新型コロナワクチンの三角筋注射に係る手技・免疫学的意義・副反応等について再考2021年07月18日

2021/7/14 アサブロ

新型コロナワクチンの三角筋注射に係る手技・免疫学的意義・副反応等について、あらためて考え方を纏めてみる。
 
 三角筋筋注については、その具体的手技とともにその免疫学的解釈の仕方や考え方について計らずも今回の新型コロナウイルスワクチンで医療者からの注目を浴び、気にもしなかった問題や予想もしなかった疑問点が出てきている。 勉強になる有難い意見もあれば反面教師のような真似してはいけないような或いはまともに受け取ってはいけないような意見もある。自分でも分かっていたつもりが意外に勘違いしていた面もあり( https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/03/19/9358533 )、今から思うと反省すべきものもある。
 様々な意見がある中で取捨選択が必要であることを感じる。それなりの理由があるものもあるし、的外れなものもある。的をある程度得ていても道理に合わなかったり理屈からは首を傾げたくなるものもある。理屈には合っていても自分の主義からはそれに乗らない方が良いと思うものもある。エビデンスと主張されながら合点できない狭い範囲でのエビデンスであることもあり、そして大家やCDC等のいわゆる権威者が言っていることにも眉唾のことがあり、常に批判的理解が必要なのが今の世の中であると感ずる。
 医療は社会倫理性を必須とする職業であるが故に医師は特に自分が良いと思っても、社会が認めない或いはその社会の在り方にそぐわない考え方や施療はしてはいけない、ということは言うまでもない。そこが他の学問や職業とは異なっていると思っている。医療と医学は違うが当然無関係ではない。業務独占という医師のこの職業に付きまとう根本命題である。

 医療はあまねく均霑化することが好ましいとは思うが、やはり限界があるようで、現場ではその場で均霑化しても代が変われば土台も変わることが屡々あるし、ベストな方法が一つではないので、個々の対象で異なる具体的対応の違いは大局的に見れば吹っ飛んでしまう。徒弟制度が崩れてしまったことと同じである。
 従って、自分なりの考え方を纏めておく必要があると思い文字に記してみる。

 奈良県立医大の方式では、上腕三頭筋外側頭に筋注してしまうリスクがあるので問題であるとの指摘も最近目にした。そんなことがあるのかと思っていたがネットの画像を見る限りそれらしい画像を確かに見かける。三角筋筋注が三角筋以外の筋注になることなど問題外であると思っていたが、その心配は確かにあるらしい。上腕三頭筋外側頭にしてしまう危険があるとすればこれは無視できない。その下には橈骨神経が走っているからである。
 第1に橈骨神経障害は問題の大きな別格のリスクとなるので、単純に肩峰から下垂線何cmという表現だけでは不十分なのかもしれないがそんなことは指摘されるまで考えもしなかった。従って三角筋自体を触診してその中央部にしましょうとの意見には納得できる。
 第2に肩峰下滑液包炎のリスクの回避即ち肩峰下4cm以内を避けるのは念頭に置かなければならないがこれも誰もが納得する点と思う。
 第3については意見が分かれても仕方ないような気がする。後上腕回旋動脈及び随伴する腋窩神経はその三角筋中央部付近の深部を横走していて肩峰から下5cm又は3横指と言われてきたことである。この走行部位は人によって若干の変動がある。( 腋窩神経筋枝は三角筋と小円筋を支配する。腋窩神経皮枝は三角筋部の皮膚知覚を支配するが、肩峰の皮膚知覚は鎖骨上神経である。慶応大学解剖学Spalteholz http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/spalteholz/J950.html )。 
 これは腋窩神経分枝については障害リスクを完全には避けられないとも言える。運悪く神経に当たっても回復しやすいという意味では前2者程の心配は不要とも言える。血管も細い故に心配ないとも言われる。しかし軽症ながら稀な三角筋内血腫出た例が身近にもあったと聞いているのでリスクがゼロではない。今回のコロナワクチンのように遍く三角筋筋注を普及させるためには、万が一の免責に配慮してシビレ確認と陰圧確認は不要とするのは仕方ないとしても、やはり施術者がシビレの有無と逆流の有無を念頭に置くことは、その場合針先を2-3mmずらせばよいだけなので褒められることはあっても否定されるべきことではない。陰圧をかけると組織を挫滅するとの屁理屈が一部で言われるが、吸引ピストルを使って吸引細胞診をする場合等は強い陰圧なので、これは別次元の問題と混同している。従って第3の問題は三角筋の下には後上腕回旋動脈及び随伴する腋窩神経が走っている事と三角筋下滑液包がある事を念頭においておけば、三角筋内への注射であれば部位の差と言うより注射施行時の注意の問題であると思う。故に三角筋を確認することは当然である。

 その他の手技上の問題では、肥満やるい瘦は注射針が短すぎるや長すぎる等の注意点はよく言われるが、そもそも注射できる程の三角筋筋肉が認められない人もいるという声は未だに聞いたことがない。しかし介護施設にはそういう人も確かにいる。筋肉が殆ど無く実質的には皮下注になってしまう看做し筋注でも可とのオフィシャルな了解があれば、何の問題もなくそういう衰弱者にもワクチンの恩恵を届けられるが、筋注に限定されると施行し難い。日本のインフルエンザワクチンの場合は皮下注可とされているため、また副作用が少ないために、そういう人にも実際インフルエンザワクチン注射を行っている。しかし新型コロナワクチンのように、皮下注ではダメ、筋注でなければ免疫効果が出ない、筋注の方が副反応は弱い等の意見の下では看做し筋注は行い難い。実際自分の施設入所者の1/3弱は今回その理由からCOVID-19ワクチンは施行できなかった。
 今回の新型コロナワクチンは初めてのmRNAワクチン故に効果も副反応もその程度が実用初期には証拠不十分であったので、初期の頃は高齢者入所対象者のどの範囲まで行うべきか迷っていたが幸運にも極めて有効で副反応も心配は杞憂であることが分かってきたので出来るならば衰弱高齢者にも社会倫理的に許されれば行った方が良いかもしれないと思っていた。しかし明確に筋注に限定されてかつその差が針小棒大に専門機関?に規定されたために、これは医学的にもワクチン注射出来ない人を確定する必要があると考えて三角筋部位をエコーで判定した。高齢者全体が若者の筋肉とは大きく違い脂肪化が強かったが筋肉そのものが認められず医学的にも筋注不可の人も少なからずいるということが分かった(1割弱)。皮下脂肪そのものがないるい瘦者に加えて皮下脂肪は残っていても筋注と言える程の筋肉がそもそも認められないという人もいた。殆どが寝たきり状態であったが、副反応の問題からではなく社会医学的な問題で不可判定をさせてもらった(2割弱、計1/3が対象から外れた)。日本には西洋と違い食べられなくなっても脱水を防ぐための点滴注射や経管栄養で生命を維持している人もいるが、そのような高齢衰弱者にワクチン注射自体を行う適応をどうするかの社会的な問題も別の意味で存在すことは勿論である。
 新型コロナワクチン注射の効果、副反応等の意義については、従来の蛋白抗原ではなくmRNAという新ワクチンであるために未知の点が多々あるとしても、筋注と皮下注の免疫原性の違いを強調しすぎる医療関係者が圧倒的に多いのには驚き、本当にそうなのかと違和感を持ち、その道の専門家にも聞いてみたがその方はエビデンスがないだけでそう違わないと思っているとのことであったので、この違和感はそのまま今も持っている。それは自分が医師になりたての頃(50年前)既に注射ルートによる免疫原性の違いやアジュバントの違いによる問題は議論になっていて免疫原性は皮内注>皮下注≒筋注ということに落ち着いたと思っていたからである。副反応についても皮下注/筋注の違いによることを強調するが調べた限り、それ以外の因子の方が強くそもそも皮下注のエビデンスそのものが乏しい中での日本の医療者のCDC信仰は度が過ぎると今も感じている。

(関連テーマ)
〇 ワクチン注射は皮下注か筋注か、で気になったのでちょっと一言 ― https://ku-wab.asablo.jp/blog/2020/11/11/9315455 
〇 新型コロナー筋注・皮下注についてー追記. ― 2021年06月16日 アサブロ https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/16/9388503 
〇 (過去の、2021年03月19日への追加) 新型コロナワクチン筋注とSIRVA等合併症を避けるということの本質) ― 2021年06月18日 https://ku-wab.asablo.jp/blog/2021/06/18/9389164

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