時間とともに変化し得るので、各時点での発症確率はその都度検証する必要があるがこれまでのデータから判断すれば、
英国の初回人体実験②からは、発症確率は10TCID50のウイルス量で50%であった。これは免疫がない場合で免疫がある場合(既感染±ワクチン)は更に低く発症確率はウイルス量が更に多くても全体の14%しか感染しなかった。
一方ノロウイルスは、10~100個のウイルス量で感染成立するとは公的に言い古されてきていたことである(⑭⑮)。これは素人目に分かり易い説明であるが正確に言うと⑮によれば、50%発症確率は10^6(百万)コピー、10%発症確率は10^3(1000)コピー、70%発症確率は10^8(1億)コピーである。PCRはウイルス断片も含まれるのでviableなウイルス粒子はもっとずっと少ないはずであるが参考にはなる。要するにノロウイルス10~100個で感染すると言ってもほんの一部のヒト数%が感染するだけということである。しかも感染しても必ずしも発症する訳でもないのである。
50%感染確率で比較すると、SARS-CoV-2は1万コピー、ノロウイルスは100万コピーとなる。感染力が強いとされるノロウイルスよりも100倍感染力が強いことになる。しかしPCRはウイルス粒子断片も含むので感染性ウイルス粒子の比較ではないので比較の価値があるかどうかは疑わしいが参考にはなる。
D:空気感染の定義について、
SARS発生の時もそうだったが今回のCOVID-19も早期より空気感染し得るという説が学会を含めて出たり消えたりしていた(⑯⑰⑱)。
COVID-19発生前までは空気感染(=飛沫核感染)が日本で公式に認められていたのは結核・麻疹・水痘の3つのみであった。
これまで空気感染という言葉については特別な感覚・意味合いを医療者は持っていた。同じ部屋空間の共有が不可とされた故、結核は別棟の療養所または陰圧病室と定められていたし、麻疹の子供が同じ病院内待合室にいたのが分かると病院内は大騒ぎしたし、水痘は殆どのヒトが既感染済なので普通の病院は気にしなかったが免疫能低下の白血病病棟等で発生すればパニックにさえなったという。医療者の空気感染の認識はそうであった。
2003年のSARS発生時もその問題は燻ぶっていたが今回2020年からのCOVID-19発生ではとうとう用語の曖昧さ故に放置出来なくなり、エロゾル感染やマイクロ飛沫感染等新たな無定義のままの学術語が独り歩きして飛び交うようになった。そしてついに最近(2024年4月)WHOからも用語の共通認識を図るための新定義の試みが出てきた⑲。願ってもないことである。
しかし統一見解には未だ程遠いような印象を受ける。従来のように感染粒子の大きさで区別するという考え方からは脱却して新たな視点からその感染様式を決めようと努力しているのは確かのようだ。そのIRPs(infectious respiratory particles)という別表現には対立意見もあるようで意見調整にはなお時間が必要のように見える。短時間か長時間の感染性をその空間が保っているかどうかで現場対応は大きく異なってくるが、このIRPsには時間の概念がないように見える。これだけでも意見統一はできないのではないかと思える。
今の所、尾身茂氏が示していた【・・2.7.30.の政府のアドバイザリーボード資料「新型コロナウイルス感染症はこうした経路で広がっています」の中では異なる概念であると明示している。空気感染が長時間・長距離まで感染が広がり得るのに対してエアロゾル感染は、3密等の一定条件下で起こり得る少し長い時間・少し長い距離にまで感染が拡がり得る場合を指すと言っていた(意訳)、この言葉が定着した今これがofficialな見解になるのだと思う。本書を読んで初めてその定義を知った。・・(資料⑳より)】これが日本の当面の妥当な考え方と思われる。
以下資料:
①新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 療 養 に 関 す る Q & A(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf 。
②Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nat Med. 2022 May;28(5):1031-1041. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361992/ 。
③Safety, tolerability, viral kinetics, and immune correlates of protection in healthy, seropositive UK adults inoculated with SARS-CoV-2: a single-centre, open-label, phase 1 controlled human infection study. Lancet Microbe 26/04/2024 https://www.immunology.ox.ac.uk/publications/1994167 。
④宮坂 昌之氏情報: https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0LBuoq3FUQLNAciRomhxiEHm6FcSXF395J7RKdXMkk193mjFGHFTFbmDJZXe2a798l?__cft__[0]=AZXh4nC6Iy-hHTmMqEjvwU1FKLm4d5m5wVNHBhH5rg3NAw45GD5s-9_wAr0IxSX5MgFBF4aFqGbkQMgLO1Bl3Zjv1xmDeZjXSP7zvoIZs1MIpb8eBRTpOkDvIgZGeUgPgQaIxWiMXTGYPcQZMVelGZ8odsym4BcJ-A-NOPj39HgZzg&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑤検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察 (IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10133-491d01.html 。
⑥富山県内新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離解析―富山県衛生研究所(IASR Vol. 42 p84-86: 2021年4月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10303-494d03.html 。
⑦ウイルス学エピソード(5)ウイルスの個数って数えられる? 令和2年6月26日 神奈川県衛生研究所 https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_virology/virology_episode_05.html 。
⑧厚労省:第56回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月20日)資料3-7 舘田先生提出資料(図9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html#h2_free10 。
⑨N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 2020/04/24 西村 秀一(仙台医療センター)日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html 。
⑩マスクはどうやってウイルスをろ過してる?2020年5月24日 https://infipwr.com/2020/05/24/maskfilter/ 。
⑪電気通信大学 石垣 陽:マスクの安全を守る静電気技術 http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE202_3_open.pdf 。
⑫東京大学生産技術研究所:「マスク・チャージャー」の開発――静電気の力でマスクをパワーアップ2023.04.26 https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4207/ 。
⑬新型コロナウイルスでのマスク不足について。新型コロナウイルス生存期間。BSL-4。 ―2020年02月28日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/02/28/9218715 。
⑭厚労省:ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について 平成27年国立医薬品食品衛生研究所 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf 。
⑮国土交通省:参考資料編 参考6.ノロウイルスの用量反応p70 https://www.mlit.go.jp/common/000116093.pdf 。
⑯新型コロナは"空気感染"です(第61回日本臨床ウイルス学会)仙台医療センター西村秀一氏が学会で講演2020年11月06日 メディカルトリビューン https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1106533287/?utm_source=mail&utm_medium=recent&utm_campaign=mailmag201107 。
⑰オーストラリア:Airborne transmission of SARS-CoV-2: The world should face the reality(2020年6月) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041202031254X?via%3Dihub 。
⑱新型コロナの、空気感染・エアゾル感染・マイクロ飛沫感染? 言葉の定義を巡って https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/18/9317806 。
⑲WHO:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air 18 April 2024 https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air 。
⑳尾身茂著「1100日間の葛藤」を購入して、わが身を振り返る https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02FCir8PTCV9p1k2EkKuv43T32g9jb7UmWPDRudHFWW6xyNBBT1ArHzbQ8L6biF1YJl?__cft__[0]=AZUtT06p1yfDHAR92krqzvHi-RIiiXmsSkcqG0OigXKnMsSTMPoNMV3HLPcTLIg0yJIqvhOJi_UfLvcoYErz9PNkIHoL41IVXzgw1XWbMkGyg0wPZW9hLEE5uHnqAroBlI4&__tn__=%2CO%2CP-R 。
(追加)
㉑Timing and Predictors of Loss of Infectivity Among Healthcare Workers With Mild Primary and Recurrent COVID-19: A Prospective Observational Cohort Study. Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):613-624. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37675577/ 。
【人員不足もあり医療従事者は一定の条件で5日間での出勤可能の判断が既にCDC等や日本でも許可されていた中での検証研究。カナダの大規模病院20施設の観察研究データで、2022年2月から約1年間のCOVID-19発症の軽症患者121名について感染性ウイルスの排出持続期間をウイルス分離培養にて調査した。 結果:発症日を1日目としてウイルス培養陽性率は5日目71.9%,7日目46.7%,10日目18.2%であった。即ち10日目でも18.2%は感染性ウイルスをなお排出していた。なお、10日目でもウイルス抗原検査では34.2%が陽性、RT-PCRでは61.2%が陽性であった。ウイルス培養陽性期間と症状の有無・抗原検査結果の関連はなかったが、既往感染は感染ウイルス排出期間を短縮していて10日目は0%だった。(私見では、たとえウイルス排出していてもマスク・手洗い等スタンダードプレコーションを守っていればヒトに移すことは無いと分かってきているので、無症状ならば出勤停止期間を10日以上に延長する必要はないと思う。実際そう実践してきていて問題は起きていない。)】
初期の武漢株による発生初期には肺胞への親和性が強く症状の有無に係らず感染者の半数に間質性肺炎像が認められるとの驚くべき報告が自衛隊中央病院よりなされて(2020年6月、1/3弱が重症、2/3は軽症/無症状)、事実俳優の志村けんが急死してその前後も本人の自覚が乏しい中で急死する患者が相次ぎ世界を席巻し、happy anoxiaと恐れられた。しかも肺だけでなく全身のあらゆる臓器に侵入傷害しその死因も多彩であった。しかしウイルス変異のサイクルが激しくわずか数年で肺胞をはじめとした全身への毒性が軽減してきているように見え、その感染対策への考え方も時々刻々と次々に変わり議論も百出であった。
中国武漢での初発が2019年12月で日本への初発例は2020年1月15日に確認されて以来、その後の5か月間に日本国内でも668人が死亡したとされている。
そしてウイルス自体も変異が激しく弱毒化に並行してワクチン行政も進み、昨年2023年5月8日からは感染症類型も5類に変更となっている。手放しで安心するには未だ時期尚早の段階であるが、これまでの事実をもとに現段階でのCOVID-19患者からの感染リスクの程度についてまとめてみる。
A: officialには5類になって以降は感染前後の対応が個人の判断に任されて「発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで」が登校・登園・出勤を控える公的な推奨期間とされた(①)。従って出勤は6日目から/7日目からに設定していることが多いと思われ、症状があれば10日までの欠勤も認めている職場等が多いのではないかと思われる。現に症状が残っていてもマスク・手洗いをはじめとした基本予防策を守っていれば出勤しても他人に移してしまう心配はないとされるようになってきている。
B:COVID-19患者からのウイルス排出量の程度と期間について、
イギリスでの健康人での2回の人体実験の報告(初回②:未感染者2022年・2回目③:既感染者2024年)からは、健康人未感染者の鼻腔にCOVID-CoV-2のウイルス(10TCID50)を直接注入しても感染したのは半数(18人/34人中)で発症しても軽中等症(16/18人中)、感染しても11%(2/18人中)は無症状だったという。しかも2回目実験の免疫獲得済の健康人ではその希釈系列max1万倍までのウイルス量を鼻腔に直接注入しても発症したのは何と全体の14%(5人/36人中)のみでしかも一過性の軽症だった(1x10^5TCID50の最大ウイルス量でも一過性感染は8例中1例のみ、一過性感染とウイルス量の相関無し)。しかもその後に変異株のオミクロン株にも罹患した者の発症者が39%(14/36)と増えたもののすべて軽症だったという。
この実験からはかなり多くのウイルスを吸入してもすべてが発症するわけではないこと、免疫効果は著明であること、変異株オミクロン株へのワクチン効果もあること、等を示していた。発症するヒトと発症しないヒトの違い、一部のヒトが何故重症化するのか、なぜ後遺症が出るヒトがいるのか等なお未解明部分が多いようだが、自然免疫能と獲得免疫能とのバランスや違いにあるとの推定もあるようだ④。
これは一般的な病原体にも言えることかもしれないがCOVID-19も、多量のウイルスを吸入しても発症しないヒトがいるという事実を上記実験で確認したことになる。
ウイルス量Ct値30≒PCR10000コピー≒10TCID50なので、10000コピー中のviableなウイルスは10-100個(1/100~1/1000)位という(⑤⑥⑦但し標準化や精度管理不明)。また上記人体実験で希釈系列max10万TCID50のviableウイルスを鼻腔内注入しても発症したのは全体の14%に過ぎないということは言い換えれば感染性を持った新型コロナウイルス粒子10~100万個が体内に入っても半数しか発病しないということである(但し免疫があった場合!)。その半数も大部分の人がカゼ程度で済んでしまうのに(実験上重症者ゼロ)、臨床現場では極一部でなぜ死に至るほどの重症になるのか、あるいは後遺症が残ってしまうのか、については今尚未解明の点が多い。
暴露ウイルス量と感染・発症との関係では暴露ウイルス量が多い方が感染・発症確率は上がるとされている(⑧)。この資料図9によれば10^10コピー/mlのウイルス量排出での他人への感染確率は20%位という。感染リスクは従って日常生活においては神経質すぎるのも楽観的過ぎるのも良くない。いわゆる中庸をどう保つかが実生活のポイントということになる。マスコミで特別扱いされた不織布マスクも呼気の湿気で静電効果を失えば(N95マスクは更に機能低下)普通の布マスクと効果は同じか却って機能低下してしまうのである。数時間毎に交換しなければ効果が出ない不織布マスクはSDGsの理念にも反する。このことを考えれば不織布マスクに拘る必要はないのである。にもかかわらず現実は不織布マスクが定番になって今も世の中を席巻してしまっているのは皮肉としか言いようがない。(⑨⑩⑪⑫⑬)。
C:ウイルス排出が感染リスクに直接結びつく訳ではないという事実について(SRAS-CoV-2とノロウイルスの比較も含めて)、
SARS-CoV-2は変異が激しくその発症確率も時間とともに変化し得るので、各時点での発症確率はその都度検証する必要があるがこれまでのデータから判断すれば、
英国の初回人体実験②からは、発症確率は10TCID50のウイルス量で50%であった。これは免疫がない場合で免疫がある場合(既感染±ワクチン)は更に低く発症確率はウイルス量が更に多くても全体の14%しか感染しなかった。
一方ノロウイルスは、10~100個のウイルス量で感染成立するとは公的に言い古されてきていたことである(⑭⑮)。これは素人目に分かり易い説明であるが正確に言うと⑮によれば、50%発症確率は10^6(百万)コピー、10%発症確率は10^3(1000)コピー、70%発症確率は10^8(1億)コピーである。PCRはウイルス断片も含まれるのでviableなウイルス粒子はもっとずっと少ないはずであるが参考にはなる。要するにノロウイルス10~100個で感染すると言ってもほんの一部のヒト数%が感染するだけということである。しかも感染しても必ずしも発症する訳でもないのである。
50%感染確率で比較すると、SARS-CoV-2は1万コピー、ノロウイルスは100万コピーとなる。感染力が強いとされるノロウイルスよりも100倍感染力が強いことになる。しかしPCRはウイルス粒子断片も含むので感染性ウイルス粒子の比較ではないので比較の価値があるかどうかは疑わしいが参考にはなる。
D:空気感染の定義について、
SARS発生の時もそうだったが今回のCOVID-19も早期より空気感染し得るという説が学会を含めて出たり消えたりしていた(⑯⑰⑱)。
COVID-19発生前までは空気感染(=飛沫核感染)が日本で公式に認められていたのは結核・麻疹・水痘の3つのみであった。
これまで空気感染という言葉については特別な感覚・意味合いを医療者は持っていた。同じ部屋空間の共有が不可とされた故、結核は別棟の療養所または陰圧病室と定められていたし、麻疹の子供が同じ病院内待合室にいたのが分かると病院内は大騒ぎしたし、水痘は殆どのヒトが既感染済なので普通の病院は気にしなかったが免疫能低下の白血病病棟等で発生すればパニックにさえなったという。医療者の空気感染の認識はそうであった。
2003年のSARS発生時もその問題は燻ぶっていたが今回2020年からのCOVID-19発生ではとうとう用語の曖昧さ故に放置出来なくなり、エロゾル感染やマイクロ飛沫感染等新たな無定義のままの学術語が独り歩きして飛び交うようになった。そしてついに最近(2024年4月)WHOからも用語の共通認識を図るための新定義の試みが出てきた⑲。願ってもないことである。
しかし統一見解には未だ程遠いような印象を受ける。従来のように感染粒子の大きさで区別するという考え方からは脱却して新たな視点からその感染様式を決めようと努力しているのは確かのようだ。そのIRPs(infectious respiratory particles)という別表現には対立意見もあるようで意見調整にはなお時間が必要のように見える。短時間か長時間の感染性をその空間が保っているかどうかで現場対応は大きく異なってくるが、このIRPsには時間の概念がないように見える。これだけでも意見統一はできないのではないかと思える。
今の所、尾身茂氏が示していた【・・2.7.30.の政府のアドバイザリーボード資料「新型コロナウイルス感染症はこうした経路で広がっています」の中では異なる概念であると明示している。空気感染が長時間・長距離まで感染が広がり得るのに対してエアロゾル感染は、3密等の一定条件下で起こり得る少し長い時間・少し長い距離にまで感染が拡がり得る場合を指すと言っていた(意訳)、この言葉が定着した今これがofficialな見解になるのだと思う。本書を読んで初めてその定義を知った。・・(資料⑳より)】これが日本の当面の妥当な考え方と思われる。
以下資料:
①新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 療 養 に 関 す る Q & A(厚労省) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf 。
②Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nat Med. 2022 May;28(5):1031-1041. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35361992/ 。
③Safety, tolerability, viral kinetics, and immune correlates of protection in healthy, seropositive UK adults inoculated with SARS-CoV-2: a single-centre, open-label, phase 1 controlled human infection study. Lancet Microbe 26/04/2024 https://www.immunology.ox.ac.uk/publications/1994167 。
④宮坂 昌之氏情報: https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0LBuoq3FUQLNAciRomhxiEHm6FcSXF395J7RKdXMkk193mjFGHFTFbmDJZXe2a798l?__cft__[0]=AZXh4nC6Iy-hHTmMqEjvwU1FKLm4d5m5wVNHBhH5rg3NAw45GD5s-9_wAr0IxSX5MgFBF4aFqGbkQMgLO1Bl3Zjv1xmDeZjXSP7zvoIZs1MIpb8eBRTpOkDvIgZGeUgPgQaIxWiMXTGYPcQZMVelGZ8odsym4BcJ-A-NOPj39HgZzg&__tn__=%2CO%2CP-R 。
⑤検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察 (IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10133-491d01.html 。
⑥富山県内新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離解析―富山県衛生研究所(IASR Vol. 42 p84-86: 2021年4月号)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10303-494d03.html 。
⑦ウイルス学エピソード(5)ウイルスの個数って数えられる? 令和2年6月26日 神奈川県衛生研究所 https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_virology/virology_episode_05.html 。
⑧厚労省:第56回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年10月20日)資料3-7 舘田先生提出資料(図9) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html#h2_free10 。
⑨N95マスクのアルコールによる消毒は禁忌 2020/04/24 西村 秀一(仙台医療センター)日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html 。
⑩マスクはどうやってウイルスをろ過してる?2020年5月24日 https://infipwr.com/2020/05/24/maskfilter/ 。
⑪電気通信大学 石垣 陽:マスクの安全を守る静電気技術 http://www.i-s-l.org/shupan/pdf/SE202_3_open.pdf 。
⑫東京大学生産技術研究所:「マスク・チャージャー」の開発――静電気の力でマスクをパワーアップ2023.04.26 https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/4207/ 。
⑬新型コロナウイルスでのマスク不足について。新型コロナウイルス生存期間。BSL-4。 ―2020年02月28日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/02/28/9218715 。
⑭厚労省:ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について 平成27年国立医薬品食品衛生研究所 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf 。
⑮国土交通省:参考資料編 参考6.ノロウイルスの用量反応p70 https://www.mlit.go.jp/common/000116093.pdf 。
⑯新型コロナは"空気感染"です(第61回日本臨床ウイルス学会)仙台医療センター西村秀一氏が学会で講演2020年11月06日 メディカルトリビューン https://medical-tribune.co.jp/news/2020/1106533287/?utm_source=mail&utm_medium=recent&utm_campaign=mailmag201107 。
⑰オーストラリア:Airborne transmission of SARS-CoV-2: The world should face the reality(2020年6月) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016041202031254X?via%3Dihub 。
⑱新型コロナの、空気感染・エアゾル感染・マイクロ飛沫感染? 言葉の定義を巡って https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/18/9317806 。
⑲WHO:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air 18 April 2024 https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air 。
⑳尾身茂著「1100日間の葛藤」を購入して、わが身を振り返る https://www.facebook.com/hidemasa.kuwabara/posts/pfbid02FCir8PTCV9p1k2EkKuv43T32g9jb7UmWPDRudHFWW6xyNBBT1ArHzbQ8L6biF1YJl?__cft__[0]=AZUtT06p1yfDHAR92krqzvHi-RIiiXmsSkcqG0OigXKnMsSTMPoNMV3HLPcTLIg0yJIqvhOJi_UfLvcoYErz9PNkIHoL41IVXzgw1XWbMkGyg0wPZW9hLEE5uHnqAroBlI4&__tn__=%2CO%2CP-R 。
(追加)
㉑Timing and Predictors of Loss of Infectivity Among Healthcare Workers With Mild Primary and Recurrent COVID-19: A Prospective Observational Cohort Study. Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3):613-624. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37675577/ 。
【人員不足もあり医療従事者は一定の条件で5日間での出勤可能の判断が既にCDC等や日本でも許可されていた中での検証研究。カナダの大規模病院20施設の観察研究データで、2022年2月から約1年間のCOVID-19発症の軽症患者121名について感染性ウイルスの排出持続期間をウイルス分離培養にて調査した。 結果:発症日を1日目としてウイルス培養陽性率は5日目71.9%,7日目46.7%,10日目18.2%であった。即ち10日目でも18.2%は感染性ウイルスをなお排出していた。なお、10日目でもウイルス抗原検査では34.2%が陽性、RT-PCRでは61.2%が陽性であった。ウイルス培養陽性期間と症状の有無・抗原検査結果の関連はなかったが、既往感染は感染ウイルス排出期間を短縮していて10日目は0%だった。(私見では、たとえウイルス排出していてもマスク・手洗い等スタンダードプレコーションを守っていればヒトに移すことは無いと分かってきているので、無症状ならば出勤停止期間を10日以上に延長する必要はないと思う。実際そう実践してきていて問題は起きていない。)】
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