人の心肺機能の予備能(余力)について、2021年02月03日

TMET  NHO Numata H (Aug.2001)
人の心肺機能の予備能(余力)について、
       ー新型コロナの急変等に関連してー、

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中で、今、自覚症状が乏しいまま病状が急変して自宅で死亡する人が多発している。急性間質性肺炎(臨床診断はARDS、組織診断はDAD)による酸素摂取能の低下なのか肺血栓塞栓症等循環障害による悪化なのか或いは別の機序なのか、そのメカニズムはなお五里霧中である。
 体の中の酸素が足りないのに自覚症状が乏しい例がある事、いきなり悪化してきて死亡してしまう劇症例がある事、肺血栓塞栓症等循環障害、その他の多彩の病態が係わっている事、など病態のメカニズムについては未だ分からないことが多すぎる。それぞれの専門家の言うこともバラバラで、あるものは納得できてあるものは納得できない。
 心肺機能が自分でも気付かずに生命限界を超えてしまっている例があるようなので、原点の心肺機能に返って改めて見直してみる。
 肺も心臓も安静時の約20倍即ち約20 METSの酸素の肺からの取り込み能力及び血液を介する酸素運搬能力が健康な人間にはその余力がある。酸素消費量即ちエネルギー消費量の絶対値は個々人で違うのでその人の酸素消費量即ち酸素摂取量の測定は、安静時を1 METSとして運動により増大する酸素消費量をその倍数で表す。METS表も様々な工夫をした分かり易いものが世間にも流布している。安静時酸素消費量V'O2(フォントが無いのでVドットO2との意)の絶対値は自験例の手元の実測データでは衰弱者~健康人を含めると80~220~490 ml/min/bodyであり個々人の間には極端なバラツキある。
 心肺機能の余力ないし予備力については、学問的には既に確立されていることであるが、自分の手持ちのデータであり20年以上前になり忘れそうなので、改めてここに纏めておくことにした。
 安静時エネルギー消費量resting energy expenditure REEはO2 1ml=5calから導ける。1 METSは個人毎に大きく異なり手元の実測データでも上記のごとくであるが、これを1日当たりに換算すればREE(REE/day/body)は高齢者施設では凡そ550~1600 kcal/日である。現実にPEG栄養中の方は600kcal/日でも太ってくる方も中にはいる。  REEは基礎代謝量BMRより1.1~1.2倍大きく、BMRよりREEの方が臨床的には測定が容易であるので、臨床的にはREEを基にしたMETSでその人の運動強度を表す。
 かつて衰弱したり在宅酸素療法をしている極めて心肺予備能力の乏しい人からトライアスロン等の鉄人レースに参加する常人を超えた心肺能力を持つ方まで希望があって検査をしたが、田舎の病院だからこそ出来たことである。病院群が専門分化してしまった今では一つの病院で多彩な例を経験できる時代ではなくなっている。

 図1は20年以上前の自験例である。症例1は高校生であるが4.6 METSまでは心拍数は増えず1回拍出量増加のみで足りていることを示している。その後は運動強度に比例して心拍数も上昇するが検査設定上限になってもなお余力があった例であるが、念のために20.3 METSまでで終了とした。症例2は耐久レース出場につき可能の証明書が欲しいとのことでTMETを行った例であるが、やはり4.6 METSまでは心拍数増加は見られない。どちらも4.6 METSを超えるころから心拍数増加を伴うようになっている。症例5も同様である。症例2も症例3も20.3 METSを完遂していないが限界故なのかどうか記録がないので分からない。その他にも鉄人レースに参加するのでOKの診断書が欲しいと希望して行った例もあり、20 METSを超える余力を保持する者もいた。症例4は自分のデータであり17.2 METSが限界であったことを覚えている。体力には自信を持っていたが17.2 METSが限界であった。即ち運動耐用能Wmaxは17.2 METSと判定された。自信はあてにならない。 また、症例6のように10.2METSでも心拍数の増加が不良なのは要注意である。
 一方で、COPD等はSpO2測定を併用しながら検査をした。症例7はCOPDでBNPほぼ正常で肺性心はなかったが運動耐用能は3.4 METSと極めて不良であった。SpO2値は遅れて反応するので参考にはなるがこれのみに頼るのはむしろ危険であった。TMETの停止基準は資料2のごとく総合的に行う必要があった。
 資料1はTMET(トレッドミル運動負荷検査)のプロトコールであるが、健康に近い例はmodified Shefieldモードで行ったが、運動耐用能が極めて悪い例はM-1ないしM-2モードで測定した。
 心機能チェックで行った例では、本人はまだ大丈夫といいECG上の変化もあまり出ないのに顔面蒼白になったので念のために中止し、後日CABG手術に移行して事なきを得た例もあった。症例8はその例で3.4METSで既に顔色不良になったのに気づき中止したが3枝病変であった。
 今は画像診断が進歩したのでTMETやSwan-Ganzカテ検査も必要なくなってこの方法による代謝分析は行わなくなったようだ。そういう意味では貴重な経験をしたと今では思っている。
聞くところによればオリンピック選手がメダルを取れるかどうかは、摂取エネルギー学的な立場から見ると8000kcal/日以上摂れるかどうかで判断できるとも言う、人生最終段階の経管栄養の人が600kcal/日でも腹壁脂肪が増加即ち肥ってくる方もいる、という事実はどちらも経験してみなければ理解しにくいのではないだろうか。ましてや延命処置の異なる欧米文化からは想像を遥かに超える論外の事実である。

 資料3、4はTMETを行う上で基本の考え方である。
資料1 トレッドミル負荷テスト プロトコール
TMET施行時の注意点
参考:当院の考え方
O2ーcal 換算表
※METS表について、

新しい運動基準・運動指針『身体活動のメッツ(METs)表』(2007年12月12日更新「独立行政法人国立健康・栄養研究所」) https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/pdf/mets.pdf の身体活動のメッツ(METs)表 によれば、
(7010) 1.0 不活動、安静テレビを見る:仰臥位(横になる)
(7011) 1.0 不活動、安静音楽観賞する(会話や読書はしない):仰臥位・覚醒
(7020) 1.0 不活動、安静静かに座ってテレビを見る
(7021) 1.0 不活動、安静静かに座る、座っての喫煙、映画鑑賞:座位
(7050) 1.0 不活動、安静書き物をする:リクライニング
(7060) 1.0 不活動、安静会話や電話:リクライニング
(7070) 1.0 不活動、安静読書:リクライニング
(7075) 1.0 不活動、安静瞑想する
(7030) 0.9 不活動、安静睡眠
※これらの表によれば安静の状況によっては、臥位でも座位でもエネルギー消費量は同じと捉えているが臥位と座位ではエネルギー消費は1.2倍違うというデータもある。ここでは細かいことには拘らず、1 METSは覚醒状態の安静臥位、又はリラックスしたリクライニング座位状態、という捉え方で良いと思っている。
 この表によれば 安静睡眠=0.9 METS ≒ BMR ということになる。
上記のような状況なので、20年以上昔のMETS表であり必ずしも正確ではないかも知れないが、直感的で分かり易い下記の表が便利だと思っている。
METS表(絵表示)

アナフィラキシーの診療の実際2021年02月24日

アナフィラキシーの診療の実際

 最近の新型コロナ流行で、アナフィラキシーという言葉もしばしば耳にするようになり、しかもボスミンは皮下注ではなく筋注が好ましいという論者もいるようでもっと大事な点を何故言わないのかと気になったので改めてまとめてみる。

 「アナフィラキシー」はアレルギー医にとっては従来より馴染みのある言葉であり疾患でもあった。
 実はこの「アナフィラキシー」の言葉の定義については、つい最近まではファジーな部分があったために、長い間アレルギー医はその言葉の使用法に困っていた。
 その発生メカニズムがIgEを主とするアレルギー反応によるものを従来より基本的に「アナフィラキシー」と呼称していた一方で、実は同じ病態で非免疫学的なメカニズムでも起き得ることも以前から分かっていた。しかもその証明は必ずしも容易ではなかったからである。

 そのために「アナフィラキシー」と断定し難い場合は実臨床では「アナフィラキシー様反応」とか「アナフィラキシーと思われる」、等と表現していた。これは我が国だけではなかったので、2011年になりWAO(世界アレルギー機構)が世界共通の概念を提唱した。
 これ以降、免疫学的機序に依るか依らないかに関わらず、症候が一定の診断基準に該当した場合は全て「アナフィラキシー」と表現できるようになった。即ち「アラフィラキシー様」などと言う必要がなくなった。詳細は下記である。
 『World Allergy Organization Guidelines for the Assessmentand Management of Anaphylaxis(WAO Journal2011; 4:13–37)』、
 『World Allergy Organization Guidelines for the Assessment and Management of Anaphylaxisアナフィラキシーの評価および管理に関する 世界アレルギー機構ガイドライン(日本アレルギー学会 Anaphylaxis 対策特別委員会,アレルギー 62(11)1464―1500,2013.)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/62/11/62_KJ00008987946/_pdf 』

 COVID-19ワクチンが実用段階に入り、ワクチン注射の際の稀な副作用のアナフィラキシーも巷の話題に登るようになった。
 今は医療も専門分化してきたためか、実臨床の場ではアナフィラキシーの専門家としては救急医の意見が前面に出てきている印象がある。新型コロナ感染症(COVID-19)の現場でも感染症医がその専門家として前面に出てきている。COVID-19の実臨床の手技上は呼吸管理が主となるので呼吸器科医が前面に出てきても良いとも思うがなぜか影が薄い。アナフィラキシーについてもなぜかアレルギーや免疫の専門家よりも感染症やワクチンの専門家の意見が前面に出ていて何となく解せないことも屡々感じることがある。感染症医は本来コンサルテーションの意味合いが主体での役割と思うのは自分だけであろうか。
 そして最近気になるようになったのがアナフィラキシー発生時の対応マニュアルについてである。

 アナフィラキシーショック時にはアドレナリン(ボスミン)注射は筋注(皮下注ではなく)が良いと殊更強調している専門家の論者が目に付くが、教科書的に勉強した専門医師の意見のような気がしている。不織布マスクか布マスクかでことさらその違いを強調しようとする論者に似ているようだ。マスクの場合もそうだがアナフィラキシーの場合も実際は筋注か皮下注かの違いはドングリの背比べで臨床的には大差なく、もっと大事な注意点がある。一回毎の注射量とその追加頻度への配慮である。筋注の方が吸収が良いからというが皮下注でも数秒でその効果は出る。差があっても数秒だ。そして代謝は速やかだ。そして1回量の影響も大きい。千倍液(1mg/ml)を1回に0.5ml皮下注するのと0.2mlずつ数秒ごと3回皮下注するのとではその効果は大きく異なる。後者の方が患者には優しい。0.5mlでも感受性が高く動悸で心臓が口から飛び出るようだと訴える患者もいれば0.5mlでも効果不十分な場合もある。尤も意識がないほど重篤であれば訴え自体がないし、1mlワンショット+後押しということも勿論あり得る。
 
 アナフィラキシーショックについては、かつては自分もアレルギー外来等で何度もアナフィラキシーショックを見て治療もしてきた。その頃は殆どが皮下注であった。基本的には皮下注でも筋注でも団栗の背比べでほぼ同じと今でも思っている。兎に角第一選択はアドレナリンである。ステロイドホルモンは細胞核内に取り込まれてタンパク合成が始まってから効果が発揮される故に5-6時間はかかるので後回しでよい。
 筋注か皮下注かの違いよりも大事なのは、一回の注射量と数分ごとの追加注射のタイミングや要否への配慮である。最近は医療界の巷では、対応マニュアルで筋注を強調する指導者もいるようで何となくやりにくくなったと感じているが、自分がかつて先輩医師のやり方をみていて成程と思った方法があった。常時行っていたわけではないが、この方法も捨てがたいと当時思っていたことは、”注射針を指したまま0.2mlずつ血圧等を見ながら数分ごとに追加する”という方法であった。人により状態によりアドレナリン感受性は違ってくる(アシドーシスでは低下すると言われていたなど)が、1回量はMAXの0.5mlより少ない方が無難であった。0.5mlでも動悸で心臓が口から飛び出そうだと訴えた患者もいた。点滴静注やワンショット静注の場合は、希釈割合、投与速度、ワンショット後押し、等の様々なやり方によりその効果が変わってくる。
 教条主義に陥りやすい ”ペニシリンショックにはボスミン半筒、君たち覚えておきなさい” とこれは50年くらい前の恩師教授の言葉であるがそれを基本に実臨床では細かい工夫をするのが現場の役割である。アナフィラキシーショックへの対応では、皮下注でもこれまで勿論亡くなった方は幸い一人もいなかった。

 医師になって2-3年の頃で40年以上前のことであるが、受け持ちの難治性喘息で入院中の方が夜苦しいと言ってナースステーションに吸入したいと歩いてきて着いた途端酸欠?で心停止になり倒れ、呼ばれて到着した時には既に同科の医師が多数集まって来ていて心肺蘇生をしてくれていた。幸い回復して意識が戻った。本当に有難たくその光景は今でも鮮明に覚えている。その数日後に学会出張して戻ってきたが、病棟ナースから担当医が帰ってくるまでは死ねないと本人が言っていたと聞かされ、実際その2-3週後に再発作で亡くなってしまった。その初回心肺蘇生時にはボスミンは心内注していたと思う。
 また別の同じ頃、アルバイト先病院で日中外来中にナースが誰か来てと叫んでいる声を聞いて1階から2階に飛び上がってみるとハンドネブライザーをどす黒い(強いチアノーゼ)口唇にくわえて意識消失してベッドサイドに倒れている患者に遭遇した。蘇生術を行って意識を取り戻したが急に苦しくなり手持ちのハンドネブライザーを使おうと思って加えた所までは覚えていると言っていた。普段から酸欠に慣れていると酸欠への耐容度合いが強く回復後の後遺症も出難いと実感した例であった。

 重症喘息発作は程度は様々で突然の急激発作で心停止に至るものから、意識は明瞭であるがだらだらと強い呼吸困難が遷延する難治性喘息まである。ステロイドの全身投与・β受容体agonist・テオフィリン系薬の投与法など各々に様々な効果と副作用防止の狭間の細かい工夫の中で匙加減がその効果を左右していたが、1990年頃から難吸収性持続性の吸入投与ステロイドが普及してきた頃よりそのような重症喘息は激減してきたように思う。
 時にアナフィラキシーや重症喘息発作を起こすアスピリン喘息(不耐症)は気管支喘息患者10人に1人位いるとされている。しかも服用でいつも悪化するとは限らずしかもその発作の強弱や病状はピンからキリまである。突然のアナフィラキシーショックから、風邪薬を飲んでもダラダラ治らないと訴える程度で軽いNSAIDs不耐症まである。ただ難治性喘息と異なり突然のアナフラキシーはアドレナリンが良く効く。

 難治性喘息についても追記しておく。
 日本呼吸器学会の「難治性喘息診断と治療の手引き2019」によればその定義は従来のアレルギー学会の定義からは全く隔絶している。しかも重症喘息と難治性喘息を混同している。その定義は明らかに退歩している。WHOが2010年に重症喘息を定義し、2014年にATS/ERSが同じく重症喘息の定義のガイドラインを出し、そしてJGL2018ではアレルギー学会も難治性喘息/重症喘息はほぼ同義としている。欧米の論調に弱いというか主体性がないというか情けない。
  難治性喘息はsteroid-dependentでありβ刺激剤に不応性であるが、重症喘息ではβ刺激剤に良く反応する場合もある。重なる部分はあるが別の概念であった。JGL2018では両者を混同させて敢えてあやふやにしている節がある。
 難治性喘息(昔はintractable asthma と言ったが最近JGL2018よりrefractory asthmaというようになったようだ。それまでは1975年以来の岩手医大の三井の定義が半世紀近く使われていた。最近の「難治性喘息診断と治療の手引き2019」を通覧する限り、昔のintractable asthmaの知見からは断絶している)はβ-recepter blockade theoryという考え方で実際にβ受容体作動効果が低下していてアドレナリンの効果は不良であったが、アスピリン喘息患者の突然のアナフィラキシーショックに対してはβ受容体効果は良好でアドレナリン注が速効し易かった。難治性喘息のsteroid-dependentのメカニズムが解決されたわけではないが何故かβ-recepter blockade theory/down-regulationの考え方は新ガイドラインでは消滅してしまったようだ。難治性喘息には発作強度・治療抵抗性・慢性持続性の概念がかつて区分されていたがその区分が無くなって戻ってしまったようだ。何かしっくりこない。

※ 最近は循環器内科領域で心疾患にβblockerを使う頻度が極めて多くなっている。気管支喘息には禁忌だ。β1選択的だと言ってぜんそく薬と併用されかねないので要注意だ。
  更に興味深いのは下記症例報告だ。βブロッカー内服中の患者のアナフィラキシーショックで、大量のアドレナリンでも効果不十分でグルカゴンでやっと効果が出て回復したとの貴重な症例報告である。 
 『β遮断薬内服中のため治療に難渋した造影剤アナフィラキシーショックによる心肺停止に対してグルカゴン投与で救命できた1例.  仙台市立病院医誌35, 62-65, 2015. https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p062-065%2035.pdf 』
なお、アナフィラキシー発症の際、急性冠症候群〔=Kounis症候群という。Kounis症候群は(Ⅰ型(冠攣縮型)、Ⅱ型(血栓形成型)、Ⅲ型(留置ステント閉塞型)に分類〕も合併することがある。



2021/3/13 追記

〇(m3.com トップ>医療維新)
新型コロナワクチンでのアナフィラキシー、原因物質調査を。「10万人で17人」も精査の必要性、アレルギー疾患対策推進協議会。2021年3月10日 水谷悠(m3.com編集部)
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/889590/

〇(NHK NewsWeb 新型コロナ ワクチン(日本国内)
アナフィラキシーの疑い「重大な懸念認められず」 厚労省分析。2021年3月12日 19時34分。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210312/k10012912261000.html
これまで18万人に新型コロナワクチン施行して36人のアナフィラキシーの報告があったが診断基準に該当する者はその一部(4割程度?)という。米国では「WAOの基準」より古い「ブライトン分類」で該当者を見ると日本とほぼ同じとのこと。日本では多いというニュースもあるが余り変わらないようだ。100万人に1-2人程度との通常ワクチンの割合からすれば確かに多いが。
 ブライトン分類は消化器症状をminor基準に入れているのがWAOとは違う。どちらの分類にしても重症度は確かに軽症から重症まで様々であるが、時々刻々変化するものであるので重症か非重症かで区別する意味がどこまであるかは疑問ではある。軽症と思っても経過と共に重症化していくものも現場では当然考慮に入れておかねばならず対応姿勢は対して変わらないからである。超重症は数秒で呼吸停止心停止にまで至る例を診てきたし、軽症は血圧低下もなく喘鳴もなく口腔浮腫感や全身発赤や嘔吐のみのこともあるが、それでも放置すれば悪化リスクは十分あるからである。
(アナフィラキシーのブライトン分類評価:厚労省資料)
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000n6tv-att/2r9852000000n7l3.pdf


2021/4/17 追加

新型コロナワクチンのアナフィラキシーおよび世界アレルギー機構の声明文。

 新型コロナワクチンのアナフィラキシー判定においてはブライトン分類で云々される中で、世界アレルギー機構(WAO)や日本アレルギー学会はなんで黙っているのだろうと不満に思っていたら、既に昨年9月に声明文を公表していた。
Position Paper World allergy organization anaphylaxis guidance 2020
https://www.worldallergyorganizationjournal.org/action/showPdf?pii=S1939-4551%2820%2930375-6

 WAO2011、EAACI2013(ヨーロッパ)、AAA/ACAAI2010(アメリカ)、ASCIA2016(オーストラリア)、NIAID2006(アメリカ国立アレルギー感染症研究所)、WHO ICD-11 2019(世界保健機構)との定義の比較も載せていて、最新の考え方の共有が必要だと言っていた。ブライトン分類と同じようなGrade1~5の分類を追加していて、Grade1,2はアナフィラキシーではないとしている。


2021/4/27 下記追加

〇International Consensus (ICON): allergic reactions to vaccines
https://waojournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40413-016-0120-5 (2016年)
 ワクチン注射の副反応等については、世界アレルギー機構(WAO)・欧州アレルギー免疫学会(EAACI)・米国アレルギー免疫喘息学会(AAAAI/ACAAI)の合同委員会でアレルギー学者・免疫学者・ワクチン学者の総意で、アナフィラキシーの定義・アレルギー反応の考え方・因果関係の扱い方・アレルギー既往歴とワクチン注射対応の仕方等についてコンセンサスを得た、とした声明文が2016年に既に出ている。

〇 ・COVID-19 vaccine-associated anaphylaxis: A statement of the World Allergy Organization Anaphylaxis Committee World Allergy Organization Journal Volume 14, Issue 2, February 2021. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1939455121000119
  ・EAACI statement on the diagnosis, management and prevention of severe allergic reactions to COVID‐19 vaccines EAACI POSITION PAPER 16 January 2021.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.14739
 WAO、EAACIのどちらの声明文も本年はじめ2021年1~2月に出ていて、新型コロナワクチンは強い副反応があってもワクチン注射を推奨すべきであると言っている。


※ WAOのアナフィラキシー基準については、Grade 3については2016年以来基準に入れるかどうかの多少の意見の違いはあったようだが、2020年時点のこの声明文ではアナフィラキシーに入れている。即ち気管支攣縮があれば重度でなくとも(軽度でも)アナフィラキシーに入れる、ということである(通常の気管支喘息発作との鑑別診断の配慮が必要であるが)。 
 〇 Position Paper World allergy organization anaphylaxis guidance 2020
https://www.worldallergyorganizationjournal.org/action/showPdf?pii=S1939-4551%2820%2930375-6

※ アナフィラキシーショックのアドレナリン注射は皮下注より筋注が推奨されるという理由: 下記の論文でその理由を言っている。8歳前後の子供のデータである。
 〇Epinephrine absorption in children with a history of anaphylaxis 
J Allergy Clin Immunol 1998 Jan;101(1 Pt 1):33-7. doi: 10.1016/S0091-6749(98)70190-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9449498/
筋注に比べて皮下注では吸収のバラツキが大きく血中濃度がmax に達するのに5~120分と9人の中での差が大きすぎるとのデータ。一方筋注は8±2分で8人中6人は5分以内でmaxに達したといっている。血中濃度の時系列表を見るとどちらも5分に第一のピークがありピーク値は倍の差がある。皮下注はピークが2つあり第二のピークが120分以後にもある。脈拍数の最初のピークは両者共に5分にある。皮下注の脈拍数のピークは3時間後でもダラダラと増加している。代謝がこんなに長引くのは考え難く内因性のアドレナリンも関与していると考えた方がよい。そして臨床現場での大人に1回0.5mg皮下注より0.2mgずつ10秒毎に3回皮下注する時の方が体に優しい反応であることを考えると、血中濃度の問題だけでなくアドレナリンの神経反射効果も加わっていると思われる。この論文の解釈には専門家も間違って捉えている方もいるようだ、内因性のアドレナリンと外因性との区別が出来ていないのを考慮していない。
 アナフィラキシーショックの緊急性を考えると、皮下注か筋注かに拘るよりも1回の注射の効果を見ながら次の追加注射のタイミングを見極めることの方がはるかに大事であることが分かる。その上で筋注を第1・皮下注を第2とする程度でよい。
   特に最近の高齢者へのβblockade薬の使用頻度の日常化は(超高齢社会に伴って慢性心不全も日常化しているので止むを得ないと思うが)、初回注射の効果を見て次の追加が必須になるのではないかとも思う。そして巷では気管支喘息の持病を持っている方にも同薬の処方を見かけることがあるのも要注意である。50年以上前にβblocker点眼薬での喘息死の裁判例を知っているDrが今何人いるだろうか?